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静寂の城〜魔王は世界征服をしたい〜  作者: 赤井六舷
魔族領氷雪都市、クリアフォル

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72.女王、話を聞く

城内には美しく整えられた庭園が広がり、噴水からは透き通った水が陽光を受けてきらめいている。


「すごーい!」


ナラは目を輝かせながら辺りを飛び回ろうとするが、


「ナラさん。」


ラーシャが優しく声を掛ける。


「今日はお客様です。少しだけ我慢してくださいね。」


「はーい。」


ナラは慌ててガエンの肩へ戻った。

その時だった。


「皆様、お待たせいたしました。」


澄んだ女性の声が聞こえる。

振り向くと、水色の長い髪を揺らしながら、一人の女性が優雅な足取りで歩いてきた。

元水の精霊であり、クリアフォル王国の大臣、シャーレ・クリオールだった。


「ようこそ、クリアフォル城へ。」


シャーレは柔らかく微笑み、一人ひとりに目を向ける。


「昨夜は急なお呼び立てにもかかわらず、お越しいただきありがとうございます。」


ガエンが笑顔で応える。


「こちらこそ、案内してもらえるなら助かる。」


「ありがとうございます。それでは、女王陛下がお待ちです。」


シャーレは優雅に身を翻し、城内の奥へ歩き始めた。


「こちらへどうぞ。」


七人はシャーレの後に続く。

広い廊下には美しい氷の彫刻や歴代の女王の肖像画が並び、窓から差し込む光が床の大理石に幻想的な模様を映し出していた。

ナラは思わず小声でつぶやく。


「なんだか緊張してきた……。」


ビルムも苦笑する。


「昨日は何千人の前で漫才したのになぁ。」


「種類の違う緊張だな。」


ダグラスが静かに言うと、ガエンは頼もしそうに笑った。


「気負う必要はねぇ。俺たちは俺たちらしく話せばいい。」


その言葉に仲間たちは頷き、自然と表情が和らぐ。

やがてシャーレが大きく豪華な両開きの扉の前で足を止めた。

金と青で装飾されたその扉の向こうが、女王フロスティアの待つ謁見の間だった。

シャーレは振り返り、穏やかに微笑む。


「皆様、こちらが謁見の間です。女王フロスティア陛下がお待ちになっております。」


そう言うと、控えていた近衛兵たちが静かに扉へ手を掛けた。

近衛兵たちが息を合わせ、重厚な両開きの扉をゆっくりと押し開く。


ギィィィ――――。


静寂に包まれた謁見の間が姿を現した。

真っ直ぐ伸びる赤い絨毯。

左右には整列する近衛兵や文官たち。

その最奥、高く設けられた玉座には、雪と氷の国クリアフォルを統べる女王、フロスティアが静かに腰掛けていた。

銀色の髪は朝の光を受けて淡く輝き、透き通るような青い瞳が、ゆっくりとガエンたちへ向けられる。

その視線は冷たく、凛としている。


「……。」


謁見の間の空気が一瞬で張り詰めた。

マイトは思わず背筋を伸ばす。


(うわぁ……昨日笑ってた人と同じ人とは思えない……。)


ナラもガエンの肩の上で小さく身を縮めた。


「ひゃあ……。」


ダグラスは無言で一礼し、ラーシャも優雅に頭を下げる。

ビルムはごくりと唾を飲み込んだ。


(さ、さすが女王様……めちゃくちゃ威厳あるやん……。)


ミリアもいつもの無表情ながら、静かに玉座を見つめていた。

一方、玉座に座るフロスティアの表情はまったく変わらない。凛然とした女王そのもの。

しかし、その胸の内では。


(いる……。本当にいるわ……。昨日、私を笑わせた”うさぎドラゴン”が、今、目の前に……!)


心臓が少しだけ高鳴る。


(ビルムさん……。そして、ミリアさん……。昨日の「女王いじり」を思い出すだけで……。)


一瞬だけ口元が緩みそうになり、


(だ、駄目よフロスティア!)


