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東方凛理観  作者: のんの
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22/25

第八話 夜に寝らずにいつ寝るよ  下

    *   *   *




 図書館の空気は相変わらず湿っぽくて、埃っぽかった。扉を開けた瞬間思わず顔をしかめてしまう。

 扉を閉めてから本棚の山を見上げる。これも相変わらず圧倒的な存在感を示しており、この図書館が醸し出す雰囲気になれることはないだろう。

 とりあえず、パチュリーさんのところに向かおう。

 無限に奥まで続いているのかと思えるような本棚を見ながら歩いていく。


「これでドミノしたら楽し怖いな」

「そんなことしたらパチュリー様に殺されますよ」

「え?」


 急に背後から声をかけられたため驚いて振り返る。

 すると、今日の昼パチュリーさんと一緒に外出した、赤髪の女性が立っていた。

 殺される、なんて物騒なことを言った割にその女性―――確か小悪魔って種族の人だったか―――はニコニコとしながら言った。


「あなたが凛さんですね? 咲夜さんから聞いてます」


 それからこちらに歩み寄り、顔を寄せてくる。急なことで思わず半歩引いてしまう。


「あの、ちょっと……」


 綺麗な人に詰め寄られて、内心ドキドキだ。なんなんだこの人。

 そんな俺を気にした様子も見せず、小悪魔の人(小悪魔の人ってなんか語弊があるな)はウンウンと一人納得したように頷いた。


「確かに、間抜けな顔してます」

「……」


 本当になんなんだよこの人。初対面の人に向かっていきなり間抜けとか言うか普通。

 俺が気分を害したのを察したのか、この人は取り繕うように言った。


「あぁ、申し訳ない。悪気はあったんです。まずはあいさつから、悪魔の常識ですね。こんばんわ」

「……こんばんわ」


 俺は形だけ返事をしてから、では、とその人に背を向ける。こんな人に構ってなんからんない。

 早くパチュリーさんに会いたい。あの人にもあまり良い印象は持ってはいないが、こんな人よりずっっっとましだ。

 しかし、この人は素早く俺の前に回り込み、行く手を遮る。


「まぁまぁまぁまぁまぁ、待ちましょう。私もあなたとお話ししてみたかったんですよ。

なんたってあなたは外来人。そのままの外来人なんて紅魔館じゃ珍しいですからね」

「……どういうことですか?」


 しまった。流して進むつもりが、外来人、という単語に反応してしまった。

 俺が食いついてしまったのを見て、小悪魔な人は笑みを深めた。


「どういうって、そのままの意味ですよ。……立ち話もなんですし」


 そう言って近くにある小さな机を指した。丸く小さな机に、丁度二つ椅子が置いてある。随分使われていないのだろう、大分埃がたまっていた。


 正直、本音を言うと、この人と話すのは御免被りたい。しかし、自分から聞いてしまったためにそれも言い辛い。俺は仕方なく埃がたまった椅子に腰を下ろした。

 俺は埃を手で払って座ったのだが、この人は魔法(恐らく)で取り出した雑巾で“自分の分だけ”椅子を拭いてから腰を下ろした。


「さてさて、何から話しましょう」


 机も同じように拭いたこの人は、肘をついて何か嬉しそうにこちらを見る。

 この人はどうだか知らないが、もちろん俺は長居するつもりはない。第一印象が最悪だったってのもあるし、話していて何だか気味が悪いのだ。


「俺は今の質問だけ返してもらったらそれでいいです」

「なるほどなるほど。ではまずは自己紹介をしましょうか。自己紹介から円滑な関係へ、悪魔の常識です。

私は小悪魔です。名前はあるんですが、“こちら”では頂いておりません。まぁ気軽に、こあ、とでも呼んでくださいな」


 それから小悪魔は、次はお前の番だと言わんばかりにニコニコしたままこちらを見つめる。


「俺は璃咲凛です。それで、そのままの外来人ってどういう――」

「まぁまぁ、待ちましょう。急いては事を仕損じる、これは人間の諺ですが悪魔の常識でもあるんです。ゆっくりと話しましょう。時間はたっぷりです」


 なんだろう。この人とてもイライラするんだが……。

 顔には出さない様に努めていたが、流石に限界がある。小悪魔は俺が不機嫌になりつつあるのを楽しむように笑みを浮かべている。


「まぁ、怖い顔してますよ。笑顔になりましょう。笑顔になれば皆も幸せ、これは――」

「悪魔の常識、ですよね。それで、早く話を聞きたいんですが」


 もう話の内容なんてどうでもよくなってきた。今は早くこの人との会話を終わらせたい。


「あらら、人間はせっかちですねぇ。相変わらずです。いっつもせかせか忙しなく動いてます。休むという事を知らないんでしょうね。適度に働いて適度に休んでそれからさらに休む、悪魔の常識です」

