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永遠福音コンフェッティーナ!  作者: ハリエンジュ
第一話『灰塵に帰す・後日談』
2/15

その2 正義の味方・カイジン

★永遠福音コンフェッティーナ! 

第一話『灰塵(かいじん)()す・後日談』

その2 正義の味方・カイジン





 戦闘用サイボーグ、名を灰塵(かいじん)=グリズリー。


 自分は紛れもなく、それだけの存在だった。


 かつて、戦争があった。

 世界規模で起こった大戦。

 長い、長い戦争。

 今となっては、ただの記録。分厚く綴られた戦史。

 もはや遠い遠い昔話と化した戦争だ。


 自分はその戦場に立っていた。

 元は軍属の、人間だった。一応は。

 だが度重なる戦いで自分の身体は激しく損傷し、それでも兵を、武力を失うのは惜しいとされて。

 気付けば自分の全身は機械化されていた。

 幾度にも及んだパーツ交換の果てに人間的な『心』を完全に失った生体兵器として、自分は戦場に立ち続けていた。


 そこに自分の意思はなかった。

 疑問すら持たなかった。

 そんな心すら失っていた。

 記憶すらも曖昧に弄られていたから、正しく言うと自分は、『心』という概念を知らなかった。


 サイボーグ兵として扱われていたのは自分だけではなかった。

 しかし、ほとんどの兵があくまで道具として簡素な識別番号で呼ばれる中、自分だけは施術前の真名で呼ばれ続けた。


 灰塵(かいじん)

 これが自分の本当の名前。

 どこかの言葉で、取るに足らないもの、の意。

 そんな名前を付けられた自分は資料によると、劣悪な環境で生まれて軍に売られた、望まれない命――らしい。

 それを初めて知った時には、傷付く心など、とうに自分の中から消え去っていた。

 だからただの事実として、自分は自身の記憶に淡々とその情報を取り入れるだけだった。


 自分の身体は、冷たく硬い。

 首から上だけならまだ生身の人間に近い。

 しかし、他はすでにヒトとは言えない肉体をしている。

 永い時間の影響で所々が錆びた、機械化された身体。

 不完全な肉体改造を施されたから、動く度に醜く軋む音が聴こえる身体。

 30代の頃に今の身体になったという記録はあるが、自分の肉体的な成長は完全に止まっている。

 これ以上見た目が変わることもない。

 自分に老化はなく、寿命という概念もほぼない。

 自分の存在は人間の枠組みからも、時間の枠組みからも外れている。


 それが、自分という存在だった。

 名前の通り、取るに足らない存在。


 ――だけど、今は。





 ーー追い詰めた窃盗団『ジュトゥヴ』は自分に銃を向けていた。

 それが何になると言うのか。


 自分は、単身で戦っているわけではない。

 この身体だ。

 確かにあちこちに接近戦用の仕掛けは組み込まれている。


 だが戦時中から、自分の戦い方は決まっていた。


 鋼鉄武装。

 二足歩行で主に移動する人型戦闘機――愛機『コンフェッティーナ』に乗り込んで戦う。

 それが自分の戦い方だ。

 今も昔も、変わらずに。


 窃盗団が一斉に銃を撃つ。

 その度に機体に衝撃が走るが、それもごく僅かな物。

 コンフェッティーナの耐久性は強く、自分の平衡感覚も乱れない。

 サイボーグである自分は、そういう身体をしている。

 自分と愛機の性能を信じるなら、下手に避けて街に被害を与えるより全弾を撃ち尽くさせる勢いで弾丸の雨を浴びた方が、後々の処理が少なくて済む。

 銃が効かないことに彼らが躊躇っているうちに、コンフェッティーナを用いて彼らの車体に回し蹴りを喰らわせた。

 その勢いで彼らが宙に放り出された隙に、機体の足先に仕込んだ刃で車体を真っ二つにし、移動手段を潰す。


 コンフェッティーナの操縦方法は単純だ。

 自分が居るコックピットと機体全体は同調している。

 自分がイメージした動きが、そのまま機体の動作に反映される。

 装備次第で戦い方は変わってくるが、例え体術のみの状況に持ち込まれても、完敗した試しはない。

 