心の中で必死に自分へ言い聞かせる。


(ここは謁見の間。私は女王。冷静に……威厳を保ちなさい。)


それでも視界の端にミリアが映るたび、


(あっ……無表情で立ってる……。昨日と同じ……。なんだかもう、それだけで少し面白い……。)


笑いそうになるのを必死に堪え、ほんのわずかに視線を逸らした。

その様子をすぐ隣で見ていたシャーレだけは、小さく肩を震わせる。


(陛下……。心の中では完全にファンになっていますね。)


もちろん、誰にも気づかれることはない。

フロスティアは何事もなかったかのように静かに口を開いた。


「……面を上げなさい。」


澄み切った声が謁見の間に響く。

ガエンたちはゆっくりと顔を上げる。

フロスティアは一人ひとりを見渡し、威厳に満ちた表情のまま言葉を続けた。


「オーガのガエン、勇者マイト、ダークエルフのラーシャ、死神のダグラス、ピクシーのナラ……。」


そして、ほんの一瞬だけ間を置き、


「そして笑芸大会優勝者、『うさぎドラゴン』のビルム、ミリア。」


名前を呼ばれた二人は同時に一礼する。


「ありがとうございます。」


「……。」


フロスティアは静かに頷く。

表情は依然として冷静そのもの。

しかし心の中では、


(優勝、本当におめでとうございます……!昨日は最高でした……!)


