第七話 爆発! 中国ブラック! 上
幻想郷探偵団団員データ
団員No.3
フラン・スカーレッド
(フランドール・スカーレット)
種族:吸血鬼
スカーレットに濁点付けたらレッドになるし、着てる服も赤いからちょうど良いじゃん。ということで結構適当につけられたコードネーム。因みに凛はフランドールではなくフランが本名だと思っている。
現在一時、天気は快晴。場所は紅魔館玄関前。
一日の中で最も暑い時間帯。太陽がさんさんと光を注いでいる。
しかし、その真夏の太陽光も紅魔館名物の霧に遮られており、それほど強くはない。強くはないが、湿度が高いせいだろうか。蒸し暑い。
そんなムシムシした空気の中、チルノが叫んだ。
「あたいたちの宝物を返せ!」
その先には髑髏のマスクを被り、黒いマントを羽織った紅さんが立っている。
チルノがいざ飛び掛からんとした時、紅さんはわきに置いてある1m程の氷漬けのカエルに手をかざした。
「おっと、こいつがどうなってもいいのかな?」
「ひえぴょん!」
なんて卑怯な……! 探偵団の面々は歯噛みする。
その中でも特に悔しそうなチルノの肩にリグルが手を置いた。
「チルノ、今は……奴に従うしかない」
「くそぉ!」
「はっはっはっ! これで貴様たち探偵団も終わりだな!」
紅さんの高笑いに、チルノ達が絶望したように膝を着いた。
幻想郷探偵団、壊滅の危機。
なぜこのような状況に陥ったのか。話は一時間ほど前に遡る。
* * *
「怪人?」
「そう! 悪の怪人!」
隣を歩くフランとチルノが目をキラキラと輝かせ、頷いた。
こいつら全然こりてねぇな、と頭を掻く。
あの後、紅魔館の探険という名目で、皆を図書館から連れ出すことに成功した。
成功はしたのだが、チルノ達が「我々は正義の探偵団だ」と豪語し、廊下を歩いていた妖精メイドに無作為に襲いかかったのだ。
チルノ達の中では、正義の味方は何もしても許される、となっているらしく、それはもう酷く館中を荒らしまわった。
もちろんそれは十六夜さんに知れる事となり、先程きつい折檻を受けたばかりなのだ。
……止めようとした俺も含めて。
そして今度は悪の怪人をやっつけたいと言う。
しかも―――
「館内でこれ以上暴れることは許しませんことよ」
「え~、いいじゃん咲夜~」
監視役として付いて来ている十六夜さんの目の前で言うのだから。
怖いもの知らずと言うかなんというか……。
「ほら二人とも、咲夜さん忙しいんだから、迷惑かけちゃだめだろ」
また俺まで叱られては堪らない。
俺は十六夜さんに加勢した。
チルノとフランの二人は不貞腐れたように頬を膨らませる。
すると
「……」
今度は十六夜さんに無言で睨まれる。
……もう、なんなんだよこの人。
溜息を吐くと、ルーミアがひょこっと前に出て言った。
「あんまりしかめっ面してると、小じわが増えるよ~。おばちゃん」
十六夜さんがピクリと反応したのがわかった。
ルーミアは、十六夜さんの反応を見てニヤリとした。
「人間って寿命短いからな~。
レティが言ってたけど、人間の女ってあんたくらいになると、後は一気に転がり落ちるだけなんだよね~?
おばちゃん?」
「……」
ルーミアは薄い笑みを浮かべて十六夜さんを見上げ、十六夜さんは何も言わず能面のような顔でルーミアを見る。
「……」
え、ちょ、ちょっと待って。
なんでルーミア十六夜さんに喧嘩売ってんの? マジで。
大ちゃんやフラン、チルノはいきなり訪れた険悪な空気にポカンと口を開けているし、みすちーとリグルは十六夜さんに苦手意識でもあるのかずっと静かなまま。
よ、よくわかんないけど、これは何かヤバそう。
そう判断した俺は、さらに何か言おうとしたルーミアを遮って、大きな声を出した。
「あ、あぁー! 俺お腹空いちゃったなぁー!
