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東方凛理観  作者: のんの
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20/25

第八話 夜に寝らずにいつ寝るよ  上

幻想郷探偵団団員データ


団員No.2

⑨ブルー

(チルノ)


種族:妖精


少し頭が残念な感じだが、明るい性格で探偵団のムードメーカーとなっている。ブルーというのはもちろんチルノの涼しいイメージから来たものだが、⑨の由来は不明。妖精の中ではトップクラスの実力を持つ。

 俺は幻想郷に来たばっかりで知らない事だっていくつか、いや、かなりある。

 そんなもんだから、この紅魔館の事だってほとんど知らない。

 紅魔館でわかってるのはここに住んでる人(と言っても今のところ人間は咲夜さんとパチュリーさんしか知らないが)の名前くらいだろうか。


 そう、俺は紅魔館に住むにあたって知らなければならない事の一つを知らなかった。


 それは、この紅魔館の力関係。


 地位とかそんな力じゃないぞ。もっと単純な、戦闘能力ってやつだ。

 門番を任せられている紅さんは紅魔館の中でもかなり強いんだろうと思っていた。

 ところがどっこい、ここの主なメンバーの中で紅さんは最弱だっていうじゃないか。

 しかも紅さんを攻撃したフランの実力はトップクラスなんだと。


 まぁ、どういうことかと言うと……


「大丈夫ですか? 紅さん」


 ここは紅魔館の医務室的な場所。紅さんはそこのベッドに横たわっている。


「まだちょっと痛むけど、大丈夫よ」


 自分は元気だと伝えたかったのだろう、紅さんはこちらに笑顔を向けてくれる。


 フランの攻撃を受けた紅さんは大怪我。そしてただ今この医務室で養生中、というわけだ。


「なんか、俺のせいで……すみません!」

「いやいや、凛が悪いわけじゃないわよ」


 そう言ってくれるが、非は全くの無計画だった俺にある。もう、頭も上がらない。

 すると、紅さんは居心地が悪くなったのだろうか、話題を変える様に口を開いた。


「いやぁ、でもあの子たちの動きは悪くなかったわねぇ」


 寧ろ良かったわ、紅さんはしみじみと言う。


「チルノ達が、ですか?」

「えぇそう。気を抜いていたとはいえ私に一撃お見舞いなんて、中々のものよ」

「はぁ……」


 確かに、言われてみれば絶妙なコンビネーションだった。あの場にいた時も感じていたが、やっぱりあいつらは喧嘩慣れしているらしい。

 しかし、紅さんはこんなことを言っているけど、紅さんは紅魔館じゃ一番弱いはずじゃ……。


「あれ、その顔は失礼なこと考えてるな?