そんな言葉が、今にも飛び出しそうになっていた。

そしてフロスティアはゆっくりとガエンへ視線を向けた。


「シャーレから話は聞いています。あなた方には、私に話したいことがあるそうですね。」


謁見の間は静まり返り、全員の視線がガエンへ集まる。

ガエンは一歩前へ進み、胸に手を当てて力強く頭を下げた。


「はい、フロスティア陛下。本日はお時間をいただき、ありがとうございます。」


そして顔を上げ、堂々と語り始める。


「俺たちは今、王都マグノリアで開かれる、とある大きな催しのために世界中を旅しています。」


フロスティアは静かに耳を傾ける。


「……続けなさい。」


「その催しを企画しているのは、魔王バラムです。」


その名が告げられると、文官たちの間にわずかなざわめきが走る。


「魔王……。」

「魔族の王が催しを……?」


しかしフロスティアは表情一つ変えず、静かにガエンを見つめていた。


「魔王バラムは、種族や国の垣根を越え、誰もが笑顔になれる祭典を開きたいと考えています。」


ガエンは力強く続ける。


「その祭典こそ、『世界大運動会』です。」


その言葉に、今度は謁見の間全体が少しだけどよめいた。


「世界……大運動会?」

「各国が参加するということか……?」


シャーレも興味深そうに目を細める。

ガエンは頷いた。


「はい。人間も、魔族も、獣人も、エルフも、ドワーフも……立場や種族を問わず、一緒に競い合い、応援し、交流できる大会です。」


ダグラスも一歩前へ出る。


「勝ち負けだけじゃない。いろいろな国の人たちが出会って、お互いを知るきっかけにもなるはず。」


ラーシャも穏やかに続ける。


「私たちは、その理念に強く共感しました。」


ダグラスは腕を組みながら静かに頷く。


「争いではなく、競技で互いを認め合う。そのような催しには、大きな価値があると考えている。」


ナラは元気よく羽をぱたぱたさせた。


「絶対に楽しい運動会になるよ!」


マイトも口を開く。


「俺と魔王で実況解説もするし。」


ビルムも笑顔で口を開く。


「俺らも、楽しい大会にしたい。」


ミリアは短く言った。


「笑顔。」


その一言に、ガエンは豪快に笑う。


「そういうことだ。」


そして再びフロスティアへ向き直り、真剣な眼差しになる。


「その運動会を成功させるため、俺たちは世界各国を巡り、協力してくださる国やスポンサーを募っています。」


謁見の間は再び静まり返る。

ガエンは力強く言葉を続けた。


「クリアフォルは平和で、人々が笑顔にあふれる素晴らしい国です。だからこそ、ぜひこの運動会に力を貸していただきたい。」


深く一礼する。


「氷雪都市クリアフォルに、世界大運動会のスポンサーになっていただけないでしょうか。」


その言葉が広い謁見の間に響き渡った。

フロスティアは静かに目を閉じ、しばらく考えるように沈黙する。

誰も口を開かない。

張り詰めた空気の中、女王はゆっくりと瞳を開き、ガエンたちをまっすぐ見据えた。

フロスティアは静かに口を開いた。


「……世界中の者たちが集い、競い、笑い合う祭典。」


その声は落ち着いていたが、どこか興味を帯びている。


「理念は素晴らしいと思います。」


その一言に、ガエンたちの表情が少し明るくなる。

しかし次の瞬間、フロスティアは女王らしい厳かな口調で続けた。


「ですが、国として支援する以上、ただ資金を出すだけというわけにはいきません。」


ガエンは真剣に頷く。


「もちろんです。」


「私にも、一つ条件があります。」


謁見の間の空気が再び引き締まる。

マイトが小さく息をのむ。


「条件……?」


ラーシャも静かに女王を見つめた。

フロスティアはゆっくりと七人を見渡し、最後にビルムとミリアへ視線を向ける。

その瞬間、


(言うのよ、フロスティア……! 落ち着いて……! あくまで国のための条件として……!)


心の中では必死だった。


(決して「もう一回漫才が見たいです!」なんて言ってはいけないわ!)


隣のシャーレは、女王の微かな変化を察し、


(陛下……今すごく我慢していますね。)


と心の中で苦笑する。

フロスティアは咳払いを一つしてから、堂々と言った。


「世界大運動会では、多くの競技が行われるのでしょう。」


「はい。」


「競技と競技の合間には、選手も観客も休憩する時間があるはずです。」


ガエンは頷く。


「その通りです。」


「ならば、その時間を退屈なものにしてはなりません。」


一同は首をかしげる。

フロスティアは静かに告げた。


「その休憩時間に、お笑いライブを開催しなさい。」


「…………え?」


ガエンたち全員が目を丸くした。

文官たちも思わず顔を見合わせる。


「お、お笑いライブ?」


マイトが聞き返す。

フロスティアは真剣そのものの表情で頷く。


「競技だけでは、人は疲れます。笑いは、人の心を癒やし、国や種族の壁を越える力があります。」


その言葉には、昨日の笑芸大会を見たからこその実感が込められていた。


「世界中から集まる人々が、一緒に笑う。それもまた、この運動会の理念にふさわしいのではありませんか。」


ガエンは思わず豪快に笑った。


「はっはっはっ! なるほど! 確かにそうだ!」


ダグラスも腕を組みながら頷く。


「競技だけではなく、笑いでも交流を深める……悪くない。」


ラーシャは微笑んだ。


「とてもクリアフォルらしい条件ですね。」


ナラは空中でくるくる回る。


「楽しそうー!」


マイトも拳を握る。


「実況の合間に漫才が見られるなんて最高じゃん!」


ビルムは少し驚いた表情を浮かべながらも、にっと笑った。


「つまり俺らの出番ってことやな。」


ミリアはこくりと頷く。


「笑わせる。」


その一言だけで十分だった。

フロスティアは平静を装ったまま続ける。


「もちろん、『うさぎドラゴン』だけに任せる必要はありません。各国のお笑い芸人や大道芸人、音楽家などが出演できれば、より多くの文化交流にもなるでしょう。」


ガエンは深く頷く。


「それは面白い!世界中の芸人が集まる運動会か!」


ビルムも目を輝かせる。


「世界の笑い比べか……燃えてきたで!」


ミリアも短く言う。


「楽しみ。」


フロスティアは静かに頷いた。


「この条件を受け入れるのであれば....」


一拍置いて、威厳ある声で宣言する。


「氷雪都市クリアフォルは、世界大運動会のスポンサーとなりましょう。」


その瞬間。


「おおーーーっ!!」


ガエンたちから歓声が上がり、シャーレも嬉しそうに拍手を送る。

一方、フロスティアは表情を崩さないままだったが、心の中では、


(やった……! これで運動会でも、また『うさぎドラゴン』の漫才が見られるわ……!)


