閑話-上「十組の到達者」
ギルドマスター・ララクレイナ視点のお話しです。
『遅いですわよ、ララクレイナ』
「急に呼び出したのはそっちだろうに。アタシもギルドマスターしてるんだよ。こんな時間にすぐ来れるわけないだろう」
人の顔が映っている長方形の画面を正面にして、アタシは椅子に座る。均等設置してある4つの画面の一つからアタシと同じダークエルフが注意してきた。
すると別の画面のダークエルフが声を上げる。
『それでも来るのがギルドマスターの務めだろうが。自覚がないのか、自覚が』
『まあまあ、ララクレイナはこういう性格ですよ。筋肉馬鹿なんですから、攻めても意味がないのです』
「あ? ルルシエラ、誰が筋肉馬鹿だい? アンタはガリガリのマッチ棒だろう?」
『なんですって? せっかくフォローしてあげたって言うのに、何たる仕打ちですか!』
ルルシエラは相変わらずアタシに突っかかってくるねぇ。
『黙れ、二人とも。今から会議を始めるんだ。グランドマスターが来るまでに黙れ』
「はあ、アンタもカリカリするんじゃないよ、リリガルーシー。可愛い顔が台無しじゃないか」
リリガルーシー。女なのにオレ呼びはどう考えてもアタシよりも男勝りだろう。
『黙れ。今一番攻略階層が上だってだけで威張るな。オレはお前をまだ認めてないからな』
『ふふっ。まあ、リリガルーシーではララクレイナを越えられませんでしょうけど』
『あ? 喧嘩売ってんのかルルシエラ!』
『事実を言ったまでです。超えるのは私ですから』
『ほざけ、マッチ棒が』
『あなたも言いますかっ!』
すると別の画面のダークエルフがため息をつく。
『はぁ、あなた達。仲が悪いのはわかりましたから少し黙ってください。もうすぐグランドマスターが到着されますわよ』
その言葉を聞いた2人が黙った。
『ちっ! わかったよ』
『私は元々争う気などありませんが』
「アタシも別にどうでもいいんだけどねぇ」
まとめ役のララシエルが間を取り持とうと動く。この人もアタシらのまとめ役は大変だろうに。
そうこうしている内に、一番上に設置してあった画面に到着の合図がした。
さて、ここからは気合を入れないとね。
『グランドマスター、お早い到着で』
ララシエルを筆頭にアタシを含めた4人のダークエルフが挨拶をする。
すると、一番上の画面にハイエルフの女性が現れた。
『ああ。挨拶はいい。早速だが話を始めてくれ』
グランドマスターは来て早々挨拶もなしに話を始めるように指示した。
するとララシエルが司会進行をし始める。
『承知いたしました。では皆さん、始めます。急な召集になりましたが、本日の議題は『ニホン』の攻略状況についてです。上層部から再度確認が来ております。確認事項は90階層への到達可能性と80階層を攻略した冒険者パーティの数です』
事前に議題の話は聞いていた。それも先日の会議と同じ内容だ。
しかし、こうも何度も確認するとは、上層部は何を焦っているのだか。
『まずは、ファーストゲートのルルシエラからお願いします』
『わかりました。現在90階層到達はしておりません。最大攻略階層は85階層。80階層到達冒険者パーティは3組。前回報告した内容と変わりません』
『承知いたしました。では、ライトロードのララクレイナ』
といっても、アタシの所も前回と変わらないんだけどね。
「アタシの所も前回と同様、最大攻略階層は89階層。80階層到達パーティは5組。まあ他に何組か80階層に到達する可能性があるのが出て来たけどね」
そう言うと二人から舌打ちの声が聞こえた。
『承知いたしました。では、リトルコンティネントのリリガルーシー』
『ああ。オレの所の最大攻略階層は82階層。80階層到達パーティは2組。前回の報告から1階層攻略している』
その声からは少し余裕が見えた。
『承知いたしました。わたくしの意見としましては、あれから進んでないとは少し遅いですね。リリガルーシーも1階層だけとは少ないです』
