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見習い騎士だって大変ですよ!  作者: 先輩.


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第二十話 勇気

「北側停車場で蒼関機車が勝手に動き出しただと?」

マルス団長が伝令からの報告に唖然とする。


北側でなにか異常があったという一報を受けて

仮設の天幕に騎士団の重要人物達が集まっていた。


「どういう事だ?」

呆気に取られているマルス団長の代わりにアルトレイ副団長が伝令に尋ねる。


「はっ、先程北側停車所から受けた報告によりますと

一般客を乗車させている途中で突如動き出したとの事です。

幸い怪我人等は出ていませんが予定よりかなり早く動き出したとの事です。」


「何か異常が発生したという事か。」

マルス団長の顔から徐々に血の気が引いていく。


「機車の蒼共器は繋がるか?」


「先程から試しているのですが、繋がりません。」

アルトレイ副団長の指示に騎士団員が答える。

その返答を聞いて場が沈黙に包まれる。


「質問いいですか?」

打つ手がないみたいな様子だったのでダメもとで尋ねてみる。


「黒羊のアレクだったか?なんだ?」

場にそぐわない黒羊騎士団の質問に溜息交じりに返答がかえってくる。


「機車を外から止めることは出来ないんですか?」


「外からの制御は出来ない。止められるとしたら物理的な破壊でのみだ。」

なるほど。そこは他の乗り物と変わらないのか。


その時。


「蒼関機車から蒼共器に反応あり!」

団員の大声に思わず全員が振り返る。


「すぐに拡声器に繋ぎ全員に聞こえる様にしろ。」


「はっ。」

アルトレイ副団長は団員に指示を出すと

マルス団長に目配せをした後、蒼共器に手を伸ばす。


「こちら、アルトレイだ。」


「おー。これはこれは。

ご機嫌いかがですか?アルトレイ副団長。」

男の声は場にそぐわない気楽な声だった。


「何者だ?」


「灰燼旅団副団長のダウニーロ・ヘルゼと申します。」

男の名前を聞いて騎士団員達の表情が険しくなる。

灰燼旅団の副団長。そのような危険な男が蒼関機車に乗っているという事は

乗っ取られたという事か。


「なぜ蒼関機車にお前が乗っている?」

アルトレイは努めて冷静に問答をする。


「招待頂けなかったので。自力で乗り込みました。

酷いじゃないですか。同じ王国東部で活動する誼なのに。」


「ふざけるな。目的はなんだ?」

ダウニーロの軽い口調にアルトレイの声に怒気がこもり始める。


「分かってるはずですよ?我々の目的?」


「…金か?」


「おっしゃる通りです。」

ダウニーロの声のトーンが一層高くなる。


「三千万ガルド」

思わず耳を疑うような大金に一同騒然とする。


「それが我々が付けた命の値段です。」


「馬鹿な。そんな大金用意出来るわけがない。」

アルトレイの声に少し焦りが出る。


「いえ、あなた方であれば用意出来る金額だと思って要求しています。」

なるほど。

確かに大金だが王国第二の都市ラスピズの力なら用意できる金額だと相手は分かっているようだった。


「今から二刻以内に、三千万ガルド相当の金貨、宝石、換金証書を用意し、

中央広場の貨物車両へ積み込んでください。積み込みが完了次第、人質の半数を解放します。

残りの人質も、私達の逃走経路が確保でき次第、解放しましょう」


蒼関機車に一度金品を積み込み、その後、仲間と合流する。

どこかで機車を乗り捨て、逃げるつもりなのか。


「この要求が通らない場合。公爵始め人質の命はありませんので。

そのつもりで。では。」

そこで蒼共器からの声は途絶えた。


「クソっ!旅団のやつめ!」

騎士団員の一人が怒りに任せて机を叩く。


「マルス団長、如何しますか?」

蒼共器を置いたばかりのアルトレイがマルス団長に向き直る。


「旅団は金でしか動かない奴らだ。

この事件に政治的思想などはないのであろう。」

東部で主に活動をしている灰燼旅団の情報に東空騎士団は精通しているのであろう。


「目的が金であるなら話は早い

引き渡しの時に隙が生まれるはずだ。そこで奴らを制圧する。」


「はっ!」

マルス団長の号令に騎士団員達が勢い良く反応する。


目的は金。

本当にそうなのだろうか。

慌ただしく動き始めた仮設の天幕の中思考を巡らす。


旅団は金の為に動く。

だとして、わざわざこんな大がかりな事をするのか?

金だけが目的なら貴族一人を誘拐した方が簡単だ。

若しくは一気に大金を手に入れる為。

だとしたら名だたる要人を人質に取っている割に額が少ない気がする。

まるで短時間で用意出来る額を見極めているようだ。

そもそも旅団だけでこんな高度な事が出来るのか?

