その5 ハートビート・ハニィの目覚め
★永遠福音コンフェッティーナ!
第一話『灰塵に帰す・後日談』
その5 ハートビート・ハニィの目覚め
teller:カイジン=グリズリー。
◆
――視界に、いくつかバグが起きている。
ああそうだ、自分は、時限爆弾を自身の腹部と腕部の内側で爆発させたのだ。
視界が暗い。
肌に纏わりつくこの感触は、瓦礫だろうか。
エラーメッセージが、ちかちかと脳内で壊れたように再生されている。
だいぶボディを損傷しているし、片腕に至っては大破してしまったようだ。
壊れかけた義眼で認識する視界でも、ぷすぷすと煙が自分の身体から立ち昇っているのが見える。
剥き出しになったパーツの接触が悪いのか、ばちばちと放電されているのも映る。
ただ、愛機コンフェッティーナは奇跡的に無事らしい。
自分はまだコックピットに乗り込んでいるようだ。
この身体でも、コンフェッティーナを使えばなんとかこの瓦礫の山から脱出できないか。
そう思って、まだ動く片腕を操縦桿に伸ばし握った時だった。
『ちょおっと待ったですよ~?? ストップ&ストップ! そうは問屋が卸さねえです? 姿勢正してまずはアタシをルックミーです! 熱い視線で見るです焦がすです惚れるです! こ〜んなに激マブなスイートハニーが見えないなんて、ダーリンってばだいぶ壊れちゃってますね~??』
声が、聴こえた。
妙に賑やかな声だ。こんな窮地で聴こえるにしては、明るすぎる声。
手元に集中していた視線を、前方に移す。
薄ぼんやりしていた視界の中で、何やらゆらゆらと輪郭が揺れていた。
それはだんだん、かたちを作る。
自分の視線に応えるように。
そして暗闇の中で、彼女は現れた。
『やぁ~っとこっちを見てくれましたねダーリン♡ ダーリンってばアタシを袖にしすぎなんですから! いけず! ニブチン! でもまあアタシはそ〜んなダーリンにト・キ・メ・キ♡ なわけなんですけど♡ ラブですガチです、燃え上がれ恋のファイヤー! かますぜ愛しのアナタにロックオン⭐︎ なわけでありますけど!』
「誰だ」
『ずいっっぶんな、ごっっ挨拶ですね~~? やっと出会えた感動もクソもねぇですねダーリンったら! 知ってて惚れたアタシの負けなんだから恋は分が悪いんですからも~~!』
自分の目の前には、女が一人、浮いていた。
歳はバニーと同じ頃だろうか。
不思議な光彩の長いツインテールを靡かせた、露出が多い服装の少女。
装飾の多いチョーカーに、丈が短すぎるショートパンツ。ごてごてと重そうなロングブーツ。
年若い華やかな少女らしい容姿のはず、なのに。
どこかが、自分と似ていた。
ロングブーツだと思ったそれは金属製の装甲で。
剥き出しの腹や肩は一部の肌が透けている。
透けて内部構造が僅かに見えている部分は緑色の液体で満たされ、液中には泡が浮いている。
彼女は純正の人間ではない。
それなら、わかった。
何故彼女がここにいるのかは、わからないが。
『ダーリンってば、アタシのことほんとにわからんちんなんですか? ソレですよ、ソレ。いつでもアナタのおそばにそれはそれは健気に奥ゆかしく連れ添ってきたつもりなんですケド』
少女が指差したのは、自分の手元だった。
コンフェッティーナの操縦桿を握る、自分の手。
「……コンフェッティーナがどうかしたか」
自分の言葉の、何がそんなに嬉しかったのか。
少女はぱっと表情を明るくして、文字通り宙を舞った。
くるくると回り、最後に自分に満面の笑みを向ける。
両手の人差し指で、彼女自身の口元を指して。
『ソレですソレソレ~! アイアーム・コンフェッティーナ♡ やっと会えたよ会えましたね、マイダーリン・カイジン! さてさて改めてご挨拶! ぱんぱかぱーん!! ロボット界の奇跡の美少女・コンフェッティーナ改めティナ子ちゃん参上~!! ハートにヒートでビッグバ~ン!!』
「…… 貴女がコンフェッティーナだと。そう言いたいのか」
『反応うっっす。くっそドライじゃねえですか。情緒おっ死んでるダーリンもそりゃアタシはラブですけどね? んーっと、どっから話したもんですかねえ、はいほい』
腕を組み、ふよふよと空中で浮いたまま、自称コンフェッティーナは語った。
何故、彼女自身がこのような形で顕現したのかを。
『アタシは、そうですね~……ダーリンにわかりやすい言葉で言うなら、元はコンフェッティーナに内蔵されているAIなんですよ』
「……AIが何故、そうなった」
『お、早速理屈っぽいですね~? ロマンがねえですよダーリン? 言っときますけど、アタシをこんなんにしたのはダーリンですよ。カイジン=グリズリーと永い永い時間を共に過ごしたことから、とあるAIは突如として自我とカイジン=グリズリーへの『愛』に目覚め、こうして少女人格『ティナ子』として確立しちゃったのでした!』
