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現代にダンジョンができたら潜りますか?〜私は今の仕事にしています〜  作者: 黄緑のしゃもじ
第7章「先に進むために」

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70話-1「60階層に向けて」



「二人ともいい攻撃だったよ」


 そう言ったギルドマスターが僕と伊藤さんの剣を軽く弾いた。


 剣が盾から離れ体勢を戻し、ギルドマスターを見る。

 ここでギルドマスターが入って来たと言う事は、どちらかまたはどちらもが危ない状態だったと言うことだ。


「ふぅ……」


 伊藤さんもギルドマスターに止められていた剣を戻し、息を吐く。


「ギルドマスター。静止ありがとうございました。今ので決着はついたと判断したんですね」


「そうだね。かなりギリギリだったと判断したから、申し訳ないが止めさせてもらったよ」


「いえ、助かりました。それに、そういう約束ですから」


 そう言って伊藤さんが頭を下げる。それを見て僕もお礼を言っておく。


「ギルドマスター。僕もお礼を言ってお行きます。ありがとうございました」


「そうかい。まあ、楽しく見せて貰ったよ」


 そう言ってギルドマスターは笑った。


 しかし、最後の攻撃は完全にハマったと思ったのだが、いつの間にか伊藤さんの剣が僕の身体を斬る寸前だった。あの一瞬のタイミングで何をしたのか、謎だ。


「それで、ギルドマスター。今のはどちらの勝ちでしたか? 俺も必死だったんでどうかわからなくて。やっぱり俺が見込んだ通りに奥山さんは強かったですから」


「そうだね。まあ、アタシの見立て通りだったけどね。強いて言えばイトウサガラはちょっと余裕を見せすぎだったね。これはあくまでも訓練だからわかるけど、一個一個手の内をさらすのは愚直すぎだね」


「はははっ。そうですね。でも、奥山さんは俺の情報を持ってなかったみたいですし、ランクもレベルも俺の方が上ですからね。フェアにしようと思ったら勝手にああなりました」


「まあ、それがアンタの良い所でもあるんだけどね」


 なるほどな。伊藤さんの性格がなんとなくわかってきた。予想通りの真っ直ぐな人なんだろう。


「それで、結果だね。オクヤマシュンも気になるだろ? ちなみにアンタは最後のイトウサガラの攻撃は見えてたかい?」


「えっ? あー……。いえ、見えてなかったです」


 最後の攻撃か。まったくわからないんだよな。だから、ここは素直に言っておく。


「だろうね。そんな動きだったからね。もし、見えてたけどアタシが入るってわかって突っ込んでたって言うんなら、評価を一段階上げないといけなかったんだけどね」


 なに!? じゃあ、そう言ってたらよかった。


「それを踏まえて考えるとねぇ……まあ、それでも、オクヤマシュンの攻撃はイトウサガラに届いていた。もちろんイトウサガラの攻撃もオクヤマシュンに届いていた。威力としてはオクヤマシュンの攻撃でイトウサガラは死ななくても致命傷で戦闘不能だっただろう。で、イトウサガラの攻撃は確実にオクヤマシュンを真っ二つにしていた。そう考えるとねぇ……」


 そう言ってギルドマスターが悩む。


 ちょっと待て!? それだったら僕の負けだろ。当たってたら死んでたって言うなら実戦なら終わりだ。今回はギルドマスターが間に入ってくれたから生きてるけど、決定的に負けになるだろう。


「でも、一瞬オクヤマシュンの攻撃の方が早かったからね。それを踏まえたらイトウサガラの攻撃がオクヤマシュンを殺せてたのかと考えると微妙なところだねぇ」


 そう言ってまたもや悩むギルドマスター。


 ん? つまりは、僕の攻撃の方が早いけど伊藤さんを殺せないから、伊藤さんの攻撃は僕に当たる。でも攻撃がずれたりして僕を殺すには至らない。そうなると両方致命傷で終了、と言う事か?

 てことは、つまり?


