第9話:村長親子の野良改修(シャドーIT)
「よし、繋げろ! これでわしの寝室は、王都の高級宿並みに涼しくなるぞ!」
バザル村長の号令とともに、ギルが不格好な魔導ケーブルを、村の基幹中継石の隙間にねじ込んだ。
バチバチッ、と不吉な紫色の火花が散る。
「……おい、今すぐそれを抜け。死にたいのか」
背後からかけられたサトウの冷徹な声に、ギルが肩を跳ねさせた。
「な、なんだサトウか。驚かせるな。これは村長命令の正当な『設備投資』だ。お前の許可などいらん!」
「設備投資? 冗談だろ。……お前らが今やったのは、高電圧の基幹回線に、規格外のたこ足配線をダイレクトにぶち込んだのと同じだぞ」
サトウのコンソール(石板)には、目を覆いたくなるようなグラフが表示されていた。
村全体の魔力供給を示す青いラインが、ケーブルを接続した瞬間にガクンと垂直落下し、代わりに赤色の「ノイズ(異常波形)」がスパイク状に跳ね上がっている。
「……インピーダンス整合も取れてない。魔力の逆流が始まってるぞ。このままだと、ハブの絶縁が焼き切れる」
「ふん、何を大げさな! ほら見ろ、わしの屋敷の方は、もう冷たい風が吹き始めて――」
バザルが自慢げに屋敷を指差した、その直後だった。
――ビキッ。
広場の中央にある中継石から、嫌な亀裂の音が響いた。
「……あ」
リーナが声を上げた。
次の瞬間、広場の街灯がチカチカと激しく点滅し、井戸のポンプが「ガガガッ!」と断末魔のような音を立てて停止した。
さらには、村中の家々の窓から「どうしたの?」「魔導具が動かないわ!」という悲鳴が上がり始める。
「な、なんだ!? 街灯が消えたぞ! 井戸も止まった!」
「当たり前だ。お前らが強欲に魔力を吸い上げたせいで、村全体の電圧がドロップ(電圧降下)したんだ。……おまけに、その粗悪なケーブルからノイズが混入して、制御系までバグってる」
サトウは急速に赤く染まっていくログをスクロールした。
最悪だ。
この村のインフラは、すべてが一本の「大きな石」に依存している。
単一障害点(SPOF)。
ここがノイズで汚染されれば、その先に繋がっているすべてのデバイスに影響が及ぶ。
「ええい、ギル! 早く魔力をさらに注ぎ込め! 出力を上げれば解決するはずだ!」
「わ、わかった父上! おりゃぁぁぁ!」
「やめろ、馬鹿! 入力を増やすな! 過電流で物理的に燃えるぞ!」
サトウの制止も虚しく、ギルがヤケクソ気味に魔力を流し込む。
中継石は、眩いばかりの白光を放ち――。
ドォォォォン!!
爆発音とともに、中継石の表面が粉々に砕け散った。
それと同時に、村を包んでいたすべての「生活の音」が消えた。
夜を照らす街灯も。
水を汲み上げるポンプも。
そして、サトウが苦労して構築したはずの「防衛結界」の末端ユニットさえも、電力(魔力)供給を失って沈黙した。
「……システム、ダウン。全セッション、強制切断」
サトウは、煙を上げる中継石を眺め、冷たく言い放った。
「おめでとうございます、村長。あなたの『冷房』のために、この村の全インフラが物理的に死にましたよ」
「な……な、なんだと……!?」
広場には、バザルの震える声と、どこか遠くで再び聞こえ始めた魔物の遠吠えだけが響いていた。




