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⑨ 揺らぐ境界線

修学旅行まで、あと五日。

 教室は修学旅行の話題で持ち切りだった。廊下から聞こえる「あと五日!」という浮かれた声を聞きながら、琥珀は冷静にカレンダーに視線を落とした。

(三日間。やるべきことはシンプル。いつもの私を、最高の精度で維持し続けるだけ)

 春休みのお泊まり会は、たった一晩だった。あの夜は璃子の助けもあって、どうにか乗り切った。けれど、今回は三日間という長丁場だ。前回の成功を「まぐれ」で終わらせないための、いわば実地試験だと思えばいい。

(不安? そんな暇はない。私がやるべきなのは、完璧なシミュレーションだ)

 琥珀は教科書の裏に、大浴場や朝の身支度といった、綻びが生じやすい場面の対策を書き出した。一度クリアしたミッションだ。難易度が上がろうと、攻略法さえ磨けば必ず突破できる。

「琥珀ちゃん、おはよ!」

 沙耶が満面の笑みで駆け寄ってくる。

「あと五日だね! 楽しみすぎて眠れないよ!」

「ふふ、そうだね。私も、沙耶と過ごせる三日間を楽しみにしてるよ」

 琥珀は迷いのない笑顔を向けた。かつてのような怯えはどこにもない。今はただ、自分が選んだ道をどこまで貫けるかという、静かな闘志だけが胸の中にあった。


⸻


 昼休み。班ごとの打ち合わせ。

 結乃がじっと琥珀の顔を見つめている。

「……琥珀ちゃん、ため息十五回目」

「それは考え事だよ。ルートの確認をしていたの。この寺院の次はあそこへ寄った方が、効率的だと思って」

「……観測。琥珀ちゃんは、いつもの『流される琥珀ちゃん』じゃなくなっている。今は、何かをコントロールしようとしている」

 結乃の鋭い指摘に、琥珀は動じることなく微笑んだ。

「鋭いね。うん、最高の思い出にしたいから、今はリーダーシップを発揮しようと頑張ってるんだ」

 結乃の観測すら、琥珀は「順調な証拠」として受け流した。


⸻


 放課後。担任に教卓へ呼ばれる。

「東雲、最近少し顔色が悪いぞ。無理はするなよ」

「ありがとうございます。でも大丈夫です。今回の修学旅行、必ず成功させたいと思っているので」

 担任の心配さえ、今の琥珀には前向きなエネルギーに変換された。


⸻


 帰宅した琥珀は、部屋の鏡の前に立った。

 制服の襟元、表情の作り方、声のトーン。璃子が入ってきても、琥珀は一切動揺せず、鏡の中の自分と対話する。

「ねえ璃子。私、前回の経験で分かったことがあるの」

「なに?」

「一晩やり過ごせたなら、三日間もやり過ごせる。結局、私が私を信じきれるかどうかの問題なんだよね」

 琥珀は迷いのない瞳で、鏡の中の自分を射抜いた。


⸻


 夜。琥珀は「しおり」を手に取り、最後の一ページまで目を通した。

 かつては恐怖の対象だった「京都」が、今は自分を試すための最高のステージに見える。

(……逃げ道を探すんじゃない。攻略法を組み立てるんだ)

 もし沙耶が近づいてきても、もし結乃が罠を仕掛けてきても、すべてを「東雲琥珀」としての魅力に変えてみせる。

 琥珀はしおりを閉じ、ベッドに腰を下ろした。高鳴る鼓動は、恐怖からではなく、挑戦への期待によるものだ。

 窓の外を見上げると、夜空が静かに輝いていた。

 修学旅行まで、あと五日。

 琥珀は誰よりも強く、その日の訪れを待ちわびていた

琥珀「ここまで読んでくれてありがとうございました!」


璃子「……ねぇ、琥珀ちゃん。」


琥珀「なに?」


璃子「今回の第九話なんだけど。」


琥珀「うん。」


璃子「……なんか、いつもより内容薄くない?」


琥珀「えっ!?」


璃子「いや、悪く言うつもりはないよ? でも修学旅行前っていう大事な回なのに、作者……少し油断してない?」


作者「…………。」


琥珀「作者さん、何か言って?」


作者「今回は次の展開に向けた大事な準備回で……。」


璃子「準備回って言えば許されると思ってる?」


琥珀「璃子さん、ちょっと言い過ぎじゃない?」


璃子「だって、読んでくれている人がいるんだから、ちゃんと楽しませないと。」


作者「すみません……。」


琥珀「でも、ここまで読んでくれた皆さんには本当に感謝しています!」


璃子「次の第十話は、ちゃんと期待していますからね?」


作者「頑張ります!」


璃子「もしまた手を抜いたら……」


作者「……?」


璃子「許しませんから。」


琥珀「璃子さん、怖いよ……!」


琥珀「それでは、第十話もよろしくお願いします!」

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