第七話 爆発! 中国ブラック! 中
今日の昼食は、なかなかに騒がしいものだった。
レミリアが来たことで気分上々なフランは饒舌だったし、チルノは元からよくしゃべる。
大ちゃんもよく話していたし、初めは静かだったリグルとみすちーも、それらにつられて最終的には騒ぎ出した(みすちーの歌はとても騒がしくて、後で十六夜さんに叱られていた)。
その中でマイペースなルーミアはただ黙々とご飯を食べていたが……。
そんな騒がしい昼食を嬉しそうに見ていたレミリアさんが、なぜか印象に残っている。
そしてご飯を食べ終わり、レミリアさんを加えた探偵団一行は紅魔館の玄関を目指していた。
「ねぇりん! これから何をするの!?」
チルノが期待に満ちた眼差しでこちらを見上げる。
「あぁ、ほら、お前ら言ってただろ。怪人だよ怪人」
チルノは首を傾げた。
お前はさっき自分で言ったことも覚えてないの……。
一度溜息を吐いてからチルノに教えてやる。
「今からな、悪の怪人を倒しに行くんだよ」
「おぉ……!」
チルノは興奮したように声を荒げる。
「まじで!? あたいらちょーさいきょーじゃん!」
「いや、それは分かんないけどな」
ちょっと苦笑い。
こんなにはしゃいでるチルノを見ると、自分にもこんなに無邪気だった時期があったんだろうか、そう思ってしまう。
自分の興奮をみんなと共有したかったのか、チルノはこれから怪人を倒しに行くのだという旨を皆に伝えていった。
それを聞いたフラン達は、探偵団の本格的な活動が始まるのだと、それぞれが意気込んだ。
別に探偵団の活動は怪人を倒すってわけじゃないんだけどなぁ……。
しかしながら、それをこれだけ気合の入っている面々に伝えるわけにもいかず、そうこうしているうちに玄関へとたどり着く。
開き直った俺は、景気付けに皆に声をかける。
「よーし、じゃあみんな! 悪の怪人を倒すぞー!」
『おぉー!』
全員が元気よく右の拳を突き上げた。
……レミリアさん、意外にノリノリだな。
「っし、じゃあまずは、悪の怪人を見つけるためのパトロールをするぞ」
「ぱとろーる、ですか?」
聞きなれない言葉なのだろうか。大ちゃんが首を傾げる。
「あぁ、パトロールってのは見回りだよ。悪い奴がいないか見回りをするんだ。近辺調査だな。
こんだけ大人数だから、三つくらいのグループに分かれよう。チルノ、わかってるか?」
一人だけ山の方を眺めていたチルノに尋ねる。
「? あたい? あたいは最強よ?」
何故に疑問系?
「あぁ、そうだな。お前は最強だ。
もう一度言うぞ。三つのグループに分かれて、近辺調査だ。
じゃあ、フラン。お前は日に当たれないから、あまり遠くには行かないように。それで―――」
まずはこうして3チームに分ける。
『チーム⑨』チルノ、大ちゃん、ルーミア。
『チームフラン』フラン、リグル、みすちー。
『チームリーダー』俺、レミリアさん。
この三つ。
チーム⑨とチームフランは俺がパトロールする方向を定めると、すぐに飛んで行ってしまった。
早く怪人を見つけたかったのだろう。
一応20分後には帰ってくようには言ってあるが、大丈夫だろうか……。
それぞれ飛んで行った奴らを見送って、レミリアさんに向き直る。
レミリアさんはフランが飛んで行った方を見ている。フランが霧の範囲外に出てしまわないか心配なんだろう。
「じゃあ俺たちも行きましょうか」
「ん、それで私たちはどこに向かうのかしら?」
「あぁ、紅さんのところです」
そう言うと、レミリアさんは首を傾げた。
「美鈴のところに? まさか美鈴をボコるのかしら?」
それはそれでいいわね。頷くレミリアさんを慌てて否定する。
「いやいや! 違いますよ!
