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東方凛理観  作者: のんの
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14/25

第五話 飛べない人間はただの人間  下

「お客様?」


 その言葉に紅さんと同じ方を見つめてみるが、霧のせいで全く何も見え――いや、何か黒い……なんだあれ。

 うっすらにだが、霧の向こうから黒い球体が飛んできているのがわかる。その周りにも何かが飛んでいる。


「ほ、紅さん、あれは一体……」

「森の妖怪に湖の妖精。凛見つかっちゃったら食べられちゃうかもね」

「う゛ぇ」


 さらりと恐ろしい事を告げられて思わずヒキガエルのような声を上げてしまう。

 食べられるなんてたまったもんじゃない。慌てて身を隠そうとして、道の向こうから聞こえてきた声に立ち止る。


「りーん! 遊びに来たよー!」

「チルノ?」


 聞き覚えのある声。振り返って霧の向こうを目を細めて見つめると、黒い球体の横を飛んでいるシルエットがだんだんとはっきりしてくる。

 手を振っているそれは、確かにチルノだ。その後ろには大ちゃんの姿も窺える。


「今日はねー! 友達も連れてきたんだー!」


 大声を上げるチルノ。大ちゃんのほかにも二人見えるから、その二人が友達なんだろう。

 あの黒い球体も友達なんだろうか……。


 今のやり取りを見て、紅さんは驚いたように言った。


「ほ~、妖精と友達なんて、外来人にしては珍しいわねぇ」

「えっと、そうですかね」

「そうね~」


 紅さんは気が抜けた様に答えた。

 俺の知り合いだということが分かったからなのか、紅さんは警戒モードをすっかり解いてしまっている。


 そうこうしているうちにチルノ達がこちらにたどり着き、チルノが相変わらずの元気な声で言った。


「凛おはよー!」


 うん、元気な挨拶ってのは良い事だ。


「あぁ、おはよう。大ちゃんも。

それで、この、人?達は……?」


 チルノが連れてきた人(謎)達へ視線を移す。

 一人はマントを羽織ったボーイッシュな女の子で、なぜか頭に触覚らしきものが生えている。しかしこの中で一番、人っぽい。

 次に人っぽいのは、触覚少女の隣にいる女の子。背中には鳥のような翼があり、羽の生えた特徴的な帽子を被っている。歳は霊夢と同じくらいに見え、たぶんこの中では一番の年長者だ。


 そして最後は、この黒い球体。

 これマジで何者――


「人間の匂いがするのかー」

「うぉっ!」


 しゃ、しゃべった!