私が弱いってのは、弾幕での話。実戦だったらちょっとは自信あるのよ?」


 身体を起こした紅さんは、えいと拳を前に突き出して茶化す様に笑った。


「す、すみません」


 慌てて謝ると、気にしちゃいないよ、そう言ってくれた。

 どうやら自分は思っていることが顔に出やすい性質(たち)らしい。今後とも気を付けないと……。


 それからしばらく紅さんの武術の話を聞いていると(習ってみないかと誘われたが、痛いのは嫌なのでもちろん断った)、ノックの音が部屋に響いた。中々乱暴なノックだった。


「どっぞ~」


 紅さんが能天気な声で返事を返す。

 返事を聞く気があったのかどうか、紅さんの言葉とほぼ同時に扉がバタン! と開かれた。


「めーりんっ! 大丈夫!?」


 余程心配だったのだろう、扉を開けて入ってきたフランはいの一番に紅さんに飛びついた。そのあとからレミリアさんが部屋に入ってくる。

 フランを抱きとめた紅さんは傷に響いたのか一瞬顔をしかめたが、フランを安心させるように頭に手を添える。


 残りの皆はどうしたのだろう。確か晩飯の時間まで自由時間と言っていたはずだが。

 探偵団を結束したことや怪人中国ブラックが現れたことなど、今日の出来事を紅さんに話し始めたフランを置いて、レミリアさんに尋ねる。


「すみません、あいつらはどうしたんですか?」


 レミリアさんは適当な椅子に腰かけて、疲れたように言った。


「別の者に任せてるわ。元気いっぱいね、あの子たち。

あ~、つかれたぁー」


 ん~、と伸びをするレミリアさん。それから帽子を脱ぎ、軽く叩いて膝の上に置いた。

 一緒に遊んでいたのだろう、眠たそうに口に手を当てて欠伸をした。


「本当に、わかります」


 レミリアさんのが移ってしまったのか、欠伸が出てしまう。

 自分が先ほどまで座っていた椅子をレミリアさんの隣まで持ってきて、そこに座る。


「――そこでね! 私がきゅっとしてドカン! やっつけたんだ!」

「流石ですね、妹様」

「えへへ、それでね! 凛が手加減しろって言うから、ちゃあんと手加減してあげたの!」

「……。なるほど、妹様は優しいのですね」


 二人の会話に耳を傾ける。

 俺もレミリアさんもお互いに疲れてるのか何も言わなかったし、フランの明るい声を聞いていたら疲れも癒されるというものだ。


 そうして何もせずに、睡魔が本格的に攻撃を始めた頃、ドアが軽くノックされた。

 そこで一旦話が中断され、どうぞ~、と紅さんが気の抜けた声で返事をした。


「失礼するわね」


 その静かな声とともに、十六夜さんが入室してきた。

 バスケットにたくさんのフルーツを入れた十六夜さんは入室して、その和やかな空気に目を細めた。

 十六夜さんはレミリアさんに気付き目を向け、レミリアさんはひらひらと軽く手を振った。

 ……何かの合図だろうか。


 それから十六夜さんはレミリアさんに軽く頭を下げて、バスケットをベット横の机に置いた。用具入れからパイプ椅子を出してベットの横に腰を下ろした。

 そしてナイフを取り出して、おもむろにリンゴの皮を剥きだす。


 うわぁ、すっごい手際良いなぁ。


「わぁ! 咲夜、私もリンゴ食べたい!」

「承知いたしましたわ、妹様」


 ふっ、と十六夜さんはフランに微笑みかけた。とても柔らかくて綺麗な笑みで、思わず見とれてしまった。

 あれが、作り物でもない、十六夜さんの本当の笑顔なのだろうか。

 ……なんだか、ちょっとフランに嫉妬。


「惚れてもいいわよ」


 俺にだけ聞こえる様な小さな声で話しかけてきたレミリアさんに、驚いて目を向ける。

 その口元は可笑しそうに笑っている。


「えと、また顔に出てたってやつですか」


 レミリアさんは口元に手をやってクスクスと笑う。


「えぇ、わかりやすいんだもの。まぁ、あげないんだけどね」

「はぁ……」


 俺は返答に困って、逃げる様にフラン達へと視線を向けた。横でレミリアさんが可笑しそうに笑っているのが分かる。

 レミリアさんの性格から考えて人をからかうのが好きってのは分かるが、そういうのはやめて欲しいものだ……。


 フランが十六夜さんに中国ブラックが現れた辺りから話し始めており、そちらに意識を向ける。

 あの明るい笑顔でこの苦々しい気持ちをさっさと洗い流してしまおう。






 それから、フランの話も適当に終わり、何をするわけでもないふんわりとした時間がしばらく過ぎていた。


「……さて」


 それを区切るように十六夜さんが立ち上がる。


「そろそろ、夕飯の準備を――」

「えぇー! もうちょっと一緒にいようよ!」


 そう言ってねだるフランを十六夜さんはやんわりと断って、片づけを済ましてから部屋を退出した。


 時計を確認したが、晩飯の時間まであと何時間もある。いまから準備とは、一体どんな料理が出てくるのだろう。

 今日の晩御飯への期待を胸に、十六夜さんが出て行って少し不貞腐れているフランに声をかける。


「まぁ、仕事なんだからしょうがないじゃん。チルノ達んとこ行こう?」


 俺がそう言うと、あっ! とフランは思い出したように声を上げた。


「もっとみんなと遊ばないと!」


 なんだその使命感は。

 そう突っ込む暇もなく、フランは部屋の外へと駆けて行った。おそらく、皆が遊ぶと言っていた庭に向かったんだろう。

 フランについて行こうと重たい腰を上げる。


「レミリアさんはどうします?」

「あぁ、私はちょっと美鈴と話があるから」


 レミリアさんは椅子をズズっと引きずって紅さんの横まで移動させる。

 行儀が悪いですよ。紅さんが苦笑い気味に注意したが、レミリアさんはやはり気にしない。


「んじゃ、俺はあいつらんとこ行ってきます」

「はいはい」

「行ってらっさーい」


 レミリアさんと紅さんの軽い言葉を受けて、部屋を後にする。

 紅さんは会った時からあんな感じだったが、なんだかレミリアさん、あの人最初と随分印象が違うじゃないか。さっき椅子に黙って座ってた時なんか、ただの疲れた幼女だったし。