えっと、ほら、紅さんに怪人役を頼もうと思いまして……」
悪の怪人なんてそうそう、というか普通に考えているはずがない。だから、紅さんに怪人役を頼むことにしたのだ。
紅さんなら引き受けてくれそうだし、結構ノリノリでやってくれそうだ。
しかし、まさかレミリアさんの口から、ボコる、なんて単語が出てくるとは……。
レミリアさんは納得できたように頷いた。
「なるほど、確かにそれが一番確実かも知れないわね。
……でも、サクラってのはちょっと残念ね」
「あれ、レミリアさんも本物の怪人を倒してみたかったんですか?」
からかうように言ってみると、レミリアさんは笑って答えた。
「そうね。だって楽しそうじゃない」
楽しそうに笑うその顔は、とても綺麗な笑顔だった。
思わず見とれてしまう。
「……レミリアさんって何歳でしたっけ?」
「うん? 500くらいだけど?」
当たり前のように答えるレミリアさん。
そっか。見た目も同じくらいだし、歳もフランと近いのか。
「……」
悟られないよう、レミリアさんをチラッと見る。
……できれば、あと500年後くらいに会いたかったなぁ。
まぁ、そんなこと考えても仕方なし。頭を横に振る
「あなたが長生きすればいいんじゃない?」
「……え?」
レミリアさんはニヤリと笑った。
まさか口に出してしまっていたのだろうかと慌ててしまう。
レミリアさんは、ふふっと笑ってから、自身の顔を指差した。
「顔に出てたわよ」
「――」
顔に出ていた、という指摘は何だか恥ずかしくて、何か弁明をしようとする。
しかし、うまく言葉が出てこない。
「あ、あの、えっと……」
レミリアさんはそんな俺を見て、可笑しそうに笑う。
「何やってるの。ほら、美鈴に頼むんでしょ」
それだけ言うとレミリアさんは、門の方へ先に向かって行ってしまう。
俺は一人その場に残される。
「……」
何だか、自分がからかうつもりだったのに、逆に手玉に取られてしまったな。
どうやら500年という歳月は伊達ではないらしい。
頭をぽりぽりと掻く。
「人は見かけによらないって言うけど、妖怪はそれ以上だな」
* * *
「……なるほど、悪役を、ねぇ」
紅さんは、ふむと頷いた。
今しがた、紅さんに探偵団と悪役について伝えたところだ。
紅さんは腕を組んで、考え込むような素振りをみせている。
その際に、思わず紅さんの胸に目が行ってしまったが、そこは男子だから仕方ないと許してほしい。
しばらくすると、紅さんは腕を解いて言った。
「まぁね、せっかく妹様に出来た友達だし。やってあげたいのは山々なんだけど。
なんだけど、ねぇ……」
そこで紅さんはちらとレミリアさんを意味ありげに見る。
その視線を受けたレミリアさんは、溜息を吐いて言った。
「分かってるわよ。咲夜に言っておくから、悪役の怪人、頼んだわね」
その言葉に紅さんは飛び上がるように喜んだ。
「いやぁ! 流石お嬢様! わかってらっしゃる! んじゃ、凛ありがと!」
そう言うな否や、紅さんはこちらにウインクをして颯爽と紅魔館へ戻っていった。
「行っちゃいましたね」
紅さんが帰っていった紅魔館の方を見る。
なんだか変に生き生きしてたな、紅さん。そんなに門番の仕事は暇なんだろうか。
「そうね。ほら、私たちも戻るわよ」
歩き出したレミリアさんについて行く。
後はフラン達が帰ってくるのを待つだけか。上手くいくと良いんだが……。
* * *
紅魔館の玄関。レミリアさんは空気に腰かける様に宙に佇み、俺は地面に座り込んでいる。
十六夜さんに見つかったら行儀が悪いと怒られてしまいそうだ。
「―――それで、その森を抜けた先に人里があるわ」
レミリアさんがある方向を指さす。
その先は霧で見えない。
「はぁ、なるほど」
時間潰しのため、レミリアさんからこの幻想郷の説明を受けていた。
主に人里や妖怪の山など、ここに何があるのか聞いていたのだが、説明がなかなか曖昧でよく分からない。
指差されても分かんないっつーに。
それと、もう二十分くらい経ったんじゃなかろうか。もうそろそろ帰ってくる頃だろう。
腕時計が欲しいな。つけていないのを承知で、手首を見る。
「お帰りみたいね」
「え?」
レミリアさんが唐突に西へ視線を向ける。
そこから何かが飛んできているのが分かった。
「りーん! 今帰ったよー!」
『チームフラン』のようだ。
先頭のフラン、その後続にみすちーとリグルが見える。
近くまで飛んでくるのを待って、出迎える。
「おかえりー! パトロールはどうだった?」
俺は立ち上がりながら、帰って来た三人に尋ねる。
すると、何処で覚えたのかフランは敬礼をした。
「問題なかったよ! 凛! お姉様!」
フランは元気いっぱいだが、レミリアさんがいるからなのか、みすちーとリグルは少しぎこちない。
いつかこの二人もどうにかしないとな。
そう思いつつもチルノ達について聞こうとしたところ、丁度視界の端で何かが飛んでくるのを捕えた。
霧のせいでよく見えないが、おそらくチルノ達であろう。
俺は手を振ろうとして……やめた。
なぜなら―――
「りんー! すごいの持ってきたー!」
