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静寂の城〜魔王は世界征服をしたい〜  作者: 赤井六舷
魔族領軍事国家、バルファード

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96.軍師王、見学する

第一部隊はガエン一人に苦戦をしていた。

前衛を任される兵士達は、とりあえずかかってこいと言うガエンに実力を見せるべく果敢に挑んでいる。

吹き飛ばされた兵士達は歯を食いしばり、再び武器を拾い上げる。


「まだだ……!」

「立て! もう一度行くぞ!」

「盾兵、前へ! 槍兵はその後ろだ!」


第一隊隊長の号令が飛び、乱れた隊列が素早く組み直される。

誰一人として諦めない。

倒されても立ち上がり、また挑む。

その姿を見たガエンは、満足そうに大きく頷いた。


「そうだ! その根性だ!」


兵士達は雄叫びを上げながら再び突撃する。


「うおおおおおおッ!!」


先頭を走る盾兵が勢いよく盾を構え、全身で体当たりを仕掛ける。

その後ろでは槍兵が隙を狙い、左右から剣士が回り込み、斧兵が一撃必殺を狙っていた。

先ほどよりも明らかに連携は良くなっている。

ガエンは嬉しそうに笑った。


「いいじゃねぇか!」


ドンッ!!


最前列の盾兵が全力でぶつかる。

しかし。

ガエンはその場から一歩も動かなかった。

巨大な岩に激突したかのような感覚に、盾兵達の目が見開かれる。


「なっ……!」

「押せぇぇぇ!!」


五人、六人と盾兵が一斉に押し込む。

それでもガエンの足は一歩たりとも下がらない。


「踏ん張れぇぇぇ!!」


隊長が叫ぶ。

その瞬間ガエンがニヤリと笑った。


「お前らは押すことばかり考えてる。」


次の瞬間、ガエンは拳を軽く引き、


ドゴォォォン!!


正面へ向かって拳を突き出した。

拳は誰にも触れていない。

それでも放たれた拳圧が盾兵達へ一直線に襲い掛かる。


「ぐああああっ!」

「うわぁぁぁ!」


盾兵達は盾ごと後方へ吹き飛ばされ、何人もの兵士を巻き込みながら転がっていく。

砂煙が舞い上がる。

それでも兵士達はすぐに立ち上がった。


「もう一度!」

「まだ終わってない!」

「前へ出ろ!」


何度倒されても挑み続ける兵士達。

ガエンは豪快に笑いながら、次々と迫る兵士達を迎え撃つ。


「はっはっは! その意気だ!」


ドゴォン!!


ズガァン!!


拳圧だけで兵士達は何度も吹き飛ばされる。

それでも誰も逃げない。

何度も立ち上がり、挑み続ける。

その姿を見ながらガエンは鋭い声を飛ばした。


「盾はもっと踏ん張れ!!」


ドンッ!!