その言葉にアタシも含めた三人が何も言い返せない。
するとグランドマスターが声を上げた。
『10組しか80階層を越えていないのか……遅い!』
その言葉に全員の背筋が伸びる。
『今回召集したのは上層部から指摘された為だ。事情をお前達に話はしないが、急ぐ理由があるのでな。しかし、ファーストゲートは2年もライトロードよりも早くダンジョンを設置しているのにライトロードの方が攻略階層も到達パーティも上だとは、何をしている?』
画面越しだがグランドマスターからのプレッシャーが飛んだ。まともに受けたルルシエラは苦い表情をしている。
『申し訳ございません。ですが、ニホン人は私達の指示通りに動く事はできません。それに国土が小さいのかファーストゲートからライトロードへの移動が簡単なようで、初期に移動しております。冒険者も攻略が難しくなると停滞する傾向があり、3年半たった今だからこそ本気で攻略する冒険者が少なくなってきております』
『そうか。では、どうにかしろ。それをどうにかするのがギルドマスターの役目であろう。魔導書が必要ならララシエルと相談しろ。どうにかするのが、お前の仕事だ!』
『はい! 承知いたしました』
ルルシエラがグランドマスターのプレッシャーに頭を下げる。
『あと、ライトロードはまだ90階層に到達しないのか? 一番近いのがお前の所だララクレイナ。期待しているのだが、まだ時間がかかるのか』
「はい。申し訳ございません。ルルシエラ同様、ニホン人を操る事はできませんので、個人の力と考えを促す事しかできていません。それに90階層からは難易度が跳ね上がりすぎます。慎重にしなければせっかくの冒険者が命を落としたら、勿体ありませんので」
『理由はわかる。だが、それでも先に進めさせるのがギルドマスターの務めであろう。とにかく、先に進めさせろ』
「承知いたしました」
ルルシエラに比べてはプレッシャーは少ないが、とにかく従順に頭を下げておく。
『それで、リトルコンティネントは論外だ』
『は……?』
グランドマスターの言葉にリリガルーシーが素っ頓狂な声を上げた。
『ライトロードと同じ頃に作ったが、85階層も到達していないのはどういう事だ?』
『そ、それは……人口が違いまして……』
『それでもするのがギルドマスターの務めであろう。私から言うことは何も無い』
『はい……』
その一言でリリガルーシーは何も言えなくなった。
そしてララシエルが声を出す。
『では、ギルドマスター方、他に何か連絡事項はありますか?』
それには3人とも首を横に振った。
『グランドマスター、申し訳ございませんがこちらからの情報は特に変わらないと言う事になります。後程指示、指導して早々に90階層を攻略させるように致します』
『わかった。が、ララシエルもわかっているな? お前がこのニホンの管轄の責任者だ。アメリカ、ヨーロッパ、チュウゴク、ロシアがまだ成果が出ていないから免れるが、人口比率からしてすぐに追い抜かれる可能性があるだろう。どこかに抜かされでもしたら責任はお前にある事を忘れるな』
『はい』
最後にララシエルにもプレッシャーを与えて、グランドマスターは話を止めた。
『以上だ。これで私は戻る。早々に90階層を攻略させるように』
『『はい!』』
その言葉を最後にグランドマスターの画面は黒く変わった。
そしてその瞬間、残った全員が息を吐いた。
『はぁー。やばいわね。今日のグランドマスター、かなり機嫌が悪かったようね』
グランドマスターが居なくなった途端、言葉使いを和らげるララシエル。
『上層部に言われたんでしょう。グランドマスターも大変でしょうし』
グランドマスターに一番攻められていたルルシエラはグランドマスターを擁護する言葉を並べる。
『それでもオレは論外だぜ? 画面越しでも生きた心地がしなかったぞ』
