その2 アドレセンス
★永遠福音コンフェッティーナ!
第二話『大馬鹿はいつも、ヒーローのとなりに』
その2 アドレセンス
teller:ダムバニー=ストレイキラー
◆
俺の一日は、特製スケートボードをかっとばすことで始まる。
リングアベルの街で、俺は正義の味方の相棒……ではあるが。
俺には俺なりの収入源がある。
出張修理屋、出張ジャンク屋……名前をつけるなら、そんな感じ。
連絡が入ったら依頼人のもとに赴いて、指定された機械類を修理したり、要望を聞いて機械を自作することもある。
俺には医学の才はなかったようだけれど、工学にはそこそこ向いている頭の作りをしていたらしい。
15の頃から、おれは機械や工具に触れる作業を仕事にして生きている。
一応は、今も実家暮らしだ。
本当はこの仕事を始めた時からさっさと家を出るつもりだったけど、カイジンとか、俺のじいさんのことを考えると……両親存命なのにさっさと家族を遠ざけてしまうことに少し思うことがあって、未だにぐだぐだしていたりする。
ただ、まあ。
俺には正義の味方という目標もある。
機械絡みでやりたいことも色々ある。
俺は俺なりに充実しているはずだ。
それに。
「やあ、ターニャ! おはよう! 朝から君に会えて嬉しいよ! 今日はいい日になる気がする!
「わ……お、おはようございます、バニーさん……!」
俺には生きていく上で目標があって、やりたいことがあって。
――それに、好きな女の子もいる。
今日も今日とて、その小さな身体に不釣り合いな大きめの買い物袋を抱えた少女に駆け寄り、袋を掬うように奪い取る。
申し訳なさそうに狼狽えた様子の彼女に俺は、気にしなくてもいいんだという意味も込めて笑いかけ、隣を歩いた。
驚いて、それから照れてはにかんで微笑んで、ぺこりと頭を下げるターニャが今日も可愛い。
ターニャ=ベルモンド。
俺より3つ年下の14歳の女の子。
俺より年下ではあるけど、ターニャは家庭の事情、とやらでリングアベルの街外れにて喫茶店を営んでいる。
黒みがかった茶髪を肩まで伸ばし、一部だけ真っ白なリボンで結われていてそれがまた可愛らしい。
装飾が控えめなロングスカートの上から、また白いエプロンを纏って……なんというか、清楚系。
初めて会ったばかりの頃と比べると、並んで歩いている時のお互いの距離が少しだけ近付いた気がする。
それが嬉しくて、歩く度に揺れる彼女の髪を見て色々な感情が込み上げて、一瞬俺は目を細めた。
気を取り直して、ターニャに声をかける。
「こんなに朝早くから買い出しかい? 珍しいね」
「えっと……お取り寄せしてた茶葉や豆が、届いたと報せが来て……取りに行ったついでに、お買い物も……」
「そっか。ターニャは働き者だね、えらいよ。俺も見習わないとな」
「そんな……っ、ば、バニーさんこそ……いつもひたむきで、頑張ってらっしゃるから……私、いつもバニーさんを見ていると、元気……もらえます」
「……俺もだよ。いつも俺の一日は、ターニャと出会う事でようやく始まるからね」
「ば、バニーさん……」
「ターニャ……」
少し立ち止まり、ぽうっと頬を赤らめたターニャと、見つめ合う。
……よし。よしよしよし!
いい雰囲気!
いつもみたいにカイジンのすっとぼけ天然発言の妨害も入らない。よし!
