第28話:独占禁止法(神罰)の審判
ナノハ村の「データセンター(魔導多層塔)」の前に、かつてないほど厳粛な一団が集結した。
王国の法王、帝国の最高判事、そして自由都市連合の議長。
かつては敵対していたはずの権力者たちが、今やサトウという名の「巨大プラットフォーマー」に対抗するため、手を取り合っていた。
「……サトウ殿。貴公が構築したこの『広域魔法網』は、今や世界の全トラフィックの九割を独占している。これは明らかな市場支配力の乱用である」
帝国の判事が、分厚い魔導書――彼らが急造した『大陸共通独占禁止法』を突きつけた。
「……市場支配力? 俺はただ、誰でも安全に魔力が使える『標準基盤』を提供しただけですよ。嫌なら『利用規約(EULA)』に同意しなければよかったはずだ」
サトウは管制室の窓から、冷淡に彼らを見下ろした。
「詭弁を弄するな! 同意しなければ生活が成り立たない環境自体が、不当な抱き合わせ(タイイング)販売だ! 貴公は各国の『独自の魔法(独自アプリ)』を排除し、ナノハ村製の標準術式しか動かないように制限をかけている!」
法王が杖を振り上げ、空に巨大な「神の目」を投影する。
「これは神の領域への侵食である! 貴公は地脈という共有財産を私物化し、不都合なユーザーを勝手に凍結(BAN)している! これは全生命に対する冒涜、すなわち『神罰』の対象だ!」
サトウは石板を叩き、彼らが主張する「被害状況」をログで確認した。
『Status: Blocked "Forbidden_Mass_Destruction_Magic" (User: Empire).』
『Reason: Violation of Terms of Service (Section 4: Peace Maintenance).』
「……ああ、帝国の『大量破壊魔法』のアカウントを停止した件ですか。……規約違反ですからね。戦争に使う魔法のパッチ(更新)は提供しません。それが俺のプラットフォームの『ポリシー』だ」
「貴公に世界の善悪を裁く権限などないッ!!」
議長が叫ぶと同時に、彼らが用意した「最終デバッグ兵器」が起動した。
それは物理的な破壊兵器ではない。
サトウのシステムを内側から崩壊させるための、超法規的な「行政解体命令(強制アンインストール術式)」だ。
「……サトウさん! システムの根幹に、各国の王族たちの『血統認証』を介した強制介入が来ています! 規約を無視して、権限を強制的に分散(解体)させようとしてますよ!」
リーナの声に緊張が走る。
技術で世界を縛ったサトウに対し、権力者たちは「法的正当性」という名の強力なウイルスを流し込んできたのだ。
「……面白い。技術の独占を、法という名の『バックドア』でこじ開けようってわけか。……でもな、法が技術に追いつけた試しなんて、前世でも一度もなかったぞ」
サトウは静かに、石板の隠しコマンド――『プライベート・クラウドへの完全移行』の準備を始めた。
「……いいだろう。独占が嫌なら、一度『オフライン』の世界を思い出させてやる。……全ユーザーの接続、一時遮断(メンテナンス開始)」
サトウが「Enter」を叩いた瞬間。
世界中を包んでいた便利な魔法の光が、音もなく、一斉に消え去った。




