70話-2「60階層に向けて」
「あっ、ギルドマスター。私も自衛隊パーティについて行くので、ここで失礼します」
「ああ、任せたよ」
「シュナさん、ありがとうございましたー」
シュナさんがギルドマスターに頭を下げて相良さんの後を追って行った。その姿をシルクさんが手を振って見送っている。
僕が相良さん達が帰る様子を見ていると隣に居た河合さんが「ふふっ」と笑う。
「奥山君、いい友達ができたね」
「友達なのかなー? でもいい縁ができた」
「うんうん、そだね。一瞬BLかと思ったよ」
「ふぁ!? いやいや! ないよ、ないない! 僕は普通に女性が好きだからね!?」
河合さんは急に何を言ってるんだ!?
「あははっ。知ってる知ってる。いつもシルクちゃんと話す時気合入ってるもんね。シルクちゃん可愛いからわかるよー」
「なっ!?」
バレてたのか!? いや、気合入ってるわけではないけど、可愛い子と話すとどれだけ親しくても構えてる感じはある。
ちらっとギルドマスターの横を見るとシルクさんが「えっ!?」と表情を向けていた。
「私にはそんな感じに話さないのになー」
「いや、河合さんも可愛いよ。でもそれより同期で戦友って感じだから気兼ねなく話せるって言うだけで……」
「……えっ!?」
そう言うと河合さんがなぜか顔を赤らめた。
僕なんか変な事言ったか? それよりも、シルクさんに対しての訂正を。
「だから、シルクさんと河合さんは違うくて……」
「わかった、わかったよー。もー、奥山君ってそういう事言う人だったー?」
そう言って河合さんがそっぽを向いた。
あれ? 何か失礼な事を言ってしまったか?
するとそれを見ていた杏子さんが笑いながら言った。
「ふふふっ! 大人同士のラブコメもいいもんだよねー」
「「杏子さんっ!?」」
そう杏子さんに突っ込まれて河合さんと同時に叫んでしまった。
どういうこと? ラブコメって、何を言ってるんですか杏子さん!?
そんな感じで河合さんと杏子さんの言葉に慌てていると、
「アタシ達もいる事を忘れないでほしいんだけどね」
と今まで静かだったギルドマスターが話に入って来た。
「あっ、ギルドマスター。すみません」
「いいんだけどね。それよりも話を変えていいいかい?」
「はい、もちろん」
ギルドマスターも話したかったようで急に話が変わった。
「オクヤマシュン。イトウサガラと戦ってどうだった?」
単刀直入だな。
「相良さんとですか……単純に強かったですね。はっきり言って僕よりも頭一つ分ぐらいは」
「そうだね。イトウサガラは一人で60階層を攻略できる力を持ってる。剣だけで言ったらこのダンジョン内ではトップに近いって言ってもいいだろう。アンタの評価も的を得てる。だから、オクヤマシュンも剣を使うならイトウサガラに師事してもいいかもね」
「師事ですか……」
その提案はありかもしれない。ギルドマスターが言う通り、相良さんの剣の腕は圧倒的に僕より上だ。それにスキルレベルだけでは言えない強さがある。剣の使い方が上手いのだ。それは元々剣の使い方を知っている様な感覚だ。
でも剣道とも違う。剣道は兄さんのを見てたから知っているが、その動きではない。やっぱり自衛隊だからだろうか、今持っている西洋風の剣であれば相良さんに教えて貰う方が効率がいい。もし独学でつまずくことがあれば相良さんを頼ってもいいだろう。
「考えてみます」
「そうかい」
ギルドマスターにはそう言っておく。
「それにしても、オクヤマシュン。最後に使ったのは重力魔法だね? あそこまで使えるようになってるとはね驚いたよ」
「その節はどうもありがとうございました。えっと、魔導書のお店で買ってもらってからずっと練習してました。重力魔法はいつか覚えようと思ってたんでイメージし続けてたんですけど、思ったよりもイメージが難しくて。たまたま目に入った魔導書を見てきっかけにと頼らさせてもらいました。大変助かりました」