「……」


 小悪魔はわざとなのか、話を逸らしていく。ゆっくりとした口調が逆に鬱陶しい。我慢の限界だ。

 俺が立ち上がろうとした時、小悪魔がまた口を開いた。


「あれま、話が逸れてしまいましたね。悪魔はお話が大好きなんです。許してくださいな。

それで、そのままの外来人が珍しい、これがどういう事かと聞かれましたが、そのままの意味です」


 小悪魔が絶妙なタイミングで話を本題に戻したので、立ち上がる機を逃してしまう。

 この人との会話をどう切りあげようか考えてはいたが、確かにこの話の内容が気になることはなるのだ。


「そのままの外来人ってなんなんです?」

「そぅですねぇ……」


 小悪魔は思案するように口元に手を当てた。

 その顔からは嬉の色が窺える。楽しそうに笑みを浮かべている小悪魔からは、目の前の食材をどう料理しようか、そんな思考が伝わってくる。


「幻想郷における外来人の立場って知ってます?」


 唐突に小悪魔がそう質問してきた。

 そういえば、そんな事は聞いたことがなかった気がする。ただ、外来人だと聞くと大概の者は好奇心に目を光らせた。


「立場とは違うかもしれませんけど、珍しい存在だってのはなんとなく……」

「珍しい、珍しいですか。確かに、あなたみたいなのは珍しいですね」


 俺みたいな外来人は珍しい。それはつまり、外来人自体は珍しくはないということなのだろうか……。

 一体どういうことなのだろうと頭を悩ませていると、小悪魔が唐突に立ち上がった。


「ちょっと待っててくださいね」


 そう言って一分程経ったくらいに帰ってきた小悪魔は、本を数冊抱えていた。


「あの、これは?」


 小悪魔が机に置いた三冊のうち一冊を手に取る。保存状態はそこそこに悪い。しかし、読めないほどでもなかった。

 俺が持っていた本を対面に座りなおした小悪魔がひょいと取り上げる。


「これはですね、幻想郷の歴史を記したものですよ。

それから、これは幻想郷にいる妖怪や神をまとめた物ですね。こっちは幻想郷の地図ってところです――あぁ、この本はちょっと古いので気を付けてください。新しく見つかった場所は記されていませんから」

「は、はぁ……」


 いきなりこんなものを持ってきてどうしたというのだろう。小悪魔がこれらを持ってきた意味が分からない。これが、先程の話に繋がることなんだろうか。

 すると、そんな俺の表情を読み取った小悪魔は笑顔のまま告げた。


「あぁ、これは凛さんが考えてるものとは違います。ただ、今の話であなたが幻想郷についてあまり知らないとこの賢いこあちゃんは悟っちゃったんですよ。

だから、あなたの助力になるようこれらの本を持ってきました。大丈夫、この三つとも日本語です」


 ……意図が分からない。小悪魔はなぜ急にこんな行動に出たんだ?

 今の俺の警戒レベルは半端じゃないぞ。よくわからない奴からの親切、これほど警戒するものもあまりないだろう。

 俺の考えがまとまる前に、小悪魔は立ち上がった。


「幻想郷、そして紅魔館での外来人の立場、分かったなら言いに来てくださいね。その時に答え合わせしましょう。

……あぁ、そういえば。情けは人のためならず、これも悪魔の常識です」


 そして小悪魔は鼻歌を上機嫌に歌いながら、本の山へと消えて行った。






「……ふぅ。で、あなたは何をやってるのかしら?」


 今読んでいる本を読み終わったんだろう。パチュリーさんは本を閉じ、俺の方を向いて言う。


「パチュリーさんが本を読み終わるの待ってたんです」


 小悪魔が去った後取り残された俺は、やはりと言うかなんと言うか、小悪魔の行動の意図を読み取れなかった。

 そこでパチュリーさんの力を借りようとしたのだが、パチュリーさんは絶賛読書中。

 それを邪魔するのも悪いと思い、その隣で机の上の物(パチュリーさんの机の上にはもちろん本がたくさんあるが、それ以外にもフラスコやなんかの器具、よくわからない物体とか色々ある)をいじりながらパチュリーさんが本を読み終わるのを待っていたのだ。


