第六話 結成、幻想郷探偵団 上
一つ!
弱きを狙う最低野郎!
二つ!
平和を脅かす悪行三昧!
三つ!
そんな輩は我等幻想郷探偵団!
幻想郷に変わって、お仕置だ!
「うわくっさ、かびくっさ」
図書館に入るなりみすちーが放った一言である。
そんなストレートな言い方しなくてもいいだろうに……。
「おぉ! これが図書館か!」
少々辛辣なコメントを述べたみすちーと違い、その他面々は大図書館の広さに声を上げる。
リグルちゃんは早く図鑑を見たかったのか、すぐさま近くの本棚に駆け寄った。
それにつられ、チルノ達もそれぞれ思い思いの方向に向かい始める。
「ちょ、ちょっと待ってみんな! 俺丁度いいの思いついた!」
慌てて皆を引き留める。
図書館でこんな騒がしい奴らを散らすなんてとんでもない。
「あのさ、かくれんぼしない? かくれんぼ。
ほら、ここ広いしさ、それに入り組んでる。だから普通にやるよりも面白いと思うんだけど」
かくれんぼならば無暗に騒ぐような事はしないと思うし、なかなかいいんじゃないだろうか。
それに対して、チルノやみすちーは、面白そう! とやる気を見せてくれたのだが、リグルちゃんが本棚を指さしながら言った。
「えー、でも私図鑑探したい」
「あぁ~、そっかぁ」
頭を掻く。
困ったな……。
そもそもこの図書館に来たのは、リグルちゃんが図鑑を読みたいと言ったのがきっかけだ。
それを蔑ろにするわけにはいかんしなぁ。
どうしようか迷っていると、意外とかくれんぼに積極的だったみすちーが口を開いた。
「えー、じゃあリグルだけ本探してたらいいじゃん。リグルなんかほっといて私たちでかくれんぼしようよ。
ねぇ大ちゃん」
「え、でも……」
すると、みすちーの言い方が気に食わなかったのか、リグルちゃんがすぐに言い返した。
「なんでそんな事言うのさ! どーせ私だけのけ者にしようとしてんでしょ!
ねぇ大ちゃんっ」
「そ、そんなこと……」
強めに言われてカチンときたのだろう。みすちーも負けじと言い返す。
「あんたが自分からのけ者になったんでしょ! 空気の読めないこと言って!
ねぇ大ちゃん!」
「あ、あの……」
「なによ! この前屋台の売り上げ盗まれちゃったくせに!
ねぇ大ちゃん!」
「そ、それは……」
「それは今関係ないでしょ! あんたそうやってすぐ話逸らそうとする!
ねぇ大ちゃん!」
「あ、その……」
二人の言い争いは止まらない。
巻き込まれている大ちゃんはおろおろしているばかりだ。
チルノは、二人とも元気がいいなー、と傍観しているし、ルーミアちゃんは我関せずのマイペース。
このままじゃ埒が明かない。
いい加減落ち着かせようとしたところで、さっきまで黙っていたフランが俺の前に出た。
そして、息をすぅと吸い込み、大声で言った。
「わ、私はみんなで遊べたらいいなっ!」
二人とも口喧嘩をピタリと止める。
しかし、少々見当違いなフランの言葉になんて返したら良いのかわからず、ちょっと困っているみたいだ。
冷静になったフランは自分が的外れな事を言ったのだと気付き、顔を赤くする。
俺はフランに助け舟を出した。
「な、二人とも喧嘩はもういいだろ。みんなで仲良く遊ぼうぜ。
フランもそう言いたかったんだろ?」
うん、とフランは控えめに頷く。
フランの頭を撫でてやってから、気まずそうにしている二人に話しかける。
「な? フランに免じてさ」
そう言うと、二人は顔を合わせた。
そして、バツが悪そうにしながらも互いの事を謝る。
恐らく、どちらとも負い目を感じてはいたが、引くに引けない状態だったんだろう。
「じゃあさ、リグルちゃん。図鑑はまた今度来た時に探そう。そん時は俺も手伝うからさ」
俺の折衷案を聞いて、リグルちゃんは頷いた。
これで一件落着だ。
……なんで俺は小学校の先生みたいなことやってるんだろうな。
溜息を我慢して、皆に声をかける。
「じゃあ! 気を取り直してかくれんぼやろーぜ!」
場を盛り上げる様に言うと皆は、おぉー! と元気よく返してくれる。
この子たちはこういう時に悔恨を残さないで、ほんと助かる。
「まずは鬼だけど、俺とフラン! はい拍手!」
わー! と皆ノリ良く拍手をしてくれる。
そんな中、フランの表情は硬い。
「なー! なんでフランと凛が鬼なの?」
チルノが手を挙げて質問する。
確かにもっともな質問だ。
俺はフランの肩に手を置いて、答えてやる。
「もう知ってるかもしれないけど、フランは吸血鬼だ。吸血“鬼”。
な?」
『おぉ~』
皆感心したように声をそろえる。
ただチルノだけよく分かってないらしく、大ちゃんが律儀にも教えてあげている。
そして、今度はリグルちゃんが手を挙げた。
「じゃあ! じゃあさ!
