68話-2「心にかかる一つの靄」
「決闘だ。意味はわかるだろ!」
「わかるけど。なんでですか?」
そう、決闘する意味が分からない。
どうして僕が中村さんと決闘する必要があるのか。ていうか、ダンジョンの中で決闘していいものなのか?
「なんでもくそもない。俺がお前に勝って、相良さんに証明するためだ!」
「それって、中村さんの勝手なんじゃ……」
そう言うと中村さんが挑発する様に笑った。
「はっ! お前、もしかしてビビってるのか? 大した強さも無くて俺に勝てないからってか?」
「いや、ビビってはないですけど……中村さんと戦う理由がないだけですし。僕は、今すぐ飯に行きたいだけですし」
そう、僕の気持ちは今すぐにご飯を食べに行きたいことだ。決闘する時間など無い。すでにお腹は鳴っている。
しかし中村さんは重ねるように言った。
「はー、つまりお前は何か理由をつけて俺から逃げるって事か。もしかして、攻略も隣の女性二人におんぶにだっこなんじゃ。自分の実力で55階層までたどり着いてないとか? だから、俺と決闘したくないんだろ?」
はぁ。なんでここまで挑発してくるかな。まじで、僕に怨みでもあるのか?
流石に今の言葉は少しイラついた。これ以上ここで何か言われるのも癪だ。さっさと戦った方がいいんじゃないのだろうか?
そう思った時、隣に居た杏子さんが声を上げた。
「ねえ、しゅんしゅん。やってみたらいいんじゃない?」
「え?」
杏子さんの言葉に首を傾げる。
「なんで、必要が……」
「二人って知り合い同士なんでしょ? だったら一度戦うのもありだと思うよ。自分の実力がわかるだろうし。それにその人なんかしゅんしゅんに怒ってるみたいだし、さっさと倒してしゅんしゅんの方が強いって証明してあげたら? 面白そうでしょ?」
その言葉にすぐに反応したのは中村さんだ。
「ちょっと、あなた姫宮さんですよね? 今の言葉、俺よりこの人の方が強いって言ったように聞こえたんですが?」
「そうだよ。明らかにしゅんしゅんの方が強いと思うよ? だから、戦ってみたらわかるし、やったらいいんじゃないかなー、決闘」
「ちょっ、杏子さん!?」
杏子さんの挑発に聞こえる言葉に河合さんが焦ったように杏子さんの肩を掴む。
「なんで杏子さん。挑発しなくても……」
「えー、まゆまゆも気にならない? しゅんしゅんの今のレベル。この人も向上心ありそうだから割と自信があるんでしょ? だから面白そうでしょ?」
「面白そうって……まあ、私も奥山君の実力が他の冒険者と比べてどれぐらいかは見てもいいと思うけど」
二人でそんな事を言ったので、中村さんが笑った。
「おい、奥山俊。この二人も決闘した方がいいって言ってるぞ? 気になる言葉はいくつかあったが、仲間もこう言ってるんだ。俺と戦えよ」
はぁ。仕方ないか。二人がこう言ったからには逃げられないでしょ。
「わかった。やるよ」
「ふんっ! 逃げるなよ」
そう言って中村さんが僕を睨む。
すると、横から女性の声がかかった。
「あのー、すみません。入口で喧嘩はやめて貰ってもいいですか?」
そう言いに来たのはシュナさんだ。シュナさんに話しかけられることは珍しい。
ちらっと奥を見るとシルクさんがオロオロしていたので、見かねたシュナさんが来たのだろうか。シルクさん揉め事の仲裁って苦手そうだもんな。
すると、ちょうどいい所に来たと言いたげに中村さんがシュナさんに言伝を頼んだ。
「シュナさん、あとで相良さん達が来ると思います。なので、俺と奥山俊が訓練場にいる事を伝えて貰ってもいいですか?」
「え? あ、はい。伝えておきますけど。もう、喧嘩はいいんですか?」
「喧嘩なんてしてませんよ。ただ俺の実力をこいつに見せつけるだけなんで」
そう言った中村さんが僕を指差す。
「奥山俊。ついてこい」
「……わかった」
でも、その命令口調はやめてくれないかな。
しかし、なんでかな。この1ヵ月ぐらいで中村さんに僕何かしたのかな。
まあ、いっか。切り替えて今の自分の実力を確認してみよう。同じような時期にダンジョンに来た人物と僕との実力の差。いい機会だし人型相手にもどれだけ通じるか、試せることは試してもいいだろう。
そして僕達は訓練場に向かう。面白そうだと杏子さんと河合さんも付いて来た。
「あのー、冒険者同士の戦闘は認可できないですけど、これは訓練って事でいいんですよね? と、シュナさんに言われて来たんですけど……」
そう戸惑いながらシルクさんも訓練場に来ていた。
「……そうですよ。これは訓練です。だから安心していいですよ」
そう中村さんがシルクさんに面倒くさそうに言った。そのシルクさんは僕の顔を見て「そうなんですか?」と言いだけだ。
シルクさんがそう言うって事はやっぱり冒険者同士の決闘はダメだってことだ。
実際、中村さんは訓練のつもりはないだろう。しかし、ここで止めると中村さんが納得しないだろう。だから中村さんの言葉に乗る。
「大丈夫ですよシルクさん。中村さんの言う通りこれは訓練ですから」
そう言うとまだ納得してないが「シュンさんが言うなら」と引いてくれた。