と、小さくガッツポーズを決めていた。

その隣でシャーレは、


(結局、一番の目的はそこでしたね、陛下。)


と、心の中で静かに笑っていた。

謁見の間には喜びの空気が広がる。

ガエンは一歩前へ進み、胸に手を当てて深く頭を下げた。


「ありがとうございます、フロスティア陛下!」


ダグラスたちも一斉に頭を下げる。

フロスティアは静かに立ち上がった。

玉座の前に置かれた氷の杖を手に取り、その先端を床へ軽く打ち鳴らす。


――コンッ。


澄んだ音が謁見の間いっぱいに響き渡った。

その瞬間、文官たちが一斉に姿勢を正す。

シャーレも一歩前へ出て、厳かな声で告げる。


「これより、スポンサー契約の締結を執り行います。」


侍女が純白の布に包まれた一冊の契約書を運んできた。

それは氷雪都市クリアフォル王家の紋章が刻まれた、正式な国家契約書だった。

文官が内容を読み上げる。


「一、氷雪都市クリアフォルは世界大運動会を正式に支援すること。」

「一、運営資金ならびに必要な物資の提供を行うこと。」

「一、競技の合間に文化交流を目的としたお笑いライブを開催すること。」


その一文が読まれた瞬間ビルムが思わず小声で呟く。


「ほんまに書かれとる……。」


ミリアも契約書を見つめながら小さく頷く。


「公式。」


ナラはくすっと笑った。


「世界初じゃない? 契約書に『お笑いライブ』って書いてあるの。」


ダグラスも苦笑する。


「歴史書に残る契約かもしれんな。」


フロスティアは咳払いを一つした。


「……必要な事項です。」


「「はい。」」


誰も逆らえなかった。

もっとも、女王の表情はどこまでも真剣である。

しかし心の中では、


(ふふ……国家公認のお笑いライブ……完璧ね。これなら誰にも趣味だとは思われないわ。)


シャーレだけは横で、


(思われています、陛下。皆さん気付いています。)


と心の中で優しくツッコミを入れていた。

文官が羽ペンを差し出すとフロスティアは迷いなく署名を書き入れた。

美しく流れる文字で、その名が記される。


『フロスティア・クリアフォル』


そして署名を終えると、契約書を静かに閉じ、堂々と宣言した。


「女王フロスティア・クリアフォルの名において。」


謁見の間が静まり返る。


「世界大運動会へのスポンサー契約を正式に締結します。」


再び氷の杖が床を鳴らす。


コンッ!


その音を合図に、文官たちが一斉に拍手を送った。


「スポンサー契約、成立!」

「おめでとうございます!」

「クリアフォルが世界大運動会を支援いたします!」


歓声が謁見の間を包み込む。

ガエンは力強く拳を握った。


「よっしゃあああっ!! 三国目スポンサー獲得だ!」


マイトも笑顔を見せる。


「順調だね。」


ラーシャは穏やかに微笑む。


「また一歩近づきましたね。」


ダグラスは腕を組みながら満足そうに頷いた。


「ああ、運動会の実現に大きく近づいた。」


ナラは空中で何度も宙返りをする。


「次の国も頑張ろうー!」


ビルムは契約書を見ながら笑う。


「世界規模のイベントで漫才できるなんて、夢にも思わんかったわ。」


ミリアはいつもの無表情のまま、小さく一言。


「笑わせる。」


その短い言葉に、フロスティアはかすかに目を細める。


(楽しみにしています、うさぎドラゴン。)


もちろん、その想いは胸の内だけにしまったまま。

女王としての威厳を崩すことなく、フロスティアは七人へ向けて静かに告げた。


「ガエン、そして皆さん。世界大運動会が、人々の笑顔と平和をつなぐ祭典となることを願っています。」


ガエンは力強く頷き、右手を胸に当てた。


「必ず成功させます。」


こうして、氷雪都市クリアフォルは世界大運動会のスポンサー国となった。

その契約は、競技だけでなく「笑い」もまた世界をつなぐ力であることを証明する、新たな始まりとなったのであった。

氷雪都市での笑芸大会、無事に優勝いたしました!

女王様とのスポンサー契約も勝ち取り、彼らの旅はますます賑やか(?)になりそうです。


ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました!

もし「優勝おめでとう!」「このコメディ感が好き!」と思ってくださったら、ぜひページ下部から【ブックマーク登録】と、【評価の☆☆☆☆☆】をポチッと押して、彼らの今後の活動応援をいただけると嬉しいです!


皆様の応援の数が、次章の執筆エネルギーになります!続く新章も、どうぞお楽しみに!

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