そーいえばそろそろお昼だし、この紅魔館の食堂でお昼ご飯でも食べたいなぁー!
なぁみんな!」
いきなり叫びだした俺に若干引きつつも、皆は控えめに頷いた。
それを確認した俺は即座に十六夜さんへと向き直る。
「だ、そうです咲夜さん。えっと、どうか食堂まで案内してくれますか?」
「……えぇ、そうね」
しばらく間を置いて答えた十六夜さんは、無表情なまま頷き、歩き出す。
足元がいつもより、ふらふらとおぼつかないのは気のせいだろうか……。
「ほ、ほら、みんな! 昼飯だ! 咲夜さんについて行こうぜ!」
盛り下がった空気に皆いまいちテンションを上げきれないようだが、昼飯、という単語に引かれぞろぞろと十六夜さんの後に続く。
その最中俺はルーミアに小声で話しかけた。
「ルーミア、なんであんなこと言ったんだよ。おばちゃんとか。咲夜さん普通に綺麗じゃん」
「別に。ちょっとからかっただけよ」
ルーミアはつんとそっぽを向く。
……なんでこいつはこいつで不機嫌なんだよ。
前を歩く十六夜さんを見る。
俺の主観でだが、十六夜さんは普通に美人だと思う。ルーミアはおばちゃんと言っていたけど、ほんとに全然若い。
十六夜さんも気にすることないと思うんだけどなぁ。
そこで、はたと気付く。
思えば幻想郷に来てから会ったのは、皆綺麗な人ばっかりだ。
十六夜さんに紅さん、パチュリーさん、八雲さんと藍さん。それに働く妖精メイドさん達も。
種類は違うものの、みなさん揃いも揃って美人さんだ。
お、おぉ……!
少し興奮した俺は、周りを見回した。
「……」
まぁ、こんなガキばっかじゃテンション上がんないわな。
「どうしたの? 凛さん」
溜息を聞かれてしまったのだろうか、大ちゃんが心配そうにこちらを見上げた。
こんな純粋無垢な子に、今の雑念っていうか煩悩を話すわけにはいかない。
俺は慌てて別の話題を考えた。
「ん、あぁ……。チルノがまた騒いで咲夜さんに怒られないか心配でさ」
「あはは、それ私も」
大ちゃんは苦笑いした。
うん、上手く誤魔化せたみたい。
大ちゃんに合わせて前を歩くチルノとフランに目を向ける。
今のところチルノはフランとの話に盛り上がっているようだが、いつ何をし出すか分かったもんじゃない。
ヤバそうな時は頼むよ、そう言って大ちゃんの頭に手を置く。
大ちゃんは控えめながらも頷いてくれる。
チルノはチルノで悩みの種だが、心配、という点ではさらに気になる奴等がいる。
『……』
リグルとみすちーだ。
さっきから何も言わず、動向を探るように、というよりも刺激しないように、十六夜さんをじっと見つめている。
そして、その目には怯えが混じっているのが窺える。
初めは十六夜さんが怖そうだからだと思っていたが、この警戒のしようは流石に尋常じゃない。
ちょっと聞いてみよう、そう思って一番後ろを並んで歩く二人の隣に行く。
「さっきから元気ないじゃんお前ら。どうしたんだよ?」
俺が聞くと、リグルが十六夜さんから目を離さずに口を開いた。
「凛、あの咲夜ってメイドには気をつけなきゃだめだよ」
みすちーも便乗する。
「うん。あいつはヤバい」
あいつはヤバい、その言葉であの時の十六夜さんを思い出す。
あの機械のような、一切感情の籠められていない表情。
確かに、と肯定しそうになった自分を押しとどめる。
あの出来事は確かに怖かったし、俺が未だ十六夜さんに心を許せていない原因でもある。
でも、それだけで十六夜さんを決めつけるようなことはあっちゃならない。
俺は自分を誤魔化す様に口を開いた。
