73.一行、軍事国家を目指す
無事にフロスティアとスポンサー契約をしたガエン達は意気揚々と宿に戻っていた。
夕暮れのクリアフォルは、淡い雪明かりに包まれ、美しい街並みが七人を迎える。
「いやぁ、うまくいったね。」
マイトが大きく伸びをしながら笑う。
「まさかあんなにあっさりスポンサーになってくれるとは思わなかったよ!」
ガエンも豪快に笑う。
「条件は運動会の合間にお笑いライブをやることだったが、それくらいなら大歓迎だ!」
ビルムが胸を張る。
「任せとき! うさぎドラゴンが会場を笑いの渦にしたる!」
ミリアも静かに頷く。
「……笑いは世界を救う。」
「お前、急にそれっぽいこと言うな。」
ビルムがすかさず突っ込むと、一同は笑い声を上げた。
宿へ戻ると、七人はテーブルを囲み、地図を広げる。
ガエンが世界地図の一点を指差した。
「さて、クリアフォルでの目的は達成した。」
全員の表情が引き締まる。
「次に向かう国を決めよう。」
ラーシャが地図を覗き込む。
「次はどこへ行くのですか?」
ガエンは魔族領の南東を指でなぞった。
「ここだ。」
そこには力強い文字で書かれていた。
軍事国家バルファード。
ダグラスが腕を組む。
「世界でも屈指の軍事力を持つ国だな。」
ラーシャも真剣な顔になる。
「兵士だけじゃなく、戦術や兵器の研究でも有名な国ですね。」
ガエンは頷いた。
「ああ。そして俺たちが会いに行く相手は...」
その名を口にする。
「軍師王レムルスだ。」
部屋の空気が少しだけ張り詰めた。
ナラが首を傾げる。
「軍師王ってことは、王様なのに前線で戦うタイプじゃないの?」
ダグラスが説明する。
「いや、レムルスは武勇より知略で国を築き上げた人物だ。」
ラーシャも続ける。
「何千、何万という兵を一人で指揮すると言われる天才軍師です。戦争だけでなく外交にも優れていて、一手先どころか十手先まで読むって噂ですね。」
ナラは感心したように息を漏らす。
「そんな人が相手なら、交渉も簡単じゃなさそうだね……。」
ガエンは力強く笑う。
「だからこそ行く価値がある。」
そして全員を見渡した。
「バルファードがスポンサーになってくれれば、運動会の信頼性はさらに増す。軍事国家が応援するとなれば、他の国も無視できなくなるはずだ。」
すると、それまで腕を組んで考え込んでいたビルムが、ぽんと手を叩いた。
「せや!」
全員の視線が集まる。
「フロスティア女王は、お笑いライブを条件に出してきたやろ?」
「ああ。」
ガエンが頷く。
ビルムはニヤリと笑った。
「だったら今のうちから芸人やアーティストを集めといた方がええ! 運動会当日に『出演者がおらへん!』じゃ話にならんしな!」
マイトが感心したように頷く。
「確かに。それも大事な準備だね。」
「せやから俺は、しばらくみんなとは別行動しよう思う。」
ビルムの言葉に、その場が少し静かになる。
「各国を回って、おもろい芸人や歌手、大道芸人に演奏家……とにかく会場を盛り上げられる連中を片っ端から口説いてくるわ!」
ガエンは腕を組んだまま豪快に笑った。
「なるほどな、スポンサー集めだけじゃなく、出演者集めも同時進行ってわけか!」
「その方が効率ええやろ?」
「違いない。」
ダグラスも静かに頷いた。
「運動会を成功させるには競技だけでは足りん。観客を楽しませる催しも必要だ。」
ラーシャも微笑む。
「ビルムさんなら、お笑い仲間との繋がりもありますし、適任ですね。」
その時だった。
黙って話を聞いていたミリアが、こくりと頷く。
「……私も行く。」
「おっ?」
ビルムが振り向く。
ミリアはいつもの無表情のまま、真顔で言った。
「芸人は笑いで集まる。」
「うん?」
「アーティストは音で集まる。」
「まあ、そういう人もおるな。」
「だから私は、山の頂上で巨大なプリンを逆さまにして笛を吹く。」
部屋が静まり返る。
「そうすれば虹色の拍手が空を泳いで、芸人が自然発生する。」
「するかぁーーーッ!!」
ビルムの渾身のツッコミが部屋中に響いた。
「芸人はキノコちゃうねん! 自然発生せぇへんわ!」
ミリアは首をかしげる。
「……違った?」
「何一つ合ってへん!」
「じゃあ巨大なゼリーでもいい。」
「素材変えただけや!」
マイトは腹を抱えて笑い、ラーシャも口元を押さえて肩を震わせる。
「ふふっ……相変わらずですね。」
そんなやり取りを見ていたナラが、ぱっと手を挙げた。
「ねぇねぇ!」
全員がナラを見る。
「ボクもビルムたちと行く!」
「え?」
「スポンサー探しも大事だけど、芸人さんやアーティストさんを集める旅って、なんだかすっごく楽しそう!」
ナラは目を輝かせながら続ける。
「いろんな国でいろんな人に会えるし、お祭りみたいじゃん!」
ビルムは少し驚いたあと、嬉しそうに笑った。
「おっ、ええやん! ナラがおったら旅も賑やかになるわ!」
ミリアも静かに頷く。
「……ナラがいれば、巨大プリンの運搬係ができる。」
「まだプリン諦めてなかったんか!」
再びビルムのツッコミが炸裂し、部屋は大きな笑いに包まれた。
ガエンはその光景を見ながら満足そうに笑う。
「よし、それで決まりだ。」
力強く立ち上がる。
「俺たちは二手に分かれる。俺たち四人は軍事国家バルファードへ向かい、軍師王レムルスとのスポンサー交渉に挑む。」
そしてビルム、ミリア、ナラの三人へ視線を向ける。
「お前たちは世界中を巡って、運動会を最高に盛り上げる芸人とアーティストを集めてきてくれ!」
「任せとき!」
「……了解。」
「楽しんでくるね!」
こうして一行は、それぞれ異なる使命を胸に、新たな旅路へ向けて準備を始めるのだった。




