その6 正義の味方の、相棒
★永遠福音コンフェッティーナ!
第一話『灰塵に帰す・後日談』
その6 正義の味方の、相棒
teller:ダムバニー=ストレイキラー
◆
これ以上は炎が広がる気配がないと言っても。
爆発が起きて、消火活動も充分ではないから街の住民はパニックを起こしているようだった。
相棒――カイジンが心配だから早く駆けつけたい気持ちは強かったし、それが今の俺の一番の目的だ。
だからと言って困っている人を見捨てるなんて、それこそ正義の味方の名折れだ。
あいつの隣に相棒として立つ為にも、俺だって正義を貫きたい。
だからか、カイジンが居るはずの塔にスケートボードで向かいつつも人助けは忘れなかった。
俺とすれ違う形で必死に逃げている、街の人々。
彼らが狼狽えすぎているようだったら傍で宥めて落ち着かせてやり、普段は小型化してストックしている俺の手持ちの発明品の一つを使った。
『結界型輸送機』。
小型化を解いた見た目は、丸い、シャボン玉のような膜の各所に飛行機能付きのメカを取り付けた輸送機だ。
まだ改良が不十分だからそれほどの距離は飛べないが、シャボン状の膜は強化バリアの役割を果たしていて、これに包まれていれば炎や爆煙くらいなら無効化できる。
これなら安全を確保したまま、火の手が追ってこない場所まで住民を自動で避難させられる。
ただし輸送機そのものの数、一つの輸送機で運べる人数に限りがあるから足が悪い人、身体が弱い人や負傷者優先だ。
かなり役立つことがわかってしまったので今後もっと量産、改良しないと、と頭の隅で考えながら俺に出来ることに全力でぶつかっていく。
輸送機だけじゃどうにもならない状況ならどうするか。
そんなの、俺がこの手で守るだけだ。
俺だって、正義の味方の端くれの筈なんだから。
ここで頑張らなきゃ嘘だろ。
「おっちゃん!! 伏せて!」
「うおっ!? バニー!?」
ちょうど進行方向に、市場でしょっちゅう顔を合わせる馴染みの肉屋のおっちゃんの姿を確認した。
ついでに、おっちゃんの頭目掛けて降ってくる瓦礫の破片も。
拳銃を素早く抜き、引き金を引く。
放たれた弾丸は瓦礫に命中したが、瓦礫を砕くことなく、粘性の網に姿を変えて瓦礫を包む。
窃盗団相手にも使った、特製の捕縛用弾丸だ。
銃と弾丸は細いワイヤーで繋がっているので、銃を引くことでおっちゃんに当たらないよう、捕らえた瓦礫を回収する。
「助かったぜバニー! カイジンさんは一緒じゃねえのか?」
「今から合流するところだよ。……って、その子たちは……?」
肉屋のおっちゃんは、二人の幼い子どもを抱えていた。
二人とも涙を浮かべて怯えながらおっちゃんにしがみついている。
これだけの爆発なんてそうそう起きないから怯えるのも無理ないし、怖い思いをして可哀想に。
しかしおっちゃんとこの娘さんとは別人だよな、と首を傾げそうになると補足するようにおっちゃんは言った。
「爆発現場の近くで、たまたま子ども向けの絵画教室が開かれてたんだ。俺含め、動けるモンはちびっ子たちの避難を手伝ってるわけさ」
思いの外、現時点ですら被害はだいぶ大きいときたか。
もっと消火機能持ちのメカ作りも検討しないと――。
「……って、こうしてる場合じゃねえぞバニー! 向こうでまだターニャちゃんがちびっ子を助けに…………いや早いな!?!? 迷いなくスケボーかっ飛ばしたなあ!? お前常々わっかりやすいなあ!?!?」
◆
余計な思考を全て取り払って、スケートボードを走らせる。
去り際におっちゃんの手に輸送機は渡しておいたし、おっちゃんとは普段から俺の発明品について説明していたから大丈夫だろう。
付き合いが長いせいかあのおっちゃんのことは色々な意味で信頼している。
子どもたちだって守り抜けるはずだ。
考えたいことや気にかけたいことは多々あったけど、今の俺が急がない理由にはまるでならない。
何なら走行中に細かいボタン操作を済ませ、今日一番のスピードだって出して。
「ッ、ターニャ!!」
「ぁ……バニーさん……!?」
まだ2~3歳頃の幼い子どもたちを庇うように抱き締めながら、ゆっくりゆっくりと子どもたちを連れて避難させようとしていた小柄な女の子をすぐに見つけた。
ターニャ。
俺の、最愛の人。
輸送機はまだあるはずだけど、ターニャの背後がまだ炎の影響で赤く揺れていたのが不穏で、ターニャの背中と炎に割り込む形で入る。