 十六夜さんやパチュリーさんもあれだけフランクになってくれたらなぁ。

 そんなことを思いながら、もうすでにボロボロになりつつある地図をポケットから取り出す。

 未だ地図を見ないとまともに移動できない自分を情けなく思いながら、俺は庭を目指して真っ赤な廊下を歩き出した。






    *   *   *






『もーんばん! へい! もーんばん!』


 紅さんの代わりに配置させられた門番なのだろうか。一人の妖精メイドが頭を抱えて、うぅ~と言いながらしゃがみ込んでいる。

 その周りをフランも含めた探偵団のみんながスキップしながら回っており、口をそろえて、もーんばん! と言っている。


「……なにこれ?」


 結局庭に直接行くことは叶わず、玄関を経由して行こうと玄関の扉を開けたらこれ。

 俺は意味も分からず立ち尽くす。


『もーんばん! そい! もーんばん!』


 うぅ~と唸っている妖精メイドに対して、皆は変わらずスキップを続けている。

 正直、いじめにしか見えない。まさかドアを開けて一番にこんなものを見せられるとは。


「……」


 ……自分はこんなにも正義感に溢れていただろうか。こんないじめにしか見えない光景を目の当たりにして、ふつふつと怒りが込み上げてきた。


「みんな! なにやってんだよ!」


 俺は自身の怒りを隠しもせずに、皆を叱りに行った。

 急に怒りながら登場した俺に皆は動揺を隠せない。何故俺が怒っているのかわからないようだった。困惑気味にお互い目を合わせている。

 そんな中、周りを代表するようにリグルが答えた。


「何って、ゲームだよ」


 その言葉に怒りのボルテージが上がったのは言うまでもない。

 こんなにも酷い奴らだったのか。俺はあまりもの事実に、咄嗟に言葉が出なかった。

 そんな俺を差し置いて、リグルは周りに同意を求める様に言った。


「ねぇ、みんなでやると楽しいんだよね。凛も……と、何てゲームだっけ? これ」


 みすちーとチルノが首を傾げる。


「あれ、なんだっけ」

「おぼえてないなぁ」


 それからリグルは残りのメンバーに視線を振ったが、全員覚えていないようで頭にクエスチョンマークを浮かべた。

 こんな事を平然と言っている皆にショックを受けてしまう。でも、これをほっとく訳にはいかない。俺は大声を張り上げようとして――


「もう! みんな言ったじゃない! 『カリスマガードごっこ』だって!」


 蹲っていた妖精メイドが急に立ち上がり、周りに告げた。

 すると皆は、あーそうだったかぁ! と笑う。妖精メイドも一緒になって笑っている。


 ……あれ?


「あ、あれ……」


 さっきまで蹲っていた妖精メイドは楽しそうに周りのメンツと笑っている。

 これは……どういう事?


