69話-1「伊藤相良」
「俺と手合わせしてくれませんか?」
伊藤さんの発言に思考を巡らせていると、伊藤さんがもう一度同じ言葉を言った。
それは聞こえてるんだけど、ちょっと急すぎて考えてしまう。
「僕と手合わせですか?」
「はい。幸一さんをここまでした奥山さんと手合わせしたいです。噂通りならネームドを2体倒してるんですよね? 凄い実力だと聞いてます。だからあなたの実力を知りたいんです」
その顔は微笑んでいるがいたって真剣だ。そして戦いたいオーラが出ている。
しかし、そこで中村さんが驚きの声を上げた。
「ちょ、ちょっと相良さん!? どうして相良さんが!!」
中村さんにとってはあまり喜ばしくない事なんだろう。しかし伊藤さんは首を横に振った。
「幸一さん。俺達は強くなるために奥山さんを仲間にすると考えてるんです。今までの噂を聞いただけで仲間にしたいと決めたぐらいです。でも、実際の実力を見ないとわからないことはある。だから俺は奥山さんと手合わせをしたいんです」
「相良さん……」
そう言った伊藤さんはふと顔をほころばせた。
「でも、戦ってみたいって気持ちも強いけどね」
そう言った伊藤さんが僕の顔を見る。
なるほど。実力を見たい、手合わせか。
まあ、僕からしても強いと言われている伊藤さんと手合わせできるのは願っても無い事だ。同じ時期にダンジョンに来た中村さんの実力はわかった。なら次は僕よりも先に行っている人の実力を知りたい。兼次さんとはまた違うタイプだろうし。
それと「伊藤相良」と言う名前は「姫宮杏子」の次に聞いた名前だ。武器は見る限り剣。つまり剣での戦闘で僕にとって何かプラスになる事は確実にあるだろう。
そう考えていると、いつの間にか後ろに近づいていた杏子さんに声をかけられた。
「しゅんしゅんはその人と戦いたそうだね」
「杏子さん」
そう言う杏子さんは少し面白くなさそうだ。
「奥山君はやっぱり何かしでかすよねー」
「いやいや、まだ何もしでかしてないんだけど?」
河合さんはいつも通り傍観したように言う。
「それで、しゅんしゅんはその人と戦うの? わたしとしては戦わなくてもいいんじゃないかなーって思うんだけど?」
「えっ? どうして?」
杏子さんなら「戦ったらー?」って言うかと思ったが、反対意見のようだ。
すると、その言葉に伊藤さんが待ったをかける。
「姫宮さん、そんなこと言わないでくださいよ。先日あなたとも手合わせさせてもらったじゃないですか」
「あれは、あなた達が喧嘩を売ってきたから受けただけだよ?」
「喧嘩ってわけではないですけど……あれはうちの仲間が申し訳なかったです。でも、姫宮さんも敵対心ばりばりでしたよ?」
「あはははっ、あなた達相手に敵対心はないよー」
杏子さんの雰囲気がいつもと違う。なんとなく伊藤さんを好ましく思っていないようだ。
そして杏子さんが僕を見た。
「まあ、しゅんしゅんが戦いたいなら無理には止めないよ。メリットはあるだろうしねー」
「そうですか」
杏子さんも何か思う所があるのだろう。でもそれ以上は話す気がなさそうだから僕の独断で決める事にうる。
「それで、奥山さん。どうですか?」
「そうですね。いいですよ。やりましょう」
「本当ですか! よし! じゃあ、さっそくしましょう!」
僕が了承すると伊藤さんのテンションが一気に上がった。
何と言うかこういう表情を見ると無邪気な青年にも見える。
そして、これから手合わせをする為にどのようなルールにするか話そうとした時、訓練場の扉が開いた。
「相良! お前先走るなって言っただろ!」
「そうですよ相良さん! あなたが先に行くと話がややこしくなるんですから!」
「相良、速すぎるよ!」
そう言いながら男女含めた五人が入って来た。
「あっ、みんな。遅かったな」
「遅かったって、相良さんが早すぎるだけっすよ」
「相良さんは猪突猛進だから、追いかける身にもなってください」
