69話-3「伊藤相良」
「それにしても相良相手にここまで戦えてるのってすごいよね」
「そうですね。相良さんに少しでも対応できてるのは、強いです」
「もしかしたらマルだったら負けるんじゃないのか?」
「それはひどいですよ、隊長! ……でもその可能性はあるかもっすね」
「私は負けるつもりはないけどね」
そんな事を言っている自衛隊の5人と別に河合さんと杏子さんも話してた。
「奥山君とまともにやり合ってる時点で相手も強いんだね。伊藤相良って名前はよく聞いてたけど、ここまで強いって」
「まあ、60階層超えてるだけあって強いよね。わたしも戦ったけど、今見せたのは序の口かな。ここからもっと強くなるよ」
「これ以上に? 奥山君大丈夫かな?」
「うーん。どうだろうねー。しゅんしゅんがどう動くかによるかなー」
外野がそんな話をしている中、伊藤さんは嬉しそうに剣を構えなおした。
それを見て僕も剣を構える。
本気と言う事は倒す気で行くと言う事だ。今の攻防でこの人の強さの一部を垣間見た。だから、もう1,2段階レベルは上という認識で戦う。
「じゃあ、気を取り直して行きますよ、奥山さん!」
そして、伊藤さんが地面を蹴った。その踏み切りは地面がひび割れるほどで、『瞬動』による移動はさっきまでよりも速い。
ていうか、そっちも手抜いてたのかよ!
振り下ろされる剣に合わせて振り上げる。先手は取られているが、タイミングが合えばいける。
「パリィ!」
「むっ!」
振り下ろされた剣を『リアスラッシュ』を加えた『パリィ』によって弾いた。
見える攻撃なら対処はできる。ステータスによる恩恵で今のスピードなら目で追いかけられる。
じゃあ次はこっちからもいかせてもらう!
「『ファイア・キャノン』10連!」
今度は囲むように作るのではなく、連弾で伊藤さんを狙って放つ形だ。
「おっ! これは」
そう言いつつも、伊藤さんは炎球を次々と剣で斬り落としていく。そんな簡単に斬れるほどしか魔力を込めてないわけではないのだけど……。
魔力はSPで対応する事ができる。つまり『スラッシュ』を纏っていたら魔法は斬れる。それでも魔法と同じで相手の込めた魔法よりも大きくなければ斬る事はできないし、逆に被弾して致命傷になる可能性もある。
でも、この人のSP操作は絶妙なのだろう。魔法の切り口がきれいであり、破壊しているわけではない。
それだけで技術の高さがうかがえる。
「相良さんはああ見えてスキルの扱いが上手ですからね」
「見極めが凄いっすよね」
「でも、あの数の魔法を放って剣も使えてるあの人も凄いよ」
「だな。これは、もしかする事もあるかもな」
「いや、それはないでしょう。あの相良さんですよ?」
剣を振り切った伊藤さんは体制すら崩していない。通常ならここから一気に剣で攻めるのだが、攻める隙が見当たらない。
「来ないんですか? なら、こっちから行きますよ!」
相良さんが移動するモーションをかけた。先ほどと一緒で『瞬動』による一点突破なのだろう。
隙が無い……いや、隙が無いなら作ればいい。
「『スパーク』!」
接近する前に自分を中心として電気の膜を広げた。それに踏み出した伊藤さんが引っかかる。
「くっ!」
しかしそれも一瞬で、すぐにバックステップしてその電撃から逃れようとする。
でも、一瞬でも隙は作れた。
「『ウォータープリズン』!」
伊藤さんを水の檻で捕まえる。でも、これぐらいは一瞬で対処されるだろう。
思った通り、一瞬で斬り裂かれて水の檻が解ける。
「良い連撃! でもこれなら……っ!」
「リア・スラッシュ!」
剣を横薙ぎに伊藤さんに向かって振り切る。
剣で受けた伊藤さんの体勢が崩れた! 『スパーク』と『ウォータープリズン』の二つで足止め、一瞬でも体勢を崩せれば儲けもんだ!
たたみかける!!
「スラッシュ! (チェーンコネクト)、ダブルスラッシュ! (チェーンコネクト)、リア・スラッシュ!」
「おおっ!! くっ!」
ダブルスラッシュを含めた4連撃。いつも通りの連撃は受けられた。これぐらいなら受けられるのは想定済み。
だから、まだ続くぞ!
「(チェーンコネクト)ラッシュソード!」
10連撃。片手剣対両手剣。剣の振るスピードはこっちが早いはずだが、それでも伊藤さんに全て受けられる。
だったらもう一撃だ! スピードがダメならこれならどうだっ!
「(チェーンコネクト)バーストブレイカー!」
「これは……」
僕の最大の一撃のスキル。『チェーンコネクト』によって増幅された攻撃は単体の『バーストブレイカー』よりも圧倒的に強い。『チェーンコネクト』も自身の限界の4回繋げた。
しかし伊藤さんは、
「バーストブレイカー!」
同じ剣スキルで真っ向からぶつかった。
「っ!?」
「っ!!」
弾ける剣撃と剣撃。スキル同士のぶつかりは周囲に激しい余波を生み出し、その瞬間両方とも弾けるように吹き飛ばされた。
「ぐっ……」
吹き飛ばされた事で地面を転がるがすぐに起き上がる。
十メートル以上離れた所では伊藤さんも起き上がったところだ。そして笑っている。
「うそ……奥山君の攻撃が相殺された!? チェーンコネクトで繋げてたよね?」
「うん。思ったよりもやるね、伊藤相良。しゅんしゅんの一撃のタイミングをずらしたのかな」
いやいや、まじかよ。あのタイミングで返されるとかどれだけの技術だよ。完璧に決まったとは思ったけど……これはもう一段階上方修正か。
「すごっ……相良と互角なんだけど……」
「うそ……相良さんと渡り合ってる!?」
「これ、隊長が言ってた通り、俺は勝てないヤツっすね……」
「マルだけじゃないだろ。僕達の中では難しい可能性も……」
「だろうな。俺もやばいかもしれん」
そして伊藤さんは笑いながら剣を構えて、声を上げた。
「流石、奥山さんです! 一瞬やられたかと思いました!! でも、俺もそう簡単にやられませんよ!」
一瞬やられたと思われただけで終わってたまるか。今までのボスならワイバーンでも重傷だぞ。
……これが60階層の壁ってやつか。
「でも、これだけで終わりじゃないですよね! 俺はまだまだ行きますよ!」
なら、その壁がどれぐらいか見てやる!
