第24話:ドメイン非公開(隠れ里)の構築
「グ……ッ、消えただと!?」
森の中でサトウを包囲していた帝国の工作員たちが、驚愕の声を上げた。
目の前にあったはずのナノハ村の輪郭が、陽炎のように揺らぎ、次の瞬間にはただの「鬱蒼とした森」へと書き換わったのだ。
「……悪いな。この領域の『名前解決(DNS)』を一時的に停止させてもらった」
サトウは村の中央ノードに手をかざし、石板の最終コードを確定させた。
彼が実行したのは、村を囲む魔力波形を周囲の風景と同調させ、外部からの観測をすべて「リダイレクト(転送)」して背後の景色を見せるという、大規模な「ステルス・マスキング」だ。
『Status: Stealth Mode Active.』
『Visibility: Internal Only. External Access: Denied (404).』
「サトウさん……! 外が、外が見えなくなりました! でも、村の中はいつも通り……?」
リーナが空を見上げて目を見開く。
村の外壁の向こう側は、まるで磨りガラスを通したように白く濁り、外の世界からは切り離された「閉鎖ネットワーク(イントラネット)」と化していた。
「……ああ。今、この村は世界の地図から『インデックス(登録)』を削除された状態だ。物理的にそこにいても、認識できない。……いわゆる、ドメイン非公開の隠れ里だよ」
森の中では、帝国の工作員たちが虚空を切り裂き、必死に村の入り口を探していた。
だが、彼らが歩を進めても、術式が自動的に座標を補正し、彼らを村の「外側」へと滑り込ませてしまう。
「……あいつら、一生懸命空回りしてるな。無限ループ(ロジカル・ループ)に嵌まったことに気づいてない」
サトウは冷めた目で、石板に映る「迷い込んだ侵入者」たちのドットを眺めていた。
だが、安堵したのも束の間。
石板に一筋の「鋭いノイズ」が走る。
『Warning: Deep Scan detected.』
『Source: High-orbit Mana-Satellite?』
「……なんだ? 地上からのスキャンじゃない。……空か!?」
サトウが空を仰ぐと、雲の切れ間に、帝国の巨大な『魔導飛行艦』がその姿を現していた。
彼らは地上部隊が失敗したと見るや、広域を更地にするほどの魔力砲をチャージし始めていた。
「……なるほど。見つからないなら、エリアごと『デリート(物理削除)』しようってわけか。……さすが帝国、バックアップも取らずに強制終了(強制終了)させる気満々だな」
「サトウさん! あの大きな船、こっちを狙ってます!」
リーナの叫び。バザル村長は腰を抜かして震えている。
「……いいだろう。隠れるのがダメなら、相手の『接続元』に直接乗り込んでやる。……リーナさん、村の全魔力を一時的に俺の石板にバイパスしてください」
「ええっ!? そんなことしたら、村の電気が……!」
「……一分だけでいい。……今から、あの飛行艦の『制御系(OS)』に、リモートから強制介入を仕掛ける」
サトウの目が、ハッカーとしての鋭い光を放った。
物理的な砲撃が届く前に、空飛ぶ巨大サーバーの「ルート権限(全権)」を奪い取る。
エンジニア・サトウによる、前代未聞の「空中ハッキング」が始まった。




