閑話-下「十組の到達者」
「『オクヤマシュン』を? 何を言ってるんだい?」
オクヤマシュンをくれだと? 本当に何を言ってるのか理解できないね。
『なんだ、その『オクヤマシュン』ってのは? 同じ『オクヤマ』だが、関係者か?』
『あなたには話していませんので、リリガルーシーは黙っていてください』
『あ? 喧嘩売ってんのか、ルルシエラ!』
『まあ、リリガルーシー。ここは二人の話を聞くのが得策ですわよ』
『ちっ、ていうか、何だよ『オクヤマ』? その名前の奴を冒険者にしたらいいのか? うちのダンジョンでそんな変な名前聞いた事ねぇよ』
なんだか変な勘違いをしている奴は放っておいて、ルルシエラを睨みつける。
『睨まないでほしいのですが。では、うちの冒険者と交換はどうでしょう? 同じぐらいの到達階層でそちらに行ってもいいと言っている冒険者がうちには居ますよ?』
「はあ? 交換? そんなのアタシらが勝手にできるわけないだろう。本人の意思が無ければ行かないだろ」
それにもしそうでも価値が違う。
『それが、オクヤマシュン様はこちらに来てもいいと言っていましたので。そちらにはオクヤマヒカル様が戻られるのでしょう? なら、オクヤマシュン様はこちらにください。あの冒険者は伸びしろがありますから。それに魔導書も渡していますので、すでに先行投資はしています』
「はっ! 何を言ってんだい? オクヤマシュンはこっちのダンジョンが終われば行くって言ってただけだろう? まだ先だよ。それに、まだ60階層にも行ってないからこの話もできやしないよ。あと『オクヤマヒカル』をそっちに向かわしたのは、あんたがアタシに泣きつくから相談してやったんだろ。恩を仇で返すつもりかい?」
アタシに敵対心丸出しのくせに、頼ってくるルルシエラは何を考えてるんだい。
『なんだよ、60階層も突破してない奴の話かよ。どうでもいいな』
リリガルーシーは早々話を聞くのを止めた。
『恩を仇で返すわけではありません。こちらも同じような冒険者を出すと言っているのです。交換ですよ交換。それに60階層に行ってないことはギルドカードを見たので知っています。ですから、すぐにでもこちらに移動する様に促してくれるだけでいいのですよ。それぐらいなら認識阻害も発動しないでしょう? すでにこちらで教育できる準備は整っておりますので』
「だから、それはあいつの意思がどうかだろう。……でも、どうしてあんたがそこまで固執するんだい?」
アタシがこれだけ言っているのに、あのルルシエラがここまで曲げないのは理由を聞きたいね。
『固執ですか……それはあなたが一番わかっているのではないですか? 3か月という短い期間で50階層到達。それも約週2回の頻度の攻略時間だけで。それに、その間にネームドを2体討伐。初期はソロでしたが今はパーティでの活動。ですが、ソロで直近1ヵ月の間に討伐したモンスターの量はすさまじいです。それに加えて、魔導書を使わない魔法の習得と武器のスキル量。プレステージダンジョンでミノタウロスを当てましたが、圧倒的な討伐スピードと戦い方。どこをとっても将来有望株でしょう?』
『なんだよそれ! そんな優良株滅多にいないぞ!?』
アタシが声を出す前にリリガルーシーが声を上げた。
そして、ルルシエラは「そして」と加えて言った。
『オクヤマシュン様はオクヤマヒカル様のご家族でしょう? 現在のトップ冒険者の血を引き継いでいる事が決め手です』
めんどくさいね。たった1日だけでここまで大量の情報を取っていくのは変わらないね。
『そうだね、オクヤマシュンはオクヤマヒカルの弟だよ。でもそんなこと関係なしにあいつはそっちには行かないよ。こっちでパーティを新しく組んだんだ。早々そっちに行くわけないだろう」
『その話もしていましたね……わかりました。では、ララクレイナは促すだけでいいです。こちらでオクヤマヒカル様に少し話してみるとします』
「オクヤマヒカルに? ふん。上手く行けばいいけどね。あんた、そう簡単に行かないと思った方が身のためだよ?」
『あら、心配してくれるのですか? ララクレイナが珍しい。ですが、私はあなたの上に行くためなら何でもしますから』
「何でもするって……はぁ。勝手にすればいいよ。最後に決めるのは冒険者自身だからね」
内心、そんな事を考えてるから冒険者が育たないんだよ。なんでもするなら命懸けで自分所の冒険者を育てろってね。
