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東方凛理観  作者: のんの
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第九話 太陽の畑と向日葵  下

 風見さんについて太陽の畑を少し離れると、小さな一軒家に辿り着いた。

 白い壁に赤い屋根、ちょっと古めかしいけど中々お洒落な家だ。

 すぐ隣の小ぶりな畑では何か育てているのだろう。土からひょこひょこと葉っぱが生えていた。

 振り返ると、ここから太陽の畑が良く見える。


「さ、どうぞ」

「あ、はい」


 風見さんに次いで家に上がる。何だか、肩が重い。

 靴を脱ごうとしたが、洋式だと気付きやめた。


 掃除が行き届いた綺麗なリビングにつくと、風見さんは紅茶を淹れる準備を始めた。

 お礼を言って、花柄のテーブルクロスが掛けられた机につく。

 しばらくしてポットとティーカップを持った風見さんが自分の対面に座った。


「あ、どうも」


 紅茶を淹れてくれる風見さんに軽く頭を下げて、紅茶を飲む。

 冷たい。美味しい。

 一度紅茶を口に付けた風見さんはティーカップを置き、こちらを見る。


「さて、話を伺いましょうか。向日葵をどうするつもりなの?」


 あぁ、話を伺うっていうのはそのことか。俺は頷いた。

 もしかしたら太陽の畑は風見さんの所有地なのかもしれない。


「あ、はい。えっと、友達のプレゼントに向日葵を持っていこうとしていたんです」

「あぁ、なるほど」


 風見さんはそう言って朗らかな笑顔を浮かべた。

 微妙に張りつめていた空気が弛緩するのを感じた。

 俺はついでに、今困っていることを話すことにした。


「あの、風見さん。ちょっといいですか?」

「? なに?」


 笑みを浮かべたまま、風見さんは首を傾げる。

 ……あぁ、こういう美人は目に毒だな。

 俺はそっちの方面へ行こうとしていた思考を無理やりひき戻し、話を続ける。


「えっと、向日葵をプレゼントしようと思っていたのはいいんですけど、スコップとか忘れちゃって……」


 頭を掻きながら言う。

 向日葵をプレゼントしようと考えていたにもかかわらず、そのための道具を忘れしまうなんて、なんとも間抜けな話だ。


「あぁ、はいはい。植木鉢とスコップ、貸してあげるわ」


 風見さんは苦笑いしながらそう言った。

 ありがとうございます。頭を下げると、風見さんが俺の肩を見ながら口を開いた。


「あと、一ついいかしら?」

「なんですか?」

「その肩の蝙蝠は何?」

「……?」


 首を傾げる。俺の肩にコウモリが?

