70話-3「60階層に向けて」
訓練場を出ていくと職員の女性がギルドマスターを待っていたようで、歩きながら職員が話し始めた。
「ギルドマスター、連絡が入っています」
「この時間に連絡って……あいつらかい?」
「ギルドマスターの想像通りです」
「はぁ、面倒臭いねぇ」
職員の言葉にギルドマスターがため息をついた。珍しく嫌そうな表情をしている。
「上の連中は本当に面倒臭いよ。また召集でもかけるって話だろ。なんだかんだ言ってまだ3年も経ってないんだよ。ったく、そんなの月に1回でいいんだよ、臨時なんてしなくていいんだよ。ほんとにねぇ」
「ちょっ、ギルドマスター。ここでそんなこと……いいんですか?」
悪態をついているギルドマスターに焦ったように職員が声をかける。
「ん? あー、この3人はいいんだよ。もうすぐ話せるからね。それに大したこと言ってないだろ」
そう言ってギルドマスターは僕達の方を向いた。
「って事で、アンタ達がまだ60階層を攻略してないのは面倒だから、さっさと攻略するんだよ」
受付まで戻ると、カウンターに肩ひじを乗せてギルドマスターがそう言った。
「はい。すぐに60階層に行きますよ。でもまあ、予定があるもんで」
「そうだよーぎるます。わたし達は放っておいても60階層は超えるから大丈夫だよ」
「そうだろうけどね。でも、話せることが制限されるのは鬱陶しいからね。だから、さっさと60階層を攻略しな」
そう言ってギルドマスターは去りながら手を振って奥へと消えていった。
「なんの話なんだろう?」
「なんだろね? 上からってギルマスの上司からかな?」
「ギルマスに上司っているんだ」
「あの感じだといるんだろうねー」
三人でギルドマスターの後姿を見ながら疑問に思った。
「まあ、そんな事よりも。ぎるますもああ言ってたけど、当分はまゆまゆに合わせてだからね。それでも3週間あれば攻略できる予定だからねー。ぎるますもせっかちだよー」
「ごめんね。私が仕事辞めてないから土日だけになって」
「その条件でパーティ組んだから気にしなくていいんだよー」
「そうそう。僕は辞めたけど、辞めずにダンジョンに来れる時点で凄い事だから。河合さんは辞めないでいいんじゃないかな? そのままでいいと思うよ」
「そう言ってくれると助かるよ」
河合さんが微笑む。
まあ、僕もダンジョンのいで稼ぐとなると階層攻略を進めるだけじゃなくて、稼ぐための行動をしないといけないからな。進むのは土日だけでも十分だ。
と言っても、実は懸念もある。60階層までは僕達なら2日間で攻略は可能だ。しかし60階層を越えると2日では攻略不可能な可能性が出てくる。そうなると河合さんを連れて攻略する場合、連休や長期休暇だけの攻略になる。そうなれば、攻略ペースはかなり落ちるだろう。それが良いペースなのか遅いペースなのか、実際に60階層を攻略しないとわからない事だけど。
そうは言っても河合さんにプレッシャーをかける気もないし、まだ始まったばかりなので気にする必要もないのだが。
そんな事を考えていると、杏子さんに声をかけられる。
「それでどうしよう? もう遅くなっちゃったけどご飯食べてくのー?」
「あっ、そうだった! あれから……もう1時間以上経ってる!? そりゃ無茶苦茶お腹減るはずだわ!」
「ほんとだよ。私もお腹ペコペコなんだけど。奥山君のせいだからね?」
「ぐっ……すみません」
あれは僕のせいじゃないけど、僕のせいなんだよな……ていうか、中村さんは結局何だったんだ?
「ねえねえ、行くなら早く行こうよー。まゆまゆのお店しまっちゃうかもよ?」
「私の店って言うより新規店探すって話だった気が……あっ、じゃあせっかくだし高い店にしようかな? あまり行かないようなところ。まだ遅くないし空いてるだろうからね。今日は迷惑かけたってことで、奥山君に奢ってもらおう!」
「えっ? 奢り? いやー、そんなにお金があるわけではないんだけどな。これから稼がないとってわけだし」
「あれー? 『暴虐の鬼王』を倒した臨時報酬はまだ使ってないって言ってたきがするんだけど? それにあの1ヵ月でも割と稼げたよーって言ってなかったっけ?」
「くっ……覚えてたか。仕方ない。臨時報酬があるから少しぐらいなら高い店でもいいよ。二人にはお世話になってるし、日ごろの感謝って事にする!」
「ほんとに!! やった! 言ってみるもんだね!」
「じゃあ、わたしもまゆまゆに奢らないとねー。しゅんしゅんと同じで『暴虐の鬼王』は倒したから。お金も使ってないし」
「えっ! いやいや、杏子さんには悪いよ! 奥山君だから言える事だから」
「僕には言える事ってなんだよそれ」
「奥山君は同期だから気兼ねなく話せる間柄なんでしょ? さっき言ってたよね?」
「ちょっ……」
そんなドヤ顔で見られるとなんか恥ずかしいんだけど、ちょっと嬉しいな。
「よし! 杏子さんも僕に奢られてください! 今日は奮発するから!」
「いいね! 流石奥山君!」
「ほんとにいいの? わたしも奢られて?」
