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東方凛理観  作者: のんの
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19/25

第七話 爆発! 中国ブラック!  下

 先ほどまでの、スピーカー越しに響いていたような声と違い、肉声で聞こえてきた声に皆そちらへ振り向いた。


 紅魔館の屋根。

 その上には、軽い逆光でよく見えないが、巨大な何か(恐らくひえぴょん)を携えた何者かが立っていた。

 しかし、その何かが見えなかったのは都会っ子の俺だけのようで、チルノの言葉を境にその他の幻想少女達は口々に言い出した。


「あー! てめーそれひえぴょんじゃん!」


 その他の面々も屋根の上に立っている者に対して、返せ! 泥棒! などといった言葉を投げつける。


 それに対してその謎の人物は、フッと軽く笑ってからひえぴょんを抱え、屋根の上から飛び降りた。

 ひえぴょんを抱えたまま、クルクルと回転しながら飛び降り、スチャっと綺麗に着地する。

 とても綺麗な動きだった。思わず、10点! と言いそうになるほどに。


『おぉ~!』


 あまりにも華麗な一連の動作に、他の皆も声を上げ、拍手する。


「いやぁ~、どうもどうも」


 黒いマントを羽織り、髑髏のマスクを被った何者か……というか紅さんは向けられた拍手にペコペコと頭を下げる。


 それから拍手が止んで、辺りに沈黙が立ち込める。

 そんな沈黙がしばらく続いたかと思うと、みすちーが唐突に叫んだ。


「いや、お前誰だよっ!?」


 その言葉を皮きりにまたもや皆が騒ぎ出す。


 お前何もんだよ! そのマスク、センスないぞー! もう一回さっきのジャンプみせて! ひえぴょん返して!


 そんなチルノ達を前にして、紅さんはフフンとその紅い髪をかきあげた。


「私が誰かと聞いたな! 我は悪魔の怪人、中国ブラックだッ!」


 ババーンッ! と効果音が聞こえてきそうな程豪快なポーズを決める紅さん。

 ……ノリノリだな。


『な、なんだってーッ!!?』


 俺とレミリアさん以外は声を上げて驚く。

 俺とレミリアさんはその驚き様に驚く。


 まさか本当に怪人と出会えるなんて思ってもいなかったんだろう。

 みんなは、マジかよ、とか、モノホンだよモノホンの怪人だよ、とか驚きを隠せない。


 驚愕の事実を前にして、一番最初に自分を取り戻したのはチルノだ。チルノは紅さんに食って掛かる。


「やいてめぇ! 怪人だからって人のもん盗っていいと思うなよ!」


 そうだそうだ! 怪人の風上にもおけない奴だ! もう一回あのジャンプお願いします! その黒いマント私と被ってるんだよ!


 チルノに続いて皆一様に噛みつき出す。

 しかし、黒マントの下は普通に紅さんの普段着だというのに、誰も気づかないのだろうか……。


 かなりの剣幕で文句を言われている紅さんだが、紅さんはその余裕の態度を崩さない。

 そして、さっきの様に皆を鼻で笑った。


「じゃ、私から取り返してみればいいんじゃない? ま、できれば、だけどね」


 ブチっと皆がキレるのが分かった。

 その中でも特に煽りに耐性がなかったのは予想通りというか、やはりチルノだった。


「あたいたちの宝物を返せ!」


 チルノはそう叫ぶや否や飛び掛かろうとする。

 しかしその瞬間、紅さんは傍に置いてあるひえぴょんに手をかざした。


「おっと、こいつがどうなってもいいのかな?」

「ひえぴょん!」


 ひえぴょんを人質に……人質?

 とにかく、紅さんにカエル質を取られたチルノはその場で急停止する。


 なんて卑怯な……! 探偵団のメンバーは歯噛みした。

 チルノは怒りを抑えきれないように歯を食いしばる。チルノの足元に生えている芝が音も立てずに凍っていく。

 ……おいおい。


 慌ててチルノを落ち着かせに行こうとすると、リグルがチルノの肩に手を置いた。


「チルノ、今は……奴に従うしかない」

「くそぉ!」

「はっはっはっ! これで貴様たち探偵団も終わりだな!」


 紅さんは高笑いし、チルノ達は絶望したように膝を着いた。

 このまま探偵団は悪の怪人に負けてしまうのか。


 誰もがそう思ったその時、俺の隣にいたルーミアがスッと前に出た。


「あれ~? 中国ブラックはまだ気づいてないの~?」

「……なに?」


 ほんの少しだが、その言葉に紅さんは警戒を深めたようだ。ルーミアから遠ざける様にひえぴょんの前に出る。

 周りの皆は、ルーミアは何を言っているのだろうと、きょとんとした顔をしている。それは俺も同じ。


 そしてルーミアは、ひえぴょんを指差す。

 その瞬間、ひえぴょんを黒い球体が覆った。それは、ルーミアが使っていた魔法。

 紅さんはルーミアを注視しており、それには気付いていない。


 ……なるほど。

 俺はすぐに走り出せるよう、紅さんにバレないように足に力を込めた。


「それ、偽物だよ~?」

「何を言って……ッ」


 ルーミアの言葉に紅さんはひえぴょんをちらと見る。そして驚いて固まった。

 それもそのはず、さっきまでひえぴょんだったものは大きな黒い球になっていたのだから。


「今だっ!」


 俺はそう叫び、走り寄ってひえぴょんを奪いにかかる。

 しかし、俺はひえぴょんに触る暇もなく、右手一本で紅さんに取り押さえられる事となった。


「ぐぇっ」


 左腕を捻り上げられ、地面に押さえつけられる。一瞬で何が起こったのかまるで分からない。


「人間なんかに遅れは――ッ」


 紅さんの言葉は、みすちーの長い爪での攻撃に遮られた。


 だが、紅さんはみすちーの攻撃を左手でいなし、その手首を掴む。そしてそのまま彼方へ投げ飛ばそうとする。

 刹那、パキパキと音が鳴る。その音の方向へ目を向けると、紅さんの足首までが凍っていた。


「っ!?」


 一瞬であったが、それにより隙が生まれた。

 両手両足が塞がり、驚愕で固まった紅さんの腹に、リグルが思いっきり蹴りを決め込む!


