70話-4「60階層に向けて」
換金施設に入ると前回と同様、受付の女性スタッフがカウンターで出迎えてくれた。
ちなみに、この換金施設は24時間受け付けているらしい。でも冒険者の利用数が多くないのか、この時間は全体的に照明が少なくなっている。節電なのだろう。
「いらっしゃいませ」
挨拶をしてくれる女性スタッフに早速だが要件を伝える。
「すみません。金貨の換金なんですけど」
「承ります。こちらで少々お待ちください」
そう言って受付の女性が「換金」と書かれた天吊り看板の下に移動する様に案内した。ここは全てパーテーションで区切られて半個室になっており、一応プライベートは厳守されている。
それに従って椅子に座ると女性がトレイを持ってきて前に座った。河合さん達も近くの椅子を持ってきて僕の後ろに座る。
「では、カードを提示して頂いてもよろしいでしょうか」
「はい」
前回来た時に渡された会員カードを提示する。
「奥山俊様ですね。承りました。では、本日の換金する金貨をお願いします」
「はい。これなんですけど」
僕はトレイの上に聖金貨1枚を置く。すると、女性が明らかに驚いた表情をした。
「どうかされましたか?」
「あっ、もうしわけございません。換金される金貨が聖金貨でしたもので。奥山様は……えっと、まだダンジョンに潜られて数か月のようですが……もう上級冒険者になられたのでしょうか?」
「えっ、いやまだですけど。これはちょっとネームドの討伐で得た臨時報酬でして」
「ネームドをっ!? あっ、申し訳ございません!」
驚いた事に頭を下げる女性スタッフ。
「オクヤマシュン……」
そして僕の名前を呟きながら、もう一度僕の会員カードを見た。
「どうかされましたか?」
「い、いえ……。実は私もダンジョンに潜ってた時期がありまして。ですが才能がなかったようで早々に諦めました。その時にユニークやネームドの危険性は教えて貰っていましたので、討伐したと聞き驚きました。奥山様は凄い冒険者なのですね」
「すごい、冒険者……」
初めての人にそう言われてしみじみと染みる様に心が温かくなる。
なんだこれは、嬉しい。
「奥山君、私が言った時はそんな反応しなかったのに……調子乗ったらダメだからね」
「そうだよ、しゅんしゅん。まだ60階層も突破してないのに調子乗ったらダメだからねー」
と、後ろから茶々が入る。
「なんで二人して少しも余韻に浸らせてくれないんだよ」
少しぐらい凄いと言われてちやほやされてもいいじゃないか。
すると女性スタッフに「あの、」と声をかけられた。
「もしお時間がおありでしたら、少しお待ちしていただいてもよろしいでしょうか? 数分で終わらせますので」
「はい、別にいいですけど……?」
「ありがとうございます」
そう僕に頭を下げると女性スタッフが聖金貨を置いたまま奥に消えていった。
そして数十秒後、少し恰幅の良い男性を連れて戻って来た。
「お待たせいたしました。わたくし支店長の石田とお申します」
「どうも」
立ちながら名刺を渡してくれたので僕も習って立ち上がり名刺を受けとる。
見た目からして支店長、50代ぐらいのおっさんだ。ちょっと胡散臭そうな見た目をしている……気がする。
「すみません。僕、名刺を持っていないので」
「いえ、大丈夫ですよ。冒険者で名刺を持たれている方はほとんどおられませんので」
支店長は「失礼します」と断りを入れて机を挟んで僕の正面に座る。その隣にはさっきの女性スタッフが座った。
「お話は聞きかせて頂きました。奥山俊様ですね。実は最近の新人冒険者で頭角を現している方と聞き及んでおります。ボス討伐ランキングにも載られてますよね?」
「あ、はい。よくご存じで。……もしかして支店長さんも?」
それを知っているとはこの人もダンジョンに潜っているのだろうか?