 慌てて自身の肩を見るも、なにもない。

 不思議そうな顔をしている俺を見て、風見さんは溜息を吐いた。


「ちょっと、動かないでね」

「あ、はい」


 風見さんは身を乗り出して俺の肩に手を向ける。風見さんの赤い目の輝きが一瞬増した、ように見えた。

 すると、俺の右肩の真上、ちょうど顔の横あたりの空間がぼやけだした。

 そしてそのぼやけた空間は霧が晴れるように元に戻っていき、一匹のコウモリが姿を現した。

 まるで鳥が木にとまるように俺の肩に乗っていたコウモリは、慌てたように天井付近までぱたぱたと飛び上がった。


「な、あ……え?」


 こ、コウモリ? な、なんで俺の肩に……。

 奇妙な気分でコウモリを見上げる。コウモリは未だに天井をぱたぱた飛び回っている。

 俺はコウモリの乗っていた肩をさすりながら、風見さんへ目を向けた。

 風見さんは肩をすくめ、窓を開ける。


「今すぐ出て行くっていうのなら、無事に返してあげる」


 それを聞いたコウモリは慌てたように窓の方へ行き、風見さんの目の前でクルクルと回ってから、飛び去って行った。

 再び窓を閉め、コウモリが去って行った方を見る風見さん。


「使い魔よ。あれ」

「つ、使い魔、ですか?」

「そう」


 風見さんは首を傾げ、こちらを見る。


「あなた、名前を聞いてなかったわ」

「あ……」


 そういえば、まだ名前を言ってなかった。

 すみませんと謝って、風見さんに自己紹介をする。


「えっと、璃咲凛、です。外来人で、今は紅魔館に住んでいます」

「なるほど、ね」


 風見さんは得心がいったように頷いた。そして呆れたように呟く。


「過保護な主人がいるっていうのも、考え物ね」

「……? どういうことですか?」

「あぁ、なんでもないわ」


 聞き返した俺に対して、風見さんは適当に手を振った。

 その後、スコップと植木鉢を物置に取りに行くと言って、家を出て行く。

 家主がいない家にいるのもどうかと思い、俺は慌てて風見さんについて家を出た。


 倉庫のような物置は、風見さんの家の裏にあった。

 風見さんはその倉庫の中にいるのだろう。がたがたと物を動かしている音が物置の中から聞こえてくる。

 それからしばらくして、風見さんは大きいスコップと小さいスコップ、植木鉢を一つずつ物置から持って出てきた。


「はい、これ」

「ありがとうございます」


 風見さん越しに倉庫を見る。

 物置なんだから、色んなものが入っているっていうのはわかるが、何故に三角木馬なんてあるんだろうか……。

 俺は物置をガン見していたが、風見さん気にした様子もなく口を開いた。


「途中までは手伝ってあげるわ」

「あ、ほんとですか!?」


 まさか手伝ってもらえるとは。お礼を言う。

 そして、途中まで、という単語が気になった俺は風見さんに尋ねた。


「今日、何か用事でもあるんですか?」


 何か用事があるというのに手伝ってもらえるというのは何ともありがたい。

 やはり本にあった通り、良い妖怪なんだ。

 風見さんは俺の予想通り、えぇ、と頷いて、太陽の畑に向かって歩き出す。

 俺は植木鉢とスコップを持って、風見さんについて行く。


「あの、風見さん。プレゼントする向日葵はできるだけ元気なものがいいかなぁ、なんて思ってるんですが……」


 少し遠慮気味に話をする。

 無料でもらえるのに、さらには品質の良いものを要求するというのは、何だかがめつい気がして、声が小さくなってしまった。

 隣の風見さんは俺の要求に気を悪くした様子もなく、笑顔のまま頷いた。


「えぇ、もちろん。プレゼントとして扱ってくれるのなら、とびっきり綺麗なものを探しましょう」


 ……なんていい人だ。うん、やっぱり女性は年上だ。

 そんなことを思いながら、一人うんうん頷く。

 幻想郷は美人が多いし、もしかしたらここはものすごい理想郷なのかもしれないな。


 太陽の畑に入ってからも、八雲さんや藍さん、紅さんのような人たちを思い浮かべてニヤニヤしながらついて行っていると、風見さんが立ち止まった。


「この子なんてどうかしら」


 風見さんは目の前の向日葵を指す。

 その向日葵は周りの大きいものと違い、小ぶりな大きさのものだった。

 正直、自分は花について詳しくないため、それと周りのドでかい向日葵たちとの違いは判らなかった。

 しかし、風見さんが言うのなら間違いないだろう。そう思って、頷く。


「あ、はい。すごい綺麗な向日葵ですね。じゃあ、プレゼントはこれにしようと――」

