第25話:空中サーバー(飛行艦)への強制アクセス
「……一分だ。リーナさん、全力でリソース(魔力)を回してくれ!」
サトウが叫ぶと同時に、村の中央ノードから凄まじい青白い光が石板へと流れ込んだ。
村中の明かりが消え、井戸のポンプが止まる。
生活のすべてを「計算資源」に注ぎ込んだ、背水の陣だ。
「……アクセス・リクエスト、送信。……プロトコル、帝国軍事暗号・Ver 8.2……。古すぎるな、脆弱性だらけだ」
上空。帝国の飛行艦『ヴォルガ』の甲板では、魔導砲のチャージが最終段階に入っていた。
「照準固定! 座標不明だが、このエリアごと消滅させる! 放て――!」
艦長の号令が響く。
だが、引き金が引かれる直前。
艦内のすべての魔導回路が、不気味な紫色に明滅した。
『Critical Error: External override detected.』
『Status: Administrative privileges revoked.』
「……な、なんだ!? 制御が効かん! 操舵輪がロックされたぞ!」
サトウの石板には、飛行艦の「内部構造図(ディレクトリ構成)」が筒抜けに表示されていた。
彼は地上の隠蔽用リソースをすべて「攻撃用パケット」に変換し、飛行艦の無防備な受信ポートへと叩き込んだのだ。
「……ビンゴ。やっぱりな。こいつの姿勢制御システム、地上との通信モジュールと『権限分離(特権分離)』ができてない。……外部通信ポートから、一気に心臓部まで駆け上がらせてもらうぞ」
サトウの指が、光の速さで石板を叩く。
飛行艦の「管理者パスワード」を、かつて逆探知で得た断片データから推測し、瞬時に突破した。
「……ルート権限(全権)、奪取完了」
サトウが「Enter」を叩いた瞬間。
巨大な飛行艦のエンジン音が、不自然な高音を立てて停止した。
「……さて、再起動の時間だ。ただし、設定ファイルを『空(null)』に書き換えさせてもらった。……地上に激突したくなければ、今すぐ武装を解除して、全セッションを遮断(切断)しろ」
飛行艦の全スピーカーから、サトウの冷徹な声が響き渡る。
艦内の乗組員たちは、自分たちの「誇り」であるはずの無敵の要塞が、地上のたった一人の男に「リモート操作」されている事実に、恐怖を通り越して絶望した。
「……ば、馬鹿な……。剣も魔法も届かぬ距離から、我が艦を『無効化』したというのか……!?」
艦長がへたり込む。
空に浮かぶ巨大な兵器は、今やサトウの指先一つで「ゴミ箱」に捨てられるのを待つだけの、ただの巨大な金属の塊に成り下がっていた。
「……撤退しろ、帝国軍。……次に来るなら、もう少し『まともな暗号』を積んでくることだな」
サトウが「接続解除(切断)」を命じると、飛行艦はふらつきながらも、命からがら国境の彼方へと去っていった。
村に、再び明かりが戻る。
リーナがへたり込み、バザル村長は泡を吹いて倒れている。
「……ふぅ。サービス復旧。……リーナさん、悪いけど、石板が熱暴走して動かない。……冷たい水、持ってきてくれる?」
第4章、完。
隣国の「サイバー攻撃」と「物理襲撃」を完封したサトウ。
だが、彼の名は今や、世界の「技術者たちのリスト」の最上段に刻まれることとなった。




