# 第二話「嫉妬は悪者ですか?」
# 第二話「嫉妬は悪者ですか?」
それから数日。
悠人の心は晴れなかった。
仕事をしていても。
コンビニで弁当を選んでいても。
夜、布団に入っても。
頭の中には直人の結婚報告が浮かんでくる。
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「おめでとう」
その言葉は嘘じゃなかった。
本当に嬉しかった。
でも。
同時に苦しかった。
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人は二つの気持ちを同時に持てる。
そのことを、
悠人はまだ知らなかった。
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ある日の昼休み。
会社の屋上。
誰もいない場所で昼飯を食べるのが、
悠人の日課だった。
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「はぁ……」
ため息。
三十五歳になると、
ため息も増える。
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「幸せって何なんだろうな」
ぽつりと呟く。
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「難しい質問ですね」
声がした。
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「うわっ!」
驚いて振り返る。
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そこには女性がいた。
二十代後半くらい。
長い黒髪。
白いシャツ。
文庫本を片手に持っている。
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「すみません。驚かせました?」
女性は少し笑った。
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「いたんですか?」
「はい。最初から」
「恥ずかしいところ聞かれましたね」
「少しだけ」
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女性は隣のベンチに座る。
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「幸せって何なんでしょうね」
彼女は空を見上げながら言った。
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「分からないです」
悠人は正直に答えた。
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「何かあったんですか?」
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知らない人だった。
だからこそ。
少しだけ話したくなった。
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「友達が結婚するんです」
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「素敵ですね」
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「そうなんです」
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「でも?」
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悠人は苦笑した。
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「喜べない自分がいるんです」
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女性は黙って聞いている。
否定しない。
責めない。
ただ待っている。
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だから悠人は続けた。
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「親友なんです」
「本当は祝福したいんです」
「でも羨ましくて」
「悔しくて」
「苦しくて」
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言葉が止まらなかった。
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「最低ですよね」
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その瞬間。
女性は首を横に振った。
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「全然」
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即答だった。
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「え?」
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「嫉妬は悪者じゃありません」
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悠人は目を丸くする。
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「でも嫉妬ですよ?」
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女性は微笑んだ。
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「嫉妬って、本当は心の願いなんです」
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「願い?」
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「羨ましいと思うのは、自分も欲しいからです」
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風が吹いた。
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「もし本当に興味がなければ、嫉妬もしません」
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その言葉が胸に刺さる。
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「つまり」
女性は続ける。
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「悠人さんは――」
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なぜか名前を知っていることに驚く暇もなかった。
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「まだ諦めていないんです」
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悠人は固まった。
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諦めていない。
そんなこと考えたこともなかった。
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「夢も」
「恋愛も」
「幸せも」
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女性は静かに言う。
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「本当に諦めた人は、羨ましいとも思わないんですよ」
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屋上の空は青かった。
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ずっと。
嫉妬する自分を嫌っていた。
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でも。
もし。
それが希望の証だったら?
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「じゃあ……」
悠人は聞いた。
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「どうしたらいいんですか?」
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女性は本を閉じる。
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そして、
優しく笑った。
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「まずは、自分を責めるのをやめることです」
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その笑顔は、
春の日差しみたいに温かかった。
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そして悠人はまだ知らない。
この不思議な女性との出会いが、
彼の人生を大きく変えていくことを――。
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### 次回
## 第三話「あなたの夢は何ですか?」
名前も知らない女性。
しかし彼女は悠人の心を見透かしていた。
そして問う。
「最後に夢を語ったのは、いつですか?」
忘れていた夢。
閉じ込めていた願い。
悠人は少しずつ、自分自身と向き合い始める――。