「でも、でもさ。(紅さん曰く)咲夜さん本当は良い人だよ。今度話しかけてみなって。実際話したら良い人だよ」
そう言うも、難色を示す二人。
俺は自分に言い聞かせるように、何故か必死に言葉を続けた。
「だって、チルノ見てみろよ。今咲夜さんと話してるじゃん。いつも通りに。だから大丈夫だって」
二人の視線をチルノに向けさせる。
何の話かは分からないが、チルノが笑顔で十六夜さんに話しかけている。
チルノが十六夜さんと楽しそうに話しているのを見て(楽しそうなのはチルノだけだが)、二人は顔を見合わせた。
誰にでも分け隔てなく話しかけられるっていうのは、チルノの才能だな。
「な? 今度二人も話してみろって。悪い人じゃないからさ」
どうして俺はこうも必死に説得しているんだろうか。
……わからない。
しかし、俺の説得が功を奏したのか、二人は渋い顔のままではあるが確かに頷いた。
二人の反応に安心した俺は何か次の話題を考えていると、みすちーが自分を納得させるように呟いた。
「確かに、あの人の方はまだマシだしね」
リグルも頷く。
あの人の方?
「まだ誰か苦手な人がいんの?」
みすちーは頷いて、思い出すのも嫌だ、という風に口を開いた。
「あいつよ、あの時いた吸血鬼」
「吸血鬼?」
「うん」
……吸血鬼、というからにはレミリアさんのことだろうか。
リグルもみすちー同意見のようで、うんうんと首を縦に振っている。
はて、レミリアさんはそんなに恐ろしい人物だっただろうか。
俺的には十六夜さんの方がよっぽどなんだが……。
「なぁ、お前らが言ってるのってレミリアさんのこと?」
ヤバい人物、という言葉は俺の中のレミリアさんに当てはまらなくて、二人に尋ねる。
もしかしたら、別の吸血鬼の事なのかもしれない。
しかし俺の予想は外れたようで、二人は即座に頷いた。
「レミリアさんが、ねぇ……」
頭を捻る。
そんなヤバそうな人じゃないような気もするんだが……。
二人のこのビビり方もおかしいし、みすちーは十六夜さんの事をあの人の方、と言った。
……もしかしてリグルとみすちーは、十六夜さんとレミリアさんの二人に何かされたんじゃないだろうか。
「なぁ、お前らさ、十六夜さんとレミリアさんに何かされたのか?」
そこまでひどいことはされてないとは思うが……。
俺の質問に対して、リグルが答えようとした時、
「はぁい、何の話をしてるのかしら」
見計らったようにレミリアさんが現れた。
リグルとみすちーの二人は目を剥いた。
『くぁwせdfrtgyふじこlp』
リグルとみすちーの二人は言葉にならない悲鳴を上げて、慌ててレミリアさんから距離をとる。
レミリアさんは眉を顰めた。
「あら、随分な対応ね」
二人の悲鳴を聞いた皆はこちらに振り返り、様々な反応を見せた。
フランは姉の登場に目を輝かせ、ルーミアはあまり興味なさげな表情を浮かべている。チルノと大ちゃんはよく状況が把握できていない様子。
そして十六夜さんはレミリアさんを気遣うように口を開いた。
「お嬢様、お休みはよろしいのでしょうか」
レミリアさんは肩をすくめた。
「あぁ、あんなに騒がれちゃ休めやしないわよ。ついでに、一緒に昼食でも取ろうと思ってね」
「それは――」
「あぁ、いいわよ」
何か言おうとした十六夜さんを遮り、早く行きましょうとレミリアさんは歩き出す。それにつられて皆もまた歩き出す。
俺は未だ縮こまっているみすちーとリグルに声をかけた。
「ほら、いこうぜ」
二人とも控えめに頷き、皆に続く。
俺は前を行くレミリアさんを見る。
「……」
レミリアさんのどこにそこまでビビる要素があるのか、やっぱりわからない。




