68話-3「心にかかる一つの靄」
「じゃあ、次はこっちから行きますよ」
そう言い、僕は『瞬動』で中村さんとの距離を一気に詰める。そして一歩踏み込み剣を振り切った。
「スラッシュ!」
「っ!!」
中村さんが咄嗟に上げた槍の持ち手の金属部分に当たり高い音が鳴り響く。
じゃあ、これはどうだ?
「スラッシュ! (チェーンコネクト)ダブルスラッシュ! (チェーンコネクト)ショートスタッブ!」
斬り下ろし、二連斬り、突き刺し。連続の4連コンボを食らわせるが、中村さんは槍で受け切った。
これぐらいなら受け切ると……でも、ぎりぎりだな。
「くっ!」
表情を少し歪ませながら僕の攻撃を受ける中村さん。しかし、明らかに体制を崩している。
スキルによる攻撃は通常攻撃よりも威力がある。それを4連撃となれば受けるだけでも厳しいのもあるのだろう。
だが、僕の攻撃はまだ終わってない。
そこから僕の攻撃は続く。
剣による振り上げ、振り下ろしに横薙ぎと、さっきまで受け身だった時とは打って変わって攻め続ける。槍の間合いの内側に入れば剣の方が小回りが利く。それに、一撃一撃の威力も意識し、受ける事に集中させ隙を見せない。
剣の間合いとなっても槍で対応が可能なのは知っている。
なら、その槍捌きよりもこちらの剣捌きで上回ればいい。
「なっ! くっ! なに……っ!!」
中村さんが必死に槍で剣を受け続ける。避けられるとそれが攻撃転換への隙になるので、全て槍で受けさせる。攻撃させる隙を与えない。
足さばきも加え、剣戟の質を上げる。
「がっ……くっ……」
時々剣が中村さんを掠る。これ以上早くすれば掠るだけじゃなくなるだろう。
じゃあ、これならどうする?
「ラッシュソード」
そして双剣スキルを片手で発動する。連撃回数は10連。この連撃はスキル無しの通常攻撃の1.2倍以上の速さでの攻撃となる。
「なに……っ!」
それでも中村さんは必死に槍で剣を受けるが、体に受ける傷が増えていく。
この調子なら剣技だけでも十分に戦えるな。このままスピードと剣捌きを上げれば圧倒までは行かないが倒すことはできそうだ。
つまり武器のスキルレベルは思っていた通り1レベル差はあるだろう。
そうは言っても、10連全て命中したわけではなく、数撃は受けられている。その必死の形相でスキルレベルの差を少し埋めてるのかもしれない。
しかし、
「受け切った……」
受け切った事で一瞬中村さんが安堵したのか、そんなつぶやきが聞こえた。
そこを見逃さない。『チェーンコネクト』!
「リア・スラッシュ!」
白く光る剣が横薙ぎに振り切られる。
「っ!? ……ぐっ!!」
それは槍で防がれたが、その衝撃を耐えるように中村さんが苦悶の表情になる。
でも、それだけじゃないんだよな。
「ぐあっ!!」
その瞬間に横薙ぎに振った剣と逆方向から中村さんに5個の火球が直撃した。
魔法も含めての戦闘だ。僕の戦闘スタイルは剣と魔法を同時に使う事だからな。
「魔法だと……」
僕が魔法を使う事は知っていたと思うが、今この瞬間まで使わなかった事で失念していたのだろう。悔しそうに僕を睨んでいるが、次の動作に移る事ができていない。
だから、バックステップで距離を開ける。その時点で次の魔法を練っている。
「『サンダー・ボルト』!」
「ぐあぁぁぁっ!!」
感電したように中村さんが叫んだ。
魔力はそこまで込めていない。雷系統は行動を制限させる、麻痺効果がある。それに魔力を込めすぎると感電死する可能性もある。HPとステータスの恩恵で少し強くても感電死などしないだろうが、無駄に魔力は込める必要はない。
「がっ……ぐっ……」
中村さんが体を動かそうとするが、微かにしか動けていない。それでも槍は握ったままで戦う意思は見える。
ここで追撃したら倒せるだろう。しかし、追撃はしない。
「ど……どうした……こないのか……」
追撃しなかったことに疑問を抱いたのか、息を荒くしながら精一杯に僕を威嚇する様に睨む。その威圧は凄いが攻撃が来ないとわかっているなら全く怖くもない。
それでもこんな状態になっても僕に対して敵意を向けると言う事は、どれだけ僕を恨んでいるのだろうか。
まあそんな事より、中村さんレベルなら今の連撃で倒すことができる事がわかった。
じゃあ、最後の検証だ。
「『ファイア・ボール』20連」
いつもとは違い、火球が僕の近くではなく、中村さんを囲むように20個浮いた状態で生成した。
狙ったのは自分の近くで作り発射するのではなく、相手の近くで作り対空させる事だ。尚且つ一列ではなく球状に並べる事がコツである。これが中々難しい。
でも、うん。これならもう10連はいけるな。
そして、もう10個生成し、合計30個の火球を中村さんを囲むように生成した。
「なっ……なんだ、これ……」
「威力は弱くしたから大丈夫」
そして左手を前に付き出し握る素振りを見せたと同時に、火球が中村さんに向かって一斉に発射された。
「くそぉぉ……」
火球が一斉に動く瞬間に中村さんが槍を振り始めたがすでに遅かっただろう。爆発音と共に連続して炎が上がり、中村さんを炎が包んだ。
そして、これはいつも通りだが、ここで油断してはいけない。
剣を構えて腰を落とす。
どんな戦闘でも最後の止めまでを考える必要がある。今の攻撃で倒せたはずと思っても、もし生きてたらの場合を考える。それで『独眼のウェアハウンド』の時は間に合った。
今回は中村さんが倒れてなければ攻撃するが、寸止めのつもりだ。それで試合は終了になるだろう。
そして煙が晴れた時、中村さんはその場で立っていた。
じゃあ、行こう。『瞬動』!