「いえ、弊社にもダンジョンに潜っている社員がいますので。そちらからですよ。わたくしはダンジョンに一度も入っていません」
「そうなんですね」
そりゃダンジョン産の金貨を換金する施設だ、情報収集のために社員をダンジョンに潜らせるだろう。でも何と言うか、やっぱりこの支店長は胡散臭く見える。と言っても今のところ僕にとって何か起こるわけではなさそうなので気にする必要は無いだろうが。
「それでは、お時間は少しだけと言う事ですので早速ですが、奥山様は将来有望の冒険者ですので担当をお付けさせて頂きます。担当がいれば換金の際に対応がスムーズになりますし、他にも色々とご案内できますのでご理解ください。担当はこちらの梅本がさせて頂きます」
「梅本です。よろしくお願いいたします」
そう言って先ほどの女性スタッフの梅本さんが名刺を渡してくれた。
担当が付くと言っても僕の用事は金貨の換金だけになるので担当が付く必要があるとは思えないんだが。ご案内ってのはつまり、他の金融商品の案内なのだろう。この換金所も金融商品を扱えるようだし……これは営業をかけられるな。
まあいいんだけど。
「わかりました。よろしくお願いします」
「ありがとうございます。では、わたくしはこれで。後は梅本に任せますので」
そう言って支店長は奥に消えていった。
「では奥山様、早速ですが金貨の換金を致しましょう。聖金貨は通常の金貨の約100倍になりますので、本日の金レートで換算しますと、70万円になります」
「70万円!」
驚いてしまったが、そりゃ金貨1枚が7000円だから、100倍となれば70万円になるだろう。
「一応聖金貨の内容ですが、重さは50g、金は24金になります。白金の部分は金ではありませんが、金の部分だけで50gですのでご安心ください」
「24金……純金ですよね……凄い」
生きてて純金など見た事はない。持った感覚は近い大きさの500円玉よりもずっしりと重いから流石金なのだと思ってたけど、50gもあるんだ。
「では、こちらの金額でよろしければ換金の書類をお持ち致します。お金のお渡しはご入金になりますので、今の時間ですと入金は明日の午後になります」
「ちなみにレートは日々変わるのでしょうか? 今日よりも高くなる日はあったりします?」
もし高くなる日があるなら後日と思ったのだが、
「そうですね、無くはないんですけど、なにぶんダンジョンが出現してから金が多く取れるようになりましたので、金の相場はそこまで動く事はありませんね」
「そうなんですね」
って事はレートについてはそこまで考えなくていいだろう。ネットでは逆に金相場が下落するかもと言っていた。最近はずっと横ばいみたいだし。
「どうされますか?」
「じゃあ、換金します。お願いします」
「承りました」
そう言って梅本さんは書類を取りに行った。
それからの手続きは前回と同様。70万円と書かれた書類にサインをして入金の手続きをする。
しかしやはりそれだけでは終わらず金融関連の話もされた。
その中でもメリットな事はあり、提携している銀行の口座を持っていれば即日入金ができるようなので、そちらの銀行も契約した。大手だったので安心だ。
こういう話は前回はしなかったので、担当が付いた冒険者にしか話さないのだろうか。
その後の別の案内は「考えてみます」と言って軽く断った。これから先は投資やら預金やら必要ですよと言う事だったので、「まだ考えられません」と言っておいた。
「……では、奥山様。ありがとうございました」
話も終わり梅本さんに頭を下げて僕達は換金施設を出た。
30分で終わらせたけど思ってるよりも疲れた。外の空気が美味しい。
「じゃあ、用事も済んだ事だし。私は帰るね。楽しかったよ」
「わたしも聖金貨の換金はしたことなかったし新鮮だったよ。でも担当が付くのは面倒臭そうだねー」
「はははっ。事前に知ってたら悩んでたかもしれないけどね」
そう言っても聖金貨は換金してただろうから、時間の問題だったな。
「杏子さん途中まで一緒に帰ろ。奥山君は逆だもんね」
「うん。帰ろっかー。しゅんしゅんまたね」
「じゃあね、奥山君。また来週」
「うん。お疲れー。杏子さんはまた明後日」
「はーい」
そして河合さんと杏子さんはワイワイと話しながら去っていった。
僕は、二人の後ろ姿を見て最近の出来事を思い出す。
まあ、色々あった。杏子さんと正式にパーティを組んで、東京のダンジョンに潜って、大阪に戻ってきて攻略を進めて。相良さんと手合わせして。1ヵ月の訓練が終わってからの2週間ぐらいの事なのに、色々な事が詰まってた。
それで一番の出来事は会社を辞めた事だな。それと、今日の換金だ。
スマホを取り出してさっき入れた銀行の通帳アプリを開く。そこに記載されている数字は70万円。
「これ以上にまだ持ってるし、あの階層付近で探索したら月に50万は少なくとも稼げる。本当にダンジョンで稼げるようになったんだな」
今回は聖金貨で換金したかったから聖金貨にしたが、実際の月収は50万ぐらいになりそうだ。とは言っても、階層を進むにつれて出てくるモンスターのドロップアイテムの価値やクエストの報酬などが上がっていくだろうから、これ以上に稼げるようになる。それに加えて攻略によるボーナスを含めると夢が止まらない。実際にまだギルドマネーは100万以上ある。
それを思い「ふふっ」と笑いがこぼれる。
「これでダンジョン攻略を『私は今の仕事にしています』って完全に言えるようになったな」
しみじみとそう思った。
これで一つの夢が叶ったと言う事だ。
スマホに映る稼いだ金額が僕を鼓舞する。
そして沸々と溢れてくる感情は「もっと稼げるようになる。だから、もっとダンジョンを攻略したい」と言う気持ち。
そんな思いを心に持ちながら夜風に当たる。
「さて、僕も帰りますか……ん?」
そう思って帰路に向かおうとすると、スマホが鳴った。
「……兄さん」
その着信は兄さんだった。
今日まで一度の連絡だけでそれ以上は連絡がなかった。東京に行ってからの久々の連絡だ。
そして、あっちからかけてきたと言う事は……
「もしもし。お疲れ」
『もしもし。お疲れ。今大丈夫か? 時間が空いたからな、電話する約束してただろ? まだ東京から戻れないから顔合わせて話すのは先になるけど』
「そうだったね。外だけど、大丈夫」
『そっか。じゃあ、話そっか……俺と、お前のダンジョンについて』
これで7章本編は完結です。
やっとタイトル(サブタイトル)の回収が出来ました。「ダンジョン攻略を私は今の仕事にしています」って言いたかったんです。
ここからもダンジョン攻略を進めて、最終階層まで走ります!
是非是非これからもよろしくお願いいたします。
あと数話閑話が続きます。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
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