69話-4「伊藤相良」
「すごい! ここまで俺と戦えるなんて! やっぱり奥山さんは思った通りだ!」
剣を肩に担いだ伊藤さんが笑いながら大声を上げる。
どれだけ元気なんだよ。今のは僕の起死回生の一手だぞ。ダメージ受けて満身創痍の状態でいてくれよ。
身体は燃えていないが少しはダメージがあったのだろう、剣を地面に刺し一息つくように息を吐いた。
それを見ながら、周りからは驚きの声が聞こえる。
「おいおい、まじかよ! 今ので勝ててないのか! 相良の攻めを受け切ってあんなことで対処するとは……」
「相良がここまで攻めきれてないの初めて見た……」
「そうっすね。俺らのレベルと明らかに違うっすよ……」
「回復魔法も使えて……僕達よりもレベルが低くい冒険者でこの強さの人がいるとは……」
「信じられない……」
河合さん達の声も微かに聞こえる。
「今のはギリギリだったね。しゅんしゅんも思い切ったことするなー。あのタイミングならあれはありだね」
「ギリギリって、魔法をあんな近くで使って爆風で離れるって自殺行為だよ!? 怪我するし普通躊躇するよね? 奥山君どうなってるの!?」
伊藤さんは一息吐いたかと思うとすぐに剣を持ちゆっくりと歩き始める。
やっぱ強いな、伊藤さん……。
それと、ここまでの攻防に時間はそんなに経ってないんだよな。実際、魔力もSPもまだ半分も使ってない。この人相手に大きい魔法は使えないし、今の『アイスエイジ』でさえ対応された。もっと大きな隙をつかない限りは大技は決められない。
でも……
「はははっ」
「ん?」
口から笑いが漏れた。
そりゃそうだ。ここまで対応された敵は『暴虐の鬼王』以来だ。あれと比べたらどうかと思うが、自分の思いっきりの力を試せる場が楽しくないわけがない。
「やっぱり。奥山さんもそうなんですね」
そう伊藤さんも笑いながら言う。
レベルは相手が上。スキルレベルも相手が上。だから剣技の技術も相手が上。その上、自衛隊だから基礎的な運動能力も上。勝ってるとしたら魔力ぐらいだろう。そんな格上の相手にどう対応するか。
この人があっと驚くような行動をするしかない。
ははっ! 俄然この人に勝ちたい気持ちが膨れ上がってきた!
「まだまだいけますよね? 奥山さん!」
「もちろん!」
そして同時に動き出した。
こっちは『加速』、相手は『加速』じゃないのに速い。いや、速すぎるだろ!
そして剣と剣がぶつかり合う。
「ははっ!」
何度も金属音が鳴り響き、火花を散らす。
上下左右に振られる剣を受け、反撃も加えながら伊藤さんと剣を打ち合う。
スキルレベルと技術の問題で剣の打ち合いではこっちに分が悪い。その中でできる事は魔法を牽制に加えながら隙を作る事だ。
「スラッシュ! 『アースボール』」
剣を振り、次の攻撃の間を埋めるように魔法を放つ。剣だけの連撃よりも手数を多くするためにほぼ自動的に『スラッシュ』と『アースボール』を放ち続ける。
いつも使い慣れている『ファイアーボール』じゃないのは、伊藤さんが炎耐性があるようだからだ。
何度も同じ攻撃をして、伊藤さんに攻撃の隙を与えなくしているのだが……伊藤さんはそれを全て受けながら反撃を仕掛けようと狙っている。
手を止めたら一瞬でやられる。
わかっていた事だが、普通の剣では伊藤さんに勝てないと確信した。勝てるなら魔法でしかないだろう。
だったら!
「『アースボール』2連! リア・スラッシュ!」
岩球を左右から放ちそちらに意識を向けさせる。そして一撃大きいのをお見舞いすれば!
「それぐらいは、隙にならないな!」
一瞬で岩球を斬られて、すぐに『リア・スラッシュ』を止められるがそれはブラフ。『リア・スラッシュ』ではなく、『パリィ』と『スラッシュ』だ。伊藤さんの剣を弾く。
そのタイミングでバックステップに『空歩』を加えて一気に距離を開ける。
「『アイアンハンマー』!」
そして伊藤さんを潰すかの如く上から鉄の円柱を落とした。
炎がダメなら物理系魔法で攻める。でもこれで油断しない。手を前に構え、魔法を練る。
すると伊藤さんを潰したはずの鉄の円柱が真っ二つに斬れた。
ほらな。これぐらいなら、簡単に斬れるんだろ。だったら、これならどうだ!
「『ライトニング』!」
「っ!!」
鉄の円柱が左右に倒れた瞬間、伊藤さんに雷が落ちた。
これは効いたか!? まともに当たったんだ。少しはダメージを受けててくれよ。
それでも伊藤さんは倒れない。だから、まだ攻撃は止めない。『ライトニング』の雷が消える前に次の魔法を放つ。
「『アースキャノン』10連」
10個の岩球が伊藤さんに向かって一斉に放つ。そして間髪入れずに次の魔法を練り、放つ。
「『アイアンドライブ』!」
円錐状に作りあげた黒く光る鉄の塊を回転させながら発射した。
鉄の塊と言っても魔力でできているので岩なのか魔鉱なのか何なのかわからないが、強度と威力は高い。
伊藤さんでもこれをまともに食らえば風穴は空くだろう。腕一本でも奪えたらそれで手合わせは終了だ。
しかし伊藤さんは10球全て剣で斬り落とし、『アイアンドライブ』を剣で受けた。
回転する『アイアンドライブ』が伊藤さんの剣とせめぎ合い火花を散らしている。
「はあぁぁっ! ふっ!」
そして上空に弾き飛ばした。
「これもダメか……」
声が漏れる。
だが、諦めるわけではなく、まだまだ警戒は怠らない。この距離なら一瞬で詰められる。
剣を構えて次の魔法を練り上げる。
タイミングがくるまで遠距離で魔法を放ち続けたらいい。一瞬の隙を見つけろ!