協力組織がいる。そう考える方が自然だ。

旅団の目的は金、協力組織の目的は別。

じゃあ、本当の目的は…。


アレクは思考に耽り周りの喧騒が聞こえなくなっていた


***


同じ頃。


シドとアルゼルは、ラスピズ技術局の裏手へ回っていた。


中央広場の喧騒は、建物を一つ隔てるだけで遠くなる。


水路沿いの細い道。

石造りの倉庫。

積まれた木箱。

使われなくなった古い軌道。


華やかな式典会場とは違う、ラスピズの裏側だった。


「何かあてがあるのか?」

前に勢い良く駆け出したこの男。

シド・ハーグリーブスに尋ねる。


「昨日の酒場で聞いたんだよ。

メネズ・フェリオは正規の工房ではなく、古い整備庫に出入りしていた。

若い職人がそう愚痴っていた。」


「酔っぱらいの話をあてにしているのか?」


「しょうがないだろ。他に手がかりないんだから。」


シドは軽く返しながらも、目だけは周囲を探っていた。


「見つけた」


シドが足を止める。


古い整備庫の扉が、わずかに開いていた。


その扉を開け中に入る。


「血の跡だな。」

床に付いていた血の跡をなぞる。

その後周囲を見渡す。


「ここには居ないみたいだな。」

状況から見てここで襲われたのは間違いないらしい。

襲われた後に何処かに連れ去られた様だった。


その時、シドは何か球体の物を拾い上げる。


「それは?」

私の問いかけに答える事はなく無言で剣を抜く。

すると、球体の何かとミスリルの剣が青白く光り始めた。


「これはミスリルの共鳴か。」


「そうだ。昨日会った時メネズがこれを腰につけていた。

俺が近づいた時。僅かに共鳴していた。」


そう言うと球体の物体をこちらに投げて来た。

受け取った私も剣と共鳴させる。


「メネズはこれを二つ着けていた。もう一個はあいつが持ってる筈だ。

剣の共鳴で居場所を追える。」

手がかりは得た。だがこの血の量。

床に着いた血痕をもう一度確認する。


「急ごう。」

私の言葉にシドが頷く。


「待ってろ。ミスリルオタク。」

シドがまた前方に駆け出した。



***


蒼関機車の車内は、重苦しい沈黙に包まれていた。


私達は後方車両に押し込められていた。


ローファル公爵だけが前方車両に残されている。

他の来賓、商会代表、一般客、騎士達は、この車両に集められていた。


武器は奪われた。


乗降口には灰燼旅団の男が二人。

連結部にも一人。


私はワグナー伯爵のそばにいた。


「伯爵、お怪我はありませんか」


「ああ。大丈夫だ」


ワグナー伯爵は落ち着いていた。


でも、その手は膝の上で固く組まれている。


「あなた、機車の音によく気づいたわね。」

隣にいたシオンさんが小声で耳打ちしてくる。


「メネズさんから前もって気をつけろと言われていたので。それで気づきました。」

事前の忠告があったから注意深く意識を集中する事が出来た。


「それにあなたの咄嗟の行動。」


「あー。すいません。

私、無我夢中で…。」

非難されると思って言葉を紡いだが

シオンさんはゆっくり首を振る。


「あなたの行動で救われた人がいるわ。

あの時声を上げなければ、もっと多くの乗客が乗っていたかもしれない。

動き出す機車に巻き込まれたかもしれない。」


私はシオンさんの言葉を呆然と聞いていた。

そっか。私、人を助けられたんだ。


「私はあなたみたいに直ぐに動けなかった。感謝するわ。」

そう言ってシオンさんは少し頭を下げた。


「そんな、とんでも・・・。」

私が手を前で大きく振っていると服を後ろから引っ張られた。


「騎士さん。」

そこには小さい女の子がいた。


「どうしたの?」

私は女の子に向き直る。


「この機車いつ下りられる?

ママと弟が怖がってて。」


私は女の子に指された方向を見る。


母親らしい女性が、小さい子供を抱きしめている。

母親も子供も震えていた。


そのまま周囲を見る。


商会代表達は青い顔で押し黙っている。

貴族の一人は小さく震えていた。


「あなたは怖くないの?」

大人も震えて恐怖を感じている状況なのに目の前の女の子からはそんな様子を感じない。


「うん。だって騎士さんがいるから。」


私と、シオンさんは思わず目を合わせる。


「騎士さんが悪いやつやっつけてくれるでしょ?」

何の疑いも持たない視線だった。

私は女の子の頭を撫でる。


「うん。もうすぐ凄い強い騎士が来てくれる。

頭ツンツンの奴。剣から雷出すんだよ。」

私は先輩騎士の姿を思い浮かべながら女の子に語り掛ける。


「炎出す人もいるよ。」

シオンさんが言葉を繋げる。


「凄い。」

女の子は嬉しそうに笑った。


「応援の騎士達が来るまであなた達は私たちが守るから。

だからあなたもお母さんと弟の傍にいて元気づけてあげて。」


「うん。分かった。」

シオンさんの言葉に女の子は頷くとそのまま母親のもとに戻っていった。


「凄いんですね。騎士の力って。」

あんな小さな女の子に勇気をあげられる。

それが騎士の存在なんだ。


「そうよ。だから私たちは諦めるわけにはいかない。

どんな状況だろうと。」

シオンさんが呟く様に言う。


蒼関機車は広場へと近づいていた。





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