 急に言葉を発した球体に驚き、軽く身を引く。


「しかも、外の匂いがするのかー」


 なんだか嬉しそうに言葉を発すると、球体はだんだんと収縮していき……中から黒い服を纏った女の子が現れる。金髪に赤いリボンが妙に似合っている。

 ひ、人が入ってたのか……。


 黒い子が球体を完全に消し去ると、チルノが前に出て言った。


「紹介するね! リグルとみすちーにルーミアよ!」


 触覚の子、羽の子、黒い子と順番に指していくチルノ。


「えっと、もうチルノから聞いてるかもしれないけど、凛っていうんだ。よろしく」


 それに対してリグルちゃんとみすちーはよろしくと返してくれたのだが、ルーミアちゃんはじっとこちらを見つめるのみ。

 レミリアさんやフランのような紅い眼は、なんだか落ち着かない。


「えと、どうしたの? ルーミアちゃん」


 俺が尋ねると、ルーミアちゃんはにっこりとして言った。


「凛は外来人?」

「うん? うん、そうだよ」

「そう、そっかーそっかー、そーなのかー。よろしくだね~凛」


 背筋に寒気が走る。一瞬、一瞬だけ、ルーミアちゃんの眼が妖しく光った、ような気がした。


 ……何かこの子苦手だな。

 俺は出来るだけルーミアちゃんと目を合わせないようにして、紅さんの方を見る。


「えっと、それでこの人は紅魔館の門番で、紅美鈴さんだよ」

「よろしくね~」


 皆に向けて快活に笑う紅さん。

 十六夜さんやパチュリーさんもこれくらい明るくしたらいいのになぁ。


 パチュリーさんや十六夜さんの態度を思い浮かべていると、チルノが元気よく声を出した。


「じゃあ凛! さっそくみんなで遊ぼうよ!」

「ん……あぁ、ちょっと待って」

「?」


 チルノは首を傾げる。

 せっかくチルノが友達呼んできてくれたんだし、ここはフランも混ぜて一緒に遊ぶとしよう。

 遊ぶなら大人数の方がいいし、フランにも友達が出来る。一石二鳥。


 丁度紅さんにフランを呼びに行く役を頼もうとしたところで、フラン達が庭の方から飛んで来ているのが見えた。


「凛ー! 勝っちゃったー!」


 フランがボールを持って大きく手を振っているのがわかる。

 服がところどころ敗れてしまって結構ボロボロな姿。でも喜んでいるようで、そんなことは全く気にしてないようだ。


 近くに着地したフランに続いて、ほぼ無傷のレミリアさんと十六夜さんが到着する。


「見て見て! 私お姉様に勝ったんだ!」

「あぁ! すごいな!」


 俺が頭を撫でてやるとフランは、うん! と頷き、今度は紅さんのところに行きまたボールを見せびらかす。

 嬉しそうにボールを見せびらかすフランは、とても生き生きとしている。

 それを見たレミリアさんが感慨深げに目を細めている。


 紅さんにも褒められて少し興奮が収まったフランは、そこでやっとチルノ達に気付いたのか首を傾げた。


「あれ、凛この人たちは?」


 そんなフランの横を固める様に、レミリアさんと十六夜さんがフランの隣に並ぶ。

 十六夜さんとレミリアさんを見て、何故かみすちーとリグルちゃんの顔が強張るのがわかった。


「あぁ、えっとね。今この人たちと一緒に遊ぼう、って言ってたんだよ。

だからフランも一緒に紅魔館で――」

「ダメよ、得体の知れない妖怪を中に入れるわけにはいかないわ」


 フランにチルノ達を紹介しようとしたところで十六夜さんに口を挟まれる。

 十六夜さんは安定のしかめっ面だ。


「でも咲夜さん」

「ダメなものはダメ」


 十六夜さんは頑なな態度を見せる。崩す気もないだろう。

 う……、これは強敵だな。


「……」


 十六夜さんはじっとこちらを見る。


 ……この人を説得するのは不可能に近い(それに苦手だし)。

 ここは路線を変更してレミリアさんを攻めることにしよう。


「あの、レミリアさん。ダメですかね?

フランもいろんな人と遊んだ方がいいと思うし……。フランも遊びたいよね?」

「う、うん」


 そう言うフランを見てレミリアさんは少し困ったような表情を浮かべたが、すぐに得心がいったように頷いた。


「ん、そうね。わかったわ。紅魔館で遊ぶことを許可しましょう」


 おお! チルノ達が声を上げた。

 紅魔館に入ったことのないチルノ達からしてみれば、その中身はそれなりに興味があったのかもしれない。紅魔館の内装がどうなっているのか、その予想を楽しそうに言い合っている。


