その4 ヒーロー、爆炎を征く
★永遠福音コンフェッティーナ!
第一話『灰塵に帰す・後日談』
その4 ヒーロー、爆炎を征く
teller:カイジン=グリズリー
◆
ーー鐘が、鳴った。
街の時計塔の鐘の音ではない。
まだ鐘が鳴る時刻ではない。
だが、自分には確かに聴こえた。
ーー自分だけには不思議と聴こえる救援要請が。
「……? カイジン? どした?」
「……音が、聴こえる」
「音?」
「鐘の音だけではなく……何か時計の針を刻むようなーー」
チクタク、チクタクと。
増幅された聴力を駆使して辺りに耳を澄ませると、僅かに時計の音が聴こえた。
だが、カチリとあるタイミングで音は止み。
ーー代わりに辺りに響いたのは、爆発音。
住宅街にいくつか建てられた塔の一基が燃えていた。
声が聴こえる。悲鳴や嗚咽。助けを求める声。
また時計の針が動き出す音も。
「な……爆発!? こんな住宅街で!? しまった、火災の規模が大きい……燃え移ったら街が……!」
今すぐできることを探そうと、走り出さんばかりのバニーの腕を掴み、自分は着ぐるみの頭部だけを投げ捨てる。単純に、視界の邪魔だった。
「バニー。爆発した塔の向かいの塔。そこで恐らく立て篭もり事件が起きている。時限爆弾もまだ残っている。これ以上爆発を起こされたら誘爆で大惨事になる恐れがある」
「また聴こえたのかカイジン!? だったらすぐにでもその場所にーー」
「駄目だ。火が回る勢いが強い。自分は構造上平気だが、バニーの身体には有害だ。来たとしてもバニーの通常の力が20%も出せないと予測される」
「な……じゃあカイジン、一人で行く気か!?」
「ああ。……バニーは近隣住民の避難を。下で、出来ることは全て任せた」
自分の作戦立案にも満たない提案に、しばしバニーは物言いたげにしていたが、それも数秒にも満たなかった。
小さく息を吐き出すと、バニーは自分に小さなアタッシュケースを押し付ける。
「これは……」
「いくつか俺の発明品が収納されてる。ピンチになったら適宜役立ててくれ。……ったく、かっこつけやがって。現場は任せたぜ、相棒!」
「ーー恩に切る」
その言葉を皮切りに、自分とバニーはそれぞれ別方向へ走り出した。
脚部に搭載されているブースターを駆使して、逃げ惑う人混みを掻き分けて事務所に置いてある愛機コンフェッティーナの元に素早く向かう。
スピードを危険なほどに出したからかすぐに愛機のもとに辿り着き、いつも通り乗り込む。
それから、先ほどの自分が全力で加速したように、コンフェッティーナを用いて弾丸の如き速度で空を駆け回る。コンフェッティーナの機動力を、自分は信じていた。
向かう先はわかっている。どの塔に行けば良いのかもわかる。
加速の勢いで塀の上に飛び乗ったのを機に、高所をひたすら駆け登る。
屋根と屋根を飛び移り、なるべく高い場所を移動するようにする。目的地に辿り着く為に。
それから程良い高さまで来たところで、助走をつける勢いで目的の階の窓に突っ込む形でさらに飛び移った。
割れる壁や窓の破片を撒き散らし、コンフェッティーナは堂々と、立つ。
記憶にある服装の男たちが、数人の住民を縄で縛り上げ牢に閉じ込めている。
男たちは、自分と自分の愛機を訝しげに見ていた。
ーー服装を見るに、彼らは先日の窃盗団『ジュトゥヴ』の残党だ。
まだこの街に潜んでいる者が居たとは。
制圧を成し遂げた気でいるらしい窃盗団残党は、自分の姿を見るなり人質にナイフを向けた。
悪辣な思想だ。
また、加速する。
賊と人質の間に滑り込み、移動中に開けておいたハッチから自分の機械製の腕を伸ばし、腕で刃物を受け止めた。
硬い自分の身体で簡単にほころびを見せた刃物を見て、男が青ざめ後ずさる。
だが一人だけ怯えさせても意味はない。
窃盗団の残党は、人質に一斉に銃を向けた。
人質の前にコンフェッティーナを立ちはだからせる。自分も同様に庇う。
コンフェッティーナの腕を広げる。
取りこぼしがないように、露になった自分の腕も広げる。
散弾が打ち放たれたが、全て自分に直撃した。
人質には掠りもしない。自分は今、確かに人を守れた。
バニーには、よく注意される。