ほんとは凛も何とか鬼、みたいに何かの妖怪なの!?」
リグルちゃんの言葉に少したじろぐ。
俺は……人間だ。
「……。いや、俺は人間だよ。
だけどさ、ほら、考えてみろよ。こんな広くて入り組んでる場所、探すの大変だし、隠れる方が絶対楽しいだろ?
だから、楽しいのはみんなに譲ってやるって事!」
自身の心内を悟られないように、明るい声で皆に言う。
すると、みすちーが掛け声をかける様に言った。
「よっ男前!」
「まぁなっ」
と、満更でもないように軽く手を振る。
……上手く誤魔化せただろうか。
良い方向に話を乗せてくれたみすちーに感謝しつつ、続ける。
「じゃあ、六十数えるからそれまでに隠れろよ!
時間は各自で数えるように! はい返事!」
『はーい!』
隠れる組の皆が元気よく返事したのを確認して、開始の合図をする。
「はい! スタート!」
それと同時にみんな図書館の奥へ飛んで――あぁ、そうか、こいつら飛べるんだった。
これは……骨が折れるな。肩を落とす。
自分の発言に軽く後悔しながらも、困ったような表情を浮かべているフランに向き直る。
俺には、数を数えるよりも先にやらなきゃならないことがあるのだ。
フランに向き直ると、フランは申し訳なさそうに言った。
「あの、凛。私かくれんぼ、その、知らなくて……」
「しょうがないさ。あれだよ、かくれんぼってのは最近の遊びだからさ。
ずっと紅魔館にいたんだからそりゃ知らんって」
俯いてるフランの頭を撫でてやる。
「それよりも、さっきのはナイスだったぞフラン。よく二人を止めに入ったな」
頑張ったな、と褒めてやるとフランは少し嬉しそうにはにかんだ。
それはまるで普通の子どものようで、フランが吸血鬼だという事を忘れてしまいそうだ。
「じゃあ、時間ないからかくれんぼ簡単に説明するな。まずは鬼を決めるんだ」
「鬼?」
「あぁそうだ。鬼っていうのは―――」
それからちょっと元気を取り戻したフランは、俺の説明を頷きながら熱心に聞いている。
早くみんなと遊びたいのだろう。
……しかし、どうしてフランはここまで遊びを知らないんだろう。
他の人とあまり遊んだことがないと言っていたが、この紅魔館には妖精メイドがたくさんいるし、レミリアさんだっている。
遊ぼうと思えばいくらでも遊べたはずだ。
なのになぜ――
「ねぇ凛! それからそれから?」
「……ん、あぁ。だいたいはそれで終わりだよ」
まぁ、フランの過去についてはレミリアさんあたりに聞けばいい事だろう。
そんなことよりも、今はかくれんぼだ。
「もう時間過ぎちゃっただろうから、それそろ行こっか」
「うん!」
フランが頷いたのを確認してから、二人そろえて声を出す。
「じゃあいくよ。せーの……」
『もういーかいっ!!』
二人の言葉が図書館に反響する。
俺とフランの声が消えてなくなると、どこからかは知れないが、大きな声で返事が返ってくるのがわかった。
『もうい~よっ!!』
「っし、じゃあ行こうぜ!」
適当に歩き出そうとすると、フランはその場から動かずに耳を澄ませている。
どうしたのかと聞く前に、ん~、とフランは俺の後ろを指さした。
「たぶんチルノとみすちーはあっちだよ」
……お、おぉ!
