その7 愛機・『コンフェッティーナ』
★永遠福音コンフェッティーナ!
第一話『灰塵に帰す・後日談』
その7 愛機・『コンフェッティーナ』
teller:カイジン=グリズリー
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ティナ子がコンフェッティーナの内部、そして自分の機械化された肉体の内部に入り込んで調整したことにより、短時間という制限はあれど通常よりも明確に機体性能が上がっている。
コンフェッティーナは元々機動性に優れた機体だ。
常に俊敏に動き、小回りも利き、スピードにも負荷にも強い耐性がある。
そして自分の機械の身体は、耐久性に優れている。
銃弾を浴びようが自分に機能停止はないし、現に時限爆弾を体内で爆発させた状態でも、まだ自分の生命活動は止まっていない。
しかし、今。
自分の操るコンフェッティーナとはいつもと大きな差異がある。
機体を動かす度に感じる違和感。
まるで機体全体が、言語化できない物質を取り入れてしまったかのように、違う。
今までと決定的に違う何かが、ある。
――それが、ティナ子の言う『心』だと言うのか。
『おっ、ダーリン無事脱出おめでとうございますですよ~。まあティナ子ちゃんのダーリンラヴ♡♡ なトキメキパワーがあってこそアタシの本体も頑張ってくれちゃったみたいですけどね~?』
自分に寄りかかるような体勢のティナ子が、自分の顔を覗き込むように笑う。
『ティナ子』は、自分にとっては謎が多い。
『コンフェッティーナ』と幾多の戦場を駆け抜けてきた、自分にとっても。
コンフェッティーナに内蔵されていたAIが自我に目覚め、『ティナ子』という少女人格を形成した。
心を得るという不可能を成し遂げたが、生身の肉体の生成までは至らず。
だから実体を持たない状態で、誰にも触れられない身体のまま、彼女は自分の傍にいる。
そんな存在。
それが彼女の正体で、彼女はそれ以外の何者でもない。
しかし彼女は、自分よりも先に『心』を知った。
ティナ子の言葉が自分にはどう響いているかもわからないくらい、自分は『心』を捨て去ってしまったのに。
『っていうかダーリン、瓦礫の下から脱出ついでにめっちゃ空飛んでます? いや~、まあまあ? アタシは目立つの大歓迎ちょーウェルカムですけどネ? 赤く染まった空に現れたエンジェルちゃんって感じでアタシってばス・テ・キ♡ ダーリンにお似合いの罪なオンナ♡♡♡」
コックピットにて、実体が無いにも関わらず擬似的な密着の体勢で自分の前方に座り込み、ティナ子は自身の両頬に手を当てて大袈裟にはしゃぎ始める。
しかしそれもほんの数秒だった。
『んじゃダーリン、せっかくこんなてっぺん獲ったんですから、一発ぶちかましちゃいましょうか!』
ぶちかます、とは。
自分が疑問に思う間もなく、ティナ子はするりとコンフェッティーナのモニターに溶けるように侵入した。
あらゆる機器を行き来でき、変質に近い調整を施せるティナ子経由によるものだろうか。
滞空まで至ったコンフェッティーナに、翼が生えた。
機械の身体に機械の翼。
機械仕掛けの空飛ぶ戦士が、そこに在った。
このレベルの飛行機能がコンフェッティーナに組み入れられていたことは自分も知らず。
飛ぶことに慣れていない自分は、少しばかり現状の把握に時間を擁した。
だがティナ子は臆することなく、高らかに言った。
『糖花、吹雪け!! 恋桜より愛らしく!!
絶世妖精、永久にラブリーコーリング♡♡
永遠 福音コンフェッティーナ!!
貴方の胸核、ノックでアウト!!