「あ、ちょっと待って。あれなんかも良くない?」


 風見さんは少し遠くの向日葵を指す。

 ……どれか分からない。


「え、えーと」

「ね、ちょっとあの子も見ていきましょう?」


 笑顔で言う風見さんを断れず、適当に頷いてついていく。

 俺、今のでいいんだけどな……。

 そして風見さんは、指していたであろう向日葵の前で立ち止まると、う~んと悩みだした。


「この子もいいんだけど、ねぇ」


 どうやらピンと来ないらしい。

 自分には向日葵の違いは大きさくらいしかわからないが、花のプロである風見さんには何か感じるものがあるんだろう。

 風見さんはそれからしばらく悩んでいたかと思うと、思い出したように言った。


「そういえば、あっちにも綺麗な子がいたわね。こっちよ」

「は、はぁ……」


 俺は何か悪い予感を覚えながらも、楽しそうに歩き出した風見さんについて行った。






「凛、この子なんかどう思う?」

「……いいんじゃないんですかね」

「そう?」


 首を傾げた風見さんは、あっちの子も見に行きましょう、と歩き出す。


 ……き、キツイ。

 向日葵を見だしてどれくらい経っただろうか。俺と風見さんは太陽の畑をあちこち歩き回っている。


 風見さんは良さそうな向日葵を見つけるとそれに近寄り、俺に尋ねる。

 しかし、どう答えようとも風見さんは納得がいかないのか、別の向日葵を探しに歩き出す。

 デートかよ。


 ずっとその繰り返しだ。この炎天下で。一周回ってきて、元の場所に戻ってきてしまった。少し離れた場所に、風見さんの家が見える。

 どうしてこの人はこの暑さが平気なんだろうか。楽しそうに隣を歩く風見さんを見る。


 ……あぁ、この人は妖怪か。

 俺は肩を落とした。

 これ以上こんなのに付き合ってなんからんない。


「あ、あの! 風見さん、俺あの向日葵気に入りました!」

「え、どれ?」


 適当に目についた向日葵を指差す。

 それを見た風見さんは微妙な顔をした。どうやら俺に目利きの才能はないみたいだ。


「この子?」

「はい、俺すっごい気に入りました」

「そう?」


 風見さんは首を傾げる。

 しかし、プレゼントする本人がここまで言うものだから否定し難かったのだろう。

 しぶしぶ頷いた。


「まぁ、あなたがそう言うなら」


 安堵に胸を撫で下ろす。俺は持っていたスコップと植木鉢を地面に置いた。

 風見さんはしゃがみ込み、その向日葵の根元を触る。


「うん、大丈夫ね」


 花の健康を診たのだろうか。風見さんは頷いた。

 そして俺に向かって手招きをする。


「さぁ、凛あなたも」

「あ、はい」


 風見さんの隣にしゃがむ。

 距離が近くて、ちょっとどきどきする。


「さて。こういう時はね。花を傷つけないように、そう心掛けるのが大切よ」

「はい」


 それからしばらく、俺は風見さんから花を移す時の手解きを受けていた。






    *   *   *






 向日葵の根元、掘り返されて土だるまになった根をしっかり抱える。

 そして、軽く深呼吸。


「……っし、いくぞ。

よっしょぉ!」


 あらん限りの力で向日葵を持ち上げる。

 そして、よたよたとおぼつかない足で植木鉢に歩み寄り、向日葵をどすんと入れる。

 少し乱暴に入れすぎたのか、植木鉢がぐらぐら揺れる。慌ててそれを直して、植木鉢を安定させる。

 植木鉢がしっかり自立したのを確認して、溜息を一つ。


「はぁ……、っ疲れたぁ!」


 大きく叫びながら、その場に身を投げ出す。

 もう服の汚れなんか気にしてらんない。キツイ、疲れた。もう駄目だ。


「……」


 一度、大きく息を吐く。

 それから、地面に大の字で寝転がったまま、ゆっくりと目を閉じる。そして、また開く。

 すると、赤みがかった空が視界に映った。

 赤い空に映る、雲がゆうゆうと、向日葵がゆらゆらと、自由気ままに……。


 何だか眠たくなった俺は、再び目を閉じた。暗い視界が、霧がかっていくような感覚に陥る。

 意識が、徐々に薄くなっていく。

 そうして、今が夢なのか現実なのか。その区別が溶けてなくなってしまう直前、レミリアさんの言葉が脳裏を過った。


『パーティは8時からよ? 遅れないようにね』


「……ッ!」


 げ、そうだ! もう夕方じゃん!

 慌てて身体を起こす!


「あっぶね!」


 寝るとこだったわ。……寝るとこだったわ!