まさか今のでその二人の居場所を把握したのか!
「フランすげぇな! あんだけで方向分かんのか!」
どっちの方向を探すのか結構途方に暮れていたので、純粋に興奮してしまう。
フランは照れ気味に頭を掻いた。
「それじゃあ、さっさとみんな見つけようぜ!」
「うん!」
これは思ったよりも早く見つけられるかな。
そう期待しながら、俺たちは本の森の中へ入っていった。
* * *
レミリアさんが広いと言っていたこの図書館。実際に奥まで歩いてみて実感した。
……本当に、広い。
どこまで行っても本棚本棚本棚――。キリがない。
ずっと続く同じ景色に、目がおかしくなってしまいそうだ。
……どうやら、この大きな紅魔館に住む住人の、“広い”という言葉を侮っていたようだ。
遭難したら、俺は助かるのだろうか……。
頭を振ってその想像を振り払う。そんな不吉な事考えちゃダメだ。
思考が悪い方向に行かないように、俺はフランに話しかけた。
「そういえばさ、チルノとみすちーはともかく、他の皆の位置もわかっちゃったりした?」
そう尋ねると、フランは少し困ったように笑った。
「えと、あそこからならわかるけど、移動しちゃったし今はわかんないや」
あそこってのはみんなの声を聞いた場所だろう。
まぁ、結構動いたから仕方ないか。
「それはしょーがないか。チルノとみすちーがいる方向がわかっただけでも十分だし。
それにあんまりわかってても――」
「ね、ねぇ凛。あれって……」
「うん?」
急に俺の袖を引っ張って、前を指差すフラン。その先には相変わらずの本棚があり、箱形の段ボールが置いてあるのがわかる。
フランはその段ボールを差している。何の変哲もない段ボールだ。
俺は首を傾げた。
「あれがどうしたんだ?」
「見てて」
フランは楽しそうに眼を爛々と輝かせている。
俺は首を傾げながらも、同様に段ボールを見つめる。
すると――
「……あ」
「ね?」
段ボールが動いた。
「そうだな」
フランと顔を合わせ、お互いにちょっと笑う。
確かに隠れる場所が少ないとはいえ、あれはないだろう。
「チルノみーっけ!」
「うぉうっ!?」
被っていた段ボールを取り上げられたチルノは驚いたように声を上げた。
そして、状況を悟ると悔しそうに立ち上がる。
段ボールをわきに置く。
……なんかこの段ボール異様に冷たいな。
「まさか見つかるとは!」
「段ボールに隠れるって発想は良いけど、動いちゃだめでしょ。しかも俺らの目の前で」
だね、と初めて一人目を見つけたフランは嬉しそうに言った。
そんな俺らを見てチルノは悔しそうに地団太を踏む。
「あたい一人目かよ! くっそ!
こうなったらあたい一人でみんな見つけてやる!」
そう言ってチルノは止める暇もなく、俺達が向かっている方とは逆の方向に飛んで行ってしまった。
フランと顔を見合わせる。
「……どうしよっか」
チルノが飛んで行った方を見ながらフランが言う。
「あ~、じゃあフラン。チルノを呼び戻してくれ。迷子になっちゃったらたまんないし」
あのチルノなら十分あり得る。
というか、放っておいたらそうなる未来しか見えてこない。
「えっ、でも凛はどうするの?」
フランは俺の提案を聞いて、少し驚いたように言った。
俺は方向音痴だし、貧弱な人間をこんなところに置いて行くというのは、フランからしても不安が残るのだろう。
大丈夫、俺はそう言ってさっきまでの進行方向を指した。
「俺はこのまままっすぐ進んでるからさ、チルノ捕まえたらすぐに戻って来て」
「わかった!」
フランは頷くと、すぐにあの綺麗な羽を羽ばたかせて飛んで行く。
あんな形の羽でどうやって飛んでるんだろうな。
「このまま、真っ直ぐか」
周りの本棚を見渡しながら歩き出す。
この図書館の異常な広さから考えてまずないだろうが、奥に突き当たったらどうしようか。
右に曲がるか左に曲がるか。いや、フランには真っ直ぐって伝えてあるからその場で待ってた方がいいのかな。