っ、で~~す♡♡♡♡』
意味を上手く処理できない言葉で創られた叫び、だった。
子どもじみた言葉の数々が、すっと耳をすり抜けていく。
それでもティナ子の声はどこまでも楽しそうで。
ティナ子の言葉に合わせ、機体が、ますます光り輝く。
視界が眩むくらい、世界が真っ白になるくらい。
そんな空間で、熱を感じた。
うっすらと映るコンフェッティーナのモニターには各種エネルギー完全充填完了という文字。
完全充填。稀に見る表記だ。数値が壊れたのではないかと疑う程に。
輝きを増していくコンフェッティーナの光は、やがて空を飲み込んだ。
空が覆う、街の全てをも飲み込んだ。
音が止んだその時、自分の義眼を起動させて改めて世界を見る。
――空が、青かった。
煙も消え、澄んだ空気。
火の気配一つない。
まるで全ての爆炎が、攫われてしまったようだった。
くすくす、と歌うような軽やかさでティナ子は笑う。
『コンフェッティーナはスピード特化、ダーリンは耐久力マシマシ……だから、アタシは攻撃性、ってゆーか爆発力がバリ強なんデス! この街を脅かす火も煙も、全部アタシがぶっ飛ばしちゃいましたですよ~♪』
「正確な行程の報告を頼む」
『だ~~もうっ! 感動ねーですね!? ダーリンってばホンット~にロマンもクソもねーオトコですね!? 少しは少年ハート持ってた方が可愛げあるってもんですよ!? ま、ティナ子ちゃんは理解あるハニーなので、そんなダーリンにアタシはゾッコンラブで添い遂げ希望なワケですけどね~♡♡』
随分と、良く喋る。
AIから生まれた存在、ティナ子。
しかし彼女が持つ『心』は――恐らく、人間よりも豊かだ。
『一応は機体に貯蔵されていた撹乱用スプレーの元になってる気体をアタシのクールな頭脳でちょちょいっと消火用に調合し直したワケです。人体に被害が出ない程度に気体を空と街全体にぶち込んで、スッキリ綺麗にしたげましたよ! ……ま~ちょいミスって閃光弾並にキラキラしちゃいましたけど? ご愛嬌ってことで? ラブリーなティナ子ちゃんはもともと常に輝いてますし?』
ティナ子の説明を聞いて、モニターを街中に設置された監視カメラとリンクさせ、街の様子を伺う。
火も煙も消失したからか、人々の移動がスムーズに済んでいる。
特に負傷者の病院への搬送も順当に進んでいるようで、手伝いの中にはバニーの姿も確認できた。
幼い子どもたちは、晴れた空にはしゃいでいた。
彼らは確か、自分が風船を配る際に畏怖させてしまった少年少女だ。
だが今の彼らは皆、無邪気で明るい、笑顔を浮かべていた。
その笑顔で、輝かしい瞳で――愛機・コンフェッティーナをじいっと見ていた。
ふわ、とティナ子が自分の前に舞い降りる。
モニターと自分を遮るかのように。
『……何度も言いますけど、アタシはアナタがだーい好きですよ。カイジン=グリズリー、アタシのダーリン。……アナタが好き。全部が好き。……ってことで今後はこんな風にダーリンの正義に寄り添う気満々なんで! バリバリにアタシを頼りにしちゃってくださいね??』
そう言ってティナ子は目を閉じて、自分に顔を近づけ、抱き締める体勢を取り――すり抜ける形で、一瞬自分と影を重ねてきた。
コンフェッティーナは、自分の愛機だと信じている。
しかし、コンフェッティーナから生まれたティナ子は、自分の知らない『愛』を楽しそうに謳うのだ。
バニーがターニャ嬢に向ける恋とも違う、大きな愛を。
自分にはまだ、知らない感情が多い。
知りたい心が、多い。限りのない程に。
こんな時でも時間通りに鳴る、この街の鐘の音を確かに聴きながら――まだ自分の中でも鐘が鳴り止まないことに気付いて。
作り物の心臓がただただ無音な自分だからこそ、世界の音にも他者の声にも、包まれていたいのだと。
そう思って、機体のハッチを開けて、自分は晴れた空を黙って仰いでいた。
――空を晴らした愛機の少女・ティナ子の賑やかな声は、恐らくこの青空に良く似合う明るさなのだろう。
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