↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
22/39

救える命だけでも

 一年早まったということを除けば、事態は私の知る未来をなぞるように進んでいった。


 領民たちが、何者かに扇動されるようにして暴動を起こす。街のあちこちから悲鳴が上がる。兵たちが駆け回り、火の手が上がる。


 こうなると、間もなく――ザンカスト侯国が、この混乱に乗じて城門を打ち破るだろう。


 私は窓の外を見つめていた。もう、時間がない。


「せめて……マリーだけでも助けに行かなくては」

 


「お嬢様、なりません!」


「危険すぎます!」


 使用人たちが口々に制止する。それでも私は首を横に振った。


「マリアベルのところへ行くわ」


「しかし……!」


「着替えを用意して」


 有無を言わさぬように言い放つ。


「今すぐに」


 執事も使用人たちも顔を見合わせる。


 私の決意が揺るがないことを悟ったのか、やがて彼らは慌ただしく動き始めた。


 そして私は、背後で事の成り行きを見守っていた銀髪の侍女を呼んだ。


「カタリナ」


「は、はい」


「あなたも来て」


「……私も、ですか?」


「ええ。あなたにもいて欲しい」


 私は振り返ってカタリナを見た。これまでの人生で、何度も彼女を失った。


 今度こそ、絶対に死なせたくない。


「……では、私も着替えてまいります」


 カタリナは一礼すると、部屋を出ていった。私も急いで身支度を整える。


 動きやすい服に着替え、必要最低限の荷物だけをまとめた。


 そして、ふと思い出す。


「……そうだ」


 私は執事のダースへ尋ねた。


「サナルトゥスという私兵はいる?」



「サナルトゥス、でございますか? いることにはいますが……」



 彼には、これまでの人生で危ないところを助けてもらった。命令に対する忠実さ。そして、どんな状況でも主を守ろうとする姿勢。


 彼には命を預けるだけの価値がある。


「彼を同行させるわ。すぐに呼んでちょうだい」


「しかし……。いえ、かしこまりました」


 ほどなくして、扉が叩かれた。


「サナルトゥス、参上いたしました」


「入って」


 扉が開く。見慣れた男が、私の前へ進み出た。


「お嬢様。お呼びでしょうか」


「ええ」


 私は彼をまっすぐ見た。


「これから私と共に来てもらいます」


「……私が、ですか?」


 サナルトゥスは俄に信じ難いといった顔をした。


「あなたには、私の護衛をお願いしたいの」


「お嬢様……」


 サナルトゥスは驚いたように私を見つめた。


「私のような者を……認知してくださっていたとは」


「もちろんよ」


 私は即答した。


「あなたの働きは、知っているわ」


 その言葉に、彼は深く頭を下げた。


「……身に余る光栄にございます」そう言ってその場に跪く「ここに厄介になってから、まだ一週間ばかりの新兵ではありますが、この命に代えましても、貴女様をお守りいたします」


「え……い、一週間?」


「そ……そうですが?」


「あの……その……た、頼りにしているわ」


 私は頷いた。いまこの状況が一年早まったことをすっかり忘れていた。彼に過去二度あったときのような貫禄が薄れ、少し初々しさが残るのはそういうことだったのか。


 ともあれ、これならマリーのところまで辿り着ける。そう思った。


「……ところで、カタリナは? まだ戻っていないの?」


 執事が首を傾げた。


「……少々遅いようでございますな。お召替えにしては」


「そうね……」


 私は眉を寄せた。着替えると言って部屋を出てから、随分と時間が経っている。


「私、様子を見てくるわ」


 私は廊下へ出た。そして、カタリナの部屋へ急いで向かい扉の前で立ち止まった。



「カタリナ?」


 ノックをするが返事がない。


 もう一度、ノックする。


「カタリナ、いるの?」


 ――静かだった。私は扉を見つめた。胸の奥からこみ上げる小さな不安。それは徐々に肥大していく。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。