『わかりました。では、よろしくお願いいたします。ララクレイナ』
「ふん」
一旦それでルルシエラとの話は終わった。
するとララシエルが手を叩いた。
『終わりましたか? では、ララクレイナ。そのオクヤマシュンについての資料を提出してください』
「前にも提出したはずだよ。それを探しな」
『それは数か月前の資料でしょう? 今の話ならその時よりもレベルも何もかも上がっているのではないかしら?』
「はぁ、わかったよ。後で提出すればいいんだろう」
その言葉で終わりの空気が流れた。
すると、横で傍観していたリリガルーシーが声を上げた。
『おいおい、なに終わろうとしてるんだよ。オレの所はどうなる? そのオクヤマをオレの所に連れてくるのか?』
「あんたは自力でどうにかしな。オクヤマは両方そっちには行かないだろうね」
『くそっ! じゃあ、今いるやつらに発破かけるしかねぇじゃねぇか! 魔導書にするか、スキルにするか、なりふり構ってられねぇなぁ!』
『過剰な施しは止めてくださいね、リリガルーシー』
『だったらどうするんだよ! このままだとお前もオレと一緒に首ちょんぱだぜ?』
『そうですわね……ララクレイナ、ルルシエラ。あなた達の所から、オクヤマヒカル以外で誰か送れませんか? それかレベルが上がるアドバイスなど』
二人が焦った顔をし始めた。まあ、ここは考えた方が恩を売れるね。
『一応うちの別の冒険者にも声をかけておくよ。85階層を越えている奴にね』
『私も声をかけてみます。ですが、それは冒険者の意思によってですから』
『わかってるよ。でも助かる』
「あとは、そうだね。あんたの所の冒険者はみんな魔導書で魔法を覚えてるのかい? スキルは武器一つだけかい?」
『ああ、大抵の魔導士は魔導書での魔法だな。スキルは流石に武器一つだけってわけではないけど。それがどうした?』
「だったら、まだ半年経ってない魔法を使えて有望だと思う奴らに片っ端から自力で魔法を覚えるようにさせな。一度頭に入れた魔導書の魔法を一旦忘れるぐらいの勢いでね」
『あ? そんなんで変わるものなのか?』
「変わるよ」
自信ありげにアタシはそう言った。
『確信しているようですわね。何か、例があるのですか?』
「あるよ。今はオクヤマシュンのパーティメンバーだけどね、カワイマユって冒険者がいてね。そいつは元々魔導書だけで魔法を覚えてたんだけど、そこまでパッとしなかった冒険者だった。でもね、途中から全部魔法は自力で覚えるようにしたんだよ。そしたら、短詠唱をマスターして、火力も上がった。今じゃオクヤマシュンとタメ張れるぐらいになってるからね。それも週2のダンジョン攻略でだよ」
『ほんとかっ!?』
「嘘をつく必要ないからね」
『全冒険者に職員が最初に生活魔法と黒魔法の初級を自力で覚えさせるだろ。でも魔導書を見つけたらそれに頼って自力で覚えない奴が多い。途中から変えられるものなのか?』
「言った通りさ。冒険者の意識で変えられるもんだよ」
あの子はヒメミヤアンズに感化されてそうしたからね。ああいうのは気持ちの問題だとわかったね。
『……そうか。なら、オレの所でも試してみるか。来月までには間に合わないだろうが、それで乗り切ってみるか』
「そうしな。一応オクヤマヒカルにもあんたの所へ行く話はしといてやるよ」
『本当か! 助かる!』
リリガルーシーが頭を下げた。
珍しい。あの子が頭を下げるなんて、よっぽど切羽詰まってるんだね。
すると、ララシエルが頷いた。
『今の情報はわたくしも記憶しておきます。ララクレイナ、ついでにその報告書も上げてください』
「はぁ? 面倒臭いねぇ。今話したからララシエルがまとめたらいいだろう?」
『詳しい事はわたくしにはわかりませんので、あなたの仕事です』
「……わかったよ。あとでまとめて提出するよ」
面倒臭い仕事が増えたね。シルクにさせるにはまだ早いし、セレスに任せるかね。
『では、今の所考えられる案は出たと思いますが、他にありますか?』
時間も経った。ここら辺でララシエルが終わりの音頭を取る。
「アタシはもうないよ」
『オレも別にない。十分にいい情報を手に入れられた』
『私もありません』
『では、これで今日は終わりますわ。3人ともグランドマスターの不興を買わないように精一杯行動してください』
そう言って今日の会議は終わった。
