STORY26:痕跡④ー結末ー
しばらくして、クリスはうっすらと目を開ける。
「??!!?」
ババッと衣服の乱れを即座に整えた。
「・・見たのか?」
オレは首をゆっくり左右に振った。
「いや?傷、もう大丈夫か?」
エルがドヤ顔でクリスをグイッと覗き込んでいる。
「腕っぷしは間違いなく強いのね、さっきあの首無し騎士即真っ2つだったし。」
「情けない姿を晒しただけだ、なんの自慢にもならない。」
彼・・はそんなことよりもデミサタン戦で醜態を晒したことのほうが気になっているようであった。
アドーが目をキラキラさせてクリスを見て
「クリスさん、もう痛くないの?答えてくれないからわたしからもきくね?」
戦闘の緊張から、もうみんな言葉を崩してしまっていた。
それほど戦闘に緊張感があったんだろう、言葉を意識しているヒマなどなかった。
「リヒタールの・・誇りが・・。」
失態を見せてしまったクリスは些細なこの人数に対してもなにか心をえぐられているようだった。
「痛い・・傷よりも心が・・。わたしはなにをやっている。」
自己の世界に入ろうとしているな・・。
この際訊いてみるか。
「クリス、単刀直入にきく。リヒタールから何の用で来た?」
クリスは、よそよそしく目を逸らす。
「それは・・・言えない。」
黙秘か・・。
気が利くかわからないが、気休めにもなればとオレは口を開く。
「オレたちはなにも見てないし、聞いていない。いいな?」
クリスにとって【なかったこと】にすればいい。
きっと、クリス的な騎士としての矜持があるのだろう。
気持ちだけでも軽くなってくれれば・・・。
クリスはスクっと立ち上がり真っ直ぐこちらに目線を向けて逸らさない。
「次は・・・うまくやる。」
そういって元のポータルのほうへゆっくり足を進める。
ただ、クリスは基本強い、あのオレたちの苦戦したデュラハンロードをエビルホース付きで瞬断したし、実力はホンモノだった。
しかし、足りないのは実戦のセンスなんだろうか?
相手が魔物だということを想定できていなかったのだろうか?
ただオレも、人のことは言えないだろう。
そこで考えたんだ。
「クリス!ちょっと頼みがある!」
ピタっと足をとめてこちらに振り返る。
「なんだ?金ならないぞ?」
だれが金なんていった、非常に情けないが金ならエルが持ってる。
「戦い方を・・・教えてくれ。」
ここまでくるとオレもルミナイトセイバーのゴリ押しには限界がある。
実体剣枠として金属剣のほうも使いこなしていかないといけない。
威力はともかく、リヒタールの騎士と訓練できるならきっとなにか得られるはず。
リヒタール騎士は多彩な攻撃手段と技を持っている。
オレが主体で戦えるようになりたい。
まだまだオレはクロエとエルに寄りかかっているような気がするから。
「ならば、交渉としよう。1日金貨を1枚。」
銅100で銀1、銀100で金1。
大体食料なら1日分銅数十くらいで済む。そんな相場だ。
「割高だな。それだけの腕と価値を自負すると?」
値踏みするように問う。
「さっき見せた通りだが?」
醜態どうのこうのはさておき、デュラハンロードを真っ2つにしたという実績自体みればそうとれなくもない。
明らかに研鑽した瞬時の威力で、なんの変哲もない騎士剣であれだけの威力を出すのは容易じゃない。
オレはある意味ルミナイトセイバーのチートみたいなもんだからな。
実体とそうじゃないのを使い分けるのは不便だ。
エルのほうをじーっと見る
「な・・・なんなのよ!お金?!お金なのね!?」
オレは申し訳なさそうにチワワのようなしょぼーんとした顔をする。
「もー!一応有限なんだから!有意義に使いなさいよ!」
なさけねー、オレはヒモみたいだった。
「契約・・成立だな。」
クリスは1度だけ頷いてポータルから出る。
オレらも続いて出ることにした。
ポータルから全員出たのち、ちょっとしてポータルは閉じて消えてしまった。
もしかして、時限性だった?こわ。