「そう思ってもらわないと困るけどね。あの金額は驚いたよ。シルクから報告貰って納得したけどねぇ」
と、ギルドマスターがシルクさんを見る。
「わ、私も驚いたんですよ! なんか驚いてるうちに支払いを済ませたらお金がほとんどなくなってたんですから。マスターに報告したら怒られると思って冷や冷やしてたんですからね!?」
「はははっ。まあ、今のを見て良い買い物だったと思えたよ。よかったね、シルク」
「はい、本当に……マスターが納得してくれてて良かったです」
そうシルクさんが安堵したようにうなずいた。
「それにしても、あの魔法だけ凄く高かったですけど、どうしてですか?」
「えっ? それは……確か重力魔法は人を選ぶんだからですよね?」
「そうだよ。あの魔法は人を選ぶ。だからオクヤマシュンが見つけたって聞いて驚いたよ」
「そうなんですか?」
その話は初耳だ。
あの時シルクさんは魔導書を見て驚きながら大金を払っていたけど。それほどの物だったのか。
「そうだよ。もうオクヤマシュンが持ってるから言うけど、目の前にあるのに見える奴にしか見えないように認識阻害がかかってるんだよ。でも、その選考基準はアタシにもわからないんだけどね」
「魔法に選ばれたってことか……」
そう言われると嬉しい。選ばれてるんだ僕は! って気になって心をくすぐられる。
すると河合さんがジト目で僕を見ていた。
「なんか悔しいなー。奥山君が見つけられて私が見つけられないって。奥山君って『マテリアルチャージ』もできるし、重力魔法にも選ばれたし。すごく悔しいんですけど」
「それは、やっぱり僕の才能があるからだなー」
冗談交じりに少しドヤ顔をしてみた。
「まあ、オクヤマシュンには才能があるのは確かだね」
そうギルドマスターに真剣に言われて少し恥ずかしくなる。
「50階層までたったの数か月で到達。中級上位のイトウサガラにも相打ち。それは確かな才能がないと難しいからね。そうだろ、ヒメミヤアンズ」
ギルドマスターが静かに話を聞いていた杏子さんに話を振った。
「別にわたしに話を振らなくてもいいんだけどなー。でも、ぎるますの言う通りだと思うよ。あの伊藤相良ははっきり言って強いからねー。わたしもしゅんしゅんが勝てる可能性は高くないって思ってたから。でも、ここまで一気に駆け上がってきたしゅんしゅんならやると思ってたけどねー」
杏子さんが褒めてくれた。でも、勝てる可能性が高くないって思ってたのは、それが杏子さんから見た僕の実力なのだろう。
「そういうことだよ。他の冒険者と比べたらオクヤマシュンの動きと目が違うのは確かだね。動きはイトウサガラには及ばないにしても十分に動けてる。そうだね……外で何か齧ってたのかい?」
ギルドマスターがじっと僕の目を見た。
まあ、隠すこともないし別に話してもいいんだけどな。河合さんも期待の目で見てるし。
「あっ! それ私も聞きたい! 奥山君って異様にダンジョンでは生き生きしてるし、強いんだよね。仕事の時とは全然違う顔つきだから」
「えっ、そんなに違う? 少なくとも仕事でも最後らへんはしっかりしてたと思うけど」
「まー、入社当時と退職前はそうだったね。その間の数年は死んだ魚の目の時もあったよ」
「……そっか。まあ、気の持ちようが顔に出るからね」
「うんうん。……で、奥山君の強さの秘密って、外で武術でもしてたってこと? そんな話してなかったよね?」
「えー、まあ。真剣にはしてなかったかな。してなくはないけど。一応兄に連れられて武術の心得はあるつもりではいるって感じかな」
「やっぱり、何か齧ってるんだ。だから、その強さなの? でもそれだけなのかな?」
少し疑うように河合さんが見ている。
まあ、河合さんの言う通り齧っているでは少し事情が違う。あの兄さんの元で訓練していたらどれもこれも一定のレベルまで引き上げられるからな。
