↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
静寂の城〜魔王は世界征服をしたい〜  作者: 赤井六舷
魔族領氷雪都市、クリアフォル

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

61/171

61.ピクシー、雪うさぎになる

ガエン達の乗った馬車は順調に北へと進んでいた。

窓の外には緑の草原が広がっているが、遠くに見える山々の頂には白い雪が積もっている。

御者が手綱を操りながら後ろへ声をかけた。


「よし、今日の夕方には宿場町へ到着するぞ。」


「宿場町?」


マイトが顔を出す。


「ああ。あそこが氷雪地帯へ入る前、最後の宿場町になるからな。旅人は皆、そこで食料や薪、防寒装備を揃えてから北へ向かうんだ。」


「なるほど。」


ガエンは頷いた。

御者は続ける。


「お前らも、防寒装備はそこで整えておくといい。北は別世界の寒さだからな。普通の服では一日ともたない。」


するとガエンは落ち着いた様子で答えた。


「その心配なら大丈夫だ。」


「え?」


「フィルドリアで必要な物は一通り揃えてある。」


ラーシャも小さく頷く。


「厚手のコートや手袋、それに防寒靴も……ちゃんと買いました。」


「毛布もあるよー!」


ナラが得意そうに荷物を指差した。


「ボクのはふかふかだよー!」


「俺のもあるよ。」


マイトも自分の荷物を軽く叩く。


「準備だけは万全!」


御者は少し驚いたように目を丸くした。


「おお、それは感心だな。北へ向かう旅人でも、準備不足で宿場町で慌てる方は少なくないからな。」


ガエンは腕を組んで頷く。


「旅は準備が大事だからな。寒さを甘く見て後悔するのは御免だ。」


「その通りだ。」


御者は笑顔で頷いた。


「なら宿場町では慌てて買い物をする必要はないな。ゆっくり宿で休んで、明日に備えるだけだ。」


「それは助かるな。」


マイトが大きく伸びをする。


「買い物しなくていいなら、町をぶらぶらできそうだね。」


「食べ歩き!」


ナラがすぐに反応する。


「お前はそればかりだな。」


ガエンが苦笑すると、馬車の中に笑いが広がった。

御者もその笑いにつられて笑いながら馬を進める。


「あと半日ほどで到着する。それまではのんびり景色でも楽しんでてくれ。」


馬車は街道を北へ北へと進み、遠くに見える雪化粧をした山々は、先ほどよりも少しだけ大きく見えるようになっていた。


やがて太陽が西へ傾き始めた頃。

街道の先に石造りの城壁が見えてきた。門の向こうには煙突から白い煙を上げる家々が並び、旅人や商人が忙しそうに行き交っている。

御者が前を指差した。


「見えてきたぞ。ここが氷雪地帯へ入る前、最後の宿場町だ。」


「着いたー!」


ナラが嬉しそうに窓から顔を出す。

馬車は門をくぐり、石畳の道をゆっくり進む。

宿の前で止まると、ガエン達は御者へ礼を言い、荷物を降ろした。


「明日の朝、日の出頃に出発だ。」


「わかった。」


ガエンが頷く。

四人は宿で部屋を借り、荷物を置いて身軽になると、そのまま町へ出た。

宿場町は旅人で賑わっていた。

防寒着を売る店には厚手のコートや毛皮の外套が並び、薪や保存食を買い込む人々で活気に満ちている。


「あ、本当にみんな防寒装備を買ってるね。」


マイトが店先を眺める。


「さすが最後の補給地点だな。」


ガエンも周囲を見渡す。

ラーシャは店先に並ぶ毛皮を見て少し目を丸くした。


「こんなに種類があるんですね……。」


「ボクはあのお菓子屋さん気になる!」


ナラは甘い香りのする露店へ一直線に飛んでいく。


「待て、夕飯前だから少しだけだぞ。」


「はーい!」


返事だけは良かった。

四人は町をゆっくり見て回り、旅用品や土産物を眺めながら散策を楽しむ。

日が沈み、町に明かりが灯り始める頃。

ガエンが言った。


「さて、夕飯にするか。」


「賛成!」


「お腹空いたー!」


四人は宿の主人に教えてもらった酒場へ向かった。

店内へ入ると、暖炉には大きな火が入り、冷え始めた体を心地よく温める。

木のテーブルには旅人や猟師達が座り、楽しそうに食事をしていた。


「いらっしゃい!」


恰幅のいい主人が笑顔で迎える。


「好きな席へどうぞ!」


四人は空いている席へ座り、シチューや焼き肉、パンを注文した。

料理を待っていると、主人が話しかけてくる。


「お客さん達も北へ向かうのかい?」


「ああ。」


ガエンが答える。


「明日から氷雪地帯へ入る予定だ。」


