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現代にダンジョンができたら潜りますか?〜私は今の仕事にしています〜  作者: 黄緑のしゃもじ
第7章「先に進むために」

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69話-2「伊藤相良」



 伊藤さんと一定の距離を開けて向かい合う。

 そして僕達が危なくなればすぐに止められるようにギルマスが両方を均等に見れる場所に立つ。


 そしてお互いに剣を抜いた。


 伊藤さんの剣は両手剣で、片手剣よりも少し長いぐらいだ。魔法を使うのかわからないが、警戒はした方がいいだろう。相手はかなり強い前提で動くべきだ。

 事前に聞いている到達階層だけで考えれば兼次さんよりも強い。魔法なら杏子さんクラスと考えて動いた方がいいだろう。でも、この人がどういうスタイルかわからないうちは様子見もありだ。なら、全力で様子見をする。

 合図と共に魔法を使えるように魔力を集中しながら、ギルドマスターの合図を待つ。


「じゃあ、二人ともいいかい?」


「「はい」」


「始めっ!」


 ギルドマスターの合図と共に魔法を構築した。


「『フレイムブロード』!」


 その瞬間、伊藤さんをめがけて炎が発射した。

 先手必勝。中村さんの時とは違い油断はしない。


 しかし伊藤さんは、その炎を斬った。


「なるほど。魔法を使うとは聞いてたけど、牽制とかじゃなく本当に攻撃手段としてなんだな。なら接近戦持ち込むだけ。しゅん……っ!?」


 伊藤さんが移動モーションに入った瞬間、その周りには複数の炎の球が浮かんでいた。


「『ファイア・キャノン』20連。中村さんの時よりも威力は強いですから」


 そう呟いて左手を握る仕草をする。それと同時に一気に炎の球が伊藤さんを襲った。


「この攻撃をどれだけ防げるかでこの人のレベルの高さが測れるんだけど……って! まじか!」


 伊藤さんの剣の速度に驚いてしまう。

 迫りくる20個の炎の球を一個一個丁寧に全て斬り落としたのだ。


 両手剣をそのスピードで振るか!? それに双剣のスキル『ラッシュソード』を使ったにしても一本で20の斬撃はやばい。


「良い魔法だな。でもこれぐらいなら、対応できますよ!」


 そして『瞬動』で一気に詰めてきた。


「魔法だけでなく、剣も見せてください!」


 伊藤さんの剣が振り下ろされる。


「んっ!?」


 しかしそれは僕に当たらず空を切った。

 その場にいたはずの僕を斬れなくて伊藤さんが一瞬驚いた表情を見せる。


 今の一瞬の攻防では普通に移動しただけでは攻撃を食らっただろう。しかし、今使ったのは槍のスキル『空歩』。『瞬動』の足にSPを溜めて蹴る様に一気に距離を詰めるスキルではなく、『空歩』は任意の距離をスライドする様に移動する。まだ細かく使いこなせていないが、距離を開けるスキルとしては有能だ。距離を開けるだけなら『瞬動』よりも使い勝手がいい。


 それと、これは手合わせだからな。


「まだ見せませんよ。『フレイムピラー』!」


 下から突き上げるように炎の柱が伊藤さんを襲った。

 しかし、そう簡単には捉えられないようだ。


「危なっ! 今のは危なかった!」


 炎の柱の後ろから横に移動する様に出て来た伊藤さんが焦ったように額の汗を拭う。


「接近戦に持ち込まないようにここまで魔法を使って罠を張るのか。面白い使い方をするなー」


 僕の魔法の使い方に感心したのか伊藤さんがしみじみと言ったようにうなずいていた。


「それにスキルの方も多彩なんですね。今のは槍のスキルだったはず」


「詳しいですね。伊藤さんも色々とスキルを持ってるんですよね?」


 ここまで強いと伊藤さんも普通に複数の武器のスキルを持っているだろう。

 しかしそれは外れたようで、


「いや、俺は剣のスキルしか持ってないよ。剣と双剣の二種類だけ。それもほとんど剣ばかり使ってるんで、双剣も育ってないですけど」


「……へー。そうなんですね」


 そんなわけないだろ! 『ラッシュソード』を使ってる時点で双剣はレベル3だし、ここまでの強さなら複数スキルを持ってる事がデフォだろ。

 今の攻防だけで強いのはわかる。掠るか一発当たると思っていたのに全くだ。


 この人、言葉でもからめ手使ってくるタイプなのか? そんなタイプには見えなかったけど。


「じゃあ、小手調べはここまでにして、もう一段階上げますよ。せっかくの手合わせなんでもっと訓練にならないと損ですから!」


 そして一気に駆けてきた。『瞬動』は使ってない。ただ単純に走ってきているだけだが速い!


「じゃあ、いきますよ! スラッ……」


 その瞬間伊藤さんが炎に包まれた。

 まっすぐ来るとは思ってなかったが、置いていた魔法が発動した。罠までとは言わないが『フレイムピラー』などは魔法の発動場所を決められる。任意の場所に置いたらそのまま来るのを待てばいい。多分いつかは罠みたいに設置できるようになると思う。


 それにしてもここまでまともに魔法を食らったら伊藤さんでも……っ!?


「……シュ!」


「っ!!」


 炎に包まれてもお構いなしに剣を振り切ってきた。

 振り下ろされた剣は空を切る。

 ギリギリ避けれたけど、追撃が来る!


「スラッシュ!」


 一歩踏み込んだ伊藤さんが横薙ぎに剣を振った。その剣は吸い込まれる様に僕の胴体に向かうが、


「くっ!!」


 金属音が鳴り響く。

 剣が間に合ったが『スラッシュ』しか使えない、ぎりぎり間に合っただけだ。


 炎に包まれた状態で攻めてくるとは思わないだろ! モンスターでも躊躇するぞ!


