# 第四話「書いてみませんか?」
# 第四話「書いてみませんか?」
その日の夜。
悠人は自宅のアパートにいた。
築三十年。
六畳一間。
静かな部屋。
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テーブルの上には、
コンビニで買った弁当。
そして。
一冊のノート。
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昼休み。
美月から渡されたものだ。
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「まずは一ページだけでいいんです」
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そう言って。
彼女は笑っていた。
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「一ページですか」
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悠人はノートを開く。
真っ白な紙。
何も書かれていない。
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まるで今の自分みたいだった。
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「何を書けばいいんだよ……」
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ペンを持つ。
止まる。
考える。
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何も浮かばない。
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三十分。
一時間。
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真っ白。
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「やっぱり無理か」
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苦笑する。
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夢を語るのは簡単だ。
でも。
実際にやるのは難しい。
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その時だった。
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スマホが鳴る。
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直人からだった。
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『今度の土曜日、時間あるか?』
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悠人は少し考えて返信する。
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『あるよ』
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すぐに返事が来た。
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『婚約者を紹介したい』
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悠人の指が止まる。
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胸が少し痛んだ。
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まだ完全には割り切れていない。
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でも。
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『分かった』
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そう送信した。
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逃げるのは違う気がした。
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すると。
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直人から写真が送られてくる。
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笑顔の女性。
優しそうな人だった。
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『美咲っていうんだ』
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その写真を見て。
悠人は不思議な気持ちになる。
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嫉妬。
羨望。
寂しさ。
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そして。
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少しだけ。
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祝福。
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前よりは。
ほんの少しだけ。
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「成長したのかな」
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そう呟いて。
ノートへ視線を戻す。
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真っ白なページ。
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その時。
美月の言葉を思い出した。
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「上手く書こうとしなくていいんです」
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「まずは本音を書いてください」
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本音。
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悠人はペンを走らせる。
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ゆっくりと。
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不格好な文字で。
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『今日、親友の婚約者の写真を見た。』
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書けた。
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たった一行。
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でも。
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止まっていたものが、
少しだけ動いた気がした。
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悠人は続きを書く。
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『正直に言うと、まだ羨ましい。』
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『でも、少しだけ嬉しかった。』
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『あいつが幸せそうだったから。』
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気づけば。
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十分。
二十分。
三十分。
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ペンは止まらなかった。
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気が付くと。
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一ページが埋まっていた。
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悠人は驚く。
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「書けた……」
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たった一ページ。
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でも。
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何年も書けなかった一ページ。
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それは。
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確かな一歩だった。
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窓の外を見る。
夜空。
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「まだ終わってないのかもな」
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誰に言うでもなく呟く。
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そしてその頃。
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別の場所で。
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美月もまた、
小さく微笑んでいた。
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「やっと書き始めたんですね」
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彼女の机の引き出しには、
一枚の古い写真が入っていた。
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そこに写っていたのは。
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若い頃の悠人だった。
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「……本当に気づいていないんですね」
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美月は写真をそっと撫でる。
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その瞳には、
懐かしさと、
切なさが混ざっていた。
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### 次回
## 第五話「君は誰なんだ?」
親友との再会。
少しずつ前を向き始める悠人。
しかし、
美月が持つ一枚の写真が物語を大きく動かす。
なぜ彼女は悠人の過去を知っているのか――。
そして明かされる、
二人を繋ぐ意外な秘密。