再び突き出された拳から衝撃波が放たれる。


「これくらいで吹き飛ばされるな!!」


盾兵達は歯を食いしばり、盾を地面へ押し込みながら衝撃に耐えようとする。

だが、踏ん張り切れず再び後方へ弾き飛ばされた。

ガエンは首を横に振る。


「足だ! 腕だけで受けるな! 腰を落として地面を掴め! 盾で受けるんじゃねぇ! 全身で受け止めろ!」


吹き飛ばされた盾兵達は、その言葉を胸に刻みながら再び立ち上がる。

訓練場には何度倒されても立ち上がる兵士達と、それを本気で鍛え上げようとするガエンの怒号が絶え間なく響き渡っていた。

激しい訓練はなおもしばらく続いた。

兵士達は何度吹き飛ばされても立ち上がり、盾を拾い、剣を握り直し、息を切らせながらガエンへ挑み続ける。

ガエンも一切手を抜かない。

拳圧で吹き飛ばし、時には肩で受け止め、時には片手で槍を弾き返しながら、一人一人の動きを鋭く観察していた。


「そこだ! 今の踏み込みは悪くねぇ!」


「剣士! 横に回るなら最後まで回れ! 途中で止まるな!」


「槍兵! 突くだけじゃねぇ! 仲間が動きやすい場所を作れ!」


怒号が飛び交うたび、兵士達の動きは少しずつ洗練されていく。

やがて。


「……よし。」


ガエンが大きく息を吸い込み、片手を高く掲げた。


「終わりだ!」


その一言で、兵士達は一斉に動きを止めた。

全員が肩で息をし、汗だくになりながらも、その場で直立する。

訓練場には荒く響く呼吸音だけが残った。

ガエンは腕を組み、一人一人の顔を見渡す。


「まず最初に言っとく。」


兵士達は黙って耳を傾けた。


「お前ら、根性は文句なしだ。」


その言葉に兵士達の表情が少しだけ明るくなる。

ガエンはニヤリと笑った。


「何度吹き飛ばされても立ち上がる。その根性は立派だ。前衛として一番大事なのは、折れねぇ心だからな。」


しかし次の瞬間、その表情は真剣なものへ変わる。


「……だが。」


空気が引き締まる。


「実力が足りねぇ。」


兵士達は悔しそうに拳を握った。

ガエンは次々と指摘していく。


「盾兵は腕の力に頼りすぎだ。下半身が弱ぇ。槍兵は突きは速いが、一撃が軽い。腰が入ってねぇ。剣士は動きは悪くねぇが、踏み込みで力が逃げてる。斧兵は振り回すだけだ。重い武器を扱うなら体幹を鍛えろ。」


誰一人反論しない。

実際に戦って叩きのめされたからこそ、その言葉の重みが理解できた。

ガエンは大きく頷いた。


「お前らは根性はいい。」


そして豪快に笑う。


「だが実力が足りねぇ。」


兵士達は悔しさを噛み締めながらも、その言葉を真っ直ぐ受け止める。


「まずは身体強化から始めるか。」


ガエンは腕を組み、しばらく「うーん」と唸りながら考え込んだ。


「走り込みだけじゃつまらねぇしな……。」


顎をぽりぽりとかきながら訓練場の周囲を見回す。

ふと何かを思いついたように顔を上げると、近くにいた第一隊隊長へ視線を向けた。


「なぁ。」


「はい!」


「この城の近くに、使われてねぇ畑とか空き地はあるか?」


突然の質問に隊長は一瞬きょとんとした。


「畑……ですか?」


「ああ。」


ガエンはニヤリと笑う。


「身体を鍛えるなら、ちょうどいい使い道を思いついた。」


第一隊隊長は首を傾げながらも、すぐに思い当たる場所があったのか頷いた。


「あります。城の西側に昔は農地として使われていた畑がありますが……。」


「案内してくれ。」


「はっ!」


兵士達も不思議そうな表情を浮かべながら、その後ろをついていく。

しばらく歩くと、城壁の外れに広大な畑が姿を現した。

しかし、その光景は畑と呼ぶにはあまりにも荒れ果てていた。

雑草は兵士の腰ほどまで伸び放題。石は至る所に転がり、枯れた木の根が地面から顔を出している。土は固く踏み固められ、長い年月、人の手が入っていないことが一目で分かった。