「おい、奥山! 木剣なんて言わないよな?」
そう言って少し離れた場所で中村さんが背中に担いでいた槍を僕に向けた。
本物の武器で人との戦闘は初めてだな。今のHPなら少々の攻撃を食らっても致命傷にはならない。もし腹に風穴があいてもシルクさんも杏子さんもいるし、回復は間に合うだろう。実際に河合さんも剣を刺されても生きてたし大丈夫だ。
「いいですよ」
そう言って僕も剣を抜き構えた。
「じゃあ、姫宮さん。合図頼んでもいいですか?」
「いいよいいよー」
杏子さんは乗り気だなー。
そんな事を思いながら中村さんと向き合う。
この人の武器は槍。一度戦いを見た事あるけどはっきり見たわけではない。それに槍使いの戦い方は間近で見た事がなくデータが少ない。槍は一応練習したのでスキルも少し知っているぐらいだ。リーチの差がネックになるだろう。
「じゃあ、二人ともいいー? いくよー。はじめっ!」
「はあぁぁっ!」
杏子さんの合図と共に中村さんがその場から一瞬で駆けてきた。
駆けてきたと言うより『瞬動』による間合いの詰めか。槍使いだけど剣のスキルも使えると。そりゃそうだよな。
一瞬で距離を詰めた中村さんはまっすぐに槍先を僕に向かって突き出した。
先手必勝。これは先に動かなかった僕が悪い。
――でもこれぐらいのスピードなら対応できる。
剣を槍の側面に当てて横に逸れる。槍は僕が元居た場所を突いた状態だ。側面ががら空きだ。
そのまま中村さんの腹部に蹴りを食らわせる。
「ぐっ! そんな攻撃食らわないんだよ!」
その場でうずくまることなく中村さんは槍を振り回し僕を攻撃する。もちろん僕は避けたので中村さんとの距離は開く。そこから中村さんの猛撃が繰り出される。
「ラピッドスラスト!」
槍のスキルだ。白く光った槍はまっすぐに僕の胸に向かっている。それを『スラッシュ』で弾く。しかし、中村さんの攻撃は続き、スキルを使わなくても連続で槍の突きが繰り出され、それを剣で捌いていく。
中村さんの攻撃はそれだけじゃない。突きだけではなく振り下ろしや振り上げも加え上下左右から攻撃をしてくる。
すごい槍捌きだな。この猛攻の中では剣が届く距離まで接近する隙がない。この距離なら受けに回らざるを得なくなる。
武器は全てそうだが、スキルレベルと共にその武器の扱い方も上手くなっていく。その為、武器を扱った事の無い素人がダンジョンで簡単に武器を扱えるようになる。だからこそ、僕も中村さんもサラリーマンだったのにここまでのレベルの武器を使った攻防ができている。
そこにステータスが加わるとどうなるのか。動体視力に腕力、脚力も加わり外ではできないような動きができる。レベルアップによる恩恵は様々な異常な動きをさせてくれる。
では、そのステータスを活かすにはどうすればいいのか。それはこの1ヵ月で訓練していた中に含まれる外での訓練が有効であった。実際、ステータスは元の身体能力にステータス値が乗されている。詳しい計算はわからないが、基礎訓練をすればするほどダンジョンでの身体能力は増加する。
僕の今のレベルは46だ。
ステータスを思い出すと、
レベル46
HP:145
SP:710
力:85
体力:95
速さ:94
運:85
魔力:1121
レベルが上がるたびに顕著に上がるステータス。
このステータスに加えて、武器は違えど相手とのスキルレベルに1レベルの差があればその差は顕著に出る。
「くそっ! 全部受けられてるだと!?」
槍は剣よりもリーチがあることから、懐に入られないようにすれば圧倒的に槍の方が有利である。戦国時代でも槍がよく使われていた理由がそれだ。槍と剣で戦えば剣は受けに回らざるを得ない。
しかし、余裕で槍を捌き切る事が出来ればどうなるか。
もちろん、剣で槍を倒すことができる。
「くっ! スパイラルスラスト!!」
白く光る槍が回転した何かを纏いながら僕に向かって打ちだされる。一瞬焦ったのか変化もない真っ直ぐな一撃だ。そんな攻撃、避けてくれと言っているものだ。
「パリィ!」
剣を槍の側面に当てて弾く。常時『スラッシュ』の威力も少し多めにして左手主体で振り切った剣は槍を大きく弾き、中村さんの体勢を崩す。そして弾いた方向は外側。
さっきまでとは違い、内側に一気に踏み込む。
一瞬中村さんの顔が驚愕の表情をしていたのが見えた。しかし、僕の攻撃は止まらない。
横蹴りをするように右足を上げる。
「瞬動!」
右足に移動に使うスキルの為のSPが集まり、蹴り飛ばすと同時にスキルが発動する。
「ぐふっ……」
威力は壮絶。一気に十数メートル移動するスキルを使った蹴りを腹にもろに食らったのだ。中村さんは地面を蹴ったような「ドンッ」という音と共に吹き飛び、一度地面をバウンドして数メートル転がった。
「ぐうぅぅぅぅぅ……」
それでも大ダメージとはいってないのだろう。流石ステータスだ。
うずくまるのも一瞬で、起き上がりながら僕を睨んでいた。
まだ戦意は喪失していない。
しかし、これで中村さんの大体の強さがわかった。
僕は剣を構える。
さあ、次は僕から攻めてみようか。