 そんな興奮気味のチルノ達に、レミリアさんが釘を刺す様に言った。


「あ~、でもあれよ。あんまり騒ぎ過ぎるのはナンセンス。特に図書館ね。

パチュリーってのがいる時は特に」


 レミリアさんは言い聞かせるように指をくるくると回した。

 チルノ達は元気よく、はーい! と返事をした。


「じゃあ、私は少し寝るとするわ」


 元気に返事をしたチルノ達を見て満足げな表情を浮かべたレミリアさんは、十六夜さんを連れて紅魔館に戻って行く。

 その際少し緊張気味のフランに、頑張ってね、と声をかけるあたり、やはり妹思いであることが窺える。


 レミリアさんと十六夜さんが紅魔館に帰るのを見届けてから、皆に声をかける。


「よし! じゃあ、皆紅魔館で何がしたい?」


 そう言うとすぐに、かくれんぼやら鬼ごっこやら元気のいい声で返事が返ってくる。

 うん、やっぱ子どもは元気が一番。微笑ましい気分で何をしようか考えていると、年長者(たぶん)のみすちーが手を上げた。


「ねぇ、まずは中に入ってから決めない?」


 確かに、その通りだ。皆異論はないようで、一様に頷いた。


「んじゃ、まずは紅魔館入っちゃおうか」

『おぉー!』


 チルノ達は一斉に手を上げる。少し勢いに乗りきれていないフランが心配だが、そのうち打ち解けられるだろう。

 紅さんに挨拶してからみんなを先導しようとしたところ、紅さんに呼び止められる。


「凛、あの子には気を付けるようにね。結構妖怪やってるわよ」


 紅さんはルーミアちゃんを指して言った。


「どういう意味ですか?」

「そういう意味」

「?」


 じゃあ頑張ってね~、と紅さんは話を切り上げた。

 そんな紅さんにこれ以上聞くわけにもいかず、俺は首を傾げながらもみんなを紅魔館へ案内した。


 紅魔館に入ると、フランを除く皆はその豪華な内装に一斉に興奮したような声を上げた。

 俺も初め紅魔館に入った時は似たようなものだったから、その気持ちはすごく分かる。


 真っ赤な様相に興奮気味のチルノがフランに話しかけており、フランはぎこちないながらも受け答えをしている様子。

 うん、やっぱりチルノが起点になったか。あとは馴染むまですぐだろう。


 いよいよ何して遊ぼうかなと頭を巡らしていると、不意に袖を引かれる。


「ねぇねぇ」


 う……、ルーミアちゃん。この子なんか苦手なんだよな。

 ルーミアちゃんはその紅く、くりくりとした目でこちらを見上げる。


「うん? なに?」


 出来るだけ温和な表情で尋ねると、ルーミアちゃんはにっこりと笑って言った。


「右腕ちょーだい」


 ……。


「えっと……」


 俺が反応にものすごく、ものすごく困っていると、ルーミアちゃんは照れた様に言った。


「小腹空いちゃった。だからね、右腕だけ。ね?」


 いや、可愛く言っても俺の腕はやらねーよ。

 ほんわかした雰囲気で物騒なことを言ってくるこの子をどうしようかと頭を掻く。


「え……っとだな。ルーミアちゃん? ルーミアちゃんは――」

「あのね、里の人間をね、襲っちゃうとね、霊夢に怒られちゃうんだ~」

「……うん? そ、そっか」


 急に話が変わる。腕の事は諦めてくれたんだろうか。

 霊夢と知り合いということに少々驚きながらも、続きを窺う。


 そして俺は、にっこりとしているルーミアちゃんに何か不吉なものを感じた。


「でもね、外から来た人間は食べちゃっても怒られないの」

「ッ」


 この子が何を言いたいのか理解する。

 紅魔館の内装に騒いでいる周りの面々は俺の危機に気付いていない。


 みんなに助けを求めようとした瞬間、ルーミアちゃんに腕を強く掴まれる。


「この頃なんにも食べてないの。でもね、凛はチルノの友達だから。

特別に片腕だけ――」

「そこまでよ」


 聞き覚えのある声に振り返ると、そこにはパチュリーさんが沼の底のようなどんよりした目でこちらを見ていた。

 その後ろには赤い髪の女性が立っている。背中と頭に黒い羽があることから、妖怪なんだろう。


「パ、パチュリーさん!」


 ルーミアちゃんがパチュリーさんに気を取られて手を放した。

 俺はそれを見逃さずにルーミアちゃんから離れ、パチュリーさんに駆け寄りその後ろに隠れる。


 そんな俺にパチュリーさんは呆れた様に溜息を吐いた。


「それでも男かしら」

「いや……あの子マジ怖いッスよ」


 パチュリーさんはもう一度溜息を吐く。

 しかし、グッドタイミングだ。赤髪の人が何か荷物を持っているから、出かけるところだったのだろう。


「お腹空いてるなら、これでも食べておきなさい。少しは足しになるでしょうよ」


 パチュリーさんはそう言ってポケットから飴玉のようなものを取り出し、ルーミアちゃんに投げ渡した。

 飴玉を確認したルーミアちゃんは、わぁ、と目を輝かせ、それを疑いもせずに口へ運ぶ。


「甘いのかー」


 幸せそうな顔で飴玉をコロコロ転がしながら、ルーミアちゃんは顔を綻ばせる。

 この表情を見ると、さっきまでのあのルーミアちゃんが嘘のように思えてくる。


 ……しかし、橙もそうだったが、見知らぬ人から飴をもらって疑いもせず食べるなんて。

 ここの人(妖怪)はちょっと警戒心が薄いんじゃないだろうか。


 飴を口に含んでしばらくして、ルーミアちゃんは感動したように声を出した。


「お、おぉ~」


 パチュリーさんはルーミアちゃんに目を向けたまま口を開く。


「その飴は魔力を含んでるから、ちょっとの間はお腹いっぱい。良かったわね。

……小悪魔、行くわよ」

「はい」


 礼を言う前に、パチュリーさんと小悪魔さん(果たして小悪魔というのは名前なんだろうか)は紅魔館の玄関から出て行ってしまった。


 突然登場したパチュリーさんの動向を黙って見ていた皆だが、パチュリーさんが出ていくとすぐにまた騒ぎ出す。

 このままではあまり騒ぐなと言っていたレミリアさんに怒られてしまいそうなので、落ち着かせるためにも皆に声を掛ける。


「はいは~い、みんな落ち着いて! んじゃ、まずは一通り紅魔館を――」

「図書館! 私図書館行ってみたい!」


 俺の言葉を遮って、リグルちゃんが元気よく手を挙げた。

 図書館、図書館か。活発そうな子だから、ちょっと意外。


 でも、この子たちすっごい騒ぎそうだから、出来ることなら図書館は避けたい。

 いまも助けてもらったばかりだし、『図書館では静かに』というパチュリーさんの言いつけは出来るだけ守りたいのだ。


「いや、でも図書館は本ばっかりであんまり遊べないと思うよ?

