↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
11/39

親友のため


「カタリナっ!?」


 思わず駆け寄ろうとした私の腕を、私兵が掴んだ。


「お嬢様、いけません!」


「でも……カタリナが!」


「誰かいるのか!?」

 その時、階段の上から男の声がした。間もなくして、二人の男が姿を現した。兵士ではない。おそらく、暴動に乗じて屋敷へ入り込んだ領民だ。



 二人とも剣を手にしている。



 そして私の姿を見つけると、顔を歪めて笑った。


「お前、オフィーリアか!?」



「捕まえろ! ザンカストに差し出せば、褒賞が貰えるぞ!」


 身体が震えた。逃げなければ! そう思った瞬間。


「お嬢様!」私兵が私の前へ飛び出した「ここは私が!」



「でも――」



「すぐに逃げてください!」



 剣を抜きながら、彼は叫んだ。


「逃げるって……!?」



「ジオバンニ王国を目指してください! まだ、あそこは安全なはずです!」



 二人の男が怒号とともに階段を駆け下りてくる。それを遮るように私兵が一人で立ちはだかった。



「早く!」



 私は唇を噛み締めた。


「ごめんなさい! ……あなた、名前は?」


「サナルトゥスです」


「あなたの名前……忘れませんわ」


 それだけを残して、私は男たちの脇をすり抜け、階段を駆け上がる。



 眩しい。光が強くなる。……外だ。閉ざされていたはずの扉が開かれている。


 振り返ることはできなかった。背後から剣戟の音が聞こえる。


 外に出ると、そこは屋敷から少し離れた裏の林だった。


「こんなところに繋がっていたの……」


 振り返ると、燃え盛るクレール邸が見えた。そしてその奥に見えるのはレヴナス・ソラール邸。……マリアベルの住む屋敷だ。


「――オフィーリア!?」


 聞き慣れた声に振り返る。


「……え?」


 木々の向こうから、数人の兵を従えた女が姿を現す。


「マルティナ……?」



「オフィーリア!」


 マルティナは黒紫の髪を振り乱しながら、驚いたように駆け寄ってきた。


「よかった……ご無事でしたのね!」


「あなたこそ……どうしてここに?」



「私の屋敷も襲われましたの。父の私兵が、どうにか私を逃がしてくれました」


 マルティナは悔しさを滲ませながら言った。その顔色には焦りや恐怖といった感情も混じっていた。


 遠くから誰かの怒号が聞こえた。


「マルティナ様! こちらへ向かってきています」


「相手にしてはいけません。行きますわよ」


 マルティナが私の手を取った。


「オフィーリア、一緒に逃げましょう!」


「……待って」


「何ですの?」


「マリアベルは?」


 マルティナの表情が強張った。


「……マリアベルさん?」


「彼女の屋敷へ。助けに行かなきゃ」


「何を言いますの!? 駄目ですわ!」


「マルティナ……でも……」


「今はどこも安全ではありません! ましてあちらにはレヴナス様もいらっしゃらないでしょう!?」


 マルティナが私の強く握る。



「ここからなら、まだ行ける」


「オフィーリア!」


「マリーが心配なの」


 私は彼女の手を振り払う。自分でも驚くほど、迷いのない声だった。


「お願い。私は、マリアベルのところへ行く」


 マルティナは何かを言おうとした。が、やがて小さく息を吐いてかぶりを振った。



「……本当に、あなたは昔から頑固ですわね」



「ごめんなさい」



「謝るのは、生き延びてからにしてくださいまし!」


「マルティナ……ありがとう」


「オフィーリアお嬢様……」


 屋敷の抜け道からサナルトゥスが現れた。さっきよりも返り血が色濃くなっているように見えた。


「サナルトゥス。よかった……無事だったのね。お願い、いまからマリーを助けに屋敷に行きたいの」


 サナルトゥスは驚いた顔をしたが、神妙な面持ちで頷いた。


「わかりました」


「オフィーリア、彼一人では足りないわ。私からも一人私兵を付けます」


 そう言って、彼女は自分の私兵一人に目配せする。


「それから、これもあなたが着ていきなさい。多少は目くらましになりますわ」



マルティナはフード付きの黒い外套を脱いで私によこした。



「ありがとう……マルティナはこれからどうするの?」


「まずはジオバンニ王国へ行きますわ。後のことは……私にもわかりません」


「そうよね……」


この状況。私にだってどうすればいいかなんてわからない。


 それでもマルティナは、いつものように微笑んで力強く言った。



「また、生きて会いましょう」



「……ええ、必ず」

 

私は頷いた。そして、二人を引き連れてマリアベルの屋敷がある方角へ走り出した。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。