「で、どこから教えればいい?」
クリスが問う。
どうしたらいいんだろうか・・・
「わかった、まずは剣を1人ずつやり合ってもらおう。」
傷は一応魔法で完治したクリスがクロエとエルとオレを見る。
「各自の弱いところを埋めるか、それとも強みを活かすか。」
オレはあえての一長一短を推すことにする。
クロエは技、エルはパワー、オレは体幹を崩すこと、だろうか。
「一度やり合って弱点をまずは各自補ってもらってそこからどうするかもう1度考える。」
クリスがそう提案した。
「まずはリヒタールでやってる剣術の一部の基礎でわたしは相手する」
クリスが剣を前方に突きつけてニヤけた。
そこでビギリニアの端っこにある公園、とても広い場所でやることにした。
最初はクロエから。
「お手柔らかにお願いします。」
このセリフなんか既視感があっていやだなぁ・・・
ちょっとだけ顔を赤らめてしまうオレ。
「ホープ、アンタ!!!」
耳をまた引っ張ってくる
「あだだだだだっなんだよ!なにもしてねーだろ!!」
「今、クロエにヘンな目してたでしょ?、節操ないというか、何思い出したの?言いなさい!!!」
エルは鼻息フルバーストで機関車のように蒸してた。
「オレは1つの油断も許されないのかよ!!」
ホント嫉妬深いこと、想いがホンモノかどうか確証が掴めるまで思い知らせてやろうか??
茶番をしているとクロエが素早く剣を横薙ぎで振った。
しかし紙一重でクリスは半歩下がりクロエの剣は空気をかすめる。
「遅い!!」
クリスのやや重い騎士剣が逆方向から横薙ぎに来る。
ガチで斬りつけるわけではなさそうだが、緊張する瞬間だ。
わざとかすめているようだ。
「今ので1回死んだ。」
「くっ!」
クロエに焦りの色が見える。
普段は冷静そのものだが、今回は実際の武器で模擬戦のようなものをしているためか、緊張も目立つ。
クリスはホンモノだ、魔物を想定していないときは間違いなく強者であり、スキがない。
クロエに対して剣では斬らないが、柄で殴る、膝でダメージを削ったりはする、容赦がない。
「わたしも、ホープ様や、アドー様を守るためにっ!!」
何度も傷つきながら剣を交え合う。
クロエはいつでも本気だった、従者として。そして大事な人を守るため・・なのだろう。
ギャィィン!!
剣で競り合いになった
ギリギリと力比べ、じりじり均衡しているように見えてはいるが・・・
シャリィィン!!
クリスが振り抜いた!!
その勢いだけでクロエが吹き飛ばされる。
「くぅっ!!」
受け身は取ったが倒れながら滑っていく。
「なるほど?」
クリスが一通り分析したようだ。
「あなたは、最初から力比べで勝てないと思っている、だから相手の力をおしはかって力量の優劣で押し切るか逸らすか決めている。」
「・・正解です。」
「テンプレートに沿ってはいるんだが、駆け引きの際その無難な判断が体幹を崩されやすい」
理由としてはこうらしい。
・相手が全力で競り合ってない場合、力量を読まれると主導権を奪われる。
・逆に相手のほうが力で劣る場合は押し切る際に自身と同じ判断をする。
・押し切れると過信したときに肩透かしで一気に体幹を崩される場合不利。
「と、こんな感じで基礎的に力を付けないといけない。駆け引きの判断が早すぎるんだろう。表情や状況をあえてそれっぽくフェイクで見せるのも効果がある、むしろあなたの場合は普段が冷静だ、だから表情をわざと崩すのは知性のある相手には通用する」
つまりは知性のない魔物はそんなものを考えないので駆け引きは単純で力比べだけで通じると?
だからか、デミサタンのときも・・・。
デュラハンロードは圧倒的な巨躯と力で知性もあった。
「クロエ嬢、あなたはそれを意識してやってみてほしい。」
クロエは1つ頷く
「リヒタールの剣術、お見事です。」
素直に称賛して、身の丈を知ったクロエ。
いわばオレなんて型なんてないからな、クロエの直伝みたいなものだからな。
いや、むしろクロエはなんの型だったんだ?