しかし、伊藤さんの次の動作が予想外だった。
「ん?」
伊藤さんがその場で剣を上段に構えた。
何をしてるんだ? どれだけ伊藤さんが速くてもこの距離なら僕の方が先に魔法を当てられる。何をしても……っ!!
「はぁっ!」
その掛け声と共に、伊藤さんが剣を振り下ろした。
すると見えない何かが空気を斬る様に飛んできた。風切り音と空気の揺らぎで飛んできたとわかり、咄嗟に剣を横に構える。その瞬間、剣が弾かれ吹き飛ばされた。
「……は?」
なんだ今の!? 魔法か!? そりゃ伊藤さんも魔法を使う可能性はあるだろう。今までの攻撃手段が剣だけだったから意識が抜けてた。
吹き飛ばされたが、空中でバランスを整え地面に着地する。
遠距離攻撃もあるのか。くそっ! 作戦を変えるか。
でも、どの魔法だ。この威力でこのスピード。『エアハンマー』でもこの威力は魔力の練りが必要だ。でも伊藤さんが魔力を練った感じはしなかった。どういうこと……まさか!
そして目の前の地面が縦にえぐれていることに気付く。
斬撃の様な痕。それが意味するのは……。
「まさか、このスキルまで使えるなんて、予想以上だ!」
伊藤さんが笑いながら次の攻撃をするために構えた。
「剣のスキルレベル6。『エアリアルソード』。今の反応だと奥山さんはまだレベル5みたいですね。ちょっとずるいかもしれませんけど……防いでくださいね!」
「まじか……」
そして伊藤さんがその場で剣を縦横に振った。縦2、横2の合計4撃の飛ぶ斬撃が空気を斬りながら向かってくる。
伊藤さんの剣のスピードなら4連撃と言うより同時に4撃が1撃としてくる感じだ。それを僕の剣速では対応できない。それにさっきの威力だと想定したら、対処するための選択肢は一つしかない。
「バーストブレイカー!」
剣を上段がから一気に振り下ろす。
そして、光る剣は4つの飛ぶ斬撃を一度に消し去った。
この攻撃は免れた。でも、これは大きな隙になる。予想通りならすでに……。
「これで、俺の勝ちだ!」
ほらな。
左にすでに回り込まれており、伊藤さんは剣を振り切る体制だ。こうなる可能性はあると思っていた。
ここまでの伊藤さん攻撃の特徴として、正面からの打ち合いが好みであり、からめ手は使ってこない。ここまでこのスキルを使わなかったのは単純に僕の剣のスキルレベルに合わせていたからだろう。でも、スキルを使った。そうなれば選択肢は二つ。まだ決着をつけずに戦闘を楽しむか。ここで決めに来るかだ。
そして伊藤さんは決めに来ることを選んだ。
……と考えられていても、この状態は剣では対応できない。それにさっきの魔法も通用しないだろう。
でも、だからこそ……だからこそこのタイミングを待っていた。イレギュラーは有ったが間に合う。
鉄でも斬るなら、炎でも斬るなら、斬れない魔法を放てばいい。
チャンスはここだ!
「っ!」
僕が伊藤さんを目に捉えた瞬間、伊藤さんは上を警戒する様に向いた。上から来るプレッシャーに違和感を覚えたのだろう。
剣でその魔法ごと斬るために上段に構えを変えた。
そして剣を振り切った。
でもそれじゃ――無理だ。
「『グラビティ』」
その瞬間、重力が伊藤さんの腕を襲い、剣が僕に達する前に勢いよく地面に刺さった。
「なっ!?」
今までに無い攻撃に伊藤さんの表情が変わる。予想していない攻撃が来ると戸惑うだろう。
実際は伊藤さんごと地面に叩きつけるつもりだったのだが、攻撃を逸らしただけで済んでいる事に驚いている。でも、『暴虐の鬼王』と戦った経験でこれぐらいの事は予想している。格上には攻撃は半分も通用しないと。
だから、この隙があれば――いける!
「『マテリアルチャージ』!」
横薙ぎに構えた剣が赤い光を放つ。
こんな状態でも通常の攻撃なら対応される。だから、全力でいかせてもらう!
「バーストブレイカー!」
そして剣を振った。
このタイミングなら対応されない。これが今の僕のできる最高の攻撃だ。そう信じて剣を振り切った。
そして、
「二人とも、中々良かったよ」
そう言ったギルドマスターが伊藤さんに当たる前に僕の剣を漆黒に光る盾で防いでいた。そして、僕の胴体に迫る伊藤さんの剣を漆黒に光る剣が防いでいた。
「まじか……」
その状況に一瞬遅れて頭が理解する。
ギルドマスターが左手で持つ盾が僕の攻撃を全て散らしているようで伊藤さんに届いていない。そして右手で持つ剣が僕の胴体を斬るはずの伊藤さんの剣を届かせていなかった。
つまり、この状況は――引き分けまたは僕の勝ち、というわけではないのだろう。




