第22話:ハニーポットに掛かった『隣国の影』
「……よし、食いついた。入れ食いだな」
サトウのコンソール(石板)が、心地よいアラート音を奏でる。
村の正門近く、わざと認証強度を下げて「脆弱」に見せかけておいたダミーの術式ゲートに、外部からの不正アクセスが集中していた。
『Alert: Connection established via Honey-pot Gate.』
『Status: Intruder downloading "Fake_System_Map.xml".』
「サトウさん、何か変な光が空中に浮いてますよ……?」
リーナが指差す先、虚空に青白い糸のような魔力の残滓が揺らめいている。
「あれは『接続』の糸だ。相手は遠隔地からこの村の管理権限を盗もうとしてる。……今頃、俺が用意した『ゴミデータ』を必死に解析してるはずだよ」
サトウの狙いは、敵を追い払うことではない。
「逆探知」だ。
「……さて、向こう側の『プロキシ(中継地点)』を剥がしていくか。……多層転送術式、第1レイヤー突破。……第2レイヤー、無効化」
サトウの指が石板の上で踊る。
敵もプロだ。
いくつものダミー拠点(踏み台)を経由して、発信源を巧妙に隠蔽している。
だが、サトウの構築した「トラップ・コード」は、データが送受信される際の微かな「遅延」の差から、真の接続先を割り出していく。
「……見つけた。隣国・ガルス帝国の『魔導情報連隊』か。……位置は国境付近の隠密基地だな」
「ていこく……? お隣の国が、どうしてこんな小さな村を?」
「……たぶん、王立騎士団を追い払った時の『ログ』をどこかで傍受したんだろう。王国が手を出せない最新システムが辺境にあるなら、奪って自分たちの兵器に転用(ライブラリ化)したい……。エンジニアの性根が腐ってるのは、どの世界も同じだな」
その時、石板に激しいノイズが走った。
敵がサトウの逆探知に気づき、猛烈な「カウンター・プログラム」を送り込んできたのだ。
『Warning: Incoming "DDOS" style Mana-burst.』
『Danger: Local Buffer Overflow attempt.』
「……おっと。気づかれたか。一気に魔力を流し込んで、俺の石板(端末)を物理的に焼き切るつもりか? ……甘いな」
サトウは即座に、石板の通信機能を「仮想化(仮想化)」した。
物理的な回路に魔力が届く前に、地脈の淀みにそのエネルギーを逃がす(アースする)処理を挟み込む。
「……相手の通信プロトコルは解析済みだ。……リーナさん、ちょっと耳を塞いでて。……今から相手の『接続元』に、特大の『エラーメッセージ(論理爆弾)』を叩き返す」
サトウが「送信(Send)」キーを力強く叩いた。
直後。
遥か数百キロ先、国境の森に隠された帝国の魔導拠点では、並べられた数十枚の「水晶モニター」が一斉にひび割れ、制御不能なエラーログで埋め尽くされていた。
「な、なんだこのエラーは!? 処理が止まらない! 冷却魔法が間に合わん……! 基部が溶けるぞ!」
帝国の工作員たちが悲鳴を上げる中、サトウは悠然とコーヒーを一口啜った。
「……ふぅ。とりあえず、相手の『ブラウザ(視界)』をクラッシュさせてやった。……でも、これで終わる連中じゃないな。次はもっと『物理的』なデバッグに来るだろう」
サトウの石板には、クラッシュする直前に相手が残した、不気味なメッセージがデコードされていた。
『Message: 貴様のコード、面白い。……直接、ソースコード(心臓)を抜き取りに行く。』