「なら気を付けな。」


主人は腕を組んで頷いた。


「少し前にも三人組が来てな。」


「三人組?」


マイトが聞き返す。


「死神みたいな黒いローブの男と、ドラゴニュートの兄ちゃん、それからラミアのお嬢さんだ。」


その瞬間、四人の動きがぴたりと止まった。

ガエンが静かに尋ねる。


「……その三人は、何かあったのか?」


主人は豪快に笑った。


「ああ、あったとも!夜中に町の近くへ氷牙狼の群れが現れてな。」


「氷牙狼?」


ラーシャが息をのむ。


「雪山じゃ有名な魔物だ。旅人が襲われることも多い。」


主人は大きく頷いた。


「町の連中も応戦しようとしてたんだが、その三人が『自分達が行く』って飛び出していってな。」


ナラが身を乗り出す。


「それで?」


「ものの数分で全部倒して帰ってきた。」


「数分?」


マイトが目を丸くする。

主人は笑いながら続ける。


「ドラゴニュートの兄ちゃんが豪快にぶっ飛ばして、ラミアのお嬢さんが魔法で援護して、最後は死神みたいな男が残ったやつを一瞬で斬って終わりだ。」


ガエンは思わず苦笑した。


「……間違いないな。」


「うん。」


マイトも笑う。


「ダグラス達だ。」


「ビルムさんらしいですね。」


ラーシャも安心したように微笑む。

ナラは嬉しそうに笑った。


「やっぱり先に進んでたんだ!」


主人は不思議そうな顔になる。


「おや? 知り合いだったのか?」


「ああ。」


ガエンが頷く。


「旅の仲間だ。」


「なるほど!」


主人は納得したように笑った。


「なら安心だ。あの三人なら北でもそう簡単にはやられん。」


ガエン達は顔を見合わせ、小さく笑った。


「俺達ものんびりしてはいられないな。」


ガエンの言葉に三人も頷き、温かい料理を囲みながら、少し先を旅している仲間達の無事に胸をなで下ろすのだった。

四人は温かいシチューを食べながら、しばらく旅の話や北の雪山の話で盛り上がっていた。


「そういえば、明日からはいよいよ雪景色か。」


マイトがパンをちぎりながら笑う。


「楽しみだな。」


「寒いのは苦手だけどねー。」


ナラはスープを飲みながら肩をすくめる。


「私は……少し緊張します。」


ラーシャは静かに答えた。


「氷雪地帯は初めてなので。」


ガエンは肉を一口食べて頷く。


「無理をしなければ大丈夫だ。何かあればすぐ相談しろ。」


「はい。」


食事を終え、四人はしばらく温かいお茶を飲みながらのんびり過ごした。

するとマイトが椅子から立ち上がる。


「まだ寝るには早いし、ちょっと暇だな。」


「どうする?」


ナラが尋ねる。


「門の外を少し散歩してくる。」


マイトは笑顔で答えた。


「夜風でも浴びようかな。」


「一人で行くのか?」


ガエンが聞く。


「それもいいけど、せっかくだしみんなで行こうよ。」


「そうだな。」


ガエンも立ち上がる。


「軽く歩くだけなら問題ない。」


ラーシャとナラも頷き、四人は酒場を出て宿場町の門へ向かった。

門番へ一声かけて外へ出ると、冷たい風が頬を撫でる。


「昼より寒いね。」


マイトは空を見上げる。

満天の星が静かに輝いていた。


「空気が澄んでます。」


ラーシャが小さく呟く。

ナラはふわふわと空を飛びながら辺りを見回した。


「静かだねー。」


街道の周囲には草原が広がり、その先には黒い森が見える。

四人はのんびり歩いていた。

その時だった、ガエンの足が止まる。


「……あれは。」


マイトも目を凝らす。


「ん?」


街道から少し離れた草原の向こう。

月明かりに照らされ、大きな影がゆっくりと動いていた。

一頭、二頭。

いや、それだけではない。


「熊……?」


ラーシャが息を呑む。


「四頭います……!」


巨大な熊型の魔物達が、宿場町の方角へゆっくり歩いてきている。

ガエンは冷静に数を確認した。


「熊系の魔物だな。」


ナラが慌てて振り返る。


「町の人に知らせなきゃ!」


「私も行きます!」


ラーシャもすぐに走り出す。


「警備隊を呼んできます!」


二人は翼と足を使って全速力で門へ向かった。

その背中を見送りながら、マイトは剣の柄に手を置く。


「どうする?」


ガエンは肩を鳴らした。


「町へ近付かせる訳にはいかん。」


「だよねー。」


マイトはにっと笑う。


「じゃあ、行こっか。」


二人は同時に駆け出した。

熊の魔物の一頭が咆哮を上げる。


「グオオオオッ!」


その瞬間。


ドンッ!!