 次は彼らを早いところ捕縛するか、もしくは逃げ道を先に潰すかと機体の腕部を構えた時。


 颯爽と迫る車輪の音が聴こえた。


 窃盗団の先程の言葉を思い出す。



『くそっ、そっちはだめだ! さっきのガキが追ってきてる! 厄介な武器持ってやがったから近づいたらマズい!』




 ――自分は、単身で戦っているわけではない。

 その意味は、もう一つあった。


 自分が見据える道の丁度奥から真ん中を突っ切るように、スケートボードに乗った少年が駆けてくる。

 独自の改造が施された結果、加速、旋回、跳躍が大幅に強化された一点物のスケートボード。

 改造を施した本人がスケートボードに乗っており、彼愛用の二丁拳銃を構えていた。

 明るい色の茶髪にベストシャツ、腰にツナギを巻いた、活発そうな若者。

 少年と青年の狭間にいる男。

 自分の、相棒。


 相棒が銃を撃つ。

 変わった銃声だった。

 少なくとも自分は戦場に居た頃、ここまで軽い銃声を聴いたことがない。

 彼が持っている二つの銃も、スケートボード同様に彼が造り上げたもの。

 機械いじりが得意な少年が、争いの兵器としてではなく、こうして悪を成敗する目的で造った銃。

 軽い銃声で放たれた弾丸の形は妙に大粒で、妙に不安定な形をしていた。

 撃ち抜くことを目的としていない弾丸は、窃盗団を捕捉した瞬間にぶわっと体積を増し、粘性の網のように彼らに纏わりついて、難なく捕縛する。


 幸運にも網にかからなかった一人の男が逃げ出そうとしたが、自分が動くよりも早く、加速の勢いでこちらに迫っていた相棒がスケートボードから軽やかに降りる。

 それから相棒は体当たりする形で、逃げた男を地に伏せさせ、腕を捻り上げて直接制圧する。


 少年が。

 相棒が。

 顔を上げ、コンフェッティーナ越しに自分を見て苦い顔をした。


「カイジン、お前また……自覚ないと思うけど、弾痕ひどいぞ。攻撃全部胴体で受け止めるクセやめろって……頑丈だの鈍い感覚だの以前に、見てて冷や冷やすんだから気をつけろよ。お前なら、もう少し柔軟にあしらえるはずだろ?」


「この方が任務の成功率が高い。――1359、鎮圧完了。任務達成、作戦終了」


「成功率どうこうじゃなくて心配してんだってば! なあ、じゃあもっと安全な方法でも成功率上げられるよう努力してこうぜ……?」


 自分が今回の任務の記録をつけている中、相棒は肩を落とし、片手で通信機器を弄って街の各所に連絡を入れ始めた。

 捕らえた窃盗団の処遇を相談しているのだろう。


 ――1400。

 きっかりその時間、鐘の音が鳴った。

 この街リングアベルの象徴である時計塔の、時間の区切りを報せる鐘が鳴る音。

 ただ、自分にとっては鐘の音とはまた特別なもので。


 まだ、誰かが助けを求めている気がする。

 まだ自分は、自分たちは止まってはいけない気がする。


 戦争の為に生かされた、取るに足らない戦闘用サイボーグが、自分。灰塵(かいじん)=グリズリー。

 しかし戦争が終わった、今は。


 正義の味方、グリズリー事務所の所長。

 名を、カイジン=グリズリー。


 助手にして相棒、唯一の従業員こそが、目線の先に居る茶髪の少年。

 名をダムバニー=ストレイキラー。17歳。

 愛称を、バニーと言う。


 この街の、正義の味方。

 そうして自分たちは駆け回って。

 そうやって、生きていた。





 ――かつて友は、こうも言った。


「『灰塵』なんて単語、名前に相応しい言葉じゃない。どうせ同じ『かいじん』なら、『怪人』でも『海神』でもいくらでもスケールの大きいもんになれるんだから自由に名乗るべきだ。うん、そうだ。そうに違いないよ。なあ――カイジン」


 自分から簡単に、(いわ)く付きの当て字を奪い去った友は、軍医だった。

 彼が亡き後も、自分は自分に相応しい在るべき姿を探していて、今もまだその過程にいるから、ずっと『カイジン』と名乗っている。

 自分が望んだ姿は、やはり正義の味方なのだろうけど。


 『ヒーロー』。

 それは、友が教えてくれた概念だった。


 友の名は、シリービリー=ストレイキラー。

 愛称を、ビリーと言う。


 『シリービリー』という名前は大馬鹿者の意だと、これもまた本来ならとても人名に使うような言葉ではないと、彼は笑って教えてくれた。

 だがビリーの自身の名前に対する解釈には、また彼の独自の視点が用いられていて。


 現代。

 自分の隣に居るバニーの『ダムバニー』という名前も、大馬鹿者の意、らしい。

 名付け親は他でもないビリー。

 バニーの祖父、にあたるビリーが、わかりにくい『愛』を込めて付けた名前。


 自分は心をまだ理解していないし、時間の流れからも道を外れた、ほとんど機械で出来た止まった存在。

 ただ、時代を超えて自分の隣にはいつも『大馬鹿者』がいる。


 取るに足らない灰塵(かいじん)

 それすら捨て去り、灰塵(かいじん)()した、そのあとの物語が今だ。


 カイジンとなった自分は今も、生まれ変わり先を探している。

 取るに足らないなどとは言わせない、再誕先をずっと求めて。


 自分は、カイジン=グリズリーとして生きていくのだ。



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