地面を蹴り、一瞬にして中村さんに肉薄する。そしてもう一歩踏み込み、白く光る剣を振り切る素振りを見せる。
剣が中村さんに当たる直前――
「そこまでだ!」
その声と同時に僕の剣が何かに阻まれて金属音を上げた。
それは男性の人影。横薙ぎに振った剣が剣に阻まれている。
「凄い力だ。一瞬でも気を抜いたら危なかった。でも、今のは……」
これは想定していなかった。
その場からバックステップで離れ、僕の攻撃を防いだ人物を見る。
攻撃はしてこないみたいだ。すでに剣を降ろしているが真剣な顔で僕を見ている。しかし敵意は無い気がする。
「……さがら、さん」
すると片膝立ちになっていた中村さんがその人物をそう呼んだ。
「さがら」ってずっと言ってた「伊藤相良」っていう自衛隊の人か? ……あれ? 見た事ある気が……。
「幸一さん、大丈夫ですか? ポーションです。飲んでください」
そう言った男性が中村さんにポーションをかけ、もう一本を渡し飲むように指示する。中村さんもそれに甘えるようにポーションを飲んだ。
そして少し様子を見た後、男性がもう一度確認する様に中村さんに話しかけた、
「何があったんですか? シュナさんから幸一さんと奥山さんが決闘するって聞いたから来たんですけど、これは……」
すると座り込んだ中村さんがその人物を見て悔しそうに話す。
「……そうです。俺がこいつの実力を見てやろうと思って、試していたんです……」
「試してた……訓練だったんですか?」
「……はい」
その言葉を聞いた男性が僕の方を振り向いた。
「あなた、奥山俊さんですね?」
「……そうですけど」
「俺の名前は伊藤相良。自衛隊でダンジョンに潜っている一人です」
なるほど、こいつが伊藤相良ね……って、あっ! あの時の駅で中村さんを助けた人か! へー、僕もこの人の後をついてダンジョンに来たんだよなー。懐かしい。
それにしても自衛隊か。納得だ。強さも申し分なさそうだし、今どこの階層にいるのだろうか。
ぱっと見は真面目そうな青年。年は僕と同年代ぐらいか。体格は良いし、運動できそうだし、イケメンだし。悪い所がないな。生粋の主人公みたいな見た目だ。
すると、伊藤さんが中村さんの前に立つように移動した。
「単刀直入に言いますが、俺達はあなたをスカウトしに来ました。あなたの実力については話でしか聞いた事が無かったので、実力を見たいとは思ってました。でも、訓練でここまで幸一さんにする必要はなかったんじゃないですか? それに木剣ではないですし。事情を聞いてもいいですか?」
その態度は至って真面目。僕を睨むこともなく、淡々と事実を聞きたいように言った。
「事情ですか? それはそちらの中村さんに聞けばいいと思いますが」
「はい。幸一さんからも聞きますが、両方の意見が欲しいと思っています」
へー、まじめだな。誰が悪いかどちらが良いかは両方の意見を聞いて自分が決めるって感じだな。
「わかりました。じゃあ、説明します」
そして剣を鞘にしまった僕は後ろを振り向く。
そこにいた杏子さんは少し嫌そうな顔をしながらうなずき、河合さんはなぜかため息をついていた。ここからでは聞こえないが、多分「また何かに巻き込まれようとしてるよ……」と言ってそうだ。
そして僕は伊藤さんの元に向かいながらこれまでの経緯を話した。
「なるほど。二人の意見を聞いてわかりました。つまり、原因は幸一さんですね。すみません、奥山さん。幸一さんが迷惑をかけました」
そう言って伊藤さんが頭を下げた。
「えっ!?」
中村さんは伊藤さんの行動に驚いた表情を見せる。
「幸一さん、俺達の為だとしてもそういう行動はダメです。相手の事も考えて行動しないといけないですよ」
「さ、相良さん……」
何か面喰ったのか中村さんが悔しそうな顔をする。そして僕を見た。
「奥山……」
そう呟いて、中村さんが頭を下げた。
頭は下げたくないけど、伊藤さんの手前下げざるを得ないって感じだな。まあ、別にもう怒ってるわけではないけど。
「別にいいですよ。中村さんとも知り合いですし、迷惑はかかったかもしれないですけど、戦ったこと自体は自分の為になりましたから。悪くなかったです。だから、頭を上げてください」
「そうですか?」
そう言うとすんなりと伊藤さんは頭を上げた。
そしてじっと僕の目を見た。
どうした? イケメンに見つめられると少し緊張するんだが。
すると、
「奥山さんは、戦いが好きなんですか?」
そう質問された。
戦いが好きかどうか? 急になんだろう。でもまあ、答えるとしたら。
「好きですよ。ダンジョンに限りますけど」
その言葉を聞くと、伊藤さんが表情が満面の笑みに変わり、
「そうなんですね! じゃあ、俺と手合わせしませんか!」
そう言った。
……やはりダンジョン。戦い好きが多いらしい。