ガエンが地面を蹴り、一気に間合いを詰める。


「ぬんっ!」


振り下ろされた巨大な前脚を片腕で受け止めると、そのまま力任せに持ち上げた。


「おおおおっ!」


体重数百キロはある熊の魔物が宙を舞う。

次の瞬間。


ズドォォォン!!


地面へ叩きつけられ、一撃で動かなくなった。


「一頭!」


その横ではマイトが剣を抜く。


「ほいっ!」


銀色の軌跡が夜を走る。


ズバァッ!


熊の魔物が一瞬で倒れた。

残る二頭が怒り狂って突進する。


「一頭いい?」


マイトが叫ぶ。


「任せろ。」


ガエンは正面から迎え撃ち、突進してきた熊の腹へ拳を叩き込む。


ドゴォォン!!


衝撃で熊の巨体が吹き飛び、そのまま地面を転がって動かなくなった。

最後の一頭はマイトへ飛びかかる。


「ほい!」


マイトは軽やかに身をかわし、振り返りざまに一閃。


ザシュッ!


熊の魔物はその場に崩れ落ちた。

戦いは、ほんの数十秒で終わっていた。

静寂が戻るとマイトは剣を鞘へ納める。


「終わったね。」


「ああ。」


ガエンも軽く手を払う。

その時、門の方から慌ただしい足音が聞こえてきた。


「どこですか!?」

「魔物はどこだ!」


警備隊十数名とナラ、ラーシャが駆けつける。

しかし彼らの目に飛び込んできたのは、四頭すべて倒された熊の魔物と、何事もなかったかのように立っているガエンとマイトの姿だった。

警備隊長が思わず目を丸くする。


「……終わっている?」


ナラはきょとんとした。


「え?」


ラーシャも倒れている熊達を見て固まる。


「もう……討伐したんですか?」


マイトは少し照れくさそうに頭をかいた。


「待ってる間に終わっちゃった。」


ガエンは落ち着いた様子で頷く。


「町へ近付く前に片付けておいた。」


警備隊員達は顔を見合わせる。


「この熊の魔物を……二人だけで?」


誰もが信じられないという表情で、巨大な熊の亡骸と二人を交互に見つめていた。

警備隊長はしばらく言葉を失っていた。

やがて深く息を吐くと、二人に向かって頭を下げる。


「助かりました。本当にありがとうございます。もし町まで来られていたら、被害は避けられなかったでしょう。」


他の警備隊員達も次々と頭を下げた。


「ありがとうございます!」

「命拾いしました!」


その声を聞きつけた門番や町の人達も集まってくる。


「魔物はどうなったんだ?」

「えっ、全部倒したのか!?」


倒れた熊の魔物を見た人々は驚き、やがて安堵の表情を浮かべた。

年配の男性が帽子を取って頭を下げる。


「旅のお方、本当にありがとうございました。」


女性も胸に手を当てて言う。


「子ども達も安心して眠れます。」


小さな子どもは目を輝かせながらマイトを見る。


「お兄ちゃん、強い!」


マイトは照れ笑いを浮かべた。


「いやいや、大したことじゃないよ。」


ガエンも苦笑しながら肩をすくめる。


「散歩のついでだ。気にするほどのことではない。」


「そうそう。」


マイトも頷く。


「たまたま見つけただけだからね。」


町の人達は顔を見合わせた。


「……散歩のついで?」


「熊の魔物四頭を?」


誰かが思わず呟く。


「そんな『ついで』があるものか……。」


ナラはくすっと笑った。


「この二人にとっては普通なんだよ。」


ラーシャも苦笑しながら小さく頷く。


「私も最初は驚きましたけど……今では、少し慣れてしまいました。」


警備隊長は改めて二人へ向き直る。


「それでも、皆さんはこの町の恩人です。せめて討伐報酬だけでも受け取っていただけませんか?」


しかしガエンは首を横に振った。


「今回は依頼ではない。見付けたから倒しただけだ。」


マイトも笑顔で続ける。


「報酬はいらないよ。それより、この熊のお肉って食べられる?」


一瞬、場が静まり返る。


「……はい?」


警備隊長が聞き返す。

ガエンは熊の魔物を見ながら真面目な顔で言った。


「食えるなら無駄にするのは惜しい。」


その一言に、張り詰めていた空気が一気に和らぎ、町の人達から思わず笑い声が上がった。


「はははっ!」

「恩人は肝が据わってるな!」

「いや、そこを気にするのか!」


宿場町には、先ほどまでの緊張が嘘のように穏やかな笑顔が広がっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。