 読み終わったものを本の山のてっぺんに置いたパチュリーさんは溜息を吐く。


「そうじゃなくて、私が聞きたいのはなんで私が本を読み終わるのを待ってたのか、ってことなんだけど」


 あぁ、なるほど。

 パチュリーさんの質問の意を解した俺は小悪魔に借りた三冊の本を前に出す。それから先ほどあった事の概要を説明した。

 既に別の本を読み始めていたパチュリーさんは、俺の説明が終わると大きな溜息を再び吐いた。


「小悪魔、あの子はある意味レミィより悪魔らしいのだから、気を付けなさい。

久しぶりにあなたの様な人間に会えて舞い上がったのでしょうね。精々、目を付けられないようにすることね」

「……え、え?」


 どういう意味なんだろう。全く話が掴めないのだが……。

 小悪魔の行動の意図を尋ねたのに、こんな返答をされても困ってしまう。パチュリーさんは小悪魔の考えていることがわかっているのだろうか。


「えっと、それでどうして小悪魔さんはこの本を……」


 相変わらず活字を追っかけているパチュリーさん。この人は読書をやめると死ぬ病気にでも罹っているのだろうか。

 パチュリーさんはページを捲る際に間違えて二枚捲ってしまい、舌打ちをしてから一ページ分だけ元に戻した。


「その本はありがたく借りておきなさい。無知ではどこで生きるのにも辛いでしょう。

他に聞きたいことはあるの? ないならさっさと出ていくか静かにしてほしいのだけど」

「す、すみません……」


 パチュリーさんは強引に話を終わらせてしまった。どことなくイライラしているようにも見える。これ以上機嫌を悪くさせちゃ堪らない。俺は本を持って慌てて立ち上がった。

 それが悪かったのだろう、手が机のガラス器具に当たってしまった。

 所狭しと並んでいたそれらはドミノの様に倒れていき、中身とともに派手な音をまき散らしながら砕けていった。


「あ……あ、あわわ」


 ど、どうしよう……。

 ガラス器具やよく分からない物体たちは机の上のみならず床にも散乱した。緑色の液体が机から垂れるのを見た俺は、はっと我に帰る。


「ほ、本を……わっ!」


 広がる謎の液体から本を守るため手を出したが、それらは俺の力を借りずに宙に浮く。


「……やってくれたわね」


 その言葉にパチュリーさんへ視線を向けると、パチュリーさんは人差し指を宙へ向けていた。

 その手は淡い紫の光を帯びており、浮かんでいる本や謎の物体もその光に包まれていることから、それらがパチュリーさんの魔法で浮かされているのが分かった。


「す、すみませ――」

「パチュリー様、何か音が……あらら」


 ガラスが割れる音を聞きつけた小悪魔が登場。目の前の惨状に目を丸くした小悪魔だが、状況を把握すると即座に行動に移した。

 まず小悪魔は、あの雑巾と同じようにポンと紅い本を取り出した。

 その本を開いて小悪魔がよく分からない言葉(恐らくこれが呪文なんだろう)を言うと、机と床の液体のみが空中に抽出される。そして次に取り出したバケツにそれらを注ぎ込んだ。


「これ、どうします?」


 混ざり合い、本当によく分からない色になった液体入りのバケツを掲げて、笑顔で言う小悪魔。

 本たちを宙に浮かせたままのパチュリーさんは、再び読書を再開しながら答えた。


「んなもんもう使えないわよ」

「ですよねー」


 適当に廃棄処分っときますね、そう言って小悪魔は紅い本と一緒にバケツをポンと消した。


「さてさて」


 次に小悪魔は塵取りと箒を取り出した。

 さっきから魔法の連続で全くついていけなかった俺だが、流石にこれはわかる。俺は自分の仕事を求める様に小悪魔に話しかけた。


「あ、あの、それくらいは俺が……」

「あらあら、じゃあお願いしちゃいますね~」


 笑顔を崩さずに俺に箒と塵取りを渡した小悪魔は、自分用にもう一セット取り出した。

 それを見て俺はすぐに机のガラス掃除を始めようと思ったのだが、またもや聞こえてきた呪文に手を止める。

 振り返ると、小悪魔が箒の柄を上に掲げてクルクルと回している。何をしているのか、それを聞く前に今度は机のガラスが浮いて小悪魔の塵取りに集まった。

 俺が呆然としていると、自分の箒と塵取りを消した小悪魔は首を傾げた。


「あれ? 凛さんも早くやっちゃったらどうです?」

「え……あの……」

「あらぁ? もしかして凛さん魔法使えませんでした?

