# 第五話「君は誰なんだ?」
# 第五話「君は誰なんだ?」
土曜日。
昼過ぎ。
悠人は駅前のカフェへ向かっていた。
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直人と会う約束の日だった。
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店に入ると、
すぐに直人が手を振る。
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「おーい!」
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昔と変わらない笑顔。
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その隣には、
写真で見た女性が座っていた。
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「初めまして」
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「藤崎悠人です」
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「美咲です。いつも直人からお話聞いてます」
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柔らかな笑顔。
穏やかな声。
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悠人は少し驚いた。
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こんな人なら。
直人が好きになるのも分かる。
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三人で話をする。
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大学時代の思い出。
失敗談。
馬鹿話。
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笑い声が続く。
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不思議だった。
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会う前は苦しかったのに。
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今は少し違う。
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直人の幸せを見て、
ちゃんと嬉しいと思えている自分がいた。
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もちろん。
羨ましさが消えたわけじゃない。
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でも。
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前ほど痛くなかった。
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それだけで十分だった。
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帰り道。
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直人が言った。
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「ありがとうな」
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「何が?」
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「来てくれて」
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悠人は苦笑する。
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「親友だからな」
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直人は少し黙る。
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そして。
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「悠人」
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「ん?」
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「お前、最近少し変わったな」
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その言葉に、
悠人は驚いた。
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「そうか?」
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「前より顔が明るい」
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思わず笑ってしまう。
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「そうならいいけどな」
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直人は頷いた。
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「いい感じだぞ」
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その言葉が、
妙に嬉しかった。
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帰宅後。
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悠人はノートを開く。
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二ページ目。
三ページ目。
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少しずつ埋まっていく。
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下手でもいい。
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誰にも見せなくていい。
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ただ書く。
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それだけだった。
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すると。
スマホが鳴る。
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知らない番号。
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「もしもし?」
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『春川です』
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美月だった。
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「え?」
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なぜ番号を知っているのか。
聞こうとしたが。
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『今日はどうでしたか?』
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先に聞かれた。
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「楽しかったよ」
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『そうですか』
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彼女は嬉しそうだった。
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「でも不思議なんだ」
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悠人は言った。
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「どうして俺のこと、そんなに知ってるんだ?」
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沈黙。
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数秒。
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そして。
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『会って話しませんか?』
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美月が静かに言った。
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『月曜日の昼休み』
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『屋上で待っています』
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その声は、
いつもより少しだけ真剣だった。
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月曜日。
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悠人は昼休みになると、
すぐ屋上へ向かった。
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美月は先に来ていた。
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風が吹く。
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彼女の長い髪が揺れる。
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「来てくれてありがとうございます」
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「聞きたいことがある」
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「分かっています」
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彼女は頷く。
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そして。
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バッグから、
一枚の写真を取り出した。
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古びた写真。
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そこには。
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二十歳頃の悠人が写っていた。
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仲間たちと笑っている写真。
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「なんで……」
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悠人の顔色が変わる。
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「その写真」
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昔。
小説サークルで撮ったものだ。
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もう誰も持っていないはずだった。
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「君は誰なんだ?」
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美月は静かに目を閉じる。
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そして。
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ゆっくりと答えた。
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「私は――」
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風が吹く。
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「あなたの小説に救われた人です」
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悠人は固まった。
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「え……?」
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「十年前」
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「人生が苦しくて」
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「全部終わりにしたいと思っていた時」
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「偶然、あなたの書いた小説を読んだんです」
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彼女の目が少し潤む。
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「だから私は今ここにいます」
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悠人は言葉を失った。
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自分の書いた作品。
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誰にも届かなかったと思っていた作品。
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忘れていた夢。
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捨ててしまった物語。
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それが。
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誰か一人を救っていた。
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その事実が、
胸を強く揺さぶる。
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そして美月は微笑んだ。
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「だから今度は私が」
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「あなたを諦めさせたくないんです」
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悠人の目に、
少しだけ涙が浮かんだ。
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### 次回
## 第六話「たった一人に届けばいい」
誰にも読まれていないと思っていた小説。
しかしそれは、一人の人生を変えていた。
美月が語る十年前の真実。
そして悠人は、
再び「小説家になる夢」と向き合う決意をする――。