走り出した伊藤さんに合わせて僕は魔法を構築する。
あのスピードなのに今見ると『加速』を使ってないんだよな。『瞬動』の応用か? この人も面白い使い方をしてるな!
でもそんな事を悠長に思ってられない。
目標は僕の周り全部、避けられても捉えればいい!
練り上げる魔法は氷。
さっきの炎の散弾の様な攻撃は全て剣で斬られる。なら、固めてしまえばいい。
「『アイスエイジ』!」
「っ!!」
地面を這う魔力が伊藤さんを捉えた瞬間、氷の柱が立った。そしてその周りを囲むように一気に氷漬けにする。
「これなら……っ!? 嘘だろ!」
しかし目の前の状況に驚愕してしまう。目の前の氷が爆ぜ、その中から伊藤さんが走ってきた。
あれを避けるのか!
いや、よく見ると左足が凍っている。全ては避けきれなかったようだが、それでもこの機動力はやばい!
「スラッシュ!」
近づいて来た伊藤さんが剣を振り下ろした。
凍っても攻められるとは思ってなかった。というより、少なくとも足止めができると思っていたから、対応に一瞬遅れてしまう。『パリィ』も間に合わないまま剣を受け切る事になる。
「ぐっ!」
重い! スラッシュにどれだけのSPが込められてるんだよ!
しかし、そこからが伊藤さんの反撃だった。
「スラッシュ!」
「くっ!」
「スラッシュ! スラッシュ!」
「くっ!」
「スラッシュ! スラッシュ! スラッシュ!」
「くぅっ!!」
続けざまに『スラッシュ』の連撃。そのスピードは僕の『ダブルスラッシュ』や『ラッシュソード』と変わらない。
この人、素でスキル並みの連撃してやがる!
そして伊藤さんはもう無駄口を叩いていない。目が真剣だ。
そして連撃が続く。ここぞとばかりに僕がぎり受けられるスピードで攻めてくる。受ける事に精一杯で反撃ができない。
このままだったらやられる。
「スラッシュ!」
「くっ! ……っ!?」
そしてその攻撃を受けた瞬間、寒気が全身に走った。それは死の警告の様な明らかに感じられた殺気。
伊藤さんの剣の光が今までとは違う。
今の体制は剣を受けた反動で片足しか地面に付いていないことに加えて下半身に力が入っていない。この状態で避ける事は難しい。この一瞬の隙を狙っていたのだとわかる攻撃。そして明らかにわかる大技。来るのは『バーストブレイカー』ではなく『リア・スラッシュ』だろう。しかし、この威力なら『リア・スラッシュ』でも死ぬ。
どうする!? 石の壁でも一緒に斬られる。剣を振っても勢いを殺せず無駄。距離を開けるための『瞬動』も『空歩』も使えない。練っていた、いつでも発動できる炎魔法では止められない……どうする、どうする!?
そして、伊藤さんが剣を振り始めた。
スローモーションの様に動く世界。
これが走馬灯の様な状態なのだろう。初めて感じた……いや、死にかける事は何度もあった。『虐殺のオーガ』から始まり『暴虐の鬼王』に至るまで数回。だからか、死ぬ恐怖は知ってるし、その打開策も知っている。
この一瞬を打開するにはどうするかは、もう一つしかない。
死ぬ気で間に合わせろ!
「リア・……」
「『フレイムバンナート』!」
「スラッシュ……っ!?」
その瞬間、僕と伊藤さんの間で爆発する様に炎が燃え広がった。
それは一番慣れた魔法。河合さんと合わせるためによく使っていた魔法が瞬時に発動した。
その勢いで弾き飛ばされた僕は、燃えながら数メートル地面を転がる。
「『ウォーター』」
大量の水をかぶり、体に纏わりついていた炎を鎮火させる。
激痛が全身に走る。それでも意識は跳んでいない。目も見えている。だから見るのは僕と同じく吹き飛ばされた伊藤さんだ。炎に包まれてはいないが、目の前で起こった炎は伊藤さんにもダメージを与えていたようだ。
そして手を前にかざし魔力を練り上げ、発動させる。
「『エクスプロージョン』!」
伊藤さんを中心に爆発が起こった。
魔力の練り具合は浅かっただろう。でも、ダメージは与えられてるはず。
爆発の煙はまだ伊藤さんの姿を隠している。
それにしても今のは危なかった。あれを食らえば確実に死んでたな。でも対処できたぞ。全身痛いしダメージが残ってるけどまだ戦える。
「『癒しの女神よ。我に癒しを施す祝福を』『ハイ・ヒーリング』」
全身が緑色の光に包まれて傷が癒えていく。東京ダンジョンで貰った上級回復魔法だ。有効活用させてもらう。
魔力とSPは回復しないが痛みが消えれば十分だ。
すると徐々に爆発の煙が晴れてきた。
――そして目的であるその人物は、
「あははははっ! やっぱり、奥山さんは凄いなっ!!」
笑いながら剣を肩に担いで立っていた。