俺はターニャを前にすると、とてつもなくかっこつけてしまうけど、ターニャはそんな俺のことも嫌いじゃないみたいだ。
なら俺は存分にかっこつけさせてもらう。
この子の気を引く為なら柄じゃないことだって何でもする。
はっとターニャが我に返るが、照れは残っているのか真っ赤な顔のままワタワタあわあわと視線を彷徨わせて可愛い。
俺はそんなターニャにまた笑いかけ、ターニャに合わせて歩き出し、別の話題を振った。
「こないだの爆発騒ぎのあと、しばらく食器屋さんの手伝いをしていたみたいだけど……そっちはもう大丈夫?」
「あ……はいっ。……その、バニーさんも時々手伝いに来てくださったおかげです……食器屋のご夫婦がバニーさんにちゃんとお礼を言いたいと話してましたよ。私からも、ありがとうございます……」
「気にしないでよ。俺はほら……一応は正義の味方、なわけだしさ」
「はい……素敵です……」
正義の味方、なんて肩書きを嘲笑うこともせずに純粋に慕ってくれるターニャが、本当に可愛い。
ターニャこそ、こういうところが素敵だと思う。
それからしばらく、歩きながら世間話を続けた。
本当にこの前の騒ぎでターニャに怪我は無かったのか、ターニャが守っていたちびっ子たちはその後変わりないか、確認しつつ、話していく。
いつも、ターニャと話す時。
まず最初に話し出すのは、話題を切り出すのは俺からだ。
あれこれ話して、ちょっとおとなしいところのあるターニャでも話しやすい空気を作って、それで。
ターニャが話し出す瞬間を、俺はいつも心待ちにしている。
君が勇気を出してくれたら、君自身の話を始めてくれたら、何度だって笑顔で相槌を打ちたい。
ただの相槌じゃなくて、ちゃんと君の言葉を拾いたい。
君の話題が広がるように、君の世界が広がるように、俺は君の話を聞きたい。
君と、話したい。
俺はターニャが好きだ。
正義の味方の相棒なんてものを志したおかげで妙にドタバタした非日常を送りがちだからか、優しく穏やかなターニャのことを、勝手に日常の象徴……みたいなものだと思っている。
だからターニャの日常を、ターニャの口からターニャの言葉で聞くのも、たまらなく好きなんだ。
ターニャが日々見つけた小さな幸せを、俺も共有できた気になれるから。
幸せに、なれるから。
「それで、ですね……その小さな小物屋さんなんですけど、なんというか……勝手に肩入れ、してしまって……お店が続きますようにって思って、毎週小さな買い物しちゃって……動物の置物、カウンターに置き場がなくなったから……ついに自分の部屋にまで、並べちゃってるんです」
「はは、道理でカウンターが最近可愛らしいことになってると思った。素敵なセンスだと思うよ。お店、新しくできたところだよね? 北の……古本屋が並んでるとこの近く? 俺も今日寄ってみようかな」
「は、はい! 屋根が赤い方の本屋さんの向かいの……っ、わ、わわっ、すみません……私ばっかり話しちゃって」
「ターニャの話はいつも楽しいよ? うん、場所覚えた。寄ってみるね。その小物屋さんが儲からないと、ターニャが悲しんじゃうみたいだから」
有言実行しなければ、と脳内で街の北の方のマップを広げている時、ターニャがふと立ち止まった。
合わせて俺も足を止めると、ターニャはじっと俺を見て――その辺の風に攫われそうなくらい綺麗に微笑んで、告げた。
「あ、あの……私もバニーさんのお話、いつもすごく、楽しいです……。そ、それに……バニーさんはいつも、私が話しやすい空気を作ってくれて……とても、有難いです。頑張ってるバニーさんは……世界一素敵です……」
世界一、素敵。
好きな女の子に言われる言葉にしては、これ以上ないくらいの賛辞だけど。
……話す時まで頑張ってたの、バレてたのか。
そう思うとちょっとばつが悪くて、俺は眉を下げた笑顔を返してしまった。
俺の不完全な背伸びやかっこつけは、ターニャにはバレていたようで、気恥ずかしいけど。
ターニャはいつも、俺のことを心から慕って憧れているような瞳を見せてくれるから。
こんなスマートになりきれない俺のことも、ターニャは嫌いじゃないみたいで。
俺はそんなターニャのことが、本当に、本当に、大好きで――。
◆
「長くなるから色々省いて要点だけ言うとめっっっっちゃデートしたい」
「ごめん俺には妻と子が……」
「ごめん省きすぎた。おっちゃんとはしたくない」
馴染みの肉屋の店先で目当ての商品を袋に詰めてもらう間、俺は肉屋のおっちゃん相手に盛大に惚気けていた。
もちろんターニャのことについてだ。
肉屋のおっちゃんとは昔からの知り合いということもあって、必要以上に口が軽くなってしまう。
「すればいいじゃねえかよ、ターニャちゃんとデート。……ほい。釣り忘れんなよ」
「したいから色々考えてるんだけどなぁ……ん、ありがとさん」
母さんに頼まれたおつかいで寄った肉屋に、思ったより長居してしまった。
おっちゃん、話しやすいんだもんな。
俺は、今日も。
実の両親と一緒に暮らしながら、実の父親とも母親ともまったく違う道を歩み。
実の両親には絶対話したくないような恋の話を、近所のおっちゃんには平気でしてる。
そんな風に、生きていた。
この後の予定は……俺宛の依頼は早朝に片付けたから、一旦帰って、それからカイジンのところに顔を出して……約束通りターニャが話してくれた小物屋に寄ってみる、というスケジュールになるけど……。
……カイジン。
恋の話。
絶対に結びつかない同士のはずの二つの言葉が頭に浮かび、少し困る。
俺の相棒の傍には今頃――自我とカイジンを想う恋心を得た、ロボット『コンフェッティーナ』ことティナ子が居るんだと、思い出してしまったからだ。
日常に癒されたばかりなのに、やっぱり俺を待つのは、俺が選んだ道は、非日常でいっぱいらしい。
◆