「今のが受けられるのか。剣も強いようだ」


 僕はその場からバックステップで下がり距離を開ける。そして伊藤さんはその場で剣を構えなおした。

 ……燃えてない。スキルか魔法か防具か。……全部知らないな。その時点で一歩先に進んでる。


「今のだけでわかりました。やっぱり奥山さんは強い」


 そして伊藤さんが笑いながら言った。


「やっぱり、僕達のチームに入りませんか?」


「はい?」


 急に何を言い出すんだ?

 いや、仲間にしたいとか言ってたからそりゃそうだろうが。


「今の俺達の到達階層は62階層。60階層からは一気に難易度が跳ね上がります。例えば……」


「おい、イトウサガラ。それ以上は言っちゃぁいけないよ」


 伊藤さんが何かを言いかけた瞬間、ギルドマスターから魔力と共にプレッシャーが飛んだ。


「あっ! すみません、ギルドマスター。ちょっと言い過ぎるところでした」


 ギルドマスターに頭を下げる。


「それで、奥山さん。俺達は先に進むために新しい戦力になる仲間を探しています。だからあなたみたいな強い人がいいんです。仲間になってくれませんか?」


 この人直球だな。

 でも無理だ。


「褒めてくださるのは嬉しいですけど、無理ですね。最近やっと新しくパーティ組んだばかりなのもありますし、今のパーティを抜ける気はないんで」


「そうですよね。でも俺はあなたと一緒にダンジョンを攻略したい。だから提案です」


「提案?」


「はい。俺が勝ったら俺のチームに入るという賭けをしませんか?」


「……は? 何を言って……」


 そう言いかけると伊藤さんの後ろから声が上がった。


「相良! 何言ってるのよ!」


「そうだぞ相良! 戦いでなんでも決めるんじゃない! しっかり話をするべきだろ!」


「えっ? みんな?」


 その声に伊藤さんは「何を?」と言いたげに首を傾げた。


「もちろん話はしっかりする。だから俺が勝てばもっとちゃんと話を聞いてくれるはずだろ? それにこうやって何かを懸けた方が奥山さんももっと真剣に戦ってくれるんじゃないですか?」


 そう言って伊藤さんが僕を見た。

 その目は僕の考えを見透かされているように見えた。


 でもその通りだ。今回の手合わせはあくまでも手合わせ。勝ちにこだわりはない。全力ではやるが、自分にメリットがある様に動く予定だった。だから、今の戦闘も伊藤さんがどうやって動くのか勉強するために魔法だけで攻撃してみたり受ける逃げるを中心にした。この後は剣でどれだけ戦えるのかも試してみようとも思った。相手のスキルを引き出すことも考えてた。

 だから勝つために今戦っていたわけではない。

 でもそこが伊藤さんにとっては引っかかるところだったのだろう。だから僕を本気にさせようとそう言ったのだろう。

 その提案は面白そうだ。でも、それを勝手に乗ったらダメだろうな。


「しゅんしゅん!」


 ほらな。杏子さんが僕をじっと見てる。そして伊藤さんを睨んだ。


「ねえ、勝手にわたしのパーティメンバーを勧誘しないでくれないかなー?」


 それは杏子さんも言えた事ではないけどな。


「まあ、入るかどうかはしゅんしゅんが決める事だけど、最近パーティ組んだばかりなんだからはっきり言ってそれは非常識だよねー? だから、公務員はきらいなの」


「姫宮さん、すみません! 相良には後できつく言っておきますから!」


 杏子さんの言葉に伊藤さんではなく、フルプレートの男性が頭を下げた。この人が伊藤さんの上司なんだろうな。

 その人を一瞬見た杏子さんはすぐに伊藤さんを見る。


「あなたはただしゅんしゅんと本気で戦いたいだけでしょ? ならそんな事言わずにはっきりそう言えばいいんじゃないかなー?」


「はははっ。さすが姫宮さんですね。わかってましたか。そうです。俺は奥山さんと本気で戦いたい。ギルドマスターが言ってた通り冒険者はお互い訓練し合って切磋琢磨して強くなるべきだ。だから俺は奥山さんと本気で戦いたいんです。ですよね、ギルドマスター!」


 次はギルドマスターに確認した。


「そうだね。オクヤマシュンみたいに状況を見て自分の中で考えて動くタイプもいれば、イトウサガラみたいに猪突猛進に動くタイプもいる。どちらも正しいし間違いだとは言わないよ。でもね、本気で戦う事でより強くなるのはアタシが保証してやる。パーティに関しては後で話し合えばいいけど、今はアタシがいるんだ。さっき言った通りに危なかったら止めてやるよ。だから、本気でやりな!」


「って、事ですよ。メンバーについては後でしっかり話させてください。その前に、手合わせじゃなく、本気の戦いをあなたとしたい。奥山さん。いいですよね?」


 そう真剣な目で伊藤さんが僕を見た。


 えっと、なぜか僕が本気で戦わないみたいに思われてたな。勝つ必要は無いとは思ってたけど本気で戦わないとは言った覚えがない。ここまでの小手調べも相手の戦い方を見たいからそうしてただけで、手を抜いていたわけではない。

 でも伊藤さんが言いたいのは「俺に勝つ気持ちで戦え!」って事なんだろうな。


 なら、その提案に乗ろう。


「もちろんです。本気で戦いましょう!」


「さすが、奥山さんですね!」


 本気であなたに勝つ気で行くぞ。伊藤相良!






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