 眠気を飛ばすため、頭を振る。

 それから、小さいスコップを手に取る。ひんやりとしたそれは、火照った手に心地いい。


 サクッ、ザクッと地面にスコップを突き刺し、植木鉢に土を被せていく。

 そしてそれが終わると、向日葵を掘り返して穴ぼこになった地面を、申し訳程度に埋めていく。


「……風見さん、どこ行ったんだろ」


 黙々と手を動かしながら、思わずそう口にする。


 本当に途中まで手伝ってくれた風見さんだが、その最中どこかに行ってしまった。

 用事があるのだとは前々から言っていたのだから、それに関しては文句はないし、しょうがないと思っている。

 寧ろ手伝ってくれて感謝、である。


 しかしながら、風見さんはどこかへ去る前に、すぐに戻ってまた手伝うと言ってくれたのだ。

 そうなのに、最終的にこの作業が終わっても風見さんが帰ってくることはなかった。

 一体どうしているのだろう。


 大きいスコップの取っ手に腕を通し、小さいものは手に持つ。

 そうして、向日葵の入った植木鉢を抱えるようにして、なんとか持ち上げる。

 ……うげ、やっぱかなり重いな。


 それから、おぼつかない足取りで風見さんの家を目指して歩き出す。

 まずはスコップを返さないと。




 よたよた、よたよた……どかっ。


 まるで酔っぱらいのようにふらふら歩きながら、何とか風見さんの家まで辿り着いた俺は、植木鉢を玄関に置いた。

 そこで一息吐いて、今度はスコップを倉庫に持っていく。


 勝手に開けていいものか……。

 そうやって少しの間倉庫の前で悩んでいたが、外に放置するわけにもいかないと、結局倉庫の扉を開けた。

 金属が擦れ合う時の、耳に痛い音と共に扉が開く。その中は結構埃が舞っていた。パチュリーさんには失礼だけど、つい図書館の事を思い出してしまう。

 倉庫の中を見回すと、思っていたよりもたくさんのものが入っていて、中はびっしり。

 花の種と大小様々な植木鉢が重ねて置いてある。畑があるからだろう、肥料や種芋もある。

 一番場所を取っているのが農作業に使う道具で、スコップ、鍬、鎌など様々だ。


 しかしながら、その中でも特に異彩を放っているのが、この三角木馬……。

 これ、確か拷問器具だよな。

 その傍らによくわからない道具も置いてある。


 ……これは、触れないでおこう。

 世の中には色々あるのだと、何か妙に達観した気分でスコップを置いて、倉庫から出る。


 すると、玄関の方から人の話し声が聞こえてきた。

 どこか聞き覚えのある声と、もう片方は風見さんの声だ。


 帰ってきたのか!

 倉庫を閉めて、玄関へ足早に進む。


 玄関に着くと、そこには風見さんと、俺を置いて逃げた妖精メイド二人が立っていた。

 妖精メイドの二人は、俺の姿を確認するや否や、体当たりするように抱き着いてきた。

 そして、わんわんと泣き出す。


 状況が呑み込めず、風見さんとその二人とを交互に見る。風見さんは肩を竦めた。

 俺はどうしていいのか分からず、しばらくそのまま突っ立っていた。






 ――話を聞くに、この妖精メイド二人。決して逃げたわけではないらしい。

 あの時、俺が二人と離れた瞬間、竜巻と比べ物にならない突風が吹いて二人を攫っていったんだと。

 それでどこぞの森に落とされて、そこを彷徨っていた時風見さんに連れてこられた、というわけらしい。


 その話の信憑性を確かめるため、風見さんを見る。

 風見さんは溜息を吐いた。


「あなた達が逸れた経緯なんて知らないけど、私がここに連れてきたのは事実よ」


 二人はコクコクと頷く。

 疑うわけじゃないんだけど、ちょっと都合が良すぎじゃないかなぁ。

 二人が森で彷徨っているときに、用事で出かけた風見さんと会うなんて、偶然にしては出来すぎだろう。


 ――いや。

 首を横に振る。

 これ以上疑うのはよそう。

 どちらにしろ、この二人は帰ってきてくれたんだし、それで良しとしよう。

 帰ってきてくれてありがとう、そう伝えると、二人は嬉しそうに顔を見合わせた。


 それを見て、今度は風見さんに向き直る。

 すると、風見さんは面倒臭そうな顔をして、手を振った。


「あぁ、礼なんかいいわよ」

「でも――」

「いいの」


 俺は尚も食い下がろうとしたが、そこで霊夢とのやり取りが頭を過る。

 確かこれであいつ機嫌悪くしたっけ。

 無理に礼を言おうとして背を向けた霊夢を思い出す。


「わかりました」


 そう言うと、それでいいのよ、と風見さんは笑みを浮かべた。

 元から美人という事もあってか、夕日に照らされたその笑顔は、とても美しかった。


 ツンデレ具合が似てるかもな。

 あの時の霊夢と風見さんを比べて、ちょっと笑う。

 ありがとうございました。心の中で礼を言う。


 もうここですることはない。向日葵はゲットしたし、あとは帰るだけ。

 俺は妖精メイドの二人と顔を見合わせた。

 そして前を向いて、口を開いた。


「よし。じゃあ、帰ろっか!」

これで第九話はおしまいです。お楽しみいただけたでしょうか。


いやぁ、今回、時間かかってしまいましたね。前回投稿したのが年末という……。

申し訳ない。


しかしながら、今回、どうでしたか?

私自身、この「東方凛理観」を執筆するのはずいぶん久しぶりになります。

どこかで書いたように、今までの凛理観は別のサイトで書き溜めていた分なんですね。

丁度、九話の中から書き始めたのですが、何か違和感などはなかったでしょうか。

久しぶりの執筆で、何か変化などがあるかもしれませんし。




次回は紅魔館でのお話ですね。

今度はそこまで時間はかからないかと(露骨なフラグ

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