その1 ヒーローは、遠く、遠く。
★永遠福音コンフェッティーナ!
第二話『大馬鹿はいつも、ヒーローのとなりに』
その1 ヒーローは、遠く、遠く。
teller:ダムバニー=ストレイキラー
◆
俺の祖父――シリービリー=ストレイキラーは、偉大な人、だったらしい。
医学と機械工学に長けて、俺たちの住む街『リングアベル』の発展にも随分と貢献したらしい。
そのぶん、変わり者だったらしいけど。
いや、実際変わり者だった。
幼年期の記憶を辿ると、祖父にやたらとからかわれていた記憶ばかり蘇る。
それでも、俺の中で祖父の記憶は正直薄い。
俺の祖父は偉大な人だったらしいけど、俺の父もまた偉大な人だ。
俺の父も医者だ。
今もリングアベルの街では名医扱いされている。
イディオット=ストレイキラー。
それが、俺の父の名だ。
祖父、シリービリー。
父、イディオット。
そして俺、ダムバニー。
俺らの名前は、全員『馬鹿』って意味を持つ。
とても人に付けていい名前じゃない。
ことの発端は、元凶は、祖父だ。
もともと祖父の生まれは時代のせいもあって劣悪だったらしく、実の親にひどい名前を付けられてしまったそうだ。
だけど変わり者の祖父は、そんな自分の名前すらも楽しんで、変にポジティブに解釈して――その妙なポジティブさを、父と俺にまで押し付けて。
父と俺の名前は、真意の読めない祖父のエキセントリックな愛情表現の犠牲となったわけだ。
俺の名付け親は祖父だけど、じゃあ祖父を止めなかった両親にも責任はある気がする。
特に、父さん。
俺の父は、名医として街で慕われているくせに気が弱い。
妙におどおどしていて挙動不審で、いつも自分に自信がなさそうな人。
母は肝っ玉かあさんタイプだから、俺の両親の相性は良いのかもしれないけど。
でも、俺の父は頼りなさそうな男ではあるけど、確かに賢い人だった。
それでいて、子どもの扱いに関してはてんで不器用な人だった。
幼年期の俺とコミュニケーションを取ろうとしては、父は頻繁に、幼い俺じゃわかるわけがない難しい知識を色々と語り聞かせてくれた、けど。
当時の俺にはそれが、何かの呪文のようにしか聴こえなかった。
父は父で、自分と正反対で活発な子どもだった俺と何をどう話せばいいやらわからなかったんだろうな、と、今では何となくわかるけども。
昔の俺は、俺では理解できない父の言葉を祖父は完璧に分かっていることがとても悔しかった。
父と祖父、通じ合っている二人の間に、同じ男として入っていけないのが悔しかった。
――白状すると、変わり者の祖父のことが少し苦手だった。
祖父が命を終えるまで、結局うまく素直になれなかった。
そんな祖父に父をとられた気にもなってしまって、嫌だった。
ひどく幼稚な、話だけど。
俺は医者の家系に生まれたようだけど、俺には医学の興味もなく、適性もからっきしだった。
だから何となく家族ってやつが、息苦しい時期があった。
色々逃げてた時期があった。
大馬鹿者の意の名を持つ祖父、父、俺の中で――俺だけは、本当に大馬鹿者なんだと思った。
ただ。
偉大で苦手な祖父には、親友がいた。
祖父以外の俺たち家族とは、関わろうとしなかったけど、物心ついた頃から名前は知っていた。
その人に興味を持ったのは、祖父が亡くなってからのことだ。
その人は昔、軍人だったらしいとか、サイボーグなんだとか、ぼんやりとしか知らない大人。
でもその人の仕事は、正義の味方――『ヒーロー』だと知って、やんちゃ盛りだった俺は簡単に興味を引かれた。
だけど、初めてこっそりその人のヒーロー活動を見学しに行った日。
俺が目にしたのは、憧れ混じりに思い描いていたものとは全く違う光景だった。
その人は、街の人に囲まれて怒られていた。
なじられていた。責められていた。
何か近くで事件があったらしいけど、盗み聞いた話によると――ヒーローであるその人は、全てを守り切れなかったらしい。
建物を壊してしまった、怪我人を出してしまった。
だからそのヒーローは、ヒーローにあるまじき失敗を、守るべき人々にこれでもかと糾弾されていた。
ヒーローなのに、守りたいはずの人々に憎しみを向けられていた。
フィクションで知っていたヒーローは、子どもの俺が憧れたヒーローってやつは、かっこよく活躍して、たくさんの人に好かれていたはずなのに。
フィクションに出てくるかっこいいヒーローとは違う、完全無欠なんかじゃないヒーローが、俺の近所に確かに居た。
それを、俺はよく覚えている。
カイジン=グリズリーというヒーローを初めて見た日を――俺は。
ダムバニーという大馬鹿者は、ずっとずっと、覚えている。
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