ていう事で、話すか。
「まあ、多分皆さん薄々は気づいてると思うけど、僕の兄があの『セイクリッド』の『奥山光』だって言ったら納得するんじゃないかな?」
「……ええっ!!!?」
僕がそう打ち明けると一際大きな声で叫ぶ声が聞こえた。それは、案の定シルクさんだった。
その他の3人はと言うと。
「そうだとは思ってたよ」
「まあ、同じ奥山だからねー」
「なんとなく異常性からしてそうだとは私も思ってたんだけどね」
と、納得がいっている反応だった。
「お、お、お、オクヤマヒカル様ですかぁぁっ!? シュンさんが、あのオクヤマヒカル様の弟!? だから、えっ!? どういう、えっ!?」
シルクさんはパニクっているようだ。シルクさんは面白い反応をしてくれるな。
「うるさいよ、シルク」
「ギルドマスタぁぁ。でも、オクヤマヒカル様ですよ!? このライトロードのトップ冒険者のオクヤマヒカル様がシュンさんのお兄様ですよ!? そんなの驚かないわけがないじゃないですかぁ!!」
「冒険者はみんな苗字を持ってるからね、オクヤマなんてこのダンジョンに二人しかいないんだから、可能性は考えられるだろう?」
「でも、流石に見た目が違うじゃないですか! オクヤマヒカル様は凄く体格がいいですし、貫禄ってものがありますけど、シュンさんはどちらかと言うと細くてシュッてしてる感じですし、共通点が無いように思えるじゃないですか!」
「そうかい? なんとなく顔も似てるだろ?」
「顔? ……そう言えば確かに目元が似てる気が……」
じっと見てくるシルクさんに目を逸らす。
まあ、兄さんとは体格が違うから初対面では似てないって言われる事が多いけど、思ってるより顔は似てるって言われるんだよ。というかシルクさんの言い方だと少し僕がけなされてるように聞こえる。まあ、圧倒的に兄さんの方が上位互換といっても過言ではないからな。
「本当に、オクヤマヒカル様の弟なんですね……ふー! ふー! ふー!」
シルクさんの息が荒くなる。興奮している様に見開いた目が僕を見ている。
その顔のシルクさんはなんか怖い。
「シルク落ち着きな。オクヤマシュンもすまないね。シルクは知っての通り雑用ばかりでまともな冒険者はニシカワケンジパーティとアンタらぐらいだからね。オクヤマヒカルの兄弟って聞いて期待が凄いんだよ」
「事情はなんとなくわかってるんで、大丈夫ですよ」
学生時代まではよく比較されてたからその見られ方をするのはわかっている。でも、そこにコンプレックスを感じた事はない。あそこまで圧倒されてたらコンプレックスを感じてても無駄だ。
「でも、奥山君の口からはっきりそう聞けたから納得したよ。外ではお兄さんが有名ってわけじゃないしピンとこなかったけど、ダンジョンの中では有名だからね。だから、奥山君も強いって言われたら納得する」
「そうだね。それでもしゅんしゅんはしゅんしゅんだからね。ていうか、奥山光の戦闘を見た事がないからわたしは何も言えないけどねー」
河合さんと杏子さんの反応はそれぞれだ。どちらかと言うと杏子さんの反応が何か心地よい。
「まっ、オクヤマシュンの強さの秘密っていうより、きっかけはわかったよ……」
「ギルドマスター!」
と話が一瞬区切れた時、訓練場の扉が開き職員がギルドマスターの名前を呼んだ。
それでもシルクさんは「オクヤマヒカル様の……弟……」と繰り返していた。
「呼び出しかい。ちょっと長居しすぎたみたいだね。って、ことで興奮してるシルクは放っておいてもうそろそろ戻ろうかい」
「そうですね。出ましょうか」
「そうだねー」
「帰ろっか」
そう4人で訓練場を後にしようと動き出した。
すると、
「……あー。えっ!? 皆さんどこに……あっ! いつの間に!? なんで置いてくんですかー!? ちょっと待ってくださいよー!」
やっと我に返ったシルクさんが後ろを追いかけて来るのであった。




