第21話:静かなるポートスキャン
王立騎士団が撤退し、ナノハ村に再び「安定稼働(安定)」の日々が戻った。
サトウが再構築した分散型ネットワークは、隣領の貴族や騎士団が持ち込んだ「技術負債」を綺麗にクリーンアップし、以前よりもさらに洗練されたコードで地脈を制御している。
「……ふむ。パケットの流量に、コンマ数ミリ秒の不自然な『揺らぎ(ゆらぎ)』があるな」
サトウは村の外れ、見晴らしの良い丘の上でコンソール(石板)を叩いていた。
一見、何も起きていない平和な午後。だが、彼の設置した『境界防御』のログには、奇妙な記録が刻まれ続けていた。
『Detection: Low-intensity Mana-Probe.』
『Origin: Unknown (Spoofed). Interval: 500ms.』
「……ただの魔物じゃない。特定の魔力波形を少しずつ変えながら、結界の『応答速度』を計ってる。……これは、偵察(偵察)だ」
エンジニアにとって、これは見覚えのある光景だ。
大規模なサイバー攻撃の前に必ず行われる、標的の「ポートスキャン」――つまり、玄関の鍵が開いていないか、一つ一つノックして回る作業だ。
「サトウさん、お弁当持ってきましたよ! 今日はリーナ特製の……って、また難しい顔をして」
リーナが駆け寄ってくるが、サトウは石板から目を離さない。
「リーナさん、少し下がって。……今、誰かがこの村の『脆弱性(穴)』を探してる」
「えっ!? また騎士団の人たちが戻ってきたんですか?」
「いや。もっと手際がいい。……発信源を偽装してるが、この独特な術式の組み方は……王国のものじゃないな」
その瞬間、コンソールが真っ赤な警告を吐き出した。
『Alert: Multiple connection attempts to Port 8080 (Ritual-Gateway).』
『Status: Brute-force attack detected.』
「……仕掛けてきたか。一秒間に一万回の『解呪コード』を叩き込んで、結界の認証を突破しようとしてる。……力技の総当たり攻撃だ」
村の正門付近で、空間がパチパチと青白い火花を散らす。
目に見える敵はいない。
だが、何者かが遥か遠方から、結界の「論理的な隙間」をこじ開けようと、凄まじい計算能力をぶつけてきているのだ。
「……面白い。隣国の『帝国魔導通信工兵隊』か何かかな。……でも、俺の結界はそんな安いパスワード(術式)で組んでないぞ」
サトウは不敵に笑うと、石板のコマンドを高速で入力した。
「ハニーポット(囮)を起動。……わざと『弱そうな入り口』を見せて、そこに攻撃を誘導しろ。……敵のIPアドレス……じゃなくて『術式発信源』を逆探知する」
サトウの指先が、空中に見えない罠を張り巡らせる。
それは、力と力がぶつかる「戦争」ではなく、論理と論理が騙し合う「クラッキング」の応酬だった。
「……さあ、釣られてこい。お前の『外部API』の接続先、特定させてもらうぞ」
第4章、開幕。
ナノハ村という「サーバー」を巡る、国境を越えたサイバー戦が今、静かに、しかし激しく火蓋を切った。