「じゃあ、これは俺と奥山さんの引き分けってことですね?」


「ん? そうだね。どちらも戦闘不能と言う事であればそうなるね。でも、どちらが上か決めなくていいのかい?」


「はい。大丈夫です。どちらが上かじゃなく、奥山さんの実力がどれほどか知るのが俺の目的だったんで」


「そうかい。なら、そうしよう」


 そして、ギルドマスターが訓練場にいる全員に聞こえるように言った。


「この勝負! 両者引き分けだよ!」


 すると各陣営から声が上がった。


「まじか!? 相良が勝てなかっただと!?」


「ははっ、相良さんが勝てない相手って……最近周りにいすぎですよ……。これはちょっと考えを改めないといけないですね……」


「すごっ! 相良がね……あの奥山って人相当強いわね」


「いやー、相良さんが勝てないってどうなってるんすか? そんな強い人が俺達よりもレベルが低いんすか?」


「うそでしょ。相良さんが引き分け……」


 伊藤さん陣営からそんな声が聞こえた。

 そして、河合さんと杏子さんはすでに僕の近くまで歩いて来ていた。


「お疲れ、しゅんしゅん。中々いい勝負だったよー」


「凄いよ奥山君! 色々意味わからないことがあってびっくりしたけど! とにかく凄かったよ!」


 手放しで褒めてくれる二人に少し照れ臭くなる。


「いやー、伊藤さんが胸を貸してくれたんだよ」


 そう口にはするが、内心は勝つ気でいたので悔しいのは悔しい。レベル差があるからこそ、自分の手札をほとんど切ったんだ。勝ちたかった。


 すると伊藤さんが「何を言ってるんですか」と入ってくる。


「奥山さん。謙遜はやめてください。俺があのスキルを使うぐらい強かったんですから。まあ、ギルドマスターに止められてしまったんですけどね」


「いや……そうですか?」


 やっぱり最後のは何かのスキルか。じゃないとあの体勢からもう一度剣を振り切るなんて難しいだろうし。


「そうですよ。奥山さんは強い。俺が認める強さです!」


 そう自信満々に言う伊藤さんを見て少し口角が上がる。

 本当に真っ直ぐな人だな。嫌いじゃない。

 そう思うとなぜか伊藤さんにつられて口が軽くなったようで、


「わかりました。じゃあはっきり言うと、やっぱり勝てなかったのは悔しいです」


 そう口走ってしまった。

 すると伊藤さんが、笑った。


「あはははっ! いいですね! やっぱり俺が見込んだ通りだ! 奥山さんのその見た目に出ないけど内側に秘めてる野心。負けず嫌いってやつですかね。俺は好きですよ!」


「なっ!? いや、勝てない可能性があっても勝ちたくなるってのは誰しも思う事ですよね? だから僕もってぐらいなんですけど……」


「そういうところがいいんですよ! やっぱり俺と考えが似てる!」


 似てるって、僕は伊藤さんみたいに戦いが貪欲に好きってわけでは……いや、ダンジョンに来てからは好きか。それに、元々負けず嫌いとかなかったんだけどな。ダンジョンに関しては思うところは凄くある。

 ていうか、他人にそう言う事言われると恥ずかしいな。


 すると伊藤さんが手を差し出してきた。握手なのだろう。


「奥山さん。今日はありがとうございました。有意義な時間でした」


 そう言われて伊藤さんの手を握る。


「こちらこそ。ありがとうございました。色々と学べました」


「それは良かった」


 すると伊藤さんが少し握手の手に力を入れた。


「それで一つお願いがあるんですけど……」


 お願い? まさか! 勝ったら伊藤さんのパーティに入るって事か? でも今回は引き分けだから勝った事にはならないのでは?


 そして伊藤さんが言った。


「せっかくこうやっていい縁ができたんです、敬語は無しにしませんか? それに俺の事は相良でいいですよ。俺はもっと奥山さんと仲良くなりたいんです!」


「……えっ?」


 思っていたお願いと違って変な声が出る。


「ダメですか?」


 と伊藤さんが首を傾げる仕草をする。

 なんだそれ!? やめろ! それを男が言っても誰も得しないから!!

 でも、伊藤さんのイケメン度でその感じが絵になってるのはイケメン補正か!?

 という伊藤さんからの謎の圧力で頷いてしまう。


「いや、ダメじゃないですよ。えっと、わかりました」


「おっ! よかった! これから何かしら絡むことがあるから、よろしく!」


「あ、うん。よろしく」


 そう言って伊藤さんもとい、相良さんが握手している手を大きく振った。

 こういうところが子供っぽいんだよな。

 あっ、そうだ。


「ちなみに、相良さんの年齢は?」


「俺は27歳だよ。奥山さんは?」


「え、僕は26だけど……たぶん同級生だな」


「ってことは早生まれかー! なんだ、いっしょだな!」


 凄くフランクになったな。

 ぐいぐい来るタイプはあまり得意じゃないけど、この人の人となりを大体知ってしまっているから、そうされたら別に嫌じゃないと思ってしまう。


 そこから少し雑談が始まったが、すぐに相良さんの後ろに来ていたフルプレートの男性が声をかけてきた。


「相良、話は終わったか?」


「あ、はい。天宮先輩! 無事に奥山さんの実力も知れましたし、友達にもなりました!」


「それは良かったですね。それで、肝心の引き抜きの件は?」


「ん? 勇斗、それは無しだろ。話し合いも無し。今回は引き分けだったからな。俺が勝てたらって話だったし、無しだ」


「そうよね。そう言うところ相良は馬鹿真面目だから、今日はこれで帰りましょ」


「おい、優希菜! 馬鹿とはなんだ馬鹿とは!」


「相良さんは馬鹿じゃないですよー。少しアホなだけなんですよ」


「それもダメだろ!」


「未玖も優希菜さんもそれ以上相良さんをいじめちゃダメっすよ!」


 とワイワイと盛り上がり始めた。

 するとフルプレートの男性と隣に立っていた魔法使い風の男性が僕に頭を下げた。


「今回は急な対応感謝します。見た通り相良はああいう性格なんで助かりました」


「僕からもお礼を申し上げます。ありがとうございました。それと、相良さんはああ言ってましたが、もしよければ後日チームに加入の件……いや、やっぱりやめておきます」


 魔法使い風の男性が途中で話を止めた。たぶん、杏子さんが睨んでたからだろう。


「ていう事で、俺達はこれで退散します。相良含めて連れて帰りますので。あと、ギルドマスターもお手数かけました」


「いいよ。冒険者の面倒を見るのがギルドの仕事だからね。イトウサガラ以外もこんな感じで沢山模擬戦しなよ。イトウサガラにおんぶにだっこになる事は許さないからね」


「あははっ。手厳しい。もちろん、俺達も強くなりますよ」


 そう言って男性達はギルドマスターに頭を下げて出口に向かって歩いて行った。途中で相良さんが「ギルドマスター! ありがとうございました!」と大声で叫んでいたのは相良さんらしい。最後まで激しい嵐の様な人だった。


 そして忘れていたが、中村さんも優希菜と呼ばれていた女性に連れられて、とぼとぼと後ろを歩いてついて行った。


 しかし、中村さんのあれは何だったんだろうか? それ以上に得られるものがあったから忘れてたんだけど……。

 と、少しだけもやもやが残っていた。






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