「なるほどな。」


ガエンは腕を組みながら辺りを見回す。


「こりゃ確かに放置されてんな。」


その時、畑の向こうから農具を担いだ老人が歩いてきた。

兵士達を見ると軽く会釈をする。


「おや、軍の方々がこんな所へ何の御用で?」


隊長が事情を説明すると、老人は苦笑しながら荒れた畑を見渡した。


「本当ならここも畑として使いたいんですがねぇ。」


「使ってねぇのか?」


ガエンが尋ねる。

老人は申し訳なさそうに頷いた。


「ええ……。石をどかして、雑草を刈って、土を起こして……全部やろうと思うと、とても人手が足りません。結局そのまま何年も放置してしまっているんですよ。」


周囲を見れば、確かに畑としては十分な広さがある。

手を加えれば、また豊かな土地として蘇るだろう。

ガエンはその景色を見渡しニカッと豪快に笑った。


「決まりだ。」


兵士達が一斉に顔を上げる。


「明日からはここだ。」


「え?」

「畑……ですか?」


兵士達は困惑する。

ガエンは親指で荒れた土地を指した。


「身体を鍛えるってのは、重いもんを持ち上げたり、走ったりするだけじゃねぇ。」


足元の大きな石を片手で軽々と持ち上げる。


「石を運ぶ。」


ドスン、と脇へ置く。


「雑草を抜く。」


太い草を根ごと引き抜き、遠くへ放る。


「土を掘る。」


固く締まった土素手でを深々と掘り返してみせた。


「全部、足腰と体幹を使う。」


兵士達は目を丸くする。

ガエンは笑みを浮かべたまま続けた。


「しかも、この土地は綺麗になる。農家も助かる。鍛えながら誰かの役にも立つ。一石二鳥ってやつだ。」


老人は信じられないというように目を見開いた。


「本当に……やってくださるんですか?」


「ああ。」


ガエンは豪快に頷く。


「俺は無駄な鍛え方は嫌いなんだ。」


そして兵士達の方へ振り返る。


「お前ら。」


「はいっ!」


「明日からは畑の再生だ!」


兵士達は一瞬驚いたものの、すぐに表情を引き締める。


「石を運び、草を刈り、土を起こす! 逃げ場はねぇぞ!」


兵士達の顔には苦笑が浮かぶ。


「……想像以上に大変そうだ。」

「でもガエン様らしいな。」

「確かに身体は鍛えられそうだ……。」


そんな声が漏れる中、ガエンは豪快に笑った。


「今日はここまでだ!」


兵士達は姿勢を正す。


「明日に備えて今日はゆっくり休め! 疲れを残したままじゃ鍛錬にならねぇ! 飯を食って、風呂に入って、しっかり寝ろ!」


「「「はっ!!」」」


訓練で疲れ切っていた兵士達だったが、その返事は朝よりも力強かった。

ガエンは満足そうに頷く。

その横では、荒れ果てた畑を見つめる老人が目を潤ませながら、小さく頭を下げていた。


「……ありがとうございます。」


夕日に照らされた荒れた大地。

明日には、その場所が兵士達の新たな鍛錬の場となり、同時に人々の暮らしを支える豊かな畑へと生まれ変わる第一歩が始まろうとしていた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


第二部隊。

兵士達が息を切らせながら倒れている。

ダグラスは静かに兵士達を見渡した。


「……まだ終わりではない。」


その一言に、座り込んでいた兵士達が顔を上げる。


「立て。」


短く、それだけを告げる。


「は、はいっ!」


震える足に力を込め、兵士達は必死に立ち上がる。

膝は笑い、腕は鉛のように重い。

それでも誰一人として諦めようとはしなかった。

ダグラスは小さく頷く。


「来い。」


その言葉を聞いた瞬間、兵士達は再び駆け出した。


「うおおおおっ!」


疲労で動きは鈍い。

それでも気迫だけは先程以上だった。

正面から斬り込む者。

左右から挟み込む者。

後方から突きを狙う者。

先ほどまでの経験を活かし、連携を変えながら攻め立てる。

しかし。


スッ。


ダグラスは半歩横へ。


ヒュッ。


一歩後ろへ。


クルリ。


身体をわずかに回転させる。

それだけ。

兵士達の剣はまたしても空を切る。


「まだだ!」

「囲め!」

「逃がすな!」


何度倒れても立ち上がり、何度外れても剣を振る。

だが、結果は変わらない。

ダグラスは相手の呼吸、視線、重心、筋肉の動きを読み取り、必要最小限の動きだけで全てをかわし続ける。


二十分。


三十分。


時間だけが静かに過ぎていく。

やがて兵士達の足は完全に止まった。


「はぁ……はぁ……。」


一人が膝をつく。

続いてもう一人。さらに一人。

今度は立ち上がろうとしても足に力が入らない。


「くっ……。」

「身体が……動かない……。」

「限界だ……。」


ついには全員が地面へ座り込み、肩で息をするだけになった。

誰も剣を握る力すら残っていない。

ダグラスは静かに兵士達の前まで歩いていく。

しばらく無言で全員を見渡したあと、口を開いた。


「悪くはない。」


その一言に兵士達は驚いたように顔を上げる。


「だが、お前達は剣しか見ていない。」


兵士達は耳を傾ける。


「相手の武器ばかり見れば、身体全体の動きを見失う。」


ダグラスは自らの肩を軽く叩く。


「肩。」


続いて腰に手を当てる。


「腰。」


そして足元を指差した。


「足。攻撃は剣から始まるんじゃない。」


淡々と続ける。


「足が踏み込み、腰が回り、肩が動き、その最後に剣が振られる。」


兵士達は息を整えながら真剣な眼差しで聞いていた。


「剣を見てから避けるのでは遅い。身体全体を見ろ。相手の癖を覚えろ。視野を狭めるな。」


ダグラスはそこで一度言葉を切る。


「それと。」


兵士達が顔を上げる。


「力みすぎだ。力は必要な瞬間だけ入れろ。常に全力では、無駄に体力を消耗するだけだ。」


その言葉に、兵士達は先程までの自分達を思い返す。

確かに、最初から最後まで全力で剣を振り続けていた。


「技術とは、無駄を削ることだ。」


ダグラスは静かに言い切る。


「力任せでは、強者には届かない。」


兵士達は深く頭を下げた。


「ありがとうございました!」


訓練場に大きな声が響く。

ダグラスは軽く頷くだけだった。


「今日は終わりだ。身体を休めろ。明日からは、一人ずつ相手をしてやる。」


その言葉に、疲れ切っていた兵士達の表情に再び光が宿る。


「はい!」


力強い返事が訓練場に響き渡る。

遠くから見守っていたレムルスは、小さく笑みを浮かべた。


「技術だけではない……戦いそのものの考え方を教えているのか。」


兵士達は疲労困憊で動けなくなっていた。

だがその瞳には、訓練が始まる前にはなかった確かな向上心と、明日への期待が宿っていた。

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