図書館より庭とかの方が走り回れるし……」


 なんとか図書館は避けれないかと提案してみる。

 しかし、リグルちゃんの意志は意外に強かったらしく、俺の主張は跳ね除けられてしまった。


「だって図書館って、私たち虫がいっぱい載ってる“図鑑”があるんでしょ?

私はそれが見たい!」


 私たち“虫”……?

 ……。

 あ、あぁ、リグルちゃんは虫の妖怪か。あの触覚もそういう事。


 ……リグルちゃんには失礼だけど、なんか、虫の妖怪って、なんか、グロテスクだな。


「いいじゃん凛! あたいも図書館で遊びたい!」


 リグルちゃんの触覚に釘付けなっていると、ついにチルノが恐れていた事を言い出した。

 図書館で遊ぶとか……。

 そんなことパチュリーさんの言いつけを破ることに他ならないじゃないか。


 俺はチルノとリグルちゃんを納得させるため、ものすごい勢いで難色を示す。


「……あのだな、チルノ、ダメだ。図書館じゃ静かにしないといけないんだよ。

レミリアさんも言ってただろ。パチュリーさんに迷惑がかかるから――」

「でもあれじゃない?

パチュリーって人今出て行ったばかりだよ。じゃあ大丈夫なんじゃない? 騒いでも」


 みすちーに冷静に突っ込みを入れられる。


「……まぁ、そうだけどさ」


 うぅん、確かに的を得ている。

 みすちーの突っ込み対して返す言葉が浮かんでこず、絞り出すようになんとか言い返す。


「いや、その通りだけどさ。でもあれじゃん?

なんて言うかさ……、ルーミアちゃんどう思う?」


 言い返せなかった。


「私は~甘いのか~」


 ふわふわと浮かびながら答えたルーミアちゃんは、飴玉に夢中のようだ。

 いろいろと自由なルーミアちゃんに聞くのは諦めて、俺はフランに話を振る。


「フランはどう思う? やっぱ図書館より別のとこのが良いよね?」


 なんとか頷いてくれ、そう願いながらフランを見つめる。

 あまり大人数に対する発言に慣れていないのだろう。フランは顔を赤くして俯いた。


「わ、私はみんなで遊べたらどこでもいいかな~、なんて」


 少し謙虚な受け答えだ。

 フランはこういうことにも慣れていかないとな。


 まぁ、図書館で遊びたいと言わなかっただけ良しとしよう。


「大ちゃんは?」


 最後に大ちゃんに話を振ると、大ちゃんはおずおずとしながらも答えた。


「私はそういうの、あの、いけないんじゃないかな、って。

その、パチュリーさんがいなくても、その、あの……お、お天道様が見てるよ!」


 意外にも、周りとの反対意見を述べた大ちゃん。

 俺はそんな大ちゃんに対して賛同しようとしたのだが、チルノが目をクワっと見開いて言い放った。


「あたいが倒した!」

「えっ!?」


 そう言ってチルノはみんなに声をかけ、俺と大ちゃんを残して図書館へ出発する。

 もうこうなっては止められない。


 俺は大ちゃんの肩に手を置いた。


「えっと、どんまい」

「はい……」


 肩を落とす大ちゃんと一緒に、俺はチルノ達について行った。

これで第五話「飛べない人間はただの人間」は終わりです。

次のお話では、バカルテット+αの面々が紅魔館をはちゃめちゃに動き回ります。

今後の凛の活躍にこうご期待!




凛理観、第五話にしてあとがき初チャレンジです。

周りの作者の方々が皆あとがき等を書いているので、自分も書いてみよーかなー、なんて思ってチャレンジしてみました。

前書きは作品の演出というか蛇足用に使っているので書けませんが……。


それはともかく、今後はそれぞれのお話が終わるごとにあとがきを書いていきたいと思います。


これからも「東方凛理観」をよろしくお願いします。

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