もぅ、そうなら早く言ってくださいよ~。無駄に魔力使ったじゃないですかぁ~」

「す、すみません……」


 小悪魔は笑顔のまま俺から箒と塵取りを取り上げた。そしてまた同じ魔法で床のガラスを集める。

 俺は俺で、釈然としない思いを抱いていた。

 小悪魔は俺が無力な外来人だって知ってたはず。それなら魔法を使えないことだって……いや、もとはと言えば俺が原因だ。文句を言える立場じゃない。


 うな垂れる俺を見てニコニコしている小悪魔は、仕事を終えた箒と塵取りを消して言った。


「さて、私はこれで。残りは……さすがの凛さんでも出来るでしょう?」

「はい……」


 出来ないわけがあろうか。ガラスと液体が片づけられて、後は机を拭いて床に二つ三つ落ちている謎の物体を拾うだけ。小悪魔の言葉にある棘が地味にくる。

 返してくださいね、小悪魔は俺に布巾を渡して今度も上機嫌に消えていった。


「本当に、やってくれたわね」


 拭き終わった机に本たちを下ろしたパチュリーさんは溜息を吐いた。


「すみません……」


 さっきから謝ってばかりだ。何だかものすごくみじめな気分になる。早く立ち去ってしまおう。

 俺は床に落ちているよく分からないものを拾い上げて机に戻す。そして最後に、黒い金属板を机にあげる。


「あら?」


 すると、パチュリーさんが読書をやめて急にこちらを見た。

 う……嫌な予感がする。

 俺は金属板からそっと手を放して小悪魔から借りた本を手に取った。

 何時でもここを出られるように準備だ。


「な、なんですか?」

「ちょっと、それ。持ちなさい」


 パチュリーさんは金属板を指さす。


「え、これですか?」

「ん」


 言われた通り金属板を手に取る。


 パチュリーさんに持たされたこの黒い金属板。

 形は長方形で大きさは横30cm、縦20cmくらいだろうか。そして、それなりに重い。金属板には白い水晶が五つ、はめ込まれている。


 これは机にあったもので、パチュリーさんの読書を待っている時にいじっていたものだ。

 その使用用途は全くわからなかったが(それはこの机にあったもの全てに共通するが)、一つだけわかるのは、人が持つと白い水晶が三つだけ緑に発光するということ。

 俺が持っている今も三つの水晶が緑に光っている。


「ふむ……。ちょっと」


 パチュリーさんは一頻り黙って、手招きをした。

 相変わらず何を考えているのか分からない。俺は溜息を我慢してから、本を置いてパチュリーさんに金属板を持って行く。


「貸しなさい」


 パチュリーさんに金属板を渡すと、ちょっとだけ驚くべきことが起こった。

 先程まで光っていた水晶のうち二つが白に戻ったのだ。パチュリーさんの手にある今は一つだけ光っている。

 なんだ、持つ人によって光る水晶の数が変わるのか。不思議な板だな。


「パチュリーさん、これって何なんですか?」


 ここまで来たらこれが何なのか聞いてしまってもいいだろう。ここを出るのはその後だ。

 俺の質問を聞いていたのか聞いていなかったのか、しばらく黙っていたパチュリーさんは唐突に口を開いた。


「例えば、だけど、西行寺幽々子」

「はい?」

「あいつは死、そして死霊を操るという二つの力を有していると聞くわ。だけど、どうでしょうね。昔これをあのお化けに持たせた時これは一つしか反応を見せなかった。何故か。それは死霊を操る力は死を操るという能力から派生し可能になったものだったから、根幹は一つ。そう結論付けたわ。

私がこれを使って検証したもので複数反応したのは霊夢のみ。一個体に許される能力は一つだけ。ただ、あの子は、博麗の巫女は特別だった。なのに、これは……」


 ……。

 いや、ごめん。意味わかんない。

 この人は何を言っているのだろう。日本語が日本語に聞こえない。

 というか、この人さっきから俺の質問にことごとく答えてないじゃないか。言葉のキャッチボール、人としての基本が出来ちゃいない。

 こいつはコミュ障に違いない、きっとそうだ。なんて言葉を飲み込んで、パチュリーさんに言った。


「あの、もう俺行っていいですか?」


 小難しい話になるのなら、こんな金属板なんてどうでもいい。それなら、さっさと自室に帰ってしまいたい。俺は疲れているんだ。


「……また呼ぶわ」


 そう言われて俺は図書館を追い出された。研究に集中したいのだとか。

 まぁ、当分必要だと思える本は手に入れたし、今後図書館に用はないだろうから困ることもないだろう。

 そんなことよりも……


「この布巾、どうしようか」


 しばらく考えた後、布巾を折りたたんでからポケットに入れる。

 洗ってから今度渡そう。


 まずは小悪魔から借りたこの本たちを部屋に置くとしよう。

 さて、部屋までの道だけど……。


「……」

 

