第11話:地脈(レイライン)の負荷分散(ロードバランシング)
「さあ、持ってきたぞ! 村中のランタンや調理台から引っぺがしてきた魔石だ!」
自警団の面々が、リーナを先頭に小袋に詰まった色とりどりの魔石を運び込んできた。
どれも親指ほどのサイズで、昨日までの中継石に比べれば、あまりに心もとないリソース(電力)だ。
「サトウさん、こんな小さな石で、本当にあの巨大な結界が動くんですか……?」
リーナが不安そうに覗き込む。
サトウはコンソール(石板)を叩き、村の地面に不可視の「配線図」を展開した。
「一つ一つは非力です。でも、これらを『並列』に繋いで、網の目状に配置すれば話は別だ。……村長、そこにある石を、正確に北西の角にある供物台に置いてください。一センチでもズレたらパケット……魔力が届きませんよ」
「わ、わかった! ぬぐぐ、重いな……」
バザル村長が、文句を言いながらも必死に石を運ぶ。
今の彼には、サトウの指示に従う以外に生き残る術がない。
「……よし、物理レイヤーの構築完了。次はルーティングの設定だ」
サトウは魔導ペンを走らせ、村の地下を流れる地脈の支流を、新しく配置した魔石ノードへと強引にバイパスさせた。
これまでは、一つの巨大な川(中央ハブ)から全ての水を引いていた。
それを、無数の小さな水路に分散させ、どこかが詰まっても別のルートで水が届くように書き換える。
ロードバランシング(負荷分散)の実装だ。
「……魔力供給、再開。全ノード、疎通確認開始」
サトウがコンソールの「実行」キーを叩く。
一瞬、村のあちこちに置かれた小石が、ホタルのように淡い光を放った。
「あ……街灯が、点いた!」
「井戸も回ってる! さっきより音が静かだわ!」
村人たちから歓声が上がる。
かつての中継石が放っていた暴力的な光はない。
だが、村の隅々にまで、細く、しかし途切れることのない安定した魔力が供給され始めていた。
「サトウ! 結界はどうした! 魔物がそこまで来ているんだぞ!」
ギルが震える指で門の外を指差す。闇の中から、魔物の赤い目が無数に浮かび上がっていた。
「……慌てないで。今、セッションを確立させてる最中だ。……よし、結界システム、稼働」
その瞬間。
村を囲む防壁が、以前のようなドーム状ではなく、複数の「防衛ユニット」が重なり合う多層構造として立ち上がった。
「……これが『冗長化』された防御網です。一箇所のユニットが魔物の攻撃でダウンしても、隣のユニットが即座にその領域をカバーする。……単一障害点(SPOF)は、もうこの村には存在しない」
魔物の群れが一斉に襲いかかる。
激しい衝撃が結界を叩くが、サトウのコンソールには『負荷分散:正常。稼働率100%』のログが淡々と流れ続けていた。
「……さて。これで村のインフラは『アベイラビリティ(可用性)』を手に入れた。村長、もう勝手に変なケーブルを刺さないでくださいね。次やったら、あなたの屋敷だけ『アクセス拒否』に入れますから」
サトウは冷めたコーヒーを一口啜り、ようやく訪れた「安定した運用」の数値に、密かに口角を上げた。