「ねぇ、凛も一緒にやろうよ。……楽しいよ?」


 フランがまるで腫物を扱うかのように話しかけてきた。どうして怒っているのか分からないのだから、こういう対応をしてしまうのは仕方ない事だろう。


 いや、そんなことより……。


「あの……え? どういう……?」


 俺の視線は門番と呼ばれていた妖精メイドに向けられている。

 さっきまでは辛そうに唸っていたのに、いまではケロリとしてる。

 これって……。


 すると、俺の視線を受けていた妖精メイドが気まずそうに口を開いた。


「あー、えと……なに?」

「凛」

「あぁ、凛もやる……ますか?」


 妖精メイドはルーミアに俺の名前を聞きながら、そう尋ねてくる。敬わなければならない相手かどうか迷ったのだろうか、最後に敬語を付け足した。

 周りを見てみると、皆不安げにこちらを見つめている。


「え……と」


 こ、これは、もしかしたら酷い勘違いをしてしまったんじゃないだろうか。先程まで沸騰していた怒りが急速に冷えていく。

 つまり、この子たちはただ遊んでただけで、俺はそれをいじめと勘違いして……。


「……」

『……』


 何も言わない俺をみんな固唾をのんで見つめている。

 う、うわぁ、超ハズい……。






「いやぁ、そういうこともあるって!」

「……そうかな?」


 すっかり意気消沈して座り込んでいる俺を、門番の妖精メイドが慰めてくれる。

 ……ほんと、恥ずかしい思いをしてしまった。

 あの後、自分がすっかり勘違いをしてしまったこと、あと場を白けさせてしまったことを謝った。皆は笑って許してくれたが、あれはない。うん、ない。


 後悔の念に包まれて押し潰されて切り刻まれそうな俺は、わいわいと走り回っている皆を見る。

 ただ今やっているのはケイドロ。俺とこの子は捕まってしまったのだ。


「悪いな、もんばん。慰めてもらって」


 もんばん(本当は食堂の妖精メイドらしい)は、いいって事よ! と頷いてくれる。

 この子には名前がなく、それでここに来た時にレミリアさんに名前を付けてもらったんだと。

 初めて配属させられた仕事が門番だったから、もんばん。中々の古株で、妖精メイド初の門番所属だったらしい。


 それにしても、レミリアさんのネーミングセンス……。

 紅魔館の妖精メイドはほとんどレミリアさんに名前をもらっているようで、自分はまだましだともんばんは言っていた。

 大概の者は自身に名前をくれたレミリアさんに感謝しており、その名前も気に入っているらしい。


 その後は皆と一緒に鬼ごっこ(飛ぶの禁止)や高鬼(飛ぶの禁止)などをやっていた。子どもは本当に走るのが好きだ。

 身体能力の高いフランの独壇場がしばらく続いていると、怪我をありえないスピードで完治させた紅さんが帰ってきて、代わりにもんばんが元の配置へと戻っていった。


 そして、今なにをやっているかというと……


「いやぁ、良い天気ねぇ」

「だなぁ~、めーりん」


 紅魔館の庭。

 辛うじて綺麗に残っている芝生の上に寝転がって、紅さんとチルノは空を見上げる。

 その周りに適当に寝転がっている俺達も空を見つめる。


『……』


「いや、霧で見えねぇし」


 リグルがボソッと突っ込みを入れた。

 皆はそれに同意したのか、それとも何か別の事を考えているのか、沈黙を維持したままだ。


 今やっているのは日向ぼっこ。走り回っていた俺達に対して、少し休憩にと紅さんが提案したのだ。

 走り回っていて超キツかった俺は、嬉々としてその提案を受け入れた。リーダーの俺が賛成なら、ということで日向ぼっこが始まった。

 しかし、この霧のせいで全くと言っていいほど気分は晴れない。

 霧のおかげで気温は高くないし、隣のチルノの冷気で結構涼しい。俺は地味に太陽のまっさらな姿が拝みたくなった。


「う~ん、なんだか気持ちいなぁ」


 俺と頭を突き合わせる様に寝転がっているフランが言った。

 この子はほんとの日向ぼっこを知らないから、これでも十分なんだろう。

 しかし、吸血鬼が日向ぼっこ気持ちいいって……。


『……』


 この事に関して誰からも突っ込みなし。

 う~ん、ちょっとみんな我関せずを貫き過ぎじゃないだろうか。そう思って身体を起こすと


「凛」


 紅さんが唇に人差し指を当てて、しっ、とする。

 周りを見てみると、皆はスヤスヤと寝息を立てていた。

 良い天気だと言ったチルノも、突っ込みを入れたリグルも、本当についさっきまで起きていたフランまでもが寝ている。みーんなスヤスヤお休み中。


 さっきまであんなに元気に走り回ってたっていうのに……いや、子どもはこういうもんか。

 俺は紅さんに目配せしてから、皆を起こさないように身体を寝かす。


 空を見てみると、霧でぼやけている太陽がゆっくりと動いている様に見える。風が吹くのに合わせて太陽の霧模様が変化していく。

 うん、これはこれでいいかも。

 まぁ、出来ればチルノと場所を代わってほしいものだけど。


 俺もちょっと休ませてもらおうかな。そう思って俺はゆっくりと目を閉じた。

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