男性3人、女性2人が駆け寄ってくる。
すると、フルプレートの男性がこの状況を把握するために周りを見渡す。中村さんを見てから杏子さんを見て、最後に僕を見た。観察する様に見るその目に少し警戒心が沸く。
しかしすぐに目線を外したフルプレートの男性は伊藤さんの方を向く。
「で、幸一くんとそこにいるのが……」
「はい、奥山俊さんです。今から俺と手合わせする事になりました!」
ガッツポーズをした伊藤さんに周りが驚いた声を上げる。
「はぁっ!? 手合わせ!? どうしてそうなったんだよ!」
「そうだよ! 相良は幸一さんと奥山さんの決闘を止めに来たんじゃなかったの!?」
「えっと、俺がここに来た時点でもう終わってたんですよ。幸一さんがボロボロになっててポーションを渡したところです。それで、せっかくなんで奥山さんと俺で手合わせしようかと流れになったんですよ」
「なんでだよ!! ……ってはぁ。まあ、それが相良だな」
「それが相良ですね」
「相良さんですね」
「まあ、相良さんっすからね」
「相良さんは猪突猛進だから」
「なんだよ、みんなしてため息つくなよ!」
みんなして伊藤さんをジト目で見ている。
このメンバー仲がいいな。いいパーティそうだ。
まあ、でもそっちで盛り上がられてると話が進まない。
「あの、いいでしょうか?」
「あっ! 申し訳ない。奥山さんですね。俺は天宮といいます。こいつらは俺達のパーティメンバーです」
「あ、どうも。奥山です。えっと、何か僕を探してたみたいと聞いたんですけど、先に伊藤さんと手合わせさせてもらってもいいでしょうか?」
「あ、はい……なるほど。あなたも乗り気なんですね。ならよかった。相良は何にでもまっすぐに進むきらいがあるので、迷惑かけてたらと思いまして。ご了承済みなんですね」
「はい。手合わせは願っても叶ったりです」
「って事ですよ。天宮先輩、俺はちゃんと確認取りましたから」
「そうか。珍しいけどな。だったらいいんだ、だったら」
少し申し訳なさそうにそう言うフルプレートの男性は伊藤さんに軽く頭を下げる。
「さあ、奥山さん。手合わせをお願いします。ルールを決めたいですけど……の前に、幸一さん。もう立てますか?」
「あ、はい……」
少し空気になっていた中村さんを見て伊藤さんが立つように促す。すると肩を貸そうと女性の一人が中村さんの手を取る。
「優希菜、任せるな」
「うん、任せて。幸一さん、こっちで少し私と話しましょう」
「あ、はい……」
そう言って中村さんが連行されて行った。
そう言えばシルクさんも空気だな。今の状況でも話しかけに来ないし、一人で端っこにいるなら新しく訓練するって声をかけた方がいいよな。
そう思ってシルクさんがいる場所を見ると、シルクさんの隣に誰か立っていた。
「……ん? ギルマスっ!」
そう、立っていたのはギルドマスターだった。
シルクさんと何か話し終えたのか僕が見たタイミングで、笑いながらこっちに向かってきた。
「あんた達、面白い事してるねぇ」
「ギルドマスター!?」
「なんでギルドマスターが!?」
伊藤さんの仲間たちがギルマスを見て声を上げる。
「あー、ぎるます、なんでいるの?」
「なんでいるかって聞かれるとねぇ、ヒメミヤアンズ。楽しそうにしてるからだね」
「なるほど。楽しいよー」
「カワイマユも最近いい感じらしいね」
「私の話も聞いてるんですか! ありがとうございます」
杏子さんは相変わらずだが、河合さんも前みたいに緊張することなく「あはは」と笑っている。前の訓練が効いたんだよな。魔導書も奢ってもらってるし。
「で、イトウサガラとオクヤマシュン。あんた達、今から戦うんだってね。オクヤマシュンはそっちのナカムラコウイチと決闘したって聞いたんだけど、アタシの聞き間違いだったわけだね」
その言葉にびくりと体を震わせる。少しギルドマスターの魔力が漏れてる気がする。
