第13話
数日後、亮太郎は蓮から河川敷に呼び出された。
「どうした?蓮から声をかけてくるなんて珍しいな」
「折り入って亮太郎に頼みがあるんだ」
「頼み?」
亮太郎は怪訝な表情で蓮の次の言葉を待った。
「何ていうか、その、一緒に遊びに行ってほしいんだよ」
蓮の真意が分からずも「別にいいけど…」と言うと続けた。
「そんなことわざわざ言うために呼び出したのか?別に電話でもメールでも良いじゃんかよ。いつもそんな感じじゃん」
言った後亮太郎はフッと思ったので聞いてみた。
「そういえば、蓮からの誘いなんて記憶にないな。大体俺か櫻か美里ちゃんだもんな」
蓮の反応が芳しくないので、分からず笑ってしまった。
「ごめん、分からん。何でこんなところに呼び出して遊びに誘うんだよ」
すると、蓮が重い口を開いた。
「いや、いつものように櫻と美里ちゃんと四人で出かけたいなと思ったんだけど、櫻にどう声をかけていいか…」
すると亮太郎はプッと吹き出すと、腹を抱えて笑い出した。
「そんなに笑うなよ」
「ごめん、ごめん、分かったよ。俺から声かけとくよ。全部俺からってことにしとくから。美里ちゃんに言うと櫻にばらしちゃいそうだからな。櫻も蓮のことになるとよく分からないから、蓮からって言ったら、来ないかもしれないしな」
「悪いな」
「何言ってんだよ。親友が困ってたら助けるのは当たり前だろ」
「よく自分から親友って言えるよな」
「親友じゃねえのかよ」
「さあな」
と蓮はいつもの調子で帰路につこうとした。
亮太郎は慌てて追いかけると蓮の肩に腕を回して、蓮と共に笑いあいながら帰路についた。
コン、コン、コン
亮太郎は櫻の部屋の扉をノックしていた。
――嫌な役だな。
祭りの件依頼、数日しかたっていないがどうも櫻の要素がおかしい。
美里に聞いてみても学校では特段変わったことはないようであった。
しかし、美里は彼氏ができてからというものの、蓮と櫻といつも一緒にいるというわけではなく、そういえば蓮と櫻が一緒にいるところ見てないかもということであった。
あの祭りのときに、美里も一緒にいたわけであるが、美里にしてみればちょっとした痴話げんかみたいなものだから、こういうのも必要ではないかと言っていたので納得しようとするも、物心ついた時から兄弟のように仲の良い蓮と櫻の間がこのようになるのは、亮太郎は慣れていない。
むしろ、記憶になかった。
ちょっとした喧嘩はもちろんあったのだが、大体の場合蓮が誤って、櫻もそんな蓮を見て申し訳ないという気持ちが芽生えるようで、深刻にはならなかった。
そもそも、今回の件は喧嘩なのだろうか。
安藤の言うように、蓮の中で何か感情的になるようなことがあったのか。
「何?」
部屋の中から櫻の声が聞こえた。
「ちょっとようがあってさ」
足音がしたと思ったら、とびらがゆっくり開き、櫻が顔を覗かせた。
「どうしたの?」
「櫻、今週の日曜日空いてる?」
「空いてるけど、なんで?」
なんだろうこの違和感は。
以前ならば、顔を輝かせて「蓮君と?」と要件を言う前に感づいていた櫻であったが。
「テスト前だから、部活早く終わるんだよ。だから、いつものメンバーで遊びいかないかなと思ってさ」
「いいけど、勉強しなくいていいの?」
やはりいつもの櫻ではない。
いつもなら、亮太郎の心配よりも蓮と遊ぶほうを優先するはずだ。
「俺の成績はこれ以上下がることないぐらい低いから大丈夫さ」
「それなら、いいけど」
なかなかに冷めた対応の櫻に戸惑いながらも、蓮との約束を果たしたことに安堵し、このモヤモヤを解消しようとバットを持ち庭で一心不乱に素振りをした。
テストが近いからといって、勉強をするわけでなく常に野球の練習をする亮太郎であった。
その土曜日。
夏も終わり秋の始まりを感じる気候の中、三人は近くのショッピングモールに向かっていた。
最近できたばかりのショッピングモールで、全国規模に展開しており、コンビニ形態の店や小規模・中規模の店舗もあり、飛ぶ鳥を落とす勢いで拡大している。
そのショッピングモールに向かう三人であるが、一人足りないようである。
美里だ。
亮太郎が美里にも声をかけると「彼氏との約束があって、ごめんなさい」とのことであった。
今では美里も亮太郎に対して敬語ではないのだが、彼氏が関わる話題になると、何故か敬語になる。
蓮に対してもそのようで、蓮との間では何かあると日常会話の一つになっている。
――それにしても気まずいな。
亮太郎がそう思うのも無理はない。
蓮も櫻も互いに話をしないのだ。
全てが亮太郎を介しての会話。
付き合う前の男女ってこんな感じなのか。
亮太郎にとって身近にいる人同士が付き合うということは初めてで、これが当たり前のことなのか、判断しかねていた。
――恋愛小説の一冊でも読んどけばよかったな。