 そろそろ道を覚えないとな。

 地図を取り出してから溜息を吐く。ここはどこもかしこも同じような廊下が続いているから分かりにくいのだ。窓が少ないから外の風景も見えないし。


 そうえいば、ここは本当に窓が少ないな。

 一階に上がっても窓の数は少ない。なんでだろう。

 自室への道を行きながら考える。


「……あぁ、吸血鬼か」


 窓があったら死んじゃうじゃないか。思考終了。

 それから二階への階段を上って地図の通りに歩く。この家は中を歩くだけで良い運動になる。

 そうしてたどり着いた自室の扉を開ける。


 すると――


「フラッシュですわ」

「フォーカード」

「だー! よくわかんない!」


 十六夜さん、レミリアさん、フランの三人がトランプをしていた。俺の部屋で。


 寝間着姿のフランはがしがしと頭を掻く。

 恐らくポーカーをやっているんだろう。どこから持って来たのか、部屋の真ん中にデンと置いてあるテーブルに三人の手札が拡げられている。

 俺に気付いたレミリアさんがこちらに視線を向ける。


「あぁ、凛。何かいいゲームないかしら? 私と咲夜が知ってるものはフランにはちょっと難しいのよ」


 フランと同じく寝間着姿のレミリアさん。十六夜さんはいつものメイド服だ。……残念。


「いや、ないかしら? ってなんでいるんですか……」


 ここは俺の部屋なんですけど。

 そう言うと、レミリアさんは自慢げな笑みを浮かべた。


「あら、不満そうね? ここは紅魔館、この部屋も紅魔館。紅魔館は私のもの、つまり、あなたに自由はないの」


 なんでそうなる。


「いやあのですね。俺は――。

……あぁ、いえ、わかりました」


 溜息を吐いて遊ぶことを了承する。

 まだ短い付き合いだがわかってる。どんな事を言ったって、どうせ最終的にはこの赤い悪魔に言い包められてしまうのだ。それなら無駄な抵抗は避けるべきだろう。


 相変わらず瀟洒で気が利く十六夜さんが用意した椅子に腰かけて、レミリアさんからトランプを受け取る。


「ババ抜きって知ってます?」

「いえ、知らないわ」

「知らない」


 レミリアさんとフランの返事を得て俺は頷く。じゃんけんの時もそうだったが、紅魔館の面子はどうやら一般的な遊びを知らないらしい。

 ジョーカーを一枚抜いてから、自分の分も合わせて四人分均等にカードを配っていく。


「というか、ゲームやるのは良いんですけどね? このでっかい机、ちゃんと除けてくださいよ?」

「さぁ、そのババ抜きのルールを説明しなさい」


 スルーかよ。


「……。

レミリアさんってあれですよね……」

「何?」


 思わず漏らした言葉にレミリアさんが食い付いて来た。

 人の忠告は無視するくせに、こういうのには敏感なのかこの人は。


「いえ、なんでも」

「何、気になるじゃない」


 もう、しつこいなぁ。


「いえいえ、レミリアさんカッコいいな、と。

じゃあババ抜きの説明しますね」


 レミリアさんを適当に流して、ババ抜きの説明を開始する。

 釈然としない表情を浮かべていたレミリアさんだったが、ババ抜きの方が気になるのだろう。これ以上何も言う事はなかった。


 その後、俺たちはババ抜きや神経衰弱、豚のしっぽ(このゲーム死ぬかと思ったのは初めてだ)等をしながら夜を明かしていった。

さて、今回のお話はここまでです。お楽しみいただけたでしょうか。


前話のあとがきで書いていた、「現時点で非常に影が薄いあの人」とは小悪魔の事ですね。悪魔らしい性格にしております。


そして、小悪魔が凛に親切を働いた理由ですが……。

凛が外来人である事が原因です。外来人、それは紅魔館においてはただの食糧なんですね。そして、小悪魔は悪魔です。人の恐怖をこの上なく好みます。

まぁ、そういうことです。あとは言わなくもわかりますよね。


因みに、咲夜が凛に「厨房には行かない方が良い」と忠告していましたが、これはそういう意味です。


小悪魔マジ小悪魔。

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