「決闘じゃないですよ。ただ、中村さんが手合わせしたいって言ったので応じただけです」
「へー、そうかい」
じっと僕の目を見るギルマスの威圧に目が泳ぎそうになる。
とはいっても僕は受けた側だし、先に仕掛けたのは中村さんだから僕が怒られる筋合いはない。
「一応言っておくけど、冒険者同士の訓練以外の戦闘は許可してないからね。もし殺しなどが起こればダンジョンから追放だから頭に入れときな」
「わかってます」
ギルドマスターの言葉に僕は頷く。
すると、少し緊張する空気が流れたと思ったのも束の間、ギルドマスターが笑った。
「って言うのは建前で、訓練ならいいんだよ訓練なら。アタシとしては冒険者同士の訓練は沢山するべきだと思ってるからねぇ。死なない限りは思いっきりやればいいんだよ」
「えっ? いいんですか?」
今の流れは止められるかと思ったんだけど。
「流石に殺すのは冒険者が減るから認可できないけどね。死ぬなら強いモンスターにやられろってのがアタシの意見だからねぇ。それに、お互いに競い合って切磋琢磨した方が強くなれるのは事実だ。それも実戦形式でした方がより強くなれるのは確かだからねぇ」
ギルドマスターはニヤッと笑いながら言った。
「あんた達みたいに戦闘好きの冒険者は好きだよ。やっぱりアタシの目に狂いはなかったよ」
そう満足そうに腕を組んだ。
すると伊藤さんも「ギルドマスターならそう言うと思ってました」と言いたげに笑顔になる。
「ギルドマスターのお墨付き、ありがとうございます。ということで、奥山さん。これで心置きなく戦えますね」
「そうですね。でも、ルールはどうしますか? あくまでも手合わせ。戦闘訓練なら、ルールが必要ですよね」
「そうですね……」
中村さんの時は碌にルールも決めずにはじめたが、今回はしっかりした方がいいと思っている。
そう僕と伊藤さんが首をひねりながら悩んでいると、「何を言ってるんだい」とギルドマスターが声を上げた。
「いや、ルールなんて無くてもいいだろう。縛りなしで戦った方が訓練になるだろう? 階層のモンスターなんてルールも縛りもないんだからね」
「そうですね。でも、それだと止まりきれなくてどちらかがって可能性も」
不慮の事故はある。その場合も殺しになるならダメだろ。ギルドマスター自身もさっき言ってたし、僕も人を殺したくはない。
「だからアタシがまだここに残ってるんだろ。あんた達の戦闘が危なくなればアタシが止めてやるよ。それに即死じゃなく風穴が開いたぐらいならシルクが治してくれるからねぇ、シルク」
「は、はいぃ!?」
「ん? できないのかい?」
「で、できます! 大丈夫です! 風穴ぐらいなら治せます!」
「だったらいいじゃないか」
「治せますけど、治せますけど……。私にそんな重要な役割を押し付けないでくださいよ」
「それもギルド職員の仕事だからね。あんたもセリエーヌみたいになるなら、腕の一本や二本速攻で生やせるようにならないとね」
「えっ! あっ、うぅ……頑張ります」
ギルドマスターが笑っている。これもシルクさんへの試練なのだろう。
「まっ、私もいるから大丈夫だよ、シルク」
と、女性がシルクさんに抱き着くように現れた。
「わっ! シュナさん!! どうしたんですか!?」
「ギルマスに呼ばれたからね。私の担当冒険者とシルクの担当冒険者が戦う事になるとはねー」
「あっ、はい! てことは、シュナさんがいれば安心ですね!」
そう言ってシルクさんは安堵した表情に変わる。それを見てギルドマスターは微笑んでいた。
「って、ことでこっちは準備万端だよ。二人ともいいかい?」
「はい! 俺は大丈夫です! 奥山さんは?」
「僕も大丈夫です。やりましょう」
そして伊藤相良さんとの手合わせが始まる。
噂通りならかなり強いだろう。中村さんも崇拝するほどの人物だ。到達階層は明らかにあっちの方が上だろう。今の僕とどれだけの差があるのか、試させてもらおう。
さて、楽しくなってきた!




