第10話:一箇所が落ちればすべてが止まる
静寂。
それは、エンジニアが最も恐れる種類の静寂だった。
風の音でも、夜の帳でもない。機械の駆動音や魔力のハミングが一切途絶えた、不自然な「無」の世界。
「……あ、あわわ……街灯が、井戸が……! サトウ! 早く、早くなんとかしろ! 予備の石はないのか!」
バザル村長が、粉々になった中継石の破片をかき集めながら、情けない声を上げる。
「予備? あるわけないでしょう。これ、数百年前に据え付けられた『一点物』ですよ。代替品の在庫管理もしてなかったんですか?」
サトウは冷徹に言い放ち、コンソール(石板)のバックライトだけを頼りに、暗闇の中を歩く。
画面には、無数の「Connection Timeout」の文字が赤く点滅していた。
「な、ないなら作れ! お前なら、あの魔導ペンでちょいちょいと……!」
「物理層が物理的に砕けたんですよ。ソフトのパッチで直せるレベルじゃない。……いいですか、村長。これがあなたの望んだ『効率的な集中管理』の結果です」
サトウは、機能を失った中継石を指差した。
「全ての機能を一つのハブに集約すれば、確かに管理コストは下がる。だが、そこが死ねば全てが死ぬ。単一障害点(SPOF)を放置したインフラの末路です。……ほら、防衛結界の末端ユニットも、給電が止まってダウンしましたよ」
遠くで、魔物の遠吠えが重なり合う。
結界という「防壁」が消え、村は剥き出しのサーバーのように、広大な魔境の中に放り出されたのだ。
「ひ、ひぃぃ……! 魔物がくる! 結界を、結界だけでも動かしてくれ!」
ギルがサトウの裾にすがりつく。
「魔力源(電源)がないのに、どうやって動かせって言うんですか。……リーナさん」
暗闇の中から、不安そうに顔を出したリーナを呼ぶ。
「は、はい! なんでしょう!」
「村にある『家庭用の小型魔石』を、できるだけかき集めてください。ランタン用でも、調理用でも構わない。……今から、この村のネットワークトポロジーを書き換えます」
「とぽろじー……?」
「『中央集権』はもう終わりです。これからは、各所に分散したリソースを相互に繋ぐ、分散型ネットワーク(メッシュネットワーク)に移行します」
サトウはコンソールを立ち上げ、空中に新たな設計図を描き始めた。
壊れた中央ハブに頼るのではなく、村のあちこちに点在する小さな魔石をノード(中継点)とし、網の目のように魔力を融通し合う構成。
「一箇所が壊れても、他のルートで給電を維持する。……死んでも止まらないシステムを、突貫工事で組み上げます」
サトウの指が、暗闇の中で青白い軌跡を描く。
それは、無能な経営者が壊した「古い常識」を、技術者が「新しい論理」で塗り替えていく、静かな反撃の狼煙だった。
「……さあ、復旧作業開始だ。村長、邪魔ですよ。そこ、配線を通すんでどいてください」