リリガルーシーは見向きもされなかったからねぇ。
『でも、たったのあれだけの事でアタシらは呼び出されたのかい? 面倒臭いったらありゃしない』
流石のアタシでもグランドマスターの前では敬語を使うが、こいつらの前では使う必要もない。
『何を言っているのかしら? ララクレイナはまったく怒られていないわよね? まあ、一番成果を出してるのはあなたですから。わたくしは何も言えませんけどね』
『私の半分は怒られてほしいですけどね。実際これはあなたの実力ではなく、冒険者の実力ですから』
『その通りだ。オレらが何をしても冒険者は死ぬときは死ぬ。死なないようにするために俺らがどれだけ50階層までを考えているか』
『当たり前だろう。アタシらの力なんでサポートぐらいなものだよ。全ては冒険者の自力。冒険者が動かないとアタシらは何もできない。自分達で攻略させてくれるわけではないからねぇ。それを考えて上層部はモノを言ってほしいよ』
本当に、何も考えない上層部は何を考えて指示を出しているんだか。
『あなたの意見はわかるけど、それは絶対グランドマスターの前では言わないで頂戴ね。わたくしの首が飛びますから。物理的に』
『あはははっ。流石のアタシでもそれは言わないよ。従姉の首を飛ばせるはずがないだろう?』
『あなたは何を考えているかわからないから、何とも言えないわ』
アタシの言葉にララシエルがため息をつく。
『では、わたくしの首が飛ばないように、これからの事を話し合いましょう』
「そうだね。まあ、アタシの所は『オクヤマヒカル』がファーストゲートから戻って来たら90階層に挑戦する予定だからね。あと数か月もあれば到達できる予定だけどね』
そう言うとルルシエラが声を上げた。
『それですよ! あの『オクヤマヒカル』とは何ですか? すごい勢いで攻略してすでに84階層を攻略しましたよ。こっちのトップ冒険者に遠慮して85階層までは攻略しませんでしたが』
『だろうね。あいつならそれぐらいはするさ』
『なんだなんだ!? その『オクヤマヒカル』ってのをお互いに貸し合ってるのか? ずるくないか?』
「ずるいって、アンタは自力でアタシを越えるんじゃなかったのかい?」
『それは全員が同じ条件ならばってことだろ。だったらオレの所にもその『オクヤマヒカル』を来させろよ!』
リリガルーシーが声を上げる。
さっきはアタシに喧嘩を売ってきてたけど、この手のひら返しよう。やっぱりリリガルーシーだね。まあ、グランドマスターのプレッシャーのかけ具合がえぐかったのもあるだろうけど。
「まあそれは無理だろうね。最近聞いたけど、アンタの所はヒコーキって乗り物に乗らないといけないらしいじゃないか」
『そうみたいですね。私の所の冒険者にも聞きましたが、陸続きではないようですよ?』
『なんだよそれ! それでもヒコーキに乗ったら来れるんだろ? 来させるように言ってくれよ!』
『あなた、プライドはどうなったのかしら?』
流石のララシエルでも呆れている。それでも藁にもすがろうとする気持ちは、アタシは嫌いじゃないけどね。
「グランドマスターに言われて焦ってるね?」
『そりゃ、焦らないわけないだろ! あんな目を向けられたんだ、殺されるかと思ったぞ』
本当に面喰ってるねぇ。
『流石のグランドマスターでも殺しはしないですわ。ただ、あなたがその立場から降ろされるでしょうけど』
「その時はララシエルも一緒だろうけどね」
『それは言わないでくれません? ララクレイナ』
「あははっ。まあ、アタシ達は運命共同体ってやつだ。お互い助け合えるか考えようかい」
そう言うとルルシエラが微笑みながら、
『では、ララクレイナ。もう一人面白い人物がいましたよね。この前、ライトロードから『オクヤマシュン』という冒険者がうちに来たのですが、あの人物をうちにくれませんか?』
そう言った。




