第17話:現場を無視したトップダウンの導入
「よぉし、フェーズ1完了だ! 全システム、王立標準プロトコルに切り替えろ!」
エルザ大隊長の号令の下、工兵たちが村の中央ノードに巨大な『魔導制御盤』を物理的にボルトで固定した。
サトウが構築した繊細で効率的な分散ネットワークの上に、重厚で無骨な「公式システム」が強引に覆い被さる。
「……あ、あわわ。街灯が……なんだか暗くなったぞ?」
広場に集まった村人たちがざわつき始める。サトウのコンソール(石板)には、目を覆いたくなるようなリソース消費グラフが表示されていた。
『Warning: Background process "ROYAL_MONITOR" consuming 70% of CPU.』
『Critical: Memory swap occurring. Latency increasing.』
「……案の定だな。王都への『定期報告』だけで、村の地脈リソースの七割を食いつぶしてやがる。防衛をする前に、自分たちの維持管理でシステムを圧迫してどうするんだよ」
サトウは冷めた目で、必死に調整を続ける工兵たちを見つめた。
彼らは分厚いマニュアルを片手に、「手順通りにいかない」と顔を真っ赤にしている。
「報告します! 西側の結界ユニットから『認証エラー』が返ってきています! 既存の魔石との同期が取れません!」
「何だと!? 標準プロトコルを使っているはずだぞ! 強制的に上書き(オーバーライド)しろ!」
エルザが叫ぶ。
サトウは、その「強制上書き」という言葉に、エンジニアとしての本能的な危機感を覚えた。
「おい、待て。今の分散ノードは、相互に負荷を監視し合ってるんだ。そこに強引な『公式パッチ』を当てて同期を無視したら、全体の整合性が崩れて――」
「黙っていろ、民間人! 貴公のような我流の術式が、王立のシステムと競合しているのが原因だ。今、我々がそれを『浄化』しているところだ!」
工兵の一人が、サトウの手からコンソールを奪い取ろうとする。サトウはそれをひらりと避けた。
「……浄化? 冗談だろ。あんたたちがやってるのは、動いている本番環境への『無差別なデータ消去』だ。……あ、ほら。言わんこっちゃない」
――ガガガッ! ズズゥゥン!
村の井戸から、金属が擦れる悲鳴のような音が響いた。
王立システムが「優先順位」をすべて防衛側に振り向けた結果、生活インフラへの魔力供給が強制的にカット(遮断)されたのだ。
「水が出ない! 井戸が止まったわ!」
「サトウさん、家の中の魔導コンロも火が消えちゃいました!」
リーナが駆け寄ってくる。村のあちこちで、当たり前だった「生活」が次々とフリーズしていく。
「エルザ大隊長、リソース不足(メモリ不足)です! 結界の維持に全魔力を回しても、王都サーバーとの通信が途切れるとシステム全体がロック(停止)する仕様になっていて……!」
「通信を最優先しろ! 国の管理から外れることこそが最大のリスクだ!」
エルザの判断は、現場の安全よりも「中央の管理」を優先するものだった。
サトウは深く、深いため息をついた。
「……現場を無視したトップダウンの典型だな。……リーナさん、予備のランタンを。これから村全体が『暗黒』に包まれますよ」
サトウの言葉が終わるか終わらないかのうちに。
村を包んでいた青い輝きが、ドロリとした重い灰色に変色し、そのままプツリと、すべての光が消失した。
『Fatal Error: System Deadlock.』
『Status: 100% Downtime.』
静寂。
そして、その静寂を切り裂くように、村の外壁の向こう側から、かつてないほど大量の「警告音」が響き始めた。