「ぐぅっ!」


 鈍い音と共に、紅さんは両足を地に着けまま数メートル後にとばされた。氷はその際に砕けてしまったようだ。


「……やるね」


 紅さんがニヤリとしたように見えた。

 お腹あたりに付いた土を払い、何かの武術であろうか、紅さんは構えをとる。


 雰囲気が変わった。

 何か重々しいモノが紅さんの周りにとぐろを巻いている様に見え、ゴクリと息を呑む。


 しかし、紅さんの威圧に呑まれてしまったのは俺だけのようで、みすちーが紅さんを指差しながら声を張り上げた。


「なんじゃわれぇ! ウチのリーダーに何してくれとんじゃあ!」


 それにリグル、チルノと続いた。


「そうじゃわれぇ! ブッコロしちゃろかぁ!?」

「なめんなわれぇ! われぇってなんだわれぇ!」


 何故かヤンキーみたいになってしまった三人に唖然としていると、大ちゃんが手を差し出してくれた。

 ちょっと情けないけど、礼を言ってからその手を掴んで立ち上がる。

 立ち上がる際に、大ちゃんの後ろにひえぴょんが置いてあるのが見えた。

 ……なるほど、隙を見て移動させたのか。


「ひえぴょんだけに飽き足らず、ウチのリーダーに手を出したあんたは死刑だコノヤロー!」


 リグルが紅さんに死刑宣告を突きつける。

 そうだそうだ! 周りの奴らがやんやとはやし立てる。


 紅さんはその余裕と構えを崩さずに答える。


「果たして、次は上手くいくかな?」


「あら?」

「ッ!!?」


 急に背後に現れたレミリアさんを振り返る暇もなく、紅さんはどこからともなく現れた紅い鎖にがんじがらめにされた。

 そして、十字架に貼り付けられるような格好で宙に吊りあげられる。


「次はないわよ?」


 レミリアさんが指を鳴らすと、紅さんを縛る鎖が増えていく。


 うねうねと紅さんの身体を這い回る鎖は、紅さんの動きを完全に封じる。

 ……レミリア先生、エロスを感じます。


「ちょ、お嬢様もッスか!? そりゃないですよ!」


 紅さんはレミリアさんに対して抗議をするが、本人は歯牙にもかけない。


「さっ、やっちゃいなさいな」


 レミリアさんはこちらを見つめた。それにつられて、周りのみんなもこちらを見る。

 俺は探偵団のリーダーなんだから、怪人に止めを刺すってなったら当然この流れだろう。


 そして俺は、皆の視線を集める中、口を開いた。


「よし、やっちゃえフラン」

「……え?」


 先程まで完全に蚊帳の外だったフランはビクリと反応する。

 フランはさっきまでの流れに全くついて行くことが出来ずに、ただ突っ立っているだけだった。


 ……でも、それが普通なんだ。

 いきなりケンカが始まって、それについて行けたチルノ達の方が異常だ。

 俺だってその流れの発端だったからこそ良かったものの、その後の動きは全くついていけなかった。


 だからこそ、と言うべきか。

 俺はフランを除く残りのメンバーたちの事が気になった。

 こいつらはこういう事を日々繰り返しているのだろうか……。


 いや、今それは気にする事じゃないな。

 とにかく、今はけじめをつけることの方が先決だ。

 誰かに紅さんを軽く攻撃させて、紅さんがそれで参ったと言う。それで今回は一件落着だ。

 チルノやリグルといった他の血気盛んな連中にやらせるより、フランに任せた方が全然安全だろう。そう思ってフランに頼む。


「ほら、悪の怪人を倒すんだぜ! 決め手はフランだ!」

「う、うん。そうだね。……うん! よし!」


 よし、と軽く自分に喝を入れて、フランは紅さんに手を向けた。

 紅さんは口に詰め物でもされたのだろうか、何かうめき声をあげながら必死にもがいている。


 何かが低く唸るような音が響くのと同時に、フランの腕が赤く淡く発光しだす。


 ……あ。

 そこでフランの弾幕、その威力を思い出す。壁を粉砕し、庭をめちゃくちゃにしたその威力を。

 俺は慌ててフランに話しかける。


「ふ、フランっ、て、手加減しようなっ!?」

「オッケー!」


 フランはおざなりに返事をして、大きな声で言った。


「きゅっとして……ドカーン!」


 ―――そして紅さん、中国ブラックは、爆発した。


第七話「爆発! 中国ブラック!」楽しんでいただけたでしょうか?


今回もチルノ達の元気いっぱいな姿を書いていきました。やっぱり、楽しいですね。うきうきします。

それと、ルーミアにフラグが立っていると思う人もいるかもしれませんが、そうではありません。ルーミアは純粋に友達思いなんです。


さて、次回では、現時点で非常に影が薄いあの人が強烈なキャラを発揮します。

一体誰でしょう。正解は次回のお楽しみです。では、また今度。

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