「ところで、クロエ嬢は剣をどこで?少なくとも源流でないにせよ、リヒタールの剣術に似通っている点があるのでね。」
あとクロエ嬢って言い方に疑問、失礼な話にじゅうはち・・・
なにか偶然かクロエの視線がこっちにきたような気がする。
「わかりません、旅人から教わったもので。」
旅人・・?ルミネス家に来る前になにかあったのか?
「まぁ深くは追求しないことにする。では次。」
鼻息ふんふん、ひくひくぷしゅー。のエル。
「あたしの剣、果たして止まるかしらね?」
合図もなしに飛びかかる!
「無作法な!」
ガギィィン!!
大きな金属音・・・しかし。
いつのまにか騎士剣を納めている代わりに2刀のほうを抜いていた。
「あなたにはこっちのほうがよさそうだな、エルナーシア嬢。」
魔物相手に最初使っていたブラックメッキのような加工を施した刃の2刀。
ギャリィィン!!
なんと、クリスは片腕の剣でエルの剣を止めている。
「なっ・・・」
両手で剣を振り抜こうと力を入れるエルだが
「ぐぬぬぬぁぁぁぁ!!」
さすがにクリスも片腕の剣では受けられないのか押されていく。
フとしたことに急に横に力を逸らすとエルの体幹が崩れる。
当然だ体重や重心の問題だ。
だが!
軸足で踏みとどまりそのままその姿勢を振り戻すように剣を振り上げる。
その勢いは殺されることなくクリスの顎先に届きそうになった。
クリスはもう片方の剣で上から勢いを殺そうとするが、いとも簡単に弾かれる。
そのままクリスは顎先に迫る剣を後ろに逸らす。
嬉しそうにニヤけたクリスは、エルの首に腕を回す。
「がっ!!」
いわゆるこれはスリーパーホールドのようなもので首を締めていた。
「くっ・・・」
エルは呼吸を求めてじたばた暴れる。
「魔物にこれが通じるかわからない、しかし、同じ呼吸系統をもつ魔物が仮にいるのならば・・有効だと思うが?」
リヒタール剣術の一部なのだろうか?体術の1つとして対人特化しているような感じを受ける。
「っ!!!」
相当苦しそうなのでクリスはそこでホールドを解いた。
「ゲヘッ!!カハッ!!ゲホーーッ!!」
相当呼吸できなかったらしくむせつつも呼吸を取り戻すエル。
「不覚をとったわ・・アンタ!ヘビみたいにするりと抜けるその攻撃なんなのよ!!」
抗議するもこれが戦術なのだ、やむを得まい。
「エルナーシア嬢、逆にあなたはクロエ嬢と違ってパワーが強い、力ずくってのが利点なのだが、しかしその体幹の強さと力のせいで過信しすぎていてスキが大きいようだ。」
大剣をアッサリ扱える、ヘタすると精度こそ落ちるが片手でもあの大剣を扱えるはず。
刃の長さは1mちょい、オレの金属剣の1.5倍くらい重いだろうか?
「エルナーシア嬢の場合は逆に繊細さとその剣のコントロールをできるようになれば力で生きているような剣になるだろう。」
やはり対人に対しては間違いない実力だ。
魔物に対する対応さえできれば間違いなくもう1つ上の段階へいける実戦力になるか・・?
やはり教えを乞うのは間違っていなかった。
もうクリスがいないときのオレらではどうにもならなくなってきているはずだ。
オレのルミナイトセイバーが通じるからこそなんとかなっている現状は、変えなければならないと思っている。
ご都合だけでものが進んでいるなら、それは運であって実力ではない。
少し町で足をとめているが、これは必須期間だと思っている。
死にに焦るのではなく、確実な1歩を歩むためのプロセスなんだ。
幸福という形を確かめるために・・・。
以前クロエがクリスの2刀を見て気づいたシーン
クロエの剣のルーツがどこかでわかるかもしれませんね。
今のとこまだわかってませんが。
リヒタールの騎士であるクリス・・なにかいわくがありますね。