『では失礼しますわ』
『じゃあオレも。頼むぜ、ララクレイナ』
それぞれの画面が黒く変わっていく。すると最後に、
『ララクレイナ、さっきの約束、忘れないでくださいね』
「ふん。わかってるよ。あんたも冒険しすぎないようにね」
そう言ったルルシエラの画面が黒くなった。アタシも魔道具を終了させる。
そして椅子に深く腰掛けて息を吐いた。
「はぁぁぁぁぁ……面倒臭いったらありゃしないよ」
机に置いてあった冷えた紅茶を飲み干す。
「セレス! セレスはいるかい?」
大声で呼ぶと、すぐにセレスが扉を開けて入って来た。
「ギルドマスター、もう会議は終わられましたか」
「ああ、終わったよ。また面倒臭い事を指示されたよ」
「またですか」
セレスがアタシの言葉を聞いて息を吐く。
「ギルドマスターが一番成果があるからって言って他の方々が情報を求めすぎです。自分達の所のダンジョンがあるんですから、自分達ですればいいのに」
「その通りだよ」
セレスがアタシの言いたいことを言ってくれたよ。この子はいい子だよ、ほんとに。
「でも、上からの指示は絶対だからね。それにアタシが言ったってのもあるからね。セレス資料作成だが、頼めるかい?」
「はい。何なりとお申し付けください」
「助かるよ」
近くに寄って来たセレスがメモを取る準備をする。
「今日話題になったのが『オクヤマヒカル』と『オクヤマシュン』についてだ」
「はい、トップと今話題の、ですね」
「ああ。あと、『カワイマユ』の魔法についても話したね」
「カワイマユといえば、ヒメミヤアンズの弟子でしたか」
「そう。まず一つはそのカワイマユの魔法についての資料をまとめてほしい」
さっきリリガルーシーに話していた内容をセレスにも話す。この子はライトロードの冒険者の状況については詳しく理解している。それにこの話は前にもしている。
「わかりました。魔導書習得から自力習得への変化についてまとめます」
「頼むね。それともう一つだが、上からはオクヤマシュンの現在のステータス等の全ての情報を資料にしろと言われている」
「わかりました。『オクヤマシュン』の資料ですね」
「いや、『オクヤマシュン』だけじゃない。『カワイマユ』『ヒメミヤアンズ』『イトウサガラ』それと『クジョウアラタ』の5人だね」
「5人のですか? それはまたどうしてでしょうか?」
「簡単だよ。この5人が今の冒険者の中で80階層に到達する可能性が高いからだね。すぐに話題に上がるだろうから先に作っておいた方が楽だろう?」
「……ちなみに、70階層を突破しているパーティが二組ありますが、そちらはいいのでしょうか?」
「そっちは、一度資料を提出してるだろ? あれから攻略が進んでるけど、アタシの見立てでは多分同時期になるんじゃないかと思ってるんだよ。『イトウサガラ』はあのパーティにいる限りは難しいかもしれないけどね。それでもあいつは何とかしそうな気もするけど」
「わかりました。ちなみに、その5人が80階層まで到達するのにどれぐらいかかる見込みだと考えていますか?」
「ん? そりゃ半年くらいだろう?」
するとセレスが難しい顔をした。
「……ギルドマスターも少しお疲れのようです。半年後ならまた何度か会議が行われるでしょう? 今他の4人の資料を作っても訂正箇所が沢山出てきます」
「……そうだね。アタシも疲れてるみたいだね」
そりゃそうだ。セレスの言う通りだね。どうして今資料が必要だと考えてしまったんだろうか。
「では、『オクヤマシュン』と『カワイマユ』関連の資料を作成致します。それで間に合うかと」
「そうだね。頼むよ」
「はい。では、私は失礼いたします。ギルドマスターも今日はしっかり休んでください」
「ああ、ありがとね」
そしてセレスが部屋から出て行った。
「……アタシも今日は疲れてるのかねぇ」
今日はあの二人の模擬戦も見たし、その前に他にも面倒臭い事があった。
まあそう言う日もあってもいい……って事にしよう。
「流石セレス。アタシの痒いところに手が届く子だよ」
そうセレスに感謝しながら、アタシも部屋を後にした。
閑話はギルドマスターのララクレイナ視点の話でした。
これで7章は完結です。
次回から8章が始まります。
ぜひ、これからもよろしくお願いいたします。
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