生身であれ機械搭乗時であれ、身体で銃弾を受け止めるのは良くないと。
『カイジンならもっと上手くやれる』と、自分の若き相棒は自分に信頼を寄せてくれている。
だが、このやり方が今の自分のやり方だ。
自分には痛覚がない。
痛覚を捨てて心を捨てて、多くの人間らしさを捨てて戦場を日常と認識した結果、今の自分がある。
こんな図体の大きな鉄屑の身体になってしまったし、心に関する記憶すらも曖昧だ。
ヒーローをしていて自分なら守れる、庇えると判断するのは、それが選択肢にあるのは、当然痛覚が存在しないことも理由に入る。
だがたとえ痛覚があったとしても。
自分の身体で人々を守れるのは、きっと自分にとって嬉しいことなのだと思う。
自分は、心を知りたい。
ヒーローとして誰かを守りたい、は最初はその為の手段だったように思う。
だが、こんな日々を送りすぎたせいか。
いつしか、自分の認識は更新された。
必死に生きている人間の命は、美しい。
恋を知っているバニーの心拍数が聴こえた時もそうだ。
自分にはその音が、美しく聴こえた。
わかりやすく生きている者は、生きる素晴らしさを知っている。
彼らは笑えるのだ。大切なものの為に。
自分にはそれがない。だから焦がれて憧れた。
自分には未だに笑うことは難しい、が。
自分にとっての『大切』を増やし、守る。
未だに上手に笑えないが、それだけは、守ることばかりは遂げてみせる。
――長い時間をかけてでも、今まで捨て置いてきたものを拾い集めれば。
自分は心に、また出会えるだろうか。
自分に銃が効かないことに動揺している賊を蹴散らし、塔の下に突き落とす。
塔に人質がいることを知っていた町人が階下でマットを広げていたから、窃盗団の残党は次々とそこに落ちていく。
自分は人質が閉じ込められている牢を素手で曲げ、空いた隙間から彼らを逃がす。
下方を見てマットの追加準備が整っていないことを確認し、バニーに託されたアタッシュケースを開く。
取っ掛かり用のフック付きのロープが出てきたので、それをマット近くの柱に括り付けた。
「逃げろ!」
そう呼びかけると、彼らは戸惑いつつも、一人、また一人とロープを滑り落ちていく。
敵は倒した。人質は逃がした。
今この塔には自分一人。
しかしまだ、街は燃えている。
自分は機体を一旦降りて、壊した牢の傍の装置に近寄った。
自分は、この音を聴いてここに来た。
時限爆弾。しかも見たところ新型兵器だ。
古い戦場に囚われ続けている自分には縁がない。
だがこれが爆発すれば、街は完全に炎に包まれる。
――ここに辿り着いたのは自分だ。
自分の身体は、普通ではない。
ならば。
義眼を用いた解析で爆弾本体の位置を確認し、慎重に取り外す。
それから自分自身の身体を弄った。
操作過程で、腹の部分が開く。臓器が失われた体内が露になる。
片腕も似たような機能があったから、同じように、開く。拓く。
それから自分は、時限爆弾を、自分の腹部と腕部に埋め込んだ。
きっとただでは済まない。
自分の身体は新型の兵器に対応していない。
諦めたわけじゃない。街も、己の存在すらも。
諦めない理由は単純だ。
自分は、正義の味方だ。
正義の味方は、諦めない。何度でも立ち上がる。自分はそういう自分でありたい。
そう、生きたいから。自分は、迷わないし諦めない。
――時計が止まる、音がした。
――それでも自分は、正義の味方だ。
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teller:ダムバニー=ストレイキラー
爆発音が、聴こえた。
同時に塔が一つ崩れる。
だが爆発の規模が今までで一番小さい。
炎が広がり火災が悪化しそうな雰囲気もない。
喜ばしいこと、なのだろうが。
でも、あの塔には今頃――。
「カイジン……っ、くたばるなよ……!」
相棒を、ただただ信じる。相棒の窮地には、駆け付ける。
それを違えるわけにはいかない。
俺は最強にカッコいいヒーローの、頼れる相棒なんだから。
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