そんな事を考えながら、俺は図書館の奥まで歩いて行った。
しばらく歩いたところで、フランはまだかと後ろを振り返るが、まだ帰ってこない。
こういうところで一人は結構寂しいな。
「あぁ~、俺も飛べたらなぁ」
この幻想郷に来るまでは諦めていた夢だが、ここで実際に飛んでいる奴らを見ると、やはり自分も、と思ってしまう。
今まであった人のほとんどが空を飛べている。それなら自分も飛びたいと思うのは自明の理だろう。
フランやレミリアさんは羽で飛んでいて、ルーミアはあの球体、十六夜さんは何もなし。
やっぱり皆、魔力的なもので飛んでいるのだろうか。
だったらそれを持たない俺は……いや、そういえば霧雨さんは箒で空を飛んでいた。あんなアイテムがあれば自分も飛べるのだろうか。
……今度誰かに聞いてみよう。
そう決めたところで――
「っと、ん?」
ガタッと何か蹴ったような音が背後から聞こえた。
振り返ってみるも、何もいない。
「……」
俺は一旦何もなかったかのように歩きだし、本棚の角を右に曲がった。
そして、数歩歩いて回れ右。その場で待機する。
しばらく待つと誰かが歩いてきている音が聞こえてくる。
それから頃合いを見て―――
「わっ!!」
「キャアッ!」
意外に女の子らしい声を上げて尻餅をつくルーミアちゃん。
あの物音の正体はこの子だったか。
俺はルーミアちゃんに手を貸してやりながら言ってやる。
「ルーミアちゃんみっけ」
「……むぅ、見つかったのかー」
悔しそうに立ち上がるルーミアちゃんに、なんだか得意な気分になる。
この子にはやられっぱなしだったから、なんだか仕返しできたみたいで少し気分がいい。
「いやぁ、ルーミアちゃんも意外と女の子っぽい声出すんだな」
からかってやると、ルーミアちゃんは頬を膨らませた。
「失礼なー、私だって立派なれでぃなんだぞー」
いかにも子どもっぽい発言に思わず笑ってしまう。
「そうだな、小っさなレディもいたもんだ」
「なんだとぅ」
俺の言葉に腹を立てたルーミアちゃんはポカポカを俺を殴ってくる。
……なんだよ、ちゃんと話してみれば普通に良い子じゃないか。
あの妙な雰囲気に呑まれて苦手意識を持っていたけど、実際はそうでもなかった。
それとも、今は満腹だから、というだけなんだろうか……。
「それで凛、私は何人目~?」
「あぁ、2人目だよ」
フランとチルノが誰も見つけていなければ、だけど。
そこで、ルーミアちゃんの口を確認する。
……大丈夫。まだあの飴舐めてる。
パチュリーさんがルーミアちゃんにあげたこの飴。俺にとっては結構な生命線だ。
二人目、という情報を聞いて、ルーミアちゃんは気落ちしたのか肩を落とした。
「うぇ~い。2人目かぁ~」
「っていうか、俺とフランの跡をつけてたんじゃなかったのか?」
跡をつけるってのはなかなか良い作戦。
少々危険が伴うが、普通に一か所に隠れるよりも、かなりの確率で最後まで残ることができる高等テクだ。
まぁ、この子は失敗してしまったわけだが。
それはともかく。跡をつけていたなのなら、自分が二人目だと知っていても良さそうだが……。
ルーミアちゃんは、肩を落としたまま答える。
「あぁ~、それ思いついたの隠れてる途中だったからね。
凛見つけたのさっきなの。我ながらよく見つけたなって思ったよ~」
「なるほど」
こんな広い図書館でよく途中からそれを実行しようと思ったな。
「ん、じゃあ一緒に探そっか。
フランがこっちからみすちーの声が聞こえたって言ってたからさ」
進行方向を指差すと、ルーミアちゃんは目を丸くした。
「わぉ、フランすごいね~」
「あぁ、あれでも立派な吸血鬼だ」
それから、適当に雑談をしながら歩き始める。
なんだか気が軽くなったような気がする。
やっぱりこんなところは一人で歩くよりも、誰かと歩いたほうが全然いい。