そして、もう一丁の銃を構えて――禍々しい赤に向かって、撃った。
これはまだ製造した数が少ない弾丸だけど、窮地には役立つと思う。
輸送機に使用したバリアの強化版を壁のように展開させる弾丸だ。
これでターニャたちが背後から迫る火の脅威には臆さずに済む筈。
俺まで安堵したのか、つい小さく息を吐いてしまった。
気を抜いてはいけないと思い直し、ターニャに声をかける。
「ターニャ、大丈夫? そっちの子たちも怪我はないかい?」
ターニャが付き添って守っていた子どもたちは、震えながらもふるふると首を横に振った。
彼らを落ち着かせるようにターニャが細っこい腕でぎゅっと子どもたちに二言三言と声をかけながら抱き締めると、一番年下らしい女の子がぐすっと鼻を鳴らしながらターニャに抱きついていた。
こんな危機的状況でもまず子どもたちを優しく抱き締め寄り添う心を忘れないターニャの心根の温かさが垣間見えて、また一つ、また一つと彼女への想いが積み重なるのを静かに感じる。
子どもたちを落ち着かせてから、ターニャは俺の質問に答えてくれた。
「子どもたちに怪我はないようです……それに、私も大丈夫です……あの……バニーさんが助けに来てくださいましたから……」
「立場上、困っている人のピンチにはいつでも現れるさ。……それに君の窮地には、特にね」
「……! バ、バニーさん……」
こんな時だろうがターニャに対してはかっこつけてしまう自分と、俺の言葉にぶわっと顔を赤くするくらい恥ずかしがり屋なターニャをまた愛しいと思ってしまう自分。
ターニャが絡むと色々形無しな自分に何重にも呆れつつ、俺は自分の浮かれ始めたハートを殴る勢いで無理やりに表情を引き締めた。
今の目的はカイジンの安否確認。
カイジンと合流して、二人で正義の味方として街を救う。
俺が決めた、俺が自分に誓った在り方を忘れるな。
ターニャのことはもちろん大好きで愛しくてたまらないけど……その為にまず、平和を勝ち取りたい。
ターニャとの穏やかな明日の為にも、俺は自分の正義を全うするんだ。
俺の正義には勿論、カイジンを救い支えることも含まれている。
困っている人の窮地にはいつだって駆けつけたい。
好きな女の子の窮地には誰よりも早く駆けつけたい。
そして、相棒の窮地には――そこがどんな場所であろうと、体張って駆けつけたい。
あいつの隣に相棒として並ぶのは、多分そういうことだ。
だから、行かなきゃ――行くんだ、あいつのところに。
「ターニャごめん、君についていてあげたいけど、俺はカイジンを助けに行かなくちゃ……これ、結界型輸送機。向こうにバリアで壁作ったけどまだ安心できないから早くこれで子どもたちと遠くに……」
ターニャに輸送機を渡そうとした、ちょうどその時。
轟音が、響いた。
爆発音とは違う、何かが砕け散るような音。
やや煙くさい、街の風に乗って聞こえるのは、軋むような機械音。
この音は、よく知っている。
いつも俺が整備しているから。
「……コンフェッティーナ……?」
俺の呟きに呼応するように、『それ』は姿を現した。
機動力を活かした動きで、その機体は壁の取っ掛かりを利用して素早く上へ上へ、と駆け上がる。
そうして頂上へ――いや、空に辿り着き、街全体を見下ろすロボットは、紛れもなく見知った機体『コンフェッティーナ』だった。
なのに、どこか強烈な違和感がある。
大まかなフォルムは同じなのに、機体に妙なラインが引かれている。
機体を彩るように紋様を描いた線の一つ一つは色とりどりに輝いていた。
あれは、そう。
写真や映画でしか見たことはないけど、大都会のネオンサインに近い雰囲気の光と色合いだ。
そんな光が、爆煙に汚された空で煌々と光り輝いている。
何かを照らすと言うよりも、機体そのものの存在を全力で主張している感じ。
いつもより身軽な動きも、長時間の滞空も、緊急時の動きに近いものだけど、俺にはずっと違和感があった。
あれは、カイジンの愛機『コンフェッティーナ』のはずなのに。
でも、何かが確実に違う。
それに、何より。
『はぁっろはろぉ~~♡♡ 皆さん避難お疲れっす~! もう安心です、瞬きしたらユートピアです! 正義の味方の颯爽きゃぴるん・ご登場ご参上♡♡ ですよ~~♡♡』
機体のスピーカーを通して聴こえる声は――知らない女の子の声、だった。
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