チルノ、大ちゃん、ルーミアの三人は、何か巨大なものを抱えてきたからだ。
「えー!? なにあれ!?」
フランが目をキラキラと輝かせながら声を上げた。
あの巨大なものが何であるのかも気になるが、それよりも、あの細腕のどこにあんなものを持ち運べる力があるのか、そっちの方が断然気になるところだな。
そして、俺たちの真上まで来た三人は徐々に降下していき、その巨大な物体(どうやら氷漬けにされているらしい)をドスンと下ろした。
その氷漬けにされている物体を確認した俺は、思わず口にしてしまう。
「うぇ、キモっ」
「あー! なんだとー! ひえぴょんかわいいだろー!?」
チルノが心外だと言わんばかりに氷漬けのそれ(ひえぴょん)を指さした。
「いや、だってさ……」
チルノは怒っているが、思わずそう言ってしまっても仕方ないだろう。
だってそれは―――
「カエルじゃんこれ」
カエルなのだ。しかも1m級の。
これをキモいと言って誰が責められよう。
しかし、このカエルをキモいと思っているのは俺だけのようだった。
俺とレミリアさんを除く残りの面々は、すげぇー! とか言いながらカエル鑑賞に移ってしまった。
凄い凄いと戦利品を褒められている『チーム⑨』の連中はまるで天狗。
俺は残ったレミリアさんに話しかけた。
「これ、どうしますかね?」
「フラン、“すげぇ”なんてはしたない……」
聞いちゃいない。このシスコンめ。
「ほら、落ち着けってお前ら。こんなんどうすんだよ。もうちょっと溶け始めてるし」
騒いでる奴等に割って入る。
こういう気持ち悪いのはさっさと片付けてほしい。溶けて動き出しても怖いし……。
十六夜さんにでも頼んでさっさと破棄処分してもらおう。
「これは探偵団の宝物にするの!」
チルノは俺のそんな思いを裏切って、そう言った。
『賛成!』
探偵団の皆は満場一致、といった風に手を挙げる。
「これは私たち探偵団のシンボルよ凛!」
みすちーが調子よく言い出す。
……おいおい冗談だろ。こんなんがシンボルて。
お兄さんは反対ですからね、反対。
抗議の声をあげようとした、その瞬間。
コロコロと、足元に一つの球が転がって来た。
そしてそれは、俺達が反応する暇もなく、黒い煙を吹き出した。
球から吐き出された煙は瞬く間に辺りを覆い隠す。
視界が完全に煙幕で覆われ、俺達は騒然とした。
「な、なんだ!? ゲホっ」
「て、敵襲だ!」
「ゲホっ、チルノちゃん!」
「凛は!?」
「ゴホッゴホッ、私自慢の喉が……!」
「ゴ、ゴハァッ! こ、これ殺虫成分ガハァ!」
「お、お姉様……!」
予期せぬ急襲に俺も含めた全員が右往左往する。皆ギャアギャアと騒ぐのみの烏合の衆。
瞬間、腕に何かがしがみつく。
……ルーミアだ。
俺を確認して、良かった、と呟く。どうやら一番非力な人間である俺の心配をしてくれたらしい。
ルーミアに皆の安否を確かめようとした時、レミリアさんの凛とした声が辺りに通った。
「落ち着きなさい」
その声にしんと周りが静まる。
そして、突風が吹いたかと思うと、風がたちまち黒い煙幕たちを追い払って行った。
視界が晴れると、皆の位置を把握できた。
それぞれが動き回っていたのだろう、バラバラに分散している。
レミリアさんはその中心に立っていた。
「こういう時こそ、冷静に対処しなければならないでしょう? ほら、大丈夫かしら」
「あ、ありがとうございます」
レミリアさんは傍に倒れていたリグルを助け起こす。
「か、カッコいい……」
フランがそう口にする。
確かに、その通りだ。
急襲にも動じず、周りの者を治め、そして倒れた者に手を貸す。その姿は夜の王たる風格を纏っていた。
この姿を見た者はこう言わざるを得ないだろう。
カリスマ溢れまクリスティー、と。
「かっけぇ、かっけぇよレミリア!」
我に返ったようにチルノが言う。それを皮切りに、皆がレミリアさんへと走り寄った。
レミリアさんに駆け寄った連中は、ただ一様にスゲぇだのヤベェだの騒いでおり、抱きついたり飛びついたりでレミリアさんを揉みくちゃにした。
レミリアさんはなんとか引きはがそうとしているが、あまり強く出れずに困っているようだ。
……あ、帽子落ちた。
「凛」
ルーミアが袖を引く。
それにつられてルーミアを見ると、ルーミアは注意深く周りを見回していた。
……そうだ、レミリアさんのカリスマリティ(そういう単語があるのかどうかは謎)に溢れた行動によって失念していたが、まだあの煙の球を転がしてきた犯人が分かってないのだ。
気を引き締める。
自分はこの中で一番弱い人間だけど、この探偵団のリーダーなんだ。皆を守ってやらないと。
「……ん?」
そこで思い至る。
先程の煙幕といった、いかにもな攻撃に、この狙い澄ましたようなタイミング。
これは、もしかして――
『はっはっはー! お前達の宝物は頂いた!』
とある可能性に気づいた瞬間、聞き覚えのある声が俺の思考を遮った。
やっぱり……。
その声を聞いた俺は、自分の考えが間違っていなかったのだと確信する。
どこからともなく聞こえてきた声に、リグルがいち早く反応し声を張り上げる。
「だ、誰よ!? 姿を現せ!」
「私はここだ!」




