第15話:噂を聞きつけた「公式」の来訪
ナノハ村の正門前に、地響きと共に整然と並ぶ白銀の鎧。
隣領の男爵のような成金趣味ではない、洗練された魔導武装に身を包んだ集団――『王立騎士団・第四魔導工兵大隊』が、ついにこの辺境の村に姿を現した。
「……うわぁ、強そうな人たちがいっぱい……。サトウさん、大変です!」
リーナが血相を変えて、テラスでいつものようにコーヒー(ログ監視のお供)を飲んでいたサトウのもとへ駆け込んできた。
「……分かってますよ。三十分前から、俺の設置した『外部パケット監視(境界検知)』がアラートを吐きまくってますから」
サトウのコンソール(石板)には、騎士団が放つ強力な「識別信号」が列挙されている。
それは、この国の魔導ネットワークにおける『公式プロトコル』だ。
『Status: Official Scan from Royal Authority.』
『Command: Requesting Administrative Privileges.』
「行政権限の委譲要求、か。……要するに、『国が管理してやるからパスワードを渡せ』ってことだな。一番面倒なパターンの来客だ」
サトウが腰を上げると、村の中央広場では、バザル村長が文字通り「平伏」して一行を迎えていた。
一行の先頭に立つのは、冷徹な眼差しをした女性騎士――大隊長のエルザだ。彼女は腰の剣ではなく、複雑な数式が刻まれた『公式魔導杖』を携えている。
「バザル村長。報告にあった『異常な高効率結界』の確認に来た。……だが、門をくぐった瞬間に驚いた。この村の術式、王国の推奨規格から大きく逸脱しているな」
「は、はっ! それは、その……ここにいるサトウという者が勝手に……!」
バザルは即座にサトウを指差した。
責任転嫁の速度だけは、相変わらず「低レイテンシ」だ。
「貴公が『サトウ』か。私は王立騎士団のエルザだ。……単刀直入に言う。この村の結界は、王国の安全基準を満たしていない。今すぐ、我が大隊が持参した『公式・防衛パッケージ』に差し替え(リプレイス)させてもらう」
「……安全基準、ですか」
サトウは石板を脇に抱え、エルザを真っ向から見据えた。
「今の結界、稼働率は一〇〇パーセント、外敵の侵入許容数は旧来の五十倍以上に跳ね上がってます。これ以上の『安全』がどこに必要なんです?」
「効率の問題ではない。規約の問題だ」
エルザは冷淡に言い放ち、手にした羊皮紙――厚い『公式仕様書』を突きつけた。
「王国の術式は、数千人の魔術師が検証を重ねた『枯れた技術』で構成されている。貴公の書いたような、個人製作のブラックボックスなコードは、万が一の際に誰もメンテナンスができない。……これは、国のインフラに対するリスクだ」
「……出たよ。『枯れた技術』という名の技術負債」
サトウは前世の記憶を苦く思い出した。
どんなに高性能で安定した新システムを作っても、「昔から使っている公式ベンダーのツールじゃないと安心できない」という理由で、わざわざ重くて使い勝手の悪い旧システムに戻される……。
「我が大隊が持ち込んだのは、王国最高峰の魔術師団が開発した『統合防衛スイート・Ver 4.0』だ。これにリプレイスすれば、王都との同期も可能になり、公式サポートも受けられる」
「……そのVer 4.0とやら、地脈の魔力消費量は? 同時多発攻撃への耐性は? ……それ、十年以上前の基本設計のままでしょう」
「無礼な! 伝統ある王立の術式に異を唱えるか!」
エルザの背後に控える工兵たちが色めき立つ。
「伝統、ね。……現場の負荷も知らない連中が書いた『仕様書通りのゴミ』を、俺の構築した環境(本番環境)に流し込まれてたまるかよ」
サトウの瞳に、エンジニアとしての「静かな怒り」が宿った。
第3章、開幕。
最強の「公式」vs「個人(最新SRE)」の、誇りを賭けた仕様戦争が始まる。