二人の会話の中継役をしながら亮太郎は後悔していた。
ショッピングモールとあって中は広々としており、多数のショップが軒を連ねており、行きかう客を呼び込もうと「いらっしゃいませ」の声が四方八方から聞こえてくる。
そんな中、三人は櫻が行きたいという、雑貨屋に行くことになった。
その雑貨屋は、若者に特に中心で、デスク周りの物が中心なのだが、デザインがお洒落で、キッチン用品などの生活用品もあり、どれもデザインに特化し、学生も買いやすい値段となっている。
「お兄ちゃん、これ可愛くない?」
櫻が手にしたのは、若者を中心に流行っている可愛い系のキャラクターの小物入れ。
櫻が好きなギターをそのキャラクターが弾いているデザインになっており、亮太郎も櫻が気に入るのも納得するものであった。
「いいんじゃないか。蓮はどう思う?」
「こっちの方が良さそうだけどな」
蓮が手に取った物を見た亮太郎と櫻は「えっ」という顔をし、顔を見合わせると噴き出した。
「蓮君ってそういうの好きなんだ」
「バカ、櫻に似合うと思ったんだよ」
櫻の言葉に蓮が弁解すると、亮太郎は笑いをこらえきれないようだ。
「それ、幼稚園生や小学生が好きなキャラクターだぞ。櫻何歳だと思ってんだよ」
「そうだよ。いつまでも子ども扱いしないでよね」
蓮は頭をかくと、手に取っていたものを元に戻した。
そんな蓮と櫻を見た亮太郎は笑いを堪えながらも、内心でホッとしていた。
――早く付き合うなり、なんなりしてくんないかな。
ホッとしながらも、二人に振り回され続けている亮太郎は溜息とともにそうも思った。
一通り満喫し終えた三人は最後にフードコートで談笑していた。
ここに来るまでが嘘かのように蓮と櫻はいつものように戻り、亮太郎もショッピングモールを楽しめていた。
「最近思うんだけどさ、そろそろ野球やったらどうだ?」
亮太郎は何気なしに蓮に問うた。
「何だよ急に。俺は今のまま、遊び半分でいいよ」
「じゃあなんで、毎日のように壁当てしたり走ったりしてんだよ」
「習慣かな」
蓮は何も考えてないかのようにジュースをストローで飲んでいる。
「せっかくだから真剣にやろうと思わないわけ?昔みたいに」
「昔みたいって言ったって、もう亮太郎とはできないからな」
「できなくはないだろ。対戦相手ってことでも一緒に野球をやってるには変わらないだろ」
「西条高校と家の高校がやったら何点差付くかわからない」
「点差じゃないさ。せっかく俺も蓮もよくなってるのにもったいないじゃんか」
蓮は特に気にする様子もなくただジュースをすすっていた。
「そうだよ。二人で私を甲子園に連れてってよ」
亮太郎と蓮は顔を合わせるとどちらからともなく噴き出してしまった。
「二人で連れてくのは無理だろ。チームが違うんだから」
「違うの。どっちでもいいから。二人に言っておけばその分確率増えるでしょ」
「どっちでもいいのかよ」
櫻は満面の笑みでうなずいた。
すると亮太郎が呆れた表情で言った。
「俺はまあ兄弟だから分からないでもないけど、普通は彼氏だったり、好きな人に言うものだろ相場は」
すると櫻は表情を変えずに言い切った。
「私蓮君好きだから。蓮君が私のこと好きだったらカップルでしょ?」
蓮はジュースごと噴き出し、激しくむせた。
亮太郎は慌てて紙ナプキンでそのジュースを拭き始めた。
紙ナプキンにしみるジュースが蓮の心を表しているかのようだ。
徐々に櫻の言葉が蓮の心に染みるように。
そして、すぐに紙ナプキンはジュースで紙の役割を終えてしまった。
蓮の心も櫻の言葉で一杯になっているに違いない。
「そんなむせることなくない?」
「一言聞いていいか?」
蓮はまだ苦しそうであり、顔が赤くなっているのは、苦しいからか、いきなりの告白で照れているのか。
「櫻ってこういうの慣れてるのか?」
「慣れてるわけないじゃん。告白したのなんて初めてだよ」
蓮は少し考え込むようにうつむくと言った。
「うん。俺も好きだよ」
すると今度は亮太郎がむせ始めた。
「おいおい、早すぎんだろ」
「早すぎるもないだろ」
「そりゃあそうだけど、もうちょっと考えたりさ」
すると蓮は頭をかきながらカバンからあるものを取り出した。
それは櫻が好きな歌手のギターのコード表だった。
「俺も今日告白しようとしてたんだ。でも、二人きりっていうのはおかしいと思ってさ。亮太郎に見ててほしかったんだけど、先に言われちまった」
「なんでギターの譜面なんて」
「あの事故以来、櫻のギター聴いてないと思ってさ。それで」
亮太郎と櫻はさすが兄弟かと思えるように同時に首を傾げた。
「それで櫻に弾いてもらおうって?」
「そうだけど」
「いや、普通、告白するほうが告白するときに弾いたりするんじゃないか?」
「そうなのか!?」
蓮の反応に亮太郎も櫻も笑いこけた。