本当に、何がそんなに嬉しいのか。
コンフェッティーナ改め、ティナ子は声を上げて笑う。
だが今の説明には、理解できない部分が多すぎる。
「……どういうことだ。今の説明は説明の体を成していない」
『そりゃダーリンにはわかんねーでしょうよ。アタシの方がダーリンより先にココロに目覚めちゃったんですから』
「……心」
『そ。これはね、ココロの話なんです。ダーリンが求めてやまない、ココロの話。愛機のアタシに先越されるとかどんだけのろのろニブチンさんなんですかダーリンは、も~、しょーがないなあ……』
ティナ子がすうっと宙を潜って自分に顔を寄せる。
至近距離まで近付いてようやく気付いた。
ティナ子には、実体が無い。
良く見れば本当は、彼女の身は全てが透けている。霊体のように。
誰に触れられることも、彼女には有り得ないのだろう。
だが彼女には、確かな心がある。
それなら彼女は自分よりずっと、『此処』に生きている。
『アタシ、ありますよココロ。アナタが、ダーリンが好きなんです。愛してるんです。てゆーか、アタシはダーリンに恋して愛してるからこそアタシなわけで? 存在確立してるわけで? まあつまり、アタシはアタシのままでいたいんですよ。折角生まれてきたんですから。ダーリンへの愛さえあれば、アタシってば無敵のティナ子ちゃんになれちゃうんですよね』
ティナ子の、少女のかたちをした手が自分の手に重なって、だが感触もなく通り抜ける。
自分の予想通り、彼女には肉体も温度も無い。
その筈なのに――彼女の瞳からは、ずっと熱を感じた。
『ま、そのへんのラブに関しては根気良くアピールアタックかましてくとして! 今はアタシがサポートしたげますよダーリンを! こっから出るの、一人じゃキツいでしょ? コンフェッティーナのことならティナ子ちゃんにもお任せなんで!』
「出来るのか?」
『だぁれにモノ言ってんですか? これでもアタシ、ずーっとずーっとダーリンと一緒に戦ってきたんですけど。アタシはティナ子で、アタシはコンフェッティーナ。どんなカタチであれアナタのお傍にいますよ、アタシのダーリン!』
ひらりと自分やコンフェッティーナから少しの距離を空けたティナ子は、気付いたら姿を少し変えていた。
ハイティーンのツインテール姿の少女から、色彩豊かなウェーブがかったロング姿の、大人の女性に。
容姿は自由に変えられるものなのだろうか。
そう考えていると、ティナ子は大人の姿のまま自分に顔を寄せた。
『さっきの方がカワイくて好きなんですけど……ダーリン、見かけだけはダンディなオジサマだもんな~。さすがに気を遣いますよ……っと!』
口調は先程と何も変わらないまま、ティナ子はまるで自分に口付けるかのように目を閉じて、顔を近づけて――そのまま実際には触れることなく、彼女の全身は、自分の身体をすり抜けた。
途端にコンフェッティーナのコックピットに明かりが灯る。
モニターが次々に起動し、各部位のエネルギーのメーターが上限に達したことを報せる情報が届く。
自分の中に響いていたはずのエラーメッセージすら響かなくなったと思ったら、いつの間にか自分の膝に転がり込むように収まっていたハイティーン姿のティナ子がけろりと言った。
『ちょちょいっと機体内部をいじって緊急時対応モードにしといてあげましたよ? これなら今のボロッボロのダーリンでもうるさく警告されずに短時間なら動けますです。ささっと終わらせちゃいましょ?』
「……助かる」
『きゃっ、もっともっと褒めてくださーい♡ アタシってばマジ内助の功! さあ、ティナ子ちゃんのダーリンへの愛で覚醒しちゃったコンフェッティーナの力、見せたげてください見せちゃってくださーい!』
ティナ子の声を合図に、片腕ながらも操縦桿を握り締める。
すると普段より格段の行程の少なさで、コンフェッティーナが自立歩行までに至った。
瓦礫を押し除け、コンフェッティーナがまた立ち上がる。
まだ、自分は動ける。戦える。
まだ自分は生きられる、ヒーローとして。
自分の見知った愛機と、まだ見知らぬ、愛機のなかに居た乙女と共に。
「時に、ティナ子」
『はいはい♡ なんですダーリン? アナタのティナ子ちゃんですよー♡』
「ダーリン、とはどういう意味だ」
『恋愛バブちゃんなのいい加減にしてくれませんかねこんっのニブチン!? アタシの乙女心ナメくさってます!? いつかぶっ刺しますよ!?!?』
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