「いいです、いいです! ってことで行きましょー!」
「うん! 早く行こー! 実は前々から行きたかったお店があるんだよねー!」
「しゅんしゅんがいいならありがたく奢られようかなー」
3人でギルドの受付の前で盛り上がる。
「やっぱりいいなー。私も行きたいなー」
そうシルクさんが受付に頬杖をつきながら僕達のやり取りを羨ましそうに見ていた。
◇
そして、僕達はダンジョンにある3番目に高級な店を後にしてダンジョンを出た。
ダンジョンを出るといつも通りに倦怠感に襲われるが、それも今日はさっきまでの食事の効果で半減している。
「あー、美味しかったねー。まだ余韻が残ってるよー。あのファルドラのお肉って絶品だね! 超高級店じゃなくてもあそこでも十分なお店だったよ! 当たりだね!」
「そうだねー。まゆまゆ達がいないとわたしもあんな店行かないからねー」
「じゃあ、また行こう! これから私も稼げそうだからそれぐらいは行けそうだよ!」
「うん。時々なら行ってもよさそうだねー」
満足そうに笑っている女性二人を見ながら僕は頷く。
まあまあな金額だったからちょっと財布が痛い、とは決して言わない。ダンジョンで一番高い店は流石に無理だった、ので2番目の店にも行ったが高いので、3番目の店で落ち着いた。
それでもコース料理で最低一人あたり金貨5枚はしたので、『暴虐の鬼王』を倒してなかったら行かなかっただろう。『暴虐の鬼王』様様だ。あいつには色々とお世話になりました。
ちなみにコースは全てモンスターで構成されていて、ほとんどのモンスターの名前はわからなかった。わかったのはファルドラだけだった。そりゃ、今までゴブリンやオークの様な人型や食べられなさそうな獣系。極めつけは巨大虫だ。中にはあの虫も出す店があるみたいだけど、僕は行くことはないだろう。さすがに食べる気は起こらない。噂ではジージュファングは蜘蛛なのにカニみたいな味がして美味しいらしい。
そんな事を考えながら二人を見ていると、河合さんに話しかけられた。
「それで奥山君、さっきギルドに寄ってたけど何してたの?」
「ん? あー、ただ金貨に換金して貰ってきただけだよ」
「あ、換金してきたんだ。私も数回したけど今はダンジョンで使う為に残してるんだよね。そこまで貯金がある訳じゃないし。別に外では給料があるから困ってないしね。そう言えば、奥山君は換金何回目なの?」
「僕も今日で2回目だよ。大樹さん達と一緒に行ったっきり久しぶり。でも、今日はこの前と違うんだよな!」
そう言って握っていた金貨を自慢する様に河合さんに見せた。
「おっ! それは! まさか!」
と大袈裟に河合さんが驚いてくれた。ノリがいい。
「そう。これこそが聖金貨です!」
そう僕の手に持つのは白金に輝く大きめの金貨。聖金貨だ! 500円玉よりも少し大きい金貨である。
「やっぱり、普通の金貨よりも大きいね。それに白……白金色?」
「そう! 白金色なんだよ!」
見た目からして金貨とは違う色合いと大きさである。これぞ聖金貨だ!
ちなみに白金色に光っていてもプラチナではない。ただ外側が白金色に加工されているだけで、れっきとした金だとシルクさんが言っていた。
「それって、金貨100枚の価値があるんだよね?」
「そう! 金貨100枚と同じ価値で、金貨100枚を持ち運ぶのは大変だから聖金貨にしてもらってるってわけ。大樹さんは上級冒険者しか持ってないって言ってたけど、ギルドでも換金してもらえるんだって。実際、上級冒険者クラスにならないとそれぐらい持って外に出る事はないって言ってた」
「上級って言っても60階層超えたら割と聖金貨持って出ていく人多いみたいだよー。わたしはしてないけどねー」
そう杏子さんが話に入って来た。
「そうなんだ。杏子さんは外であまりお金使わない感じ?」
「うん。あまり使わないかなー。そこまで必要ないし、必要な時は金貨を数枚換金してる感じかな」
「そうなんだ」
杏子さんならかなり稼いでるだろうし、ダンジョンに住んでるわけじゃないみたいだから、換金してるとてっきり思ってた。
「でもそれはそうと、あまり外で見せない方がいいと思うよ。大金でしょ?」
「そうだった! 危ない危ない」
杏子さんに指摘されてポケットにしまい、握りしめる。
「って言っても、一般人や私達よりもレベルが低い人に外でも負ける事はないんだけどね」
「そう言えばそうだ」
冒険者は強い。それにダンジョン付近は監視の目があり、入場には身分証がいる。それでも一般人ぐらいであれば巨漢でない限り力で負けることはないだろう。それに僕よりもレベルの高い冒険者であれば、僕より稼いでいるから襲う必要もないだろう。
「じゃあ、早速だけど僕は換金に行ってくる。二人はもう帰る?」
「うーん。じゃあ、私も行く」
「じゃあ、わたしもついでに」
「みんな来るんかよ」
小鴨の様に二人とも僕の後ろをついて来た。
換金施設はダンジョンの近くにある。隣と言ってもいいぐらいの距離だ。
そして、僕達はこの時間でも入